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相手を褒めて、自分を褒めよう!

今回はやたらと厳格な五輪だなと思います。個人的な北京五輪のメダル予想では、大まかな予測として「金5個、合計15個」というものを見据えていました。ドリーミーな範囲まで含めれば、すべてが上手くいってラッキーがいくつかあれば最大で金10個くらいあってもおかしくないと思っていたほどです。

メダル個数は15日の時点で14個とし、日本選手団として歴代最多の個数を更新したものの(※従来は平昌の13個)、金の個数は2個となっています。金を獲ったのは圧倒的な飛躍を見せたスキージャンプ男子ノーマルヒルでの小林陵侑さんと、やり直しでねじ伏せたスノーボード男子ハーフパイプの平野歩夢さんだけ。惜しくも銀、何とか銅、まさかの敗退といったことがつづいています。「獲れなさそうだったけど棚ボタで獲れたメダル」は1個もありません。甘くない大会です。

そんななか、金の有力種目として皮算用をしていたのが15日に決勝を迎えたのがスピードスケート女子チームパシュートでした。前回金メダルの主力である木美帆さん、木菜那さん、佐藤綾乃さんがそのまま残り、平昌からの4年間で世界記録も更新していました。一糸乱れぬ隊列、経験、記録、新たな戦術への対応…隙はありませんでした。

しかし、結果は銀。

迎えた決勝、今季ワールドカップを連勝していた最大のライバル・カナダを相手に日本は優位にレースを進めていました。最後の半周を残して0.3秒ほどのリード。わずかな差ですが、そうそう詰まる差ではありません。いける、勝った。そう思ったとき、最終コーナーの出口で隊列の最後尾にいた木菜那さんが転倒しました。日本は先行するふたりがゴールするも、菜那さんは大きく取り残され、カナダが初の金獲得となりました。


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まず、勝因・敗因すべてをいっしょくたにして何が一番大きなファクターであったかと考えると、「カナダが強かった」ことに尽きます。もちろん世界記録は日本が持っていますし、チームとしての力量は上回っているとは思いますが、4年前のような圧倒的な楽勝ではなく、今回はかなり接近した戦いになっていました。

カナダはチームとしての連携がよく取れており、日本ほどではないものの他のチームを大きく上回っていました。素早く隊列を組むことができ、動きもよく揃っています。個のチカラだけで言えば「金・金・金・銅」のオランダが最上位でしょうが、団体戦であるパシュートではチームとしての連帯のほうが遥かに重要。日本はその点で圧倒的なチームでしたが、この4年間でカナダはグッと詰め寄ってきていました。

そして個という意味でもカナダは「パシュートで勝つ」ための編成になっていました。日本は「3000メートルで入賞2」「1500メートルで銀1、入賞2」という編成であり、距離は3000メートルがいっぱいいっぱい。2400メートルで争うチームパシュートにおいては「中距離馬」のイメージです。競馬で言えば「マイラーが天皇賞秋に出走する」ときのような距離不安を抱えた編成でした。

一方でカナダの主力3人はいずれも3000メートルを主戦場としており、エース格のワイデマンは3000メートルで銅メダル、5000メートルで銀メダルを獲得しています。競馬で言えば、全員がしっかりとこの距離で戦う地力があり、かつ余力をさらに残している編成。個のチカラの比較ではカナダが日本を上回っていました。

その結果、日本はスタートダッシュでリードを築き、後半巻き返してくる相手から逃げ切りを狙うという「追われる展開」になります。特にカナダがエース格のワイデマンを先頭に出してからの追撃は目覚ましく、少しずつ詰まってくる差と最後まで気が抜けないレース展開によって、焦りを生みやすく、チカラを使い切ってしまいやすい形でした。

↓5000メートルで銀のワイデマンが尽きないスタミナで隊列を引っ張るカナダ!


逆に、事前の予想では勝敗を分けるカギとなるだろうと言われた「新戦術」は、あまり影響を及ぼしませんでした。今大会では、アメリカ男子チームなどが編み出した「プッシュ作戦」が大きく影響を及ぼすものと言われていました。

プッシュ作戦とは、隊列の後ろの選手が前の選手を押すことでスピードアップを図る作戦です。隊列を組んでいる間、後ろの選手は前の選手が空気抵抗を受けてくれることでラクができます。その余力を「押す」ことに充てるという戦術でした。

さらに、隊列を組むのが苦手なチームは先頭を交代する際に大きくタイムをロスするため、先頭交代を減らす作戦も生まれていました。体力自慢を先頭に置いてずっと滑らせ、後ろの選手が押すことで速く滑ろうという作戦でした。

日本も世界の潮流に乗り遅れることなく、しっかりと「押す」「先頭交代を減らす」という練習をしてきました。しかし、作戦にはデメリットもあります。「押す」ために近づくことで接触や転倒のリスクが高まるのです。女子では全力でプッシュしてくるチームは少なく、隙あらば押そうか程度。日本は無理に押す必要もなく、ほぼ従来通りの戦い方で臨み、決勝まで勝ち上がっていました。

↓準決勝は「日本には敵わない」と考えたROCが途中で流すという楽勝!

ここで4人目のメンバーで入っていた押切美沙紀さんを起用してもよかったとは思いますが…!

まぁROCが途中で流すとは思っていなかったので、結果論ですね!



決勝のレースを振り返っていきます。日本はスタートから爆速で隊列を組むことができるため、圧倒的に立ち上がりが速いチームです。最初の半周で0.93秒の差をつけ、1周目だけで1.05秒をリードしていました。2周目の終わりで美帆さん⇒佐藤さんで先頭を交代し、0.77秒のリード。非常に順調です。

佐藤さんは1周で先頭を菜那さんに交代。3周目を終えた段階では日本のリードは0.59秒となっていました。少し詰まりました。ここでカナダも先頭をワイデマンに交代し、以降は5000メートル銀のワイデマンが最後まで引っ張る形。ワイデマンが引っ張ることで最後までラップが落ちることはありません。カナダのまくりが始まりました。

日本は菜那さんが先頭で引っ張った4周目で再び0.86秒リードに差を広げると、残りの2周は再び美帆さんが引っ張っていきます。美帆さんとワイデマンの勝負です。5周目を終え、残り1周での日本のリードがが0.39秒。先ほどのラップから0.47秒差が縮まりました。先頭交代をした影響もありますが、やはりカナダが追ってきています。

残り半周、日本のリードは0.32秒。この半周では0.07秒しか詰まっていません。これなら逃げ切れそう。ただ、日本チームは前の周回から直線も含めてプッシュしています。最後はみんなのチカラを使い切って逃げ切ろうという構えです。

菜那さんは隊列の最後方から積極的に押しています。しかし、最終コーナーで日本の隊列はわずかに進みが遅くなったように見えます。先頭を行く美帆さんと2番目の佐藤さんの間がギュッと詰まり、菜那さんはプッシュしていた手を引っ込めるという場面がありました。

その直後にもう一度菜那さんが押そうとしたとき、美帆さんがわずかに立ち上がります。ほんの少しの動きですが、美帆さんが立ち上がったことで、美帆さんを押していた佐藤さんもわずかに立ち上がります。そのタイミングで前を押しにいった菜那さんは逆に押し返され、弾かれるようにバランスを崩しました。「前が詰まり、後ろが弾かれた」、僕にはそういう転倒に見えました。

↓2分44秒7のあたりで前から逆に押し返されているように見えます!




日本チームは菜那さんの転倒に気づいて、そこから滑るのを止めてしまったので正確にはわかりませんが、50メートル以上を流しても0.3秒ほどの差で2人目までがゴールしていますので、普通に滑れば普通に日本が勝っていたでしょう。そういう意味では菜那さんが責任を感じてしまう気持ちはわかります。

ただ、相手も十分に強く、実際に今季の対戦でも負けており、最後まで気を抜くことはできませんでした。先頭にも疲労があって足が進まず、後ろのメンバーは懸命に押しにいっていました。押しにいった結果が「詰まって弾かれる」だったのだろうと思います。流して勝てる相手なら、こうはならなかった。菜那さんが押せないくらい疲れていたら、やはりこうはならなかった。やるべきことをやって起きたアクシデントなのですから、これは致し方ありません。氷の上です。転倒することもあるでしょう。

カナダが強かった。日本も強かった。ただ、日本は一糸乱れぬ隊列を組めるぶん、一糸乱れたら大きな乱れにつながるチームだった。前回平昌では楽勝であった日本を、全力を出させるところまで追い詰めたカナダがお見事だったと思います。何を言われても責任を感じてしまうでしょうが、ひとりで責任を感じ過ぎないようにして欲しいレースだったと思います。日本も銀です。褒められていいメダルです。銀まで押した自分を褒めてあげてもいいと思います!

↓菜那さんがいて金も獲り、世界記録も出したのだから、転倒もみんなで背負いましょう!


試合直後、個人種目への意気込みを問われた菜那さんは「あとで考えます…」と応じました。「今は何も考えられません」だと悲壮感が漂いますが、「あとで考えます…」だと「あとでかーい!」とちょっとホッコリするのでいい答えだなと思いました。今後、報われない辛さを感じた選手は「あとで考えます」で応じていきましょう。「あとで」だって言われたら、それ以上どうしようもないですからね!

↓表彰式ではちょっと元気そうだったのでひと安心です!

コケても銀が残った!

コケても銀で止まるくらい頑張った!

あまり気にせず、次に向かってください!

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「今後どうされますか?」系の質問は全部「あとで考えます」でOKです!