「ホリエモン×加藤容崇医師 サウナを科学する(前編)」正しい情報を見分けるために必要なエビデンスレベルとは?

写真拡大 (全2枚)

昨今の健康意識の高まりに伴い、テレビや新聞などから医学に関する情報を入手する機会が増えています。またインターネットの普及により、個人が自ら情報を発信・入手することが簡単にできる時代となっています。これら日常的に溢れている情報全てを信じてもよいものなのでしょうか。
今回、予防医療普及協会の堀江貴文氏と、日本サウナ学会代表理事で慶應義塾大学医学部腫瘍センター特任助教の加藤容崇氏をお迎えし、日常生活に溢れている医学的情報を解釈する際の注意点について議論していただきました。

※この記事は2021年11月30日に実施された対談をまとめたものです。

実業家
堀江 貴文(ほりえ たかふみ)

1972年福岡県生まれ。実業家。ロケットエンジン開発やスマホアプリ「TERIYAKI」「755」「マンガ新聞」などのプロデュースも手掛ける。2016年、「予防医療普及協会」の発起人となり、現在は同協会の理事として活動。「予防医療オンラインサロン YOBO-LABO」にも深く関わる。同協会監修の著作に、『健康の結論』(KADOKAWA)、『ピロリ菌やばい』(ゴマブックス)、『むだ死にしない技術』(マガジンハウス)など。

医師
加藤 容崇(かとう・やすたか)

2010年北海道大学医学部医学科卒。医師・医学博士(病理学専攻)。北海道大学医学部にて特任助教として勤務したのち渡米。ハーバード大学医学部附属病院がんセンター(Massachusetts General Hospital Cancer Center)に勤務。膵臓癌の創薬に関する研究を行う。帰国後、慶應義塾大学医学部腫瘍センターゲノム医療ユニット、北斗病院腫瘍医学研究所に勤務し、癌ゲノム医療を行なっている。加速する医療費増加を目の当たりにし健康習慣による「予防」が最高の手段だということに気づき、サウナをはじめとする世界中の健康習慣を最新の科学で解析することを第二の専門としている。サウナを科学し発信していく団体「日本サウナ学会」を友人医師、サウナ仲間と作り、代表理事として活動中。

エビデンスとは

堀江

本日は宜しくお願い致します。

加藤

お願い致します。本日はサウナについてお話しする前に、エビデンスの認識についてお話しさせて頂きます。昨今の健康意識向上の影響もありテレビやSNSなどで手軽に医学的情報を入手することが可能な時代となりました。しかし、それらの情報にはエビデンス(科学的な根拠)の乏しい情報も多く含まれているということを認識しておくことが重要です。手軽に情報を発信・入手できる時代だからこそ、受け取った情報が科学的根拠に基づくものなのか、どの程度の根拠がある情報なのか疑いの目を持つことが必要となってきています。

加藤

エビデンスとは「証拠」「裏付け」「科学的根拠」といった意味で用いられる言葉であり、医療分野においては、薬や治療方法、検査方法が特定の病気・症状に対して科学的に効果があることを示す研究結果のことを指します。エビデンスは学術的に捉えると、エビデンスレベルピラミッドという階層に分けられます。

Ⅰ.システマティックレビュー:過去の医学雑誌や学会発表などから臨床試験の報告を集め、その内容を評価し、要約してまとめたもの。

Ⅱ.ランダム化比較試験:臨床研究では治療を行うグループと治療をせず観察のみのグループに分けて比較するが、グループに分ける際に無作為に分けている研究。ランダム化することによって後述するバイアスを避けることができる

Ⅲ.非ランダム化比較試験:臨床研究では治療を行うグループと治療をせず観察のみのグループに分けて比較するが、グループに分ける際に無作為の手法を用いずに分けている研究。ランダム化してないので後述するバイアスを含んでいる可能性がある。

Ⅳ.疫学研究(コホート研究):多くの人を対象に、病気の発症率や有病率、病気の原因などを調べることを目的に行われる研究の総称。

Ⅴ.症例報告:少数の患者の経過を記述して報告する研究。

Ⅵ.データに基づかない専門家の意見

最も根拠が確立されているものは、エビデンスレベルⅠのシステマティックレビューです。もちろんエビデンスレベルが高いものは情報としての信頼性が高いものと捉えられますが、実社会ではこのエビデンスレベルが低く科学的根拠の乏しい情報、つまりエビデンスレベルがⅥより下の位置にあるものがほとんどです。

加藤

なぜそのような情報が発信されてしまうのか。まずエビデンスを示すのはめちゃくちゃ大変だということを認識すべきです。お金も人も時間もすごくかかります。特に病気ではなくて健康に関するエビデンス取得は鬼のようにハードルが上がります。病気では、薬で治る治らないなので比較的短時間で結果が判明しますが、健康習慣は若い頃から歳をとるまで何十年もずっとデータを取り続けないと結果が出ません。薬ではないので明確なデータにはならないので超大人数のデータが必要になります。新薬のようなその先に大きな利益が見込めるものは製薬会社がお金を出して高いレベルのエビデンスを示しますが、そうでないものに関しては高いレベルのエビデンスはそもそも存在しません。ですから、専門家が言っているからと言って必ずしもエビデンスがあるわけではありません。それではなぜ専門家がそのようなことを言ってしまうのか、それにはいくつか原因があり、今回は社会的ベクトルとエビデンスの透明性についてお話しさせて頂きます。発信されている情報のみならず、臨床上行われている検査や治療についても同様の現象が起きていることにも注意が必要です。

まず詳しいお話に入る前に、これから話す内容については、エビデンスレベルの高い情報や診療については「白」、エビデンスの乏しい情報や診療については「黒」、その間に関しては「グレー」という色の違いで表現させて頂きます。

社会的ベクトル:研究者の立場からすると、もちろん科学的根拠のある真っ白の状態で、情報を発信していくべきだと考えています。しかし社会的な「利益」と「不利益」の関係性において「不利益」が「利益」を上回る状態でも、そのほかに代替手段がない場合、情報として発信されていたり、診療に使用されていたりする場合があります。また、現在はまだグレーでも将来すごく社会の役に立つ可能性があり、現在の途中経過も比較的良好である場合には専門家が期待値も込みで発信する場合があります。コロナ禍において多くの玉石混交の医学情報が飛び交ったので頷いてくださる方も多いのではと思います。ここでのポイントは正確な色(エビデンスレベル)を社会的ベクトルを含めて認識して、今後はその結果は絶対に正しいものではない、グレーはグレーであると認識することが大事です。

透明性:「透明化」にも注意が必要です。実社会ではエビデンスの乏しい真っ黒の情報が、特に害がないという理由で白っぽく見せられて発信されていることがあります。つまり全然科学的根拠もないサプリメントがあったとして、飲んでいる人が信じて飲む分には本人が幸せなんだから良いでしょう、特に害もないし(有効である根拠もない)、と言うものです。黒の色を透明化するとグレーに見えるように、本来は真っ黒なのに意図的に白っぽく見せて価値あるもののように思わせて商売するというケースが非常に多いので、この点についても注意が必要です。

ここまでは、エビデンスの乏しい情報がなぜどのようにして発信されているのかについてお話しさせて頂きました。ここからは情報を受け取る際に注意するポイントについてお話しさせて頂きます。判断材料として重要なのは、受け取った情報の研究デザインや調査方法からエビデンスレベルはどこに位置するか意識するということ、加えてデータの偏りである、バイアスの有無を認識することです。

エビデンスの判断材料

加藤

情報を受け取る際には、エビデンスレベルがどこに位置するのか意識することが重要だとお話ししました。しかし、エビデンスレベルの過信にも注意が必要です。研究デザインからは一見エビデンスレベルが高いように見えても、データの解釈の方法によっては結果が異なる可能性もあるからです。医学的情報として発信されている情報の中には、「○○すると病気になりやすい」や「○○すると健康になる」といった「原因」が及ぼす「結果」について述べられた情報が多く存在します。その際に注意するのが相関関係と因果関係についてです。

相関関係と因果関係
文部科学省が発表した「平成26年度全国体力・運動能力・運動習慣等調査」において、子どもの学力テストの点数が高い県では、体力テストの点数が高いという結果が公表されています。では、子どもの学力が高いから、体力があると考えてよいのでしょうか。子どもの学力と体力の関係のように2つのあいだに一見関係があるように見える状態を相関関係があるといいます。しかし、相関関係と因果関係は異なり、因果関係は2つのことがらのうち、どちらかが原因で、どちらが結果かということが明らかである状態を、因果関係があるといいます。この場合、学力が高いという「原因」によって、体力があるという「結果」がもたらされたのであれば、この関係は因果関係であるといえますが、そうとは言い切れません。学力と体力の関係は相関関係ではあっても、因果関係ではないと考えるのが自然です。それでは、この裏に隠れている「原因」は何かというと、「教育熱心な親」の存在です。教育熱心な親が子どもにスポーツを習わせることや、勉強するように仕向けるといった第三の因子が影響し、学力や体力が高くなるという「結果」に繋がっているということです。こういった因果関係を解釈し、見せかけの相関関係に騙されないことが重要です。

加藤

病気の診断のための臨床検査について、コロナ禍でも多くの注目が集まり、偽陽性や偽陰性という言葉を聞くひとつのきっかけにもなりました。ただこの検査結果の解釈についても深く理解されていない方が多いのが現状です。コロナ感染についていえば、感染症の診断をしていくと、感染しているのに検査が陰性になる偽りの陰性(偽陰性)や感染していないのに検査が陽性になる偽りの陽性(偽陽性)の結果となる人がいます。こういった検査の解釈については感度や特異度の理解が重要となります。

感度と特異度
感度とは病気がある群での検査の陽性率(真陽性率)、特異度は病気がない群での検査の陰性率(真陰性率)のことで、感度が高い検査は患者を誤って陰性とする確率が低くなり見落としが少なくなります。特異度が高い検査は健康な人を患者と誤診する確率が少なくなります。
がんの検査で精度86%という検査があったとします。日本におけるがんの年間罹患数は約1万人、おおよその有病率は1%です。ここで1万人に感度と特異度が共に86%の検査をすると仮定します(1万人のうち、実際にがんと想定されるのは1%の100人)。感度が86%なので100人中86人は真の陽性と診断できますが、14人は見逃す(偽陰性となる)確率があります。特異度も86%なので、9900人のうち真の陰性と診断できるのは8514人、残りの1386人は偽陽性となる可能性があります。これから算出する陽性的中率(真陽性者数/真陽性者数+偽陽性者数)つまり検査で陽性と言われた人のうち本当に陽性なのは5.8%しかなく、精度86%とはまったく異なる数値となることに注意が必要です。これはインチキでもなんでもなく検査とはこういうものだという話です。

加藤

ここまでお話ししたように情報を受け取る際には、集められたデータの関係性や、発信された数値や情報が何を意味しているのかをより深く読み解く力、リテラシーが求められます。

バイアス
バイアスとは、研究など統計的手法を用いる調査においては、調査方法や調査結果の抽出方法・解釈などに起因する「データの偏りや傾向」のことを指します。要するにバイアスを除外できていない研究の結果は正しくないかもしれないということです。バイアスについてがんという疾患を例に説明させて頂きます。

加藤

がんは発見できる大きさに限界があり、小さすぎるがんは発見は困難です。早期の発見・治療を可能にするためにも、厚生労働省は1年に1回(がんの種類によっては2年)の間隔でがん検診を受けることを推奨しています。がんにおいて「生存率」という観点が重要視され、もちろんがん検診によって早期の発見・治療に繋がり生存率が上がるということは理解しやすいかと思います。しかしこの「生存率」や早期発見について考える際には、以下のバイアスが関与するということを念頭に置くことが重要です。

1.リードタイムバイアス疾患が発見された時期の差から生まれるバイアス
例えば、55歳にがんを発症し70歳で亡くなったがん患者が2グループあったと想定します。この時点で両者の生存率は同じだと言えます。しかし1人は検診によって60歳の時にがんが早期発見された患者達、もう1人は症状が出現しある程度病気が進展してから外来を受診し67歳でがんが発見された患者達とした場合、前者は5年生存率(診断されてから亡くなるまでの期間が5年以上あった人の割合)が100%、後者は5年生存率が0%となります。このようにがん発見が早いというだけで全然長生きしてないのに生存率が見かけ上、増加しているように見える可能性があります。これをリードタイムバイアスといいます。

2.レングスバイアス疾患の進行速度の差から生まれるバイアス
検診では成長のゆっくりしたがんほど見つけやすく、早いがんほど発見しにくいと言われています。前述したように、厚生労働省は1年に1回の検診を推奨しています。しかし、このスクリーニングで発見される患者は同じがんという疾患であっても、進行が早いがんと遅いがんがあります。進行が早いがんは短い期間で進行してしまうため年1回の検査では発見されない可能性があります。一方で進行が遅いがんは何年もがんの状態で体内に存在しゆっくり進行しますので、年1回の検査に引っかかりやすく発見しやすいです。つまり、進行が早い、本当に見つけたい悪いがんは見つからず改善してないのに、進行が遅い、比較的悪くないがんばかり見つかることで検査精度が良いように見えるということです。

3.オーバーダイアグノーシスバイアス過剰診断から生まれるバイアス
例えばスクリーニング検査しない進行がんの患者が1000人いたとして、5年後に600人が亡くなった場合、5年後生存しているのは400人で5年生存率は40%です。次にスクリーニング検査を行なって非進行がん患者が2000人、進行がん患者が1000人見つかった仮定します。前述した場合と同様5年後に進行がん患者1000人のうち600人が亡くなり400人が生存、加えて非進行がん患者2000人が生存している場合について考えると、進行がん患者については前者も後者も生存者数400人と同じであるにも関わらず、後者では非進行がん患者で生存した2000人も人数として加えられるため、5年後生存しているのは2400人となり、5年生存率は80%と増加したように見えます。このように過剰診断によって、生存率が上がったように見えるオーバーダイアグノーシスバイアスが存在します。この場合、見つけなくても良いがんを見つけているだけで、実際にがん検診によって生存率が上がっているわけではないのです。

がん検診に限らず重要な点ですが、研究などにおいて対象者を決める時点で生じるバイアスにセレクションバイアスというものが存在します。

4.セレクションバイアス選択する対象や選択方法の違いから生まれるバイアス
研究を行う場所や対象者を集める方法など様々な場面で起こり、研究結果に影響を与える可能性があります。例えば対象者を集める場合、街頭で直接対象者を集めるのか、インターネットで集めるかで研究結果に影響を与える可能性があります。インターネットを使用できない人は、その時点で対象者としての選定に含まれなくなります。そのような状態では、母集団といって研究対象とする集まりに偏りが生じますので、事前に対象者の選定方法や研究の背景に偏りがないか判断する必要があります。

加藤

これまでお話ししたように、日常生活に溢れている医学的情報にはエビデンスの高いものだけではなく、エビデンスの乏しい情報が多く存在することを知っておくことが重要です。情報を発信する側が注意するのはもちろんですが、情報の受け手側もその情報が科学的根拠に基づくものなのか、そもそも自分に当てはまる情報なのかなど、深く読み解く力が必要な時代になっているのだと思われます。

堀江

ありがとうございました。今お話し頂いたエビデンスについてはとても重要だと思います。ただし、一般の人にはなかなか理解が難しい話だと思うのですが、エビデンスという言葉の認知度や理解度についてはどう思われますか?

加藤

低いのが現状だと思います。科学的根拠のある情報よりも噂話のように、根拠の乏しい情報のほうが広く浸透しやすいことも実感します。一般の方だけでなく医療者においても、忠実にエビデンスを意識できている人の方が少ないと思います。

堀江

原因は何かあるのでしょうか?

加藤

科学的な根拠に基づいて、正しく情報を取り入れるといった教育自体がされていないことが原因だと思われます。

堀江

義務教育など教育場面から問題があるということでしょうか? それでは、教育を受ける立場だけでなく、教育する側にも問題がありますか?

加藤

はい。学校教育においてもエビデンスについては、認知度・理解度が低いのが現状だと思います。特に教える側である先生にとっても、今後は広く認知されていくことが重要です。つまり情報を正しく読み解く力である「リテラシー」を高めることがさらに求められているのだと思われます。

堀江

間違った情報に騙されない力ですね。ただ実際に社会実装して、広く浸透させていくにはかなり時間がかかりそうですね。より早く「リテラシー」、特に医療分野においては科学リテラシーを高めていく方法は何かありますか?

加藤

私が理事を務める一般社団法人 CancerXという団体が主催するオンラインイベントでの出来事ですが、そのイベントにおいて高校生が実際のがん患者さんや認定遺伝カウンセラー(遺伝するタイプのがん患者さんへカウンセリングを行う専門家)、実際にがん診断治療に取り組んでいる医師にインタビューをして内容をまとめたものを発信するというセッションを行いました。そこで、生徒が先生に色々と質問をする中で生徒だけではなく、生徒が先生に質問するときに答えられるように先生も勉強して、先生の教育も進んだということを経験しました。その経験から一方的に教育を押し付けるのではなく、教育を受ける生徒も教育のシステムを担う双方向性が重要だと実感しました。今後はピッチコンテスト形式の医療リテラシーを上げるためのイベントを計画しています。高校生など学び手が親や教師など周りの人を巻き込むことで、そういった教育がさらに進んでいくとよいと思いますね。

堀江

競う中で学びながら、周りも巻き込むということですね。クイズ番組やアプリケーションの開発も良さそうですね。

加藤

良いと思います。既に医学に関するクイズ番組などはあると思いますが、エビデンスの乏しい情報が存在するのも事実です。エビデンスの高い情報をクイズ形式にした番組や逆にエビデンスの低い情報の嘘を見抜くような番組、アプリケーションや科学リテラシー検定のように、試験や競争にして広めていく方法は良いと思われます。

堀江

本日は大変貴重なお話をありがとうございました。

加藤

ありがとうございました。

編集後記

健康意識の高まりやインターネットの普及もあり、個人が簡単に医学的情報を発信・入手できる時代となりました。また昨今の新型コロナウイルスの流行もあり、日常には検査やワクチン接種の有効性に関する情報が多く溢れており、各自でその情報の信憑性について考える力が求められています。
医学的情報に限らず、情報がより簡単に発信・入手可能となった時代だからこそ、各自がその発信の仕方や受け取り方に注意しなければいけないのだと深く感じました。
社会的な実装やエビデンスという言葉の浸透に関しては、ハードルの高さはあるものの、健康意識が高まり新型コロナウイルスが猛威を振るうという現状が、個人のリテラシーが高まるきっかけとなることを期待したいと思います。

近くの病院を探す