日本では、加害者に更正プログラムを受けさせる法的な強制力がない。(イメージ写真:東雲吾衣)

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こんな話がある。ある日本人家族が米国に観光旅行に行った。カリフォルニア州のテーマパークを訪れたときのこと。ちょっとしたいさかいから、夫が妻の体に暴力を振るった。夫はその場で逮捕され、州法により定められたDV加害者更正プログラムの受講を条件に執行猶予。裁判命令で52週間のプログラムを受けることになった―。

 DV問題で日本の20−30年先を行くといわれる米国では、裁判所などからの法的な命令で、DV加害者に更正プログラムを受講させることができる。英国、カナダ、韓国、台湾などでも同様の措置が講じられているが、日本でのDV加害者への対応はどうだろう。加害者更正プログラムに携わる市民団体「アウェア」の山口のり子代表に話を聞いた。

―― アウェアが行う加害者更正プログラムとは?

 加害者更正プログラムは、DV被害者支援のひとつの形だと、私は思っている。DV問題先進国の米国カリフォルニア州法で定められた「教育プログラム」を応用したもので、期間は1年間、毎週2時間のプログラムとなっている。

―― プログラムでは具体的に何をするのか?

 10人ほどのグループで、価値観や考え方について話し合う。お互いに指摘し合ったりする中で、自分がとった暴力行為はDVであると認識させる。自分のしたことを認め、そのあと価値観を変えていく。教材を使いながら、「相手の気持ちや痛み」「子どもへの影響」などのテーマを話し合う。

―― プログラムを指導するのは?

 カリフォルニア州では「ファシリテーター」という資格を持つ人が行っている。私自身もカリフォルニアで講習を受けた。

―― 効果は上がっているのか?

 実際、「この人は変わったな」と思える人は、10人に1人。途中でやめてしまう人もいるし、1年経っても変わらない人もいる。間違った価値観や考え方に基づく根深い問題なので難しい。

―― 加害者は進んでプログラムを受けに来るのか?

 妻や家族を失う危機感に直面して、自らプログラムを受けに来る人が多い。妻が家を出たり、離婚を切り出したりして、「これはまずい」と思い始めるようだ。加害者自身、どこかで罪悪感のようなものを感じているように見える。

―― 途中でやめてしまう人もいるようだが、そのような人たちに何か働きかけはできるのか?

 日本では米国のように(更正プログラムを受けさせる)法的な強制力がないので、やめてしまう人に何の働きかけもできない。また、来ようという意志のない人に対しても何も働きかけることができず、法整備を待つしかないのが現状だ。

―― 法整備をする上で難しい点とは?

 ひとつは、「変わる保証がない加害者に、税金を使って更正プログラムを受講させるのか」という点。ふたつめは方法の難しさ。日本では5−6カ所加害者対応を行っているところがあるが、方法は治療やカウンセリングなどバラバラ。

―― ひとつめの点について、米国やカナダでも更正プログラムは行われているが、税金を投入しているのか?

 講習料は加害者が負担している。日本でも、加害者自身が経済的負担を負うようなシステムを作ればいい。

―― 日本のDV加害者への対応の現状は?

 DV問題自体、日本は米国から20−30年遅れていると言われている。日本の加害者への対応は民間ベース。ただし、米国でも最初から法体制が整っていたわけではなく、民間から始まった経緯がある。悠長なことを言っている状況ではないが、法整備までにあと10年ほどかかるのでは。(つづく

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