北京五輪を前に示された羽生結弦氏の意欲的な言葉に嬉しさを覚えつつ、次は僕らの夢を見るチカラが問われるだろうと身震いした件。
「夢」を見るチカラが試される五輪になる…!
いよいよ目の前に迫ってきた北京五輪。大会全体を通じても最大の注目を集めるであろう羽生結弦氏について、ここ数日つづけざまに注目のインタビューが放送されました。8日のTBS「S☆1」での7分25秒インタビューのノーカット放送、9日のフジテレビ「S-PARK」での4回転アクセル技術論など、興味深く、重要な示唆を含むものがつづき、大いに意気上がる想いです。
「S☆1」では五輪3連覇へ挑むことの大変さを噛み締めつつも、自分が五輪を目指すと宣言したときの人々の喜びように「こんなに望まれてるんだ」と嬉しさを覚え、「みなさんのもの」である自分のスケートを「まっとうしていきたい」と語ってくれました。4回転アクセルを決めて、五輪を3連覇する。むしろ僕らの望みであった「五輪3連覇」を、ちゃんと察して、汲み取ってくれた。世界のどこにいてもメガスターだったであろう偉大な選手が、たまたま日本に生まれたことから、僕らのとても近い場所で僕らの「声」に耳を傾け、応えてくれる。ただただありがたいことだなと思います。
「S-PARK」では番組開始の前振りとして「鬼滅の刃」を意識した仕草を見せてくれるサービスもありつつ、同番組内で以前放送された内村航平さんが4回転アクセルについて語ったインタビューへのアンサーをしてくれました。体操の技術を基に「上半身をもっと早くひねれば下半身がブンッッとついてくるはずだ」と成功への道筋を探る内村さんに対して、スケートの事情として「ほかのジャンプは最初から回転を掛けているが、アクセルはそれができない」「右脚でも上半身でも上に浮かなきゃいけないし、左脚は蹴らなきゃいけない」としつつも、初期の回転の必要さは認め、陸上でやったときに本当に調子がよければ「グンッてなる感じの」回転ができるということを明かしてくれた羽生氏。高い次元を知る者たちの共感や議論は、ひとつの研究のようでさえありました。
とにかく、あふれる言葉すべてが前向きで、願いと覚悟がひとつに揃ったという印象を持ちました。やりたいことと、やって欲しいこと。叶えたい夢と、手に入れたいもの。すべてがひとつにまとまったなと。「4回転アクセルを決めて、五輪を3連覇する」と「五輪を3連覇するために、4回転アクセルを決める」がついに一体となったなと感じました。夢が「完全体」になった、そう思いました。
↓TBSさん、この映像は公共の財産としてYouTubeにアップしてもらえますかね!
今夜のS☆1は#フィギュアスケート #羽生結弦 選手
- TBS S☆1 (@TBS_TV_S1) January 8, 2022
7分25秒のインタビューをノーカットでお届け⛸#ラグビー #リーグワン開幕
知ってますか?😯
「トライ」のルーツ#高校女子サッカー選手権
初代応援マネージャー #菊池日菜子 さん
特技の習字で一筆披露✍
今年もS☆1を宜しくお願いします! pic.twitter.com/n6vQxjeGDE
僕らの「夢」を羽生氏に託し、羽生氏が「夢」を受け止めた!
もう、この夢を抑える必要はない!
今大会、日本の選手団には大きな期待をしてもらいたいと思います。各競技で頼もしい代表選手たちが決まり、期待の選手が一斉に調子を上げてきました。個人的な皮算用では1988年長野五輪の金5個、2018年平昌五輪のメダル総数13個という記録を両方とも超える活躍は間違いないと思っています。「金2桁」も決して非現実的な目標ではありません。コロナ禍のなかでの開催であることが惜しまれますが、史上最高の冬季五輪になる、そう確信しています。
そのなかで「金」にカウントしている競技のひとつが、羽生氏のフィギュアスケート男子シングルです。平昌以降の数年間はそもそも本人に五輪を目指すという明確な表明がなかったことから、「金」を断言するのは憚られるような状況がつづいていましたが、もはやためらいはありません。羽生氏が羽生氏の演技をしっかりとやり切れば、何の問題もありません。「金」です。
近年の世界選手権では確かに金こそありませんが、それは端的に言ってミスがあったからです。2019年はショート・フリーともにサルコウに大きなミスがあり、技術点だけでも20点ほどを失っています。2021年は滑り切ることに懸命だったフリーを思えば「度外視」の大会です。ミスをすれば負けるというのは何も特別なことではありません。
これは個人的な見立てですが、フィギュアスケートの採点は究極のところは「印象」でつけています。そして、その印象はミスをした時点で見えない天井が生まれます。「印象として優勝ではない」に後から理由をつけている、そのくらいに思っています。そして、とりわけその天井は強い者には厳しく設定されます。「●●にしては」「●●なのに」「物足りない」、最初からそんな「印象」で見られているのでしょう。
どれだけ基礎点を決めたり、採点基準を設けたりしても、心のなかの最後の基準は「印象」である。それが採点競技の常です。印象次第で見逃したり粗探しをしたりする、意図的かどうかはさておき、そういうこともあるだろうと。東京五輪で世間から喝采を浴びたスケートボードなども、トリックとしては非常に難しいことを決めたとしても、最後にコケがあれば得点は露骨に抑えられました。どの世界も大なり小なりああいうものなのだろうと思います。
その意味で、羽生氏へのハードルはきっと高いでしょう。94年ぶりの五輪3連覇という「過去」と、2014・2018を制した羽生結弦という「現在」を超えることが求められています。これまでよりもすごいものを求める気持ちがハードルを高くしているだろうと思います。ただ、この4年間、羽生氏が本人としても及第点を出せるような演技をしてなおかつ誰かの後塵を拝したことはありませんし、仮にどんなに高いハードルであっても超える備えはすでにあります。
4回転アクセルという名の前人未到の夢がある。
先に挙げたインタビューでも「3連覇を獲るためには、間違いなく4回転半が必須」「それを成功させないと、心のなかから勝ったって言い切れない」「自分の演技だけで(勝ち切れたと)そう思えるように」という言葉がありましたが、それは羽生氏自身もジャッジも僕らも皆通じ合う想いだろうと思います。
「羽生氏の史上最高の演技はどれだ?」と問われたとき、今はまだ答えがいくつもあるでしょう。青きニースを挙げる人もいれば、世界最高記録を作った2015年のSEIMEIや、羽生氏史上に燦然と輝く2017年のホプレガ、あるいは平昌を挙げる人もいるでしょう。しかし、「4回転アクセルを決めた北京五輪の天と地と」ならばすべてを超えて天下を統一できると僕は確信しています。好みは人それぞれでしょうが「個人的には●●も好きだけど、1位を挙げろと言われたら…」に統一されるだろうと。
規則に則ったスコアという意味でも、「印象」という意味でも、その演技ならばすべてを超えられる。ほかの誰を見なくても「金」と決められる。競技を新たな次元に押し上げ、これまでの延長線上ではない場所を切り開いた演技を評価しなければ、その採点や評価は何のことやらと思います。不安はありません。確信があります。やるだけ、です。
そして北京五輪後、そこで夢が叶ったあと、今度は次の夢を見る僕らのチカラが試されるだろうなと思います。これまで羽生氏は「五輪2連覇」「4回転アクセル」という自分自身で見つけた夢を追いかけてきてくれました。羽生少年の見た夢を、僕らも一緒に見させてもらってきました。そのふたつでさえ僕らの想像を超えるものではありますが、類稀なる本人の「夢を見るチカラ」で目指すものを見つけてくれたのです。
しかし、今や羽生氏のスケートは羽生氏のものであって羽生氏のものではないようです。みなさんの期待が原動力である、そう言います。それは救いでもあり試しでもあります。五輪2連覇という夢が叶ったときにそこはかとなく感じた「引退かな?」という不安や、4回転アクセルが決まったら「引退しちゃうのかな?」という不安は、「みなさんの期待」次第だよということであるならば確かに救われます。僕らが見たいと言えば、まだ見せてくれる、そういう意味でしょうから。
ただ、何を見せて欲しいのか、今度は僕らに半ば委ねられるという意味では身震いします。正直怖い。羽生氏の思うがままに滑って欲しいという願いの先に、「今度はあなたの夢を教えてください、それが僕の望みです」と聞き返されているような気がします。今ある夢が叶ったあと今度は何を望むのか。「五輪4連覇してください!」と無邪気に望むのは、少し単調だなと思います。「5回転サルコウを見たい!」と望むのも変わり映えがしないなと思います。
記録や結果ではない、もっと違う何か。
どんな夢を見たいのか。
どんな夢ならば今以上に熱くなれるのか。
夢が叶ったあと「さて、次は何をお望みですか?」という問いに、どんな答えができるのかを、真剣に考えておかなければいけないなと思います。もしも次なる大きな夢を見つけることができたら、また素晴らしい時間が始まる、そういう問い掛けなのだと思って。「どんな願いでもひとつだけ叶えてやろう」って聞かれている気分で、すごい悩んでしまいますが、こういうのを嬉しい悲鳴と言うんでしょうね…!
スケート関連じゃない願いであれば、いっぱいあるんですけどね!
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