「ミステリと言う勿れ」圧倒的支持の立役者は誰か

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主役を務める菅田将暉さんの名演にも注目が集まっています(C)田村由美/小学館、(C)フジテレビジョン

文句なしで「今冬ナンバーワンの話題作」と言っていいでしょう。ドラマ「ミステリと言う勿れ」(フジテレビ系)が序盤から結果と評判の両方を得ています。

特筆すべきは、第1話が個人8.1%・世帯13.6%、第2話が個人7.8%・世帯12.7%の視聴率ではなく、ネット上の配信再生数。第1話の配信再生数は1週間で424万回を記録(FOD、TVer、GYAO!、Yahoo!の合計値)し、なかでもTVerの配信再生数は民放全局全作の初回最高となる350万回を記録しました。

この結果は「テレビウォッチャーとネットユーザーを両取りしている」という証しであり、いかに興味関心を集めているかがわかるでしょう。また、ツイッターやネットニュースのコメント欄に書き込まれる評判も、一部の原作ファンを除けばおおむね好評。ネット上には、主演の菅田将暉さん、原作者の田村由美さん、チーフ演出の松山博昭さんらを称える声が次々に挙がっています。

「ミステリと言う勿れ」は、何が支持されていて好スタートを切り、その立役者は誰なのでしょうか。

事件と関係のない言葉すら話題に

ここまで「何が支持されているのか」と言えば、真っ先に挙げられるのが主人公・久能整(くのう・ととのう)を演じる菅田将暉さんの長ゼリフ。事件の真相究明とは関係のないシーンで放つセリフですら、さまざまな反応を集めていることが、それを裏付けています。

たとえば第1話では、スタートからわずか8分で放った長ゼリフが早くも話題に。整は飼い猫の死に目に立ち会えず落ち込んでいる風呂光聖子(伊藤沙莉)に、「きっと風呂光さんのことが大好きだったんですね。あなたに死ぬところを見せたくなかったんです。猫の習性ってだけじゃなくて」と語りかけました。

さらに「そういうのって猫に限った話じゃないですけどね。うちの母方の祖母も、入院中そばに誰かいつもいたのに一瞬、人がいなくなったのを見計らったように亡くなりました。母は嘆いていたけれど、僕は祖母の意思だと思う。強くて優しい人だったから、死ぬときに見られたくなかったし、見せたくなかった。それは祖母の、猫のプライドと思いやりです」と続けて、ペットに限らず大切な存在を失ったことがある人々の共感を集めました。

また、妻とケンカしたことに悩む池本優人(尾上松也)には、「『子どもを産んだら女性は変わる』と言いましたよね。当たり前です。ちょっと目を離したら死んでしまう生き物を育てるんです。問題なのは、あなたが一緒に変わってないことです。でもそれは強制されることではないので池本さんの好きにしたらいいと思います。したこともしなかったことも、いずれ自分に返ってくるだけですから」と語りかけました。

こちらも女性層の共感を集めるとともに、男性層に気づきを与えるなど、ネット上にはさまざまな声が飛び交っていたのです。

「犯人捜し」がメインの作品ではない

続く第2話では、「いじめられている人は逃げていい」という風潮についての言葉が、多くの人々に静かな感動を与えました。

「どうしていじめられているほうが逃げなきゃならないんでしょう。欧米の一部ではいじめてるほうを『病んでる』と判断するそうです。いじめなきゃいられないほど病んでる。だから隔離してカウンセリングを受けさせて癒やすべきだと考える」

「でも日本は逆です。いじめられている子に逃げ場を作って何とかしようとする。でも逃げると学校にもいけなくなって損ばかりすることになる。DVもそうだけど、どうして被害者側に逃げさせるんだろう。病んでたり、迷惑だったり、恥ずかしくて問題があるのは加害者のほうなのに」

「先生や親に『アイツにいじめられたよ』『アイツ病んでるかもしれないから、カウンセリング受けさせてやってよ』って、みんなが簡単に言えるようになればいいと思う」

主人公の整が放つ、人々の価値観、常識、固定観念をすり抜けてしまうような言葉の数々。その言葉は、胸に突き刺さるときもあれば、温かい気持ちになって涙腺がゆるむときもあり、理屈っぽいだけに見えて実は温かい。加えて、社会風刺も利いているため、考えさせられてしまいます。

もともと当作は、いわゆる犯人捜しやトリック当てがメインの作品ではありません。「ミステリと言う勿れ」というタイトルを見ても、原作者の意図がそこにはないことがわかるでしょう。整の言葉こそが最大の魅力であり、だから結末がわかっている原作既読の人も、あらためて楽しめるため、大きな盛り上がりを生んでいるのです。

物事の本質を外さない的確さと、長ゼリフがスッと入ってくるわかりやすさ。「親のすねかじりです」と自虐しながらも、優秀なカウンセラーを思わせる魅力的なキャラクター。どちらも原作者の田村さんが立役者であることは間違いありません。

「脚色が少ない」のは原作者の功績

ここまでの2話を見る限り、省略されているところこそあるものの、大半がほぼ原作どおりであり、脚本家やプロデューサーらによる「脚色が極めて少ない作品」と言っていいでしょう。制作サイドも田村さんの原作にほれ込み、できる限り踏襲する形でドラマ化しているのです。

しかし、今回はあくまでドラマ版であり、どんなに田村さんの原作漫画が優れていても、キャストやスタッフの力が伴っていなければ、これほど多くの人々に見てもらうことはできなかったでしょう。

まずキャストで注目すべきは、当然ながら主演の菅田さん。前述したように、整のセリフは、わかりやすいうえに深く感動を誘うものである反面、聞けば聞くほどストレートな正論で、相手は「それを黙って受け止めるしかない」というところがあります。

たとえば、漫画でも映像でもなく、文章のみの台本で整のセリフを読んだら、「説教くさい」「上から目線」と感じかねない難しさがあるもの。しかし、菅田さんはそんな難しさを試行錯誤することで乗り越えて、温かいムードを感じさせることに成功しています。

一部の原作ファンが菅田さんの演じる整を見て、「イメージが違う」「おっとりとしている感じがない」などの声を上げていますが、これはあえての役作り。菅田さんは田村さんに会って直接取材をしたうえで、ファンタジーとしての漫画キャラではなく、血の通った生身の人間として演じることに挑んでいるようなのです。

すでに10巻が発売されて個人の思い入れが増した状態だけに、違和感の声が上がるのは仕方がないでしょう。ただ、視聴者全体で見れば「菅田さんだから見始めた」「菅田さんだから違いは感じたとしても納得できる」という人のほうが多い気がします。

また、「第1話より第2話のほうが原作に近くなった」という声もあったように、エピソードによる印象の差なども考えられるでしょう。「原作との違いが気になる」という人も、菅田さんが原作をリスペクトし、大量のセリフと向き合ったほか、地毛でアフロヘアーを作ったことなども踏まえて、もう少し寛容な目で見ていいのではないでしょうか。

風呂光の成長物語も見どころの1つ

一方、スタッフ側で注目を集めているのは、チーフ演出の松山博昭監督。松山監督は、「ライアーゲーム」「失恋ショコラティエ」「信長協奏曲」「人は見た目が100パーセント」などの過去作品を見てもわかるように、よく言えば「独創的でスタイリッシュ」、悪く言えば「過剰気味でクセが強い」映像表現で知られる演出家です。

鮮やかでファンタスティックな映像は質が高く、多くの人々に受けやすいものですが、時に織り交ぜられる扇情的な演出は好き嫌いがはっきり分かれるところ。今作でも称賛の声だけではなく、登場人物の感情表現や、音楽のチョイスとタイミングなどに対する疑問の声も見られます。

そしてもう1人、忘れてはいけないのは、草ヶ谷大輔プロデューサー。原作漫画にホレ込み、菅田さんに声をかけ、そのうえで田村さんにも働きかけ、両者をつなぐことで他局とのドラマ化争奪戦に勝って放送にこぎつけた立役者です。


伊藤沙莉さん(右)、尾上松也さん(左)も物語に華を添えています(C)田村由美/小学館、(C)フジテレビジョン

さらに、菅田さんは昨年、主演ドラマ「コントが始まる」(日本テレビ系)のほか、4作もの主演映画が公開され、ドラマ主題歌も2つ担当。今年も大河ドラマ「鎌倉殿の13人」(NHK)で源義経を演じるなど、業界トップクラスの過密スケジュールを調整したことも特筆に値します。

主演だけでなく、伊藤沙莉さん、尾上松也さん、筒井道隆さん、遠藤憲一さん、永山瑛太さんら、適材適所の助演をそろえたこともポイントの1つ。とりわけ風呂光の変化や成長は、整の言葉に続く、もう1つの見どころとなっていますが、それは草ヶ谷プロデューサーが伊藤さんをキャスティングしたことが大きいでしょう。

表に出る機会は少ないものの、ドラマの方向性を決め、撮影を進め、放送を実現させるのがプロデューサーの仕事。草ヶ谷プロデューサーの奮闘がなければ、ドラマ「ミステリと言う勿れ」は、まだ放送されていなかったでしょう。ドラマのヒットに関して言えば、田村さん、菅田さん、松山監督と同等以上の功績があると言えるのです。

「原作と違う」批判はナンセンス

最後にもう1度ふれておきたいのが、漫画の実写化についてまわる「原作と違う」の声について。もちろん声を上げるのは個人の自由ですが、菅田さんやスタッフを過剰に批判したり、原作未読で楽しんでいる人をバカにするようなコメントを書き込んだりなどの行為はいきすぎでしょう。

「ドラマとして面白いかどうか」「映像化した価値はあったか」を語ればいいだけであって、漫画の再現性を確認すること自体がナンセンスであり、何より原作者が望んでいません。

今回も原作者の田村さんはドラマ化が決まったとき、「こんな幸せなことがあっていいんだろうか。自分にとって初めての実写ドラマ化、それがなんとフジテレビさんの月9、そしてその主演がなんと菅田将暉さん! 整役が菅田将暉さんです! 何度も声を大にして言いたい。感激です」と喜んでいました。

それ以外にも菅田さんやスタッフに対して、「“ああ…! 整が現実にいたらこんな感じなんだ!”ってもう整にしか見えず」「作品をとても大切に扱ってくださってます」「作品にとって整にとってこれ以上はない幸運に恵まれました」などのコメントを続けていました。

ドラマ化の結果、原作者がこんなに喜び、コミックの売り上げも伸びている。また、累計発行部数1300万部突破の人気漫画とは言え、その読者数はドラマ全体の視聴者としては1〜2割程度の少数派にすぎないこともあり、過剰な批判は避けたほうがいいでしょう。

すでに原作漫画が10巻まで発売され、連載も続いていることから、続編ドラマや映画化は、よほどのアクシデントがない限り間違いありません。スタッフとキャストの努力によって生まれたドラマ「ミステリと言う勿れ」のようなすばらしい作品をより多くの人々が純粋に楽しむことが、さらなる良作の誕生につながっていくのではないでしょうか。