警察庁が2022年度予算に、移動オービスのさらなる整備費を盛り込みました。目的は生活道路や通学路などの安全確保。こうした場所での安全対策は、「ハンプ」などの物理対策もありますが、移動オービスは機動性と即効性が評価されているようです。

関係閣僚会議でさらに必要性が訴えられた「移動オービス」

 多発する通学中の交通事故の抑制を目指し、警察庁はさらなる移動オービス(可搬式速度違反自動取締装置)の活用を決めました。2022年度の予算で整備費25セット分、総額1億300万円を計上しました。

 新型の移動オービスは2016(平成28)年から採用され、2018年から全国に展開。2021年度末までに全国で116セットが整備される予定です。警察庁は来年度、これをさらに増やすことにしました。詳細は以下のとおりです。


移動オービスによる取締りの例(中島みなみ撮影)。

●装置整備状況(累積整備セット数/取締り件数)整備は毎年度、取締りは各年中
・2018年度=39セット/1493件
・2019年度=60セット/5069件
・2020年度=99セット/1万1568件
・2021年度=116セット/1万1515件
・2022年度=141セット(予算案)
※2021年度末予定、取締り件数は2021年のみ6月末時点。

 2021年8月、千葉県八街市での飲酒運転トラックによる児童の死傷事故をうけて、岸田文雄首相を中心とする関係閣僚会議は、省庁横断的な対策を打ち出しました。警察庁はこの緊急対策として、道幅が狭い道路でも活用できる移動オービスを利用して「効果的な速度違反取締りを行い、速度規制の実効性を確保する」ことを決めています。

 12月の第3回関係閣僚会議では、さらに必要性を訴えました。移動オービスの役割について警察庁交通局交通指導課はこう話します。

「可搬式速度違反自動取締装置は、少人数・省スペースでの運用が可能で、これまでも幹線道路を含め、多数の警察官の動員が困難な深夜・早朝での取締りや、従来の定置式速度違反自動取締装置では対応が困難であった通学路や生活道路等における速度取締りに活用しており、通学路等における交通安全確保に大きな役割を果たしている」

物理対策よりも効果アリか

 この関係閣僚会議では、全国の通学路のうち約7万2000か所の対策が必要であることが報告されており、歩道の設備や歩車分離のための防護柵、横断歩道の設置が考えられています。

 また、ポールなどを立て道幅を狭めることで慎重な運転を促す「狭さく」や、路面形状を盛り上げることで速度の抑制を図る「ハンプ」など物理的な安全対策も導入されてはいるものの、いずれも設置までに時間がかかります。例えば、これまでもハンプの効果は知られていましたが、設置することによる音や通行車両の苦情などで、広がりませんでした。

 そうしたなか、移動オービスによる速度取締まりは、少人数の警察官で時間と場所を変えて機動的に実施できるため、効果が高いとされています。交通指導課は「小型で持ち運びが可能であることから、引き続きこの特性を活かし、幹線道路を含め、交通事故抑止に資する効果的な場所での活用を推進する」として、移動オービスの活用事例をあげています。

・夜間、高速度で走行する違反車両の取締り。
・定置式での取締りが困難な場所での取締り。
・地元住民等の要望が多い場所やカーブが多い場所での取締り。


ハンプが設置された生活道路。東京都文京区(中島みなみ撮影)。

 移動オービスはスピード測定を実施後に、後日違反者を呼び出して告知するため、これまでの定置式オービスと違って、違反したことをその場ではわかりません。慣れた道でも突然取り締まりが行われることで、運転者に注意喚起を求めることが、大きな目的のひとつです。

 たとえば、抜け道として使われている生活道路では通行速度が上がりがちです。こうした箇所が主な取締りポイントです。最高速度が30km/hに制限されている「ゾーン30」などでは、特に運転する速度に注意が必要になります。