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挑戦して、成功した人には、祝福を!

胸が熱くなる戦いを見ました。19日に行なわれた北京五輪フィギュアスケートペアのフリープログラム、そこには自分の限界を押し上げ、超えていこうとする挑戦と、それを祝福するように輝いた金メダルがありました。自国開催の大きな期待と重圧、そして何より自分たちの悲願である五輪の金メダルに挑んだ隋文静/韓聡、通称スイハン組。日本選手のライバルということにはなりますが、彼らの挑戦と演技に祝福と感謝を贈りたいなと思います。




今大会で日本が初めてメダルを獲得したフィギュア団体の種目。銅に到達できた最大の功労者は、このペア種目に出場する三浦璃来/木原龍一、通称りくりゅう組でした。男女シングルでは世界のトップを争う選手を多数抱えながら、カップル競技ではなかなか世界と競い合うことが難しかった日本。そんななかで、りくりゅうが世界トップの一角として羽ばたいてくれたことで状況は大きく動きました。NHKのスタジオ解説をつとめた木原さんの元パートナーでもある橋成美さんは「一番頑張った人」としてりくりゅうを「VIP」と呼びましたが、そのクラスの扱いをしてもよかろうもんと思います。単に今大会頑張ったMVPということだけではおさまらない、歴史の扉を開く大活躍でした。

この日のペア種目フリー演技でもりくりゅうは輝いていました。ショートでミスが出たジャンプは、直前の練習も含めてなかなか決まっておらず、ちょっと不安になるところもありました。しかし、その不安を演技中に乗り越えながら、ふたりは最高の演技へと上昇していきました。

ガッチリと握手をかわして始まった演技、冒頭のトリプルツイストリフトと3連続ジャンプをしっかりと決めると、木原さんが片手で降ろす信頼のアクセルラッソーリフトへ。得意とする股抜きのお姫様抱っこから決めるスロートリプルルッツも、流れがある見事な着氷で決めます。

演技中盤、不安のあったジャンプで危ない場面が訪れます。ふたりで跳ぶトリプルサルコウの場面、三浦さんの軸が傾き、着氷時に体勢が崩れます。背中側に体重がかかってステップアウトしそうな状態に見えました。しかし、ここで三浦さんが耐えてくれた。難所を乗り越えました。すると直後のつなぎでは、演技なのかリアルなのか笑顔で滑るふたりの姿が見られ、こちらの気持ちもグッと盛り上がってきます。

ひとつ技を決めるたびに「やった!」「いいね!」という笑顔を交換し合い、距離が離れたパートナーに滑って駆け寄る様は、まるで久々の再会を祝うかのような熱烈さです。感無量でコレオシークエンスを滑り終えると、このペアではずっと笑顔と元気とポジティブを担当してきた木原さんが三浦さんに抱きつくようにして泣いています。三浦さんは頭をポンポンしてあげています。

木原さんはこれが三大会目の五輪。しかし、木原さんにとっての五輪は、華やかな日本フィギュア界のなかで寂しい気持ちを噛み締めるような経験だったかもしれません。日本でのフィギュアスケートは、スポットライトを浴びる選手とそうでない選手の対比がとりわけ大きい競技です。団体戦ともなれば、国民的・世界的スターとチームを組みつつ、カップル種目が振るわないことでメダルには届かないという状態でした。不甲斐なさも少なからずあったでしょう。

五輪に出た喜びと、五輪に出た悔しさと、両方を抱えての長い現役生活。それが三浦さんという運命的なパートナーを得て、最高の五輪を迎えることができました。自己ベストも、メダルも、世界のなかで戦えているという手応えも、すべてが手に入るような素晴らしい五輪を。最後の顔だけで泣ける、そんな演技はなかなかありません。世界の7位、見事な入賞です!

↓PCSに「表情」って項目があったら10.00をつけます!

終わったあと「ふたり」が喜ぶ姿って熱い!

いいものを見させてもらいました!ありがとう!



日本の選手が素晴らしい演技をしたあとに見守る頂上決戦は、気持ちも軽やかで楽しいもの。さぁ、みなさん、どうぞ素晴らしい演技を、といったものです。上位勢はそんな期待に応えるように、次々に暫定1位が入れ替わっていく激しい競り合いを演じます。

最終グループにはROCのボイコズ組、ミーガリ組、タラモロ組、そして中国のスイハン組とおなじみのトップ選手たちが居並びます。彼らの名前が載る順位表示の1ページ目にりくりゅうがいるというのを、不思議な感覚で見守ります。世界のなかで日本のペアが戦っていることの誇らしさと、それでもなお感じる頂点の高さと、何だか4年後が楽しみになるような気持ちです。

まずはROC勢がつづけて登場。ボイコズ組がややスロージャンプに乱れがあるもののしっかりと暫定1位に名乗りをあげれば、ミーガリ組がふたりで跳ぶ3S+1Eu+3Sの3連続ジャンプなど高い基礎点の構成を美しく仕上げて暫定1位を更新。それをさらにタラモロ組が上回っていくという神展開。タラモロ組が見せた3回転のトリプルツイストは、大きく開脚した女性の姿勢や、高さ、スピード、投げ上げからキャッチまでの美しい流れと、出色の出来栄え。全ジャッジがGOEで「+5」とする満点評価でした。このまま金銀銅でも何の不思議もない演技たちでした。



ただ、この種目にはスイハン組がいます。平昌の銀、世界選手権で二度の金を持つスターが、自国開催での金を期待されています。大観衆が「加油!」の声援を送り、ふたりの神演技を期待しています。できることなら勝たせたい、勝って欲しいと思ってしまうシチュエーション。ただ、ここまでの演技も素晴らしかった。スイハン組でも勝つのは簡単ではないでしょう。

勝つために、ふたりが選んだのは幻の大技でした。かつて自分たちも実施してはいたものの、採点においてリスクだけが際立つことで、使用する者もなくなっていた幻の大技、4回転ツイストリフト。平昌五輪でも繰り出したこの技を、スイハン組は人生の大本番に再び投入してきました。

タラモロ組が披露した3回転ツイストリフトはレベル4&出来栄え満点で9.00点。4回転したとしてもレベルが取れず、出来栄えが振るわなければ同じ程度かそれ以下の得点で留まることもあり得ます。それでも自分の限界を押し上げ、超えていくために、自分たちの最高の技を入れてきました。「これがスイハン組の最高の演技だ」とばかりに。

そして、決めた。

解説の本田武史さんも「4回転は出てこないだろう」という先入観から、一度はトリプルと言ってクワッドと言い直したほどの技。レベルも3まで取り、出来栄えでも「+4」を並べました。得点は10.42点、タラモロ組の世界一のトリプルツイストリフトをスコアでも超えてきました。大きなリスクを覚悟して、決して大きくはないリターンを取った。それは勝算というよりは、生き方としての選択のようでした。やってきたこと、できること、やりたいこと、その最高のものをここで出すんだという。

演技中盤、ふたりで跳ぶトリプルサルコウでミスが出て、ひとつの要素がほとんど無得点になる場面もありましたが、それ以外の要素はすべて美しく決めました。スロートリプルフリップ、満点。スロートリプルサルコウ、ほぼ満点。らしさが表れるグループ3リフト、ほぼ満点。ジャンプひとつぶんの得点が消えても、なお補って余りある演技でした。ミス以外は完璧だったことと、ミスを相殺する「挑戦」があったことで。

演技を終える前から女性のスイさんは泣き始めており、メイクとしてつけた涙の粒のようなキラキラが本当の涙のように見えます。大きな怪我が幾度もあり、長い休養があり、紆余曲折でたどり着いた自国開催の五輪。こんな大粒な涙があるはずはないのですが、それぐらいの涙が出ていても不思議はないほどの表情でした。もはやここまで来るとどっちが勝ったか一見でわかるはずもなく、ジャッジによっても意見は分かれるのでしょうが、この状況でこの演技をしたなら「金」だろうと思いました。何がどうなろうと「金」だろうと。金に値する納得の演技でした!

↓世界記録を更新し、スイハン組が悲願の金!2位との差はわずか0.43点!


↓撮って出しで映画のポスターが出来ました!



採点競技というのは、往々にしてダメなものです。人間の主観が入り、国や地域によってつけるスコアがバラバラで、身勝手な上げ下げをします。ひどいときには談合や八百長も生まれます。「私はこっちが好き」と言い張ったら何でも通ってしまうような、不確実な勝敗の決め方の競技もあります。不満を持つこともありますし、間違っていると思うこともあります。全部機械に採点させてしまえと思う瞬間もあります。

今大会でもさまざまな採点競技で首を傾げるような場面があり、「忖度かな?」と思ってしまうこともありました。ただ、どこか最後の部分で、それも致し方ないと思ってしまう自分もいます。細かく定められた基準には含まれていない、人間の生き様を示すような何かが含まれている演技は確かにあるのです。機械だけには任せておけない部分が確かにある。

歴史を変えていくような、自分を超えていくような、「挑戦」と冠するにふさわしい演技には、相応の何かがあっていいだろうと思うのです。今大会でもたくさんの挑戦がありました。成功に至らないものもありましたが、心には何かを残したはずです。そこそこの成功より、歴史的大失敗のほうが心には残るのです。目立っていいし、褒められていいと思います。

今こうして見ている世界も、誰かが挑戦をしてきた果てのことです。誰かが挑戦に敗れてきた果てのことです。それでも誰かが挑むから、それが「夢」や「目標」となり、次の挑戦者を生み出してきたのです。挑戦はリスクが高く、リターンは少ない割に合わない行為です。最初の挑戦者は大体敗れるのが世の常です。無難に、確実に、計算できることをやったほうが賢いと思います。だからこそ、挑戦を成功させた人には、その恵まれなさも含めて心が動かされるのだと思います。

「心が動かされたかどうか」という基準を設け、スコアとしてそれを取り込むのは難しいかもしれませんが、そこに人間が採点をする意義もあるのかなと思うのです。未知の挑戦を受け止めるには、基準がなくとも「心」という謎のブラックボックスで反応することができる人間が必要なのだと。今回の試合で「心」がどこまでスコアに取り込まれたかはわかりませんが、挑戦を成功させた人が他と遜色ない演技をしたら、何がどうなろうと勝つべきだろうと僕は思います。挑戦に動かされる「心」が最後のひと押しとなって欲しい、僕はそう思う者なのです。



最後に「ジャンケン」で決めるよりは「心」で決めたいと思う派です!