毎月の月経で、経血量が気になったことはありませんか? 実は、あまりに多いと、「過多月経(かたげっけい)」と呼ばれ、何らかの病気が隠れているケースもあるのです。経血量は、なかなか人と比べる機会がないため、実は量が多いのにも関わらず、長年気付かずにいて、実は病気が進行していたということもあるのだそう。

けれど、量が多い基準について、なかなか知る機会はありませんよね。そこで今回は、「量が多い」とはどのくらいなのか、そして隠れた病気について、医療法人財団 荻窪病院の血液凝固科 長尾梓先生に教わります。

自分では経血量の異常に気付きにくい

長尾先生によると、まず、月経の経血量は、多かったり、少なかったりしても、なかなか自分では気付きにくいといいます。

「診察で多くの患者様と向き合うと、ご自身では経血量の異常に気付きにくい様子がうかがえます。問診で経血量を尋ねても患者様の多くが『他の人と比べたことがないからわからない」と答えます。また『若い頃から量が多いので普通だと思っていた』『母も多いので体質』という方もいて、経血量の異常が病気と結びつかない、病院に行けばコントロールができると思っていない意識もあるようです」

中でも、経血量が異常に多い状態を「過多月経」と呼ぶそうです。この過多月経は、体調不良を引き起こしますし、さらに他の病気も隠れている可能性もあるため、見過ごしてはならない状態だといいます。

月経の経血量、どのくらいを多いというの?

では、月経の経血量が多い場合、どのくらいを多いというのでしょうか? 長尾先生に判断基準を教えていただきました。

「産婦人科学会などは、血液量140ml以上や貧血などと表現していますが、血液量を測定したり、血液検査をしたりすることは簡単ではありません。そこで、簡単に目安にしていただける指標をご紹介しています」

●過多月経を疑うポイント

1.生理で100円玉より大きい血の塊が出ることがある。
2.ナプキンを2時間に1回以上の頻度で取り換える必要がある。
3.生理が7日以上続く。
4.夜用・多い日用ナプキンを3日以上使っていたことがある。

「これらに一つでも当てはまれば、過多月経の可能性があります。これに加えて、健診などで貧血を指摘されたことがあったり、貧血の症状である息切れ、動悸、めまい、ふらつきなどがある場合は、過多月経であることが多いです」

過多月経が続くとどうなる?

量が多い状態が続くと様々な影響が出ることも

過多月経の状態は、具体的にどんな症状が起きるのでしょうか?

「過多月経が続くと、先の通り、貧血を起こす可能性があります。動悸や息切れなどの症状だけでなく、倦怠感、集中力低下、活動量の減少など招き、仕事や勉強に影響を及ぼしたり、QOL(生活の質)を下げていることも少なくありません。ひどくなると心臓に負担がかかり、心不全を招くこともあります。過多月経を見過ごしてしまうと、深刻な心身の不調を引き起こす可能性があるのです。

しかし、徐々に症状が進む貧血は自覚症状が出にくく、自身では非常に気付きにくいものです。本人が無自覚で通院し、検査をしたら貧血だった、という患者様もおられます。問診では、貧血症状としてわかりにくい息切れや動悸などの症状がある場合も、過多月経を疑っています。」

過多月経に潜む病気にはどのようなものがある?

実は、恐ろしいことに、過多月経は、ただの過多月経ではないこともあるといいます。長尾先生によれば、重大な病気が隠れていることがあるのだそうです。どんな病気があるのでしょうか?

「最も多いのは婦人科的な問題です。子宮筋腫や子宮腺筋症、子宮内ポリープなどがそれに当てはまります。しかし、止血機能の異常により過多月経が起こる場合もあります。例えば、フォン・ヴィレブランド病(VWD)や血友病の保因者、血小板機能異常などが原因として知られていますが、一番多いのはフォン・ヴィレブランド病です。過多月経の女性の6割はフォン・ヴィレブランド病が原因だったという研究もあるほどです」

●フォン・ヴィレブランド病(VWD)とは

フォン・ヴィレブランド病とは、血液中に存在する止血に必要なフォン・ヴィレブランド因子( VWF von Willebrand Factor )というたんぱく質が正常に機能していないために、出血が止まりにくくなる遺伝性の病気のこと。

フォン・ヴィレブランド病は、遺伝性出血性疾患の中では最も頻度が高い疾患であり、その推定頻度は、100人に1人と報告されているそうです。しかし、症状がほとんどない症例も多く、フォン・ヴィレブランド病と診断されていない患者が約1万人いると推計されているそうです。

診断されていない人は、特に毎月生理がある女性では、血が止まりにくく、無自覚に鉄欠乏性貧血になっている可能性があるそうです。

経血量が多いと感じたときの対処方法

では、先ほどの過多月経の基準に心当たりがあり、経血量が多いと感じたときには、どんな対処方法があるのでしょうか。長尾先生にうかがいました。

「まずは婦人科を受診していただいて、婦人科の問題で過多月経が起きていないかを検査してもらうことが大事だと思います。そのうえで、原因が見つからなかった場合はフォン・ヴィレブランド病などの血液の病気が隠れている可能性もありますので、血液凝固の専門医を受診して詳しい検査を受けてみましょう。

残念ながら、産婦人科の先生方にはまだ認知度が低いかもしれず、先生がフォン・ヴィレブランド病を知らないこともあるかもしれませんが、もし疑われる場合には『こういう記事を見た!』とお伝えいただいて、紹介状を書いてもらいましょう。血友病診療施設のうち、センター病院としてのブロック拠点病院であれば確実に診てもらえます」

血友病診療連携施設のブロック拠点病院については、一般社団法人 日本血栓止血学会 血友病診療連携委員会の公式サイトにある、ブロック拠点病院リストを参照しましょう。

☆☆☆

毎月の月経の経血量が、なんとなく多いなと感じる人は、一度、婦人科に相談してみるとよさそうです。特に貧血症状に自覚がある場合はおすすめです。また、過多月経は、婦人科系の病気だけでなく、血液疾患の可能性もあるという知識を持っているだけでも、今度、役にたつことがあるかもしれませんん。

●教えてくれた人

医療法人財団 荻窪病院血液凝固科 長尾梓先生 熊本大学理学部大学院卒。熊本大学エイズ研究センターで研究に従事した後、信州大学医学部に編入、2009年医学部卒業後荻窪病院へ。専門は血友病、フォン・ヴィレブランド病を始めとする血液凝固異常症、HIV感染症。

【参考】
一般社団法人 日本血栓止血学会 血友病診療連携委員会
http://www.jsth.org/com/jhnc/

取材・文/一ノ瀬聡子