衆院選で躍進した日本維新の会の松井一郎代表(写真:Issei Kato/Bloomberg)

昨秋の衆院選で公明党を抜いて第3党となり、参院選に向けて進撃を続けてきた日本維新の会に逆風が吹き始めている。維新のシンボル的存在の橋下徹前大阪市長を巡る「ヒトラー」騒動のブーメラン化もきっかけとなって、政党支持率の下落が目立ち始めたからだ。

衆院選での大躍進で維新の存在が政治的にクローズアップされ、各メディアも党幹部らの言動を大きく報道するようになった。それに伴い「同党の『独特な体質』にも国民の注目が集まり、不信感が芽生えた」(自民幹部)との見方が広がる。

とくに「民間人コメンテーター」としてメディアで大活躍する橋下氏の政治的発言内容を、「一般国民の多くが、維新の政治理念や政策と受け止めていることが、逆風の遠因」(同)との指摘もある。立憲民主党の菅直人元首相が、橋下氏に投げつけた「ヒトラー」発言への過剰ともみえる維新の反発と、それに対する国民の反応が、その典型例というわけだ。

メディアが面白おかしく報道し始めた

そもそも、維新の代表の松井一郎大阪市長、副代表の吉村洋文大阪府知事は、地域政党・大阪維新の会を仕切るいわゆる「大阪コンビ」。そして、大阪維新を立ち上げた橋下氏は、中央政界でも「実質的には両氏の後見役」(公明党幹部)との位置づけだ。

もともと橋下、松井両氏は12年近く前の大阪維新結党時からの盟友。その両氏がここにきて、両氏や維新への敵対的な発言をした政治家や芸能人らへの提訴などを乱発しているのに対し、攻撃対象となった政治家らは「訴訟などで脅す手法は、維新の強権的体質そのもの」とそろって反発する。

衆院選前と違うのは、維新への国民の注目度の高さを背景に、各メディアがそうした騒動を面白おかしく報道し始めた点。それが「一般国民の間に『維新は変な政党』とのネガティブな印象」(立憲民主幹部)を広げる要因になっているようにみえる。

現在の維新は、衆院選の余勢を駆って、夏の参院選でも議席を大幅に増やし、野党第1党の立憲民主を脅かすことを狙っているとみられる。しかし、衆院選後に大幅上昇した政党支持率は昨年末以降、低下が目立ち始めた。

各メディアが実施した最新の世論調査では、岸田内閣がコロナ対応で批判されても、自民は高支持率をキープ。これに対し、衆院選後に維新に大きく差をつけられて低迷してきた立憲民主の支持率がようやく下げ止まる一方、維新は支持率下落がとまらず、複数の調査で立憲民主を下回る結果となっている。

こうした状況について、政界では「自民に代わる新勢力として注目されたことで、党としての危うい体質も露呈した結果」(閣僚経験者)と指摘する向きが多い。維新を攻撃する他党の議員に対する名誉棄損訴訟や、国会での質疑を巡る懲罰動議などの乱発も、「党勢減退への焦りの表れ」(同)と受け止められている。

岸田政権誕生までは、橋下、松井両氏は安倍晋三元首相、菅義偉前首相との太いパイプを誇示し、「与(よ)党」と「野(や)党」の中間の「ゆ党」を自認して、法案処理や憲法改正などで自民と連携してきた。しかし、岸田首相と維新の関係は疎遠とされ、岸田政権誕生後は維新側も「野党」としての厳しい対応が目立っている。

安倍氏の「核共有」論に松井氏も同調

そうした中、永田町に波紋を広げたのが、ロシアのウクライナ軍事侵攻を受けて、2月27日朝の民放情報番組に出演、対談した安倍、橋下両氏の言動。安倍氏がアメリカの核兵器を自国領土内に配備して共同運用する「核共有(ニュークリア・シェアリング)」の必要性を強く主張し、橋下氏とも意気投合したような場面が相次いでいたからだ。

首都キエフの軍事的制圧を狙うプーチン大統領に対し、ウクライナ側の命がけの抵抗で、両国の停戦協議は難航し、長期化、泥沼化も懸念されている。その過程で、プーチン氏は「核使用」をちらつかせて西側陣営に脅しをかけた。情報番組では、これに反応した安倍氏が橋下氏の質問に答える形で、「日本も『核共有』を論議すべきだ」とぶち上げた。

日本の「非三核原則」の抜本見直しを求めるような安倍、橋下両氏の言動には、ネット上でも賛成、反対双方の激越な書き込みがあふれ、炎上状態となった。また、自民党内では安倍氏に近い高市早苗政調会長らがすぐさま賛同。維新代表の松井氏も「昭和の価値観のまま令和も行くのか。議論するのは当然だ」などと同調した。

これに対し、岸田首相は翌28日以降の国会答弁で「非核三原則を堅持するわが国の立場から考えても認められない。(政府として)議論することも考えていない」と明確な表現で否定してみせた。

大論争の端緒となった安倍、橋下両氏の発言は、内容的には必ずしも完全に一致しているわけではなかった。しかし「多くの視聴者は、(両氏が)事前に打ち合わせた上での発言と受け止めたはず」(民放テレビ幹部)との指摘が多い。

この問題で安倍氏に同調するのは、自民党内のいわゆるタカ派グループが多い。このため、「維新の立ち位置は自民の保守派と同じ」(自民長老)との印象が、国民の間にも振りまかれる結果となった。

維新の狙いが、参院選でも自民支持層に多い保守派の票を取り込むことにあるのは間違いない。「前回衆院選での成功体験に基づく戦略」(自民選対)とみられている。

しかし「自民タカ派と同体質というイメージは、有権者の不信感や拒否感を広げる」(同)ことにつながるリスクも否定できない。

これに先立ち、菅直人元首相の「ヒトラー発言」に維新側が「国際法違反」などと抗議し、謝罪を求めたことについて、政府は2月15日の閣議で「国際法や国内法に違反するか否かについては、答えることは困難だ」とする答弁書を決定した。これについても「岸田政権の維新へのいやがらせ」(閣僚経験者)とのうがった見方も広がる。

そもそも、大阪限定の地域政党から本格的全国政党への脱皮を目指す維新にとって、「偏った政治理念と思想を持つ集団」とのレッテルを貼られれば、「最大の票田の中道的保守層の支持離れにつながる」(国民民主若手)のは間違いない。

維新の新しい顔となった吉村氏の国民的人気の要因は、大阪のコロナ対策での府民優先で機動的な対応への評価だったとされる。しかし、ここにきて大阪の状況は「人口当たり死者数や医療のひっ迫度が全国ワースト」(感染症専門家)とされ、府民の不信や不満が顕在化している。

「大阪組」と一線を画す維新国会議員団は焦り

吉村氏は2月28日、他都府県知事に先駆けて、「感染者数は少し減少傾向にあると思うが、病床のひっ迫は非常に厳しい状態が続いている」として、3月6日が期限となっているまん延防止等重点措置について、政府に「3週間程度の延長」要請を余儀なくされた。これも維新の人気に暗影を投じる結果となりつつある。

こうした状況が、維新内部での動揺や焦りにもつながっているようにみえる。特に、松井、吉村両氏ら「生粋の大阪組」(維新若手)とは一線を画す国会議員団は「超タカ派イメージを払しょくしないと、参院選での得票は先細りになりかねない」(同)と顔をゆがめる。

さらに、「一民間人コメンテーター」としてメディアがもてはやす橋下氏についても、「政治的な中立、公平の観点からは、参院選に絡めての出演要請は自粛すべきだ」(立憲民主幹部)との声も出始めている。

国会での与野党攻防では、国民民主党が突然、政府の当初予算案に賛成した。他党はそろって「参院選後の連立入りを狙った」(共産幹部)と読み「新たな政界再編のきっかけになる」(閣僚経験者)と波紋が広がる。

松井維新代表は「(国民民主が)与党になるというのなら連携はできない。われわれは野党」と苦々し気に非難した。ただ、「出し抜かれた苛立ち」(同)と皮肉る向きもあり、維新の対するさまざまな逆風は当面、収まりそうもない。

(泉 宏 : 政治ジャーナリスト)