左が2021年1月7日に発表された6代目ステップワゴン、右が先代にあたる5代目ステップワゴン(写真:尾形文繁/本田技研工業)

ホンダのミドルサイズミニバン「ステップワゴン」の新型が2022年1月7日のジャパンプレミアで初公開となり、2022年春に発売されることがアナウンスされた。1996年に発売された初代モデル以来、ファミリー層を中心に根強い支持を受けているホンダ主力車種のひとつだが、先代モデルは販売面で近年苦戦していただけに、新型がどのような変貌を遂げたのかが気になるところだ。


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新型となる6代目では、初代や2代目に近いスクエアな外観デザインになったことも大きなトピックスではある。だが、もっとも注目したいのは、メインターゲットである子育て世代などのファミリー層にとって、いかに使い勝手がよくなったかだ。先代モデルと比べ、ライバル車のトヨタ「ヴォクシー」やその兄弟車「ノア」、日産「セレナ」に対抗しうるだけのアップデートがなされているのかが気になるところだろう。クルマの購入動機には、見た目のスタイルやデザインも重要なファクターではあるが、こうしたファミリー向けジャンルのクルマでは、どれだけ高い実用性を備えるのかも、ユーザーから大きな支持を得られるか否かのカギになるからだ。

そこで今回は、主に室内装備やユーテリティに焦点を当て、先代モデル(5代目)と比較することで、新生ステップワゴンが、どの程度の商品力向上がなされたのかを検証する。

ちなみに新型モデルについては、価格や内外装のサイズなど、まだ公開されていないデータも多々ある。そのため、現段階では、具体的な新旧比較ができない項目もあるが、先代モデルのデータなどを参照しながら、可能な限り新型のポテンシャルに迫ってみたい。

ステップワゴンの基本コンセプトと歴史


1996年にデビューした初代ステップワゴン(写真:本田技研工業)

ステップワゴンは、従来、室内の広さや使い勝手の良さに定評があったモデルだ。1996年に発売された初代モデルは、ファミリー向けミニバンというジャンルを開拓した立役者といえる。当時のミニバンには、商用車ベースで運転席下にエンジンがあるキャブオーバータイプの後輪駆動車が多かったが、同モデルはエンジンを車体前方のフロントボンネット内に搭載し、前輪で駆動するFFレイアウントを採用。低床化や高い天井などにより、5ナンバーサイズながら、3列シートに大人8名が余裕で乗れる室内空間を実現した。また、多彩なシートアレンジや大容量カーゴスペースなど、ファミリー層が使いやすいパッケージングや低価格帯などが人気を博し、大ヒットを記録する。


2001年にデビューした2代目ステップワゴン(写真:本田技研工業)

その後も同モデルは、2001年登場の2代目、2005年発売の3代目など、基本コンセプトを同じくしながら、アップデートを行うことで市場を牽引。他メーカーもステップワゴンを追うようにFFレイアウントと、ゆったりとした3列シートを採用した競合車を発売することで、ミドルサイズミニバン市場における覇権争いは一気にヒートアップしていった。


先代モデルにあたる5代目ステップワゴン(写真:本田技研工業)

だが、2015年に登場した5代目にあたる先代モデルは、他社モデル相手に苦戦を強いられていた。例えば、業界団体の自販連(日本自動車販売協会連合会)が公表している登録車の新車販売台数ランキングでは、2021年(1〜12月)にもっとも売れたミニバンはトヨタのラージサイズモデル「アルファード」の9万5049台(全体の4位)。競合車では、トヨタのヴォクシーが7万85台(全体の9位)、日産のセレナが5万8954台(全体の11位)、トヨタのノアが4万4211台(全体の18位)だ。対して、ステップワゴンは3万9247台(全体の19位)と、ライバル車の中では最下位だ。発売されて7年近くが経ち、モデル末期であることもあるが、かつて同ジャンルを牽引してきたホンダの売れ筋だけに、近年の販売台数には寂しささえ感じてしまうほどだ。

新型ではエアーとスパーダの2グレード展開


新型ステップワゴン スパーダ(写真:尾形文繁)

こう考えれば、新型ステップワゴンは、ファミリー層向けのミドルサイズミニバン市場において、ホンダが起死回生を狙い投入した戦略モデルであることは間違いない。それは、設定グレードの構成を刷新したことにも表れている。先代が「標準モデル」と上級エアロ仕様の「スパーダ」を設定していたのに対し、新型では「エアー」というグレードを新たに用意した。ホンダの開発者によれば、先代モデルは、近年の高級志向もあり、より上級というイメージの「スパーダに人気が集中していた」という。より安価な標準モデルの不人気が販売面で苦戦した要因のひとつだったようだ。


新型ステップワゴン エアー(撮影:尾形文繁)

そこで新型では、高級感を演出したスパーダを残しつつ、シンプルでクリーンなイメージを持たせたエアーを並列グレードとして用意することで、新たな需要を狙う戦略をとったという。とくに新型のメインターゲットである30〜45歳の子育て世代は、ホンダの分析によれば、子どもの頃からミニバンに慣れ親しんだ世代であるとともに、さまざまな用途に気兼ねなく使えるクルマを求める層だという。新設定されたエアーは、従来人気が高いエアロ仕様のスパーダを求める層以外の、新しい価値観を求める別のユーザーへ訴求するためのモデルなのだ。


新型ステップワゴンのサイドシルエット(撮影:尾形文繁)

なお、新型に搭載されるパワートレインは、まだ詳細は公表されていないが、ガソリン車とハイブリッド車の2タイプが用意されることは先代と同様だ。ちなみに先代モデルでは、ガソリン車に1.5L・4気筒ターボを搭載し、2WD(FF)と4WDを設定。ハイブリッド車では、2.0L・4気筒エンジンと駆動用・充電用の2モーターを搭載し、状況に応じてモーターとエンジンの駆動を切り替える独自のシステム「e:HEV」搭載モデルを用意し、駆動方式は2WD(FF)のみだった。新型では、例えば、e:HEV車にハイブリッドシステムとのマッチングで優れた悪路走行性能を実現する4WD機構「リアルタイムAWD」が設定されることなども期待されるが、具体的には正式発表を待ちたい。

正確な数値は未発表ながら、さらに広くなった車内空間


先代ステップワゴンのインテリア(写真:本田技研工業)

そして注目のインテリア。ホンダによると、新型の室内空間は「ホンダ史上最大」の広さを実現しているという。実際のサイズは、まだ公表されていないが、車体サイズは先代よりも長さ・幅ともに大きくなっている。先代では、標準モデルが5ナンバーサイズ(全長‪4690‬mm×全幅‪1695‬mm×全高‪1840‬〜1855mm)、スパーダが3ナンバーサイズ(全長‪4760‬mm×全幅‪1695‬mm×全高‪1840‬〜1855mm)だったのに対し、新型は全モデルが3ナンバーサイズになっているそうで、そのぶん室内も広くなっていることがうかがえる。ちなみに、先代の室内サイズは長さ3220mm×幅1500mm×高さ1405〜1425mmだから、これら数値よりも新型の室内は広くなることは確かだろう。


新型ステップワゴンのインテリア(撮影:尾形文繁)

新型では、拡大した室内を活かし、よりリラックスできる空間の演出や、さらなる使い勝手のよさを追求した装備が特徴だ。まず、シート素材には、エアーの3列シートすべてに、独自開発した「ファブテクト」を採用する。これは、室内で食べ物や飲み物をこぼしても、独自の撥水・撥油加工により、拭き取りやすく、シミになりにくい素材だ。小さい子どもを乗せることが多い子育て世代には、後片付けが簡単にできるメリットがある。

先代ではスパーダに採用されていたが、新型ではエアーに標準設定される。また、新型のスパーダには、座面などメイン部にファブテクト、サイド部に「プライムスムース」を用いたコンビシートを採用する。このプライムムースは、しっとりとした質感を持つ合皮で、汚れやシワに強い機能性の高さが魅力だ。ファブテクトとの組み合わせで、高いメンテナンス性と上質な室内を演出する。


新型ステップワゴンのセカンドシート(撮影:尾形文繁)

新型では、先代と比べ、シートアレンジが豊富なことも大きな特徴だ。とくに2列目シートは、従来の前後スライドに加え、膻スライドも可能となった。この機構は、ホンダでは「オデッセイ」、ライバル車でもノア&ヴォクシー、セレナにはすでに採用されているものだ。ミニバンに乗るファミリー層では、夫婦ともにクルマを運転する家庭も多い。

例えば、夫が仕事などで外出中に、妻が子どもをクルマに乗せて買い物などに出かけるといったケースが考えられる。そういった際には、2列目の左側シートにチャイルドシートを設置して小さい子どもを乗せれば、停止中などに運転席から子どもの世話がしやすい。そして、その際に左の2列目シートが前後だけでなく膻(内側)にもスライドすれば、運転席と子どもが乗る後席との距離が近くなり、小柄な女性でもより世話がしやすくなる。ホンダでは、先代モデルにはこういった機構がなかったことも、販売面で苦戦した理由のひとつだと分析している。

2列目シートの自由度が拡大

なお、新型では、2列目シートの膻スライド量を右側で75mm、子どもを乗せることが多い左側はより移動量を増やした115mmに設定。加えて、前後スライド量もシートをもっとも外側にした場合で610mm、もっとも内側にした場合には865mmを実現。先代モデルでも好評だった3列目シート左右が別々に床下収納できる機能は新型でも継承されるため、これら機能を合わせると、例えば以下のようなシートアレンジが可能だ。

1:赤ちゃんお世話モード
2:ダブルお世話モード
3:2・3列目フルフラット
4:2列目フルフラット

1は、先述した2列目の左側シートを前方・内側にすることで、運転席から幼児などの世話がやりやすくなるモードだ。2は、小さい子どもが2名いる場合のモード。例えば、右側の2列目と3列目にチャイルドシートを設置しそれぞれに子どもを乗せ、左側の2列目に大人が乗る。大人が乗る2列目シートは、後方に下げて内側に寄せることで、右2・3列目に乗る子どもに手が届きやすくなる。3は、2列目と3列目をフルフラットにし、小さい子どもを含む4〜5名の家族全員がくつろげるモード。4は、3列目シートを床下収納し、2列目シートを後方一杯にロングスライドさせることで、夫婦など大人2名がゆったりと膻になれるモードだ。


新型ではシートベルトがシート内蔵タイプに変更されている(撮影:尾形文繁)

ちなみに2列目のシートベルトは、先代が後方のピラーにセットされていたのに対し、新型ではシート内蔵タイプに変更されている。これは、2列目シートのチャイルドシートに子どもなどを乗せたままでも、3列目シートからの乗り降りをやりやすくするためだ。

また、先代モデルでもオプション設定されていた3人掛けのベンチシート仕様も同じくオプションで用意される。この仕様にした場合、乗車定員は標準のキャプテンシート仕様が7名なのに対し、ベンチシート仕様では8名の乗車が可能だ。加えて、上質な室内を演出する新型のスパーダでは、ゆったりと脚を置けるオットマンも新設定し、よりリラックスできる空間を演出する。


新型ステップワゴンの3列目シート(撮影:尾形文繁)

新型では、3列目シートからの視界や座り心地に関するアップデートも行われた。まず、着座位置は、シートクッションの厚みを増すことで3列目がもっとも高くなるように設定。また、水平基調のベルトライン(サイドウインドウの下端)と、ウインドウ上端を平行になるように配置することで、先代と比べ、すっきりとした視界を実現する。これにより、3列目シートの乗員が、移動中に乗り物酔いなど気分が悪くなることが減る効果もあるという。


新型ステップワゴンの運転席まわり(撮影:尾形文繁)

運転席では、車両を道路脇に寄せたり、駐車したりする際に車両の一部が定規になるような工夫を施した。ホンダによれば、これは女性ドライバーなど、感覚でクルマの操作をすることが苦手なドライバーに向けたものだという。つまり、クルマの操作をする際に、ウインドウ下端などを目印にしやすくするための工夫だ。

より具体的には、水平基調のインパネやベルトラインを採用し、クルマの操作時にそれらが目安になりやすいようにした。また、ボンネットフードの先端も見やすくし、とくに狭い場所での操作性を向上させた。加えて、左右のフロントピラーを70mm手前に移動させ、三角窓の形状を変更することで、交差点などの右左折時でもピラーが視界を遮りにくい形状を実現。歩行者や障害物などを可能な限り発見しやすくし、安全性の向上に貢献する。

なお、新型のメーターは、先代が一般的なミニバンに多い運転席奧のインパネ内蔵タイプだったのに対し、新型ではステアリング奧に配置するタイプに変更。また、シフトレバーは、エアーがオーソドックスなスティックタイプなのに対し、スパーダでは先代と同様にスイッチ式を採用している。

わくわくゲートを廃止し、一般的な跳ね上げ式ゲートに


先代モデルで採用された「わくわくゲート」(写真:本田技研工業)

先代ステップワゴンでは、テールゲートが膻と縦の両方に開く「わくわくゲート」も特徴のひとつだったが、新型では廃止された。この方式は、例えば、一般的な縦開きのテールゲートでは、車両後方に開くスペースがない場合も多いため、そういった際に膻開きすれば、荷物の積み卸しなどを楽にできるというものだ。膻開きの開口幅は3段階に設定されており、駐車場などの状況に応じてゲートの突出量を調整することができる。また、一般的な縦開きも可能なため、車両後方に広いスペースさえあれば、重い荷物などの積み卸しなどに最適だ。


新型では、一般的な跳ね上げ式のテールゲートを採用(撮影:尾形文繁)

だが、これもホンダによれば、この方式は「使いづらそう」といったユーザーの声が多く、不評だったという。筆者は、個人的にはとても便利そうな機能だと思っていたのだが、実際のユーザーにはコンサバな開口方式のほうがよかったようだ。

そこで、新型に採用されたのが電動で自動開閉する「パワーゲート」だ。ゲートを開く角度は無段階で調整が可能で、メモリ機能付きのため停止位置を事前に設定することも可能。車両後方が狭くゲートが全開きできない場合は開口幅を小さく設定できるなど、駐車場所などに応じた幅広い対応ができる機能を持つ。

軽ワゴンやコンパクトミニバンなどもライバル

新型ステップワゴンは、価格も未発表だ。ファミリー向けミニバンにとって、価格もユーザーが購入を決める際の重要なファクターとなるが、この点については公式発表を待つしかない。ちなみに、先代モデルの価格帯(税込み)は271万4800円〜409万4200円。新型は、この価格帯より上になる可能性も十分にある。

価格といえば、近年の子育て世代には、軽自動車でも室内が広い軽スーパーハイトワゴンや、コンパクトカーのミニバンを選ぶ層も多い。ミドルサイズのミニバンよりも価格が安いわりに、使い勝手もいいからだ。実際に、ホンダ車でも、軽スーパーハイトワゴン「N-BOX」は、今や「ホンダで一番売れているクルマ」ともいえる売れ筋モデルだ。また、同じくホンダの「フリード」やトヨタの「シエンタ」といったコンパクト系ミニバンも売り上げは好調だ。

これらモデルは、例えば、N-BOXの価格帯(税込み)は144万8700円〜225万2800円。フリードでは199万7600円〜327万8000円だ。ステップワゴンは、先代モデルの最も安いグレードで比較しても、これらより約70万円〜100万円以上高い。しかも、実際に、2021年1〜12月の販売台数でみても、フリードが6万9577台(「日本自動車販売協会連合会」調べ)、N-BOXは18万8940台(「全国軽自動車協会連合会」調べ)と、圧倒的に先代ステップワゴンよりも売れている。そう考えると、新型は、トヨタのノア&ヴォクシーや日産のセレナといったライバル車もさることながら、身内にも敵がいることが十分考えられる。自社ブランドのより安価なモデルに対し、プラス100万円近い価値をどうユーザーに訴求するのか。

新型が成功するためのファーストステップは、まさにそこにあるのかもしれない。また、ノア&ヴォクシーについては、2022年1月13日に新型が発表された。同ジャンルで現在もっとも売れていて、まさに王者ともいえる2モデルの新型に対し、新生ステップワゴンがどう立ち向かっていくのかも気になるところだ。