久しぶりに飲み会などに出かけて「お酒が弱くなった?」と感じている人は要注意です(写真:Fast&Slow/PIXTA)

外資系広告代理店に勤務する鳥山みゆきさん(仮名=48歳)はコロナ以降、あんなに好きだったお酒を飲まない生活を続けている。その日数はなんと18カ月。

「会食もぼちぼち復活してきましたが、私ひとりウーロン茶を飲んでいます。飲み仲間には、『まだやってんの?』と笑われますが」

子どもに乱暴な言葉を使ってしまった

きっかけは、テレワークだった。働いている時間と、プライベートの時間の区別をつけたくて、仕事が終わると直ちにお酒を飲むようになった。しかも”巣ごもり酒場”にカンバンなし。ベッドに入るまでの3〜4時間、ほぼエンドレスで飲み続ける日が続いたという。

「以前からお酒は好きでも、毎日こんなには飲んでいない。週に数日の休肝日ももうけていたので、明らかに酒量は増えました。これはまずいと思うできごとがあったのは、そんな生活が続いて数カ月経ったころですよね」

みゆきさんは、夫と小学生の子どもの3人暮らし。あるとき気がつくと、言うことを聞かない子どもを、使ったこともない乱暴な言葉で叱っている自分がいた。

「『何やってんだ、ばかやろう』みたいな……。完全に人に絡んでる酔っ払いですよね。幸い、次の日の朝までそのことは覚えていて、子どもを口汚く叱ってしまった後悔は心にずしりと……。自分とは違う世界のできごとと思っていたアルコール依存症が、すぐ近くに見えて恐ろしくなった。その日から仕事終わりの飲酒をやめました」

いつとも知れぬお酒の解禁日にめがけて、好きな銘柄のワインを輸入してストックするなどの準備を始めているが、心配なのは自身の飲酒の実力だ。

「以前は飲んでも顔色ひとつ変えなかった友人が、コロナのブランクのせいですっかりお酒に飲まれたりしている。自分もヘンな酔い方をしそうで、再開には二の足を踏んでしまいます」(鳥山さん)

想像以上に酒が弱くなってビックリ

2020年の初め頃から、突如私たちの前にあらわれた新型コロナウイルス。以降、お酒との付き合い方を大きく変えさせられた人は少なくない。家にいる時間が増えていつでも飲めるようになったため、酒量が増えたケースはよく聞くが、こちらも意外に多い。コロナ以降、酒量が減った人や、前出のみゆきさんのように、すっかりお酒をやめてしまった人だ。

41歳の自営業、佐藤啓吾さん(仮名)も、“断酒”組の1人。一人暮らしの自営業ということもあって、以前は近所の行きつけの店で飲みながら夕飯を食べることも多かった。ところが2020年の緊急事態宣言で行きつけの店がことごとく休業。

「仕方なく自炊するようになったら、これがけっこう楽しい。レシピとのにらめっこで、お酒を飲んでいる間もなくなり、気がつけば1滴も飲まずに夕食を楽しめるようになっていました。なんだ俺って別に飲まなくても生きていけるんだ、と驚きましたよね」

そうして酒なし生活が始まってほぼ1年。つきあいの会食などでこの冬から、ぼちぼち外飲みを開始するようになった。ところが問題は、想像以上に酒が弱くなっていたこと。社会人になってからは酒量も増え、それでも泥酔はしない「酒が強い人」を自覚していたが、その自信はガラガラと崩れている。

「1年半ぶりに会食に出かけたときは、キラキラした街の雰囲気に飲まれてしまったのもあるでしょう。さあ、帰ろうと立ち上がろうとしても、なぜか足に力が入らない。何とか立ち上がって歩き出すと、まさに千鳥足で、しかも『らいりょうぶ、らいりょうぶ(大丈夫、大丈夫)』と、ろれつも回ってない。絵に描いたような酔っ払いになっていました」

笑っている場合ではない。この年末年始の久々の飲み会で、誰にでも可能性があるシーンだ。酒をやめた、酒を減らしたと言っても、大抵の人が1年程度。それでも一定期間お酒を飲まないでいると、人はお酒に弱くなってしまうものなのか。順天堂大学大学院医学研究科・消化器内科学教授の池嶋健一さんはこう言う。

「人にもよりますが、お酒は鍛えると強くなるという話は、あながち嘘でもありません。アルコールを体内で分解する酵素のいくつかが、アルコールを繰り返し飲むことで増えることがあるからです。ただし、そうして一度酒に強くなっても、それがずっと続くというわけではありません。もともとお酒に弱い人が、繰り返し飲むことで酵素が増えて強くなったように見えても、しばらく休むと酵素は減って、元の酒に弱い状態に戻ってしまうのです」

若い頃、飲酒ですぐに顔が赤くなっていた人も、いつのまにか顔色ひとつ変えなくなることがあるのは、そのアルコール代謝酵素が増えたせいだという。ならばまた一から飲酒の“訓練”を始めればいい……と考えてはいけない。実はこの“訓練”には、大きな落とし穴があるのだ。

「お酒が弱い人」の特徴

と、その前にここで、酒に強い人がいる一方で、弱い人がいるのはなぜかをおさらいしてみよう。

アルコールは体内に入ると、まずは肝臓で代謝されてアセトアルデヒドという物質になる。この物質は毒性が強く、顔が赤くなったり、頭痛や吐き気を催したり有害な症状を引き起こす。

このままだとわざわざつらい思いをするためにお酒を飲む人なんていないはずだが、多くの人ではこのあと有害なアセトアルデヒドを分解する酵素が働いて、ほとんど無害な酢酸に変えてくれる。こうして、お酒がこんなにも多くの人に愛されるようになったわけだ。

ただしアセトアルデヒドを分解する能力は人それぞれ。遺伝によってこの分解の能力が決まるほか、体重や性別、年齢によっても違いがある。特に日本人は欧米人に比べて、アセトアルデヒドを活発に分解できない人が多く、まったく分解できない人やあまり分解できない人、つまりお酒を飲むと、何らかの不調を感じることのある人の割合は4割以上に上る。

そこで、前出の「落とし穴」だ。

「アセトアルデヒドを分解しにくい体質の人が、無理して大量のお酒を飲むと、肝臓を痛めるだけでなく、食道がんなどのリスクが非常に高くなることがわかっています。コロナでお酒をやめていたために、今、酒が弱くなったと感じている人は、もともとアセトアルデヒドを活発に分解できないタイプの人と思ったほうがいいのです。そういう人は再び飲み始めて強くなる“訓練”をするより、自分は飲めないタイプということを再認識して、もうあまりたくさん飲むべきじゃないと考えるのがいいと思います」

つまり、断酒明けのタイミングが、自分本来の飲酒の実力がわかるとき。無理して飲める体質に戻そうとせず、神さまがくれたチャンスと思って、コロナ禍と同じようなペースで酒を減らす、またはやめる方向にシフトするのがよさそうだ。

少量でも飲酒すれば健康リスクは上がる

一方、久々に外飲みを再開しても、以前と同じ酒豪ぶりをキープできる人もいる。

「もともと酒に強い人はしばらく休んでも、酒の強さに変化が見られないことも。そういう人の場合でも、アルコールやアセトアルデヒドを分解する酵素は酒を飲めば飲むほど活発化していくため、酒をやめれば多少なりとも弱くなっているのが普通です。無理して大量に飲めば、同じように肝臓を痛めるなどの原因になるので、急激なアルコールの過剰摂取はいけません」

酒好きには残念なニュースだが、池嶋さんによると酒の害は日々深刻なことがわかってきているという。

「飲酒量と健康リスクとの関係は、以前はJカーブを描くと言われ、少しの飲酒ならまったく飲まないよりかえって健康にいいと考えられていたこともありました。でも今はたとえ少量でも飲酒すれば、健康リスクは上がるという考えに変わってきています。飲める人も飲めない人も、コロナ禍の減酒、断酒の習慣を、これからも続けるに越したことはないですね」

どうしてもというときは、例えばビールなどアルコール度の低いドリンクを。コロナ禍ではやった度数の高いストロング系ドリンクで“訓練”、などという試みは禁物だ。