「動画を見るだけ」学習は効果があまりないことがわかってきています。今回は「見て、聞いて、学んだ気、やった気になる病」の罪深さについて解説します(写真:metamorworks/PIXTA)

日本を代表する一部上場企業の社長や企業幹部、政治家など、「トップエリートを対象としたプレゼン・スピーチなどのプライベートコーチング」に携わり、これまでに1000人の話し方を変えてきた岡本純子氏。

たった2時間のコーチングで、「棒読み・棒立ち」のエグゼクティブを、会場を「総立ち」にさせるほどの堂々とした話し手に変える「劇的な話し方の改善ぶり」と実績から「伝説の家庭教師」と呼ばれ、好評を博している。

その岡本氏が、全メソッドを初公開した『世界最高の話し方 1000人以上の社長・企業幹部の話し方を変えた!「伝説の家庭教師」が教える門外不出の50のルール』は15万部を突破するベストセラーになっている。

コミュニケーション戦略研究家でもある岡本氏が「『YouTube学習』が『ほぼ時間の無駄』である決定的理由」について解説する。

垂れ流される「時間泥棒コンテンツ」

いよいよ、2021年も残すところわずかとなりました。来年はどんな年にしたいですか。新年を迎えるにあたり、「来年こそいろいろ学んでスキルアップしたい」と考えている人も多いのではないでしょうか。ネットには学習用のYouTubeコンテンツがあふれかえり、企業などが主催する「オンラインセミナー」も花盛り


私は「企業幹部の家庭教師」として話し方をコーチングしていますが、最近、特に多いのが「『動画メッセージの発信法』や『ウェブ上でのセミナーでの話し方』を教えてほしい」というご要望です。

なかなか対面で会えない時代に、動画でメッセージを発信したり、オンライン上で自社PRするために、これまでの「『棒読み・棒立ち』の話し方を変えたい!」という人が増えているのです。

とはいえ、そんなに意識の高い人はごく一部。大学などでは、「ただでさえ話し方の下手な教授のつまらない授業が、さらにつまらない動画視聴授業に変わって『絶望的に学びがない』」という声も、よく聞きます。

最近、増えている動画学習ですが、実はただ、「動画を見るだけ」では学習効果があまりないことがわかっています。

今回は、日本人の「見て、聞いて、学んだ気、やった気になる病」の罪深さについて解説していきましょう。

日々コーチングに従事するなかで、つくづく実感するのが、「日本人のプレゼンスキルの未熟さ」です。

「ジェスチャー」「目線」「表情」といった話し方(デリバリー)も、「スライド」「話す内容」などのコンテンツも、基本スキルを学ぶ場がほとんどないため、ほとんどの人が自己流でやり過ごすしかありません。

結果的に、「政見放送」並みの「心を動かさない動画コンテンツ」が量産されているように思えてなりません。

スライドや話す内容を一言一句添削し、「話し方のイロハ」を学べば2〜3時間ほどで、見違えるように変わるのですが、そういった教育の機会は著しく限られています。

下手くそなプレゼン視聴を強要される人たちが、それをデフォルトとして、同様の話し方を踏襲していくという「負の連鎖」が続いていくわけで、「時間泥棒コンテンツ」が倍々ゲームで増えていくというわけです。

「Learning Pyramid(ラーニングピラミッド)」の正体

そもそも、「動画を見るだけ」「人の話を聞くだけ」は学びが少ないとされています。教育関係者などの間でよく知られる「Learning Pyramid(ラーニングピラミッド)」によれば、、7つの学習法それぞれの「学びの定着率」は以下の通りだとされています。

1.講義 5%
2.読書 10%
3.(動画やテレビラジオ番組などの)視聴覚 20%
4.デモンストレーション(実演) 30%
5.グループ討論 50%
6.自ら体験する 75%
7.ほかの人に教える 90%

つまり、「ただ講義を聞いただけ」や「本を読んだだけ」では、学びの多くは定着しないということになります。

そこで、1〜3の「受動的な学び」は効果が低いので、4〜7の「能動的で自発的な学び」を増やそうと、最近は、「アクティブ・ラーニング」と言われる「参加型学び」を奨励する動きが強まっています。

ただ、このデータを元に「ほら、やっぱり、動画を見るだけ、聞くだけの学習は効果がないんだ!」という結論に結びつけるのは早計のようです。

きれいに並び、なんとなく納得感ある数字ですが、実はこの「ラーニングピラミッド」がまったく根拠のないデータであることが最近わかってきました。

「学習法の優劣」ではなく「組み合わせた学習」が大切

このピラミッドはエドガー・デールという教育者が1946年に発表した「経験の三角錐」モデルを原型としており、データの出典はNational Training Laboratories(アメリカ国立訓練研究所)とされています。

しかし、実はこのデータを裏付ける検証結果が、どこを探しても出てきていません。多くの研究者がその真偽を確かめるために検証した結果、「ラーニングピラミッドは単なる神話」「ゾンビ学習理論」であることがわかったのです。

2018年に発表されたこの論文でも、「実証研究に基づかず、認知心理学的にも矛盾した結果」であると結論づけられています。

最近の科学的な検証結果としては、「学習法に優劣の序列があるわけではなく、『組み合わせて学習すること』が大切なのだ」というのが定説のようです。

つまり、「単に動画を見るだけ」ではなく、「メモをとる」「反復練習をする」「実践する」「教える」といった「能動的な学び」が組み合わさることにより、効果が飛躍的に高まるということ。

一方、日本人の学びは「見るだけ」「聞くだけ」「覚えるだけ」というものが圧倒的に多い気がします。たとえば、次のようなことが日常的に起こっているわけです。

●「会議に出るだけ」で、仕事した気になる
●「視察旅行しただけ」で、仕事した気になる
●「研修で動画を見ただけ、聞いただけ」で、学んだ気になる
●「授業に出て話を聞いただけ」で、学んだと勘違いする
●「一方的にしゃべるだけの講義をしただけ」で、相手が理解したと勘違いする

海外で学んだ経験のある人なら誰でも、「だらだらと、教師が一方的にレクチャーをし、生徒はノートをとるだけ」といった学びが、ほとんど身にはならないことを実感するのではないでしょうか。

アメリカやイギリスの授業では、まず、本を読み込んでくるように課題が出され、「授業は主にディスカッション」「宿題は論文」といったように、徹底的にアウトプットを求められます。

つまり、「読む」「見る」「発言する」「ディスカッションする」「発表する」「身体を動かす」などさまざまな形の「学び」が組み合わさったときに、効果は最大化するのです。

私は、もともと「恥ずかしがり屋な自分」を変えたくて渡米し、ニューヨークでコミュニケーション修業を重ねました

ワークショップや授業など、毎日、手当たり次第に参加してみましたが、「教わる」だけではなく、ひたすらに人前で「話す」「演技する」「声を出す」「身体を動かす」などといったアウトプットの実践を求められました。それが、何よりの学びになり、自分を大きく変えることができました。

今後は「○○だけ」から脱却した「ハイブリッド教育」

日本には、こうした「ハイブリッド教育」の機会がまだまだ少ないように感じます。インプットのみでアウトプットがない。受け身、一方通行に終始する。いまの時代に、1秒で検索できる知識を必死に暗記しても、あまり意味はないのではないでしょうか。

その学びを「血肉」とするためには、「○○だけ」を脱却する必要があります。たとえば、聞いたこと、見たことをベースに次のようなことをすることで、より身につくはずです。

●書き起こす
●メモにする
●文章化する
●口にする
●話し合う
●さらに調べてみる
●身体を動かす
●実践する
●ディスカッションする

コミュニケーションや話し方も同じです。

理論だけで、頭でっかちにならないように、実際に口を開き、身体を動かし、人前に立つ。さまざまな「学びの実践」を重ね合わせることが、何よりの学びになっていくはずです。