純丘曜彰 教授博士 / 大阪芸術大学

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いったいだれが戦争を望んでいるのか。1898年の米西戦争も、販売伸張のために大手新聞がスキャンダラスなスペインの残虐行為を捏ち上げ、それがエスカレートして米国世論が沸騰し、戦艦メイン号の爆発事故をスペインの破壊活動として、メイン号を思い出せ!のスローガンとともに開戦。時代はネットに変わったが、今また無責任に同じことをやろうとしている連中が世界中で沸いているようだ。

もともとウクライナにムリがある。親欧米派が経済発展のためにEU入りを図ったのがことの発端だが、しかし、ウクライナがヨーロッパか? 抱え込んでも、ギリシアなど以上に、負担にしかならないのがわかりきっているから、英国に逃げられたEUとしてはともかく、フランスやドイツなどの個々の国は、本音では、これ以上の劣国拡大の負担増は勘弁してくれ、というところ。

EU(1957年のEEC)が中世フランク三王国の再統一を原点とするなら、トルコは論外。ギリシアさえも、本来的な意味ではヨーロッパではあるまい。いや、ヨーロッパの源流だから、というのなら、ウクライナもまた、ロシアの原点、ルス族のキエフ大公国があったところで、ロシアが譲るわけがない。

そもそも、ウクライナ、という国そのものがあいまいだ。黒海北岸は、紀元前から、東方のさまざまな攻撃的遊牧民がヨーロッパ侵攻で走り抜けてきた廊下のようなところであり、その後も、コサックと呼ばれる多様な傭兵小部族が地域ごとに独立して支配してきた。つまり、ウクライナ人というのは、かろうじてポーランド語の影響の濃い小ロシア語=ウクライナ語で定義されるのみ。それも、現ウクライナのうち、ウクライナ語をおもに使っている人々は、キエフ市周辺だけで、国土の三分の一を占める東南部はロシア語の方が多い。

この事実を、ロシア支配のせいだ、とするか、もともとウクライナ語がコサックに限られていたからだ、と見るかは、双方で見解が分かれるところだろう。しかし、古地図を見るかぎり、本来のウクライナ(コサック)は、現ウクライナよりはるかに小さく、内陸部のかなり限定的な領域でしかない。また、たしかに、ソ連時代は、ソ連がウクライナを支配することで、そのウクライナが拡大的に東南部ロシア語地方を支配することも許容されてきたが、ウクライナがロシアから独立して、東南部の支配は続けるとなると、東南部が独立を主張するのは当然。

2014年のクリミア紛争も、同じ構図だ。雑な地図だと、クリミアが「半島」のようだが、クリミアは、黒海とカスピ海を分けるアゼルバイジャン・ジョージアからのコーカサス山脈の延長にあって、ウクライナ側はグズグズの干潟と湖沼だらけで、これを「陸続き」というのは、あまりに強引。つまり、「クリミア半島」という呼称からして、ウクライナを拡張する政治的意図が隠されている。まして、このクリミアは、歴史的にギリシア人やユダヤ人が多く、ウクライナ語を話すウクライナ人は、1割そこそこしかいない。それをロシアに盗られたと言うが、そこはもともとウクライナではなかった、むしろウクライナの他民族支配地域だっただけのことのような。

かつてノルマン人ルス族がビザンティン帝国との交流のために南下してキエフ大公国を建設したように、バルト海のサンクトペテルブルク市から黒海のオデッサ市までドニエプル河でつながっている。くわえて、地勢的には、砂地のポーランドからウクライナまで、平地続き。こんなロシアの喉元にNATOが入り込むなら、厄介なバルカン半島の面倒もまとめてみる覚悟があるのか、問われる。

つまり、ウクライナのEU・NATO入りいう話、ウクライナ側の夢物語としては盛り上がるが、EUやNATOからすれば、本気で相手にするに値するストーリーではない。ウクライナも、表沙汰になれば、自国の周辺他民族支配の二枚舌がロシアに剥がされるだけ。もっとも、どこぞの大統領は、政治力をアピールするために、他国の迷惑を顧みず、メディアにあることないことリークしまくるのだろうが、そんなのに乗せられず、冷静に情勢推移を見守る理性が大切だろう。