ビッグボスに押されていたが、キング・カズが押し戻した。カズこと三浦知良の去就が、注目を集めている。

現所属の横浜FCから契約延長のオファーを受けているが、今シーズンはリーグ戦に1分しか出場できなかった。ピッチに立つことを最優先に考えて移籍を模索すると、J2から地域リーグのクラブまでが獲得に名乗り出た。来年2月に55歳となるカズを巡って、争奪戦が起こっているのだ。

話題性は事欠かない。大阪での自主トレは、スポーツ紙を中心に毎日報道された。ビッグボスこと新庄剛志監督(北海道日本ハムファイターズ)に押されていたサッカー界だったが、カズの去就を巡る報道が一気にメディアで存在感を増していった。さすがのニュースバリューである。

これだけメディアが取り上げるのだ。カズを迎えることのメリットは大きい。とくにJFLや地域リーグのクラブにカズが加入したら、波及効果は計り知れない。地元が盛り上がるのは間違いなく、その動向はローカルメディアだけでなく全国メディアで報道されていくはずだ。

選手たちのモチベーションは、一気に上がるだろう。「カズがいるチーム」が、負けてばかりいるわけにはいかない。注目されるなかで実戦に臨むことになるので、日々の練習に高い意識で取り組むようになる。個人としてもチームとしても、レベルアップのスピードが上がる。チームにとって何よりのプラス材料は、「カズがいること」だ。

カズの行動はすべてがプロフェッショナルだ。練習や試合に臨む姿勢はもちろん、練習前後の身体のケア、食事の内容や取りかたなど、すべてが手本となる。フットボーラーにとって最高のロールモデルだ。

もちろん、練習には全力で取り込む。後方からついていくのではなく、先頭で引っ張る。「カズさんがこれだけやっているのだから、自分が手を抜くわけにはいかない」と、誰もが思う。それがまた、レベルアップのスピードを加速させるのだ。ひたむきに汗を流すカズの姿は、若いチームメイトにとってブースターとなるのだ。

2012年のフットサル日本代表が思い出される。当時の代表監督だったミゲル・ロドリゴは、「チームに特別なモチベーションを与えてくれる存在」として、カズの招集に踏み切った。カズ自身は「みんなの役に立ちたい。そのために、どうかみんなも自分を助けてほしい」と話し、積極的にコミュニケーションを取っていった。プレータイムは限られていたが、彼はチームの輪に深く入り込み、史上初のベスト16入りに貢献したのだった。

カズが現役を続けることについては、批判的な声もある。「試合に出られないし、出ても活躍できないのでは。それならば、もう引退したら」という声を聞く。しかし、試合に出るためにすべてをサッカーに注ぐ彼の存在は、選手たちから圧倒的なまでに支持されている。取材の現場で、批判的な声を聞いたことがない。

カズが現役選手としてプレーしていることで、現役にこだわるベテランもいる。中村俊輔は横浜FCとの契約を更新した。小野伸二も北海道コンサドーレ札幌でプレーする。ジュビロ磐田をJ2優勝へ導いた遠藤保仁は、20年シーズン以来となるJ1の舞台に立つ。

小野や遠藤らと同じ黄金世代の南雄太は、21年シーズン途中からJ2の大宮アルディージャで定位置をつかんだ。22年シーズンは古巣の横浜FCに復帰するのか、それとも大宮でプレーするのか明らかになっていないが、「まだまだ成長できる気がします」と話している。

彼らが現役で続けているのも、カズがいるからだろう。そして、彼らもまた若い選手のロールモデルとなっている。

新天地がどこになったとしても、試合に出るのは難しいかもしれない。スタメンに名を連ねてフル出場し、翌週もまた先発する、といった稼働は望めないかもしれない。

それでも、カズが現役を続けることで、あちらこちらにプラスの連鎖が生じていくのは間違いない。カズの所属先がスポンサーを得られるといった小さなものではなく、サッカー界全体が利益を得ることができているのだ。彼自身の情熱が衰えず、彼を欲しいクラブがある限り、現役を続けてほしいと思うのだ。