ワクチン接種に長蛇の列ができたロンドン。それでも投資家にとって「オミクロン株」のリスクは大きくない可能性。では意外にも大きなリスクとは?(写真:AP/アフロ)

投資をするうえで「リスク」はつねにあるのだが、「とくに」来たる2022年はいくつかの大きなリスクが心配だ。今回は4つのリスクを検討したい。

それぞれに名前をつけるなら、「オミクロン株リスク」「パウエルリスク」「チャイナリスク」「岸田リスク」となるだろうか。

そろそろコロナとのつきあい方を変えるとき


この連載は競馬をこよなく愛するエコノミスト3人による持ち回り連載です(最終ページには競馬の予想が載っています)。記事の一覧はこちら

順に考えてみよう。今回挙げる4つのリスクの中で、相対的に最も軽微ではないかと筆者が考えているのは「オミクロン株リスク」、すなわちオミクロン株の感染拡大で経済が急減速するリスクだ。

例えば、まだ確定的ではないものの、「感染力は強いが重症化リスクは小さい」とされている新型コロナウイルスのオミクロン株に対して、再び飲食業をターゲットとした営業自粛要請など過剰な行動規制が行われて、経済活動が抑制されすぎる事態はそれなりに心配だ。

ワクチン接種が進み、飲み薬も遠からず承認されようかという状況の変化もあり、そろそろコロナとのつき合い方を「警戒すべき新種のインフルエンザ」程度のものとして、経済を活性化することに比重を移してもいいのではないか。具体的には、コロナの感染症としての分類を2類から5類に格下げして、普通の病院で受診と治療が可能な体制としてもいいのではないか。

もちろん、インフルエンザと同様に、大流行すればほうぼうで学級閉鎖や職場閉鎖的な措置が必要になって、それなりの悪影響をもたらすはずだ。だが、一律の時短要請・休業要請のような施策は避けたい。

例えば、飲食店は席間を開け、換気や消毒などに手間がかかるとなると、むしろ営業時間は延長するほうが合理的な場合があるだろうし、客単価を考えるとアルコール類の提供を一律に禁止するのは過剰だ。

岸田文雄首相は12月23日に都内で行われた会合のあいさつで、オミクロン株に関して「やりすぎのほうがまし」と発言し、強めの対策の可能性を示唆したが、「やりすぎ」はやはり心配だ。

欧米先進国の多くで経済活動の水準がコロナ前に戻っている中、わが国の経済活動の戻りは遅れている。技術や教育などを比較すると、わが国はすでに先進国から脱落して「元先進国」くらいになっているのかもしれないが、「過剰自粛」が経済活動を停滞させるリスクには注意したい。

次は「パウエルリスク」だ。12月18日配信の本連載「2022年はいよいよ『深刻な危機』がやってきそうだ」で、オバゼキ先生(小幡績・慶應義塾大学准教授)が、巷間報じられているように、FRB(連邦準備制度理事会)が2022年「3度の利上げを予定している」わけではないことを丁寧に解説してくれたが、FRBが金融緩和の撤収とインフレ対策としての利上げに、かつてよりもずいぶん「前向き」であることは事実だ。

オミクロン株より数段怖い「パウエル議長」

ジェローム・パウエルFRB議長は先般、新しい議長の任期を得た。今後は評判をそれほど気にせずに、「インフレを抑えた」というセントラルバンカーらしい実績づくりに意気込む可能性がある。

もともとコロナ禍の前からアメリカの株高は金融緩和政策に強く後押しされたものだったので、金融緩和の後退、まして利上げとなると、その影響が相当に心配されるところだった。率直に言って、筆者はオミクロン株よりもパウエル議長のほうが数段怖い。

現在懸念されているインフレは、景気の拡大だけを主な原因とするものではなく、環境を意識した化石燃料エネルギー開発の抑制による原油高や、コロナの影響による部品不足など、供給側の要因の影響を強く受けており、意外に長引く可能性がある。これを金融政策で抑え込もうとした場合、資産市場に大きな影響(株価や不動産価格の下落)が出る可能性がある。

経験的には、利上げが始まってすぐに株価が下落することは少なく、利上げが進むたびに投資家は「そろそろ暴落か」という恐怖を味わい、そしてその恐怖が実現するという展開が典型的だ。

投資家としては「株価が3割下落して、回復に2年くらいかかる」というくらいをメドに覚悟を決めて、「下がることはあってもいずれ戻るだろう」と達観するのがおおむね上策なのだが、まあ、「気持ち悪くなった場合に、どこかで1〜2割売る」くらいの処置を自分に許してもいいかもしれない(根こそぎ売ることはお勧めしない)。

3つ目の「チャイナリスク」はどうだろうか。いわゆる地政学は筆者の専門とするところではないのだが、2022年2月に北京で行われる冬期オリンピックが終わったあとの大陸中国と台湾の関係が心配だ。

素人目にも、ロシアとウクライナの軍事的衝突と、台湾海峡の軍事衝突が同時に起こった場合に、アメリカが両方にうまく対処できるようには思えない。加えて、核開発のスピードを速めるイランをめぐって、中東地域でも緊張が高まるかも知れない。

2021年は、アメリカの内外両面における劣化が目についた1年だった。年初には、ドナルド・トランプ前大統領の支持者による議会乱入事件が起きた。自然発生した偶発的事件であるにせよ、誰かが裏で画策したにせよ、あのようなことが起こるアメリカ社会の分断と脆弱性は深刻だ。

また、ジョー・バイデン大統領に政権が交代したあとのアフガン撤退における大失敗は、アメリカが今や軍事的にも盤石ではないことを可視化した。「台湾有事」が起こった場合、「それはアメリカと日本の両方にとって有事だ」と口では言えるとしても、具体的に何ができるかは問題だ。結局は「非難」と「経済制裁」くらいしか日米にできることはないかもしれない。

アメリカに全面的に頼るだけでは日本の防衛は不十分

何も、中国と直接的な武力衝突を起こすことのほうが望ましいと言いたいわけではない。ただ、おそらくアメリカに全面的に頼るだけでは、日本の防衛にとって不十分であるかもしれない現実を直視すべき時期に来ているではないか。

ただ、投資家にとって台湾有事の評価は微妙だ。一般的に株式市場では「近くの戦争は売り、遠くの戦争は買い」と言われる。緊迫した事態が起こった場合、株価はいったん大きく下がるだろう。

一方、武力的な衝突が何らかの膠着状態を迎えた場合、各種の防衛的ニーズは日本の産業にとっての需要を生み出す可能性があるし、米中の分断が進むと、現在中国が担っているグローバルなサプライチェーンに対するニーズの一部を日本が肩代わりするような事態の進展も想像しうる。新しい冷戦が冷戦にとどまるかぎり、こと経済にとっては悪い話ばかりではない可能性がある。

ただし、貿易で見た日本経済との数量的な結びつきは、現在、中国との関係のほうがアメリカとの関係よりも大きい。中国との関係悪化が起こると、大きなダメージを被る日本企業は少なくあるまい。いずれにせよ、アメリカがすでに「全面的に頼れる親分」ではないことを、日本人はそろそろ現実の問題として認識する必要があるのではないか。

さて、オミクロンリスクは軽微に終わる可能性があり、パウエルリスクも規模はともかく、もともと予想されていた性質のリスクだ。また、チャイナリスクは起こらないかもしれないリスクだし、経済的な影響の評価は微妙だ。

なぜ「岸田リスク」はかなり深刻なのか

一方、最後に挙げる「岸田リスク」は、そのときの悪材料というだけではなく、向こう数年にわたって日本経済に悪影響を与える可能性がある「意外に深刻でありうるリスク」だ。

このリスクのシナリオの大筋は次のようなものだ。まず、夏に予定されている参議院選挙で岸田総裁の率いる自民党が大きく負けずに、政権の基盤が固まるとする。すると、岸田氏は自分のカラーを出しやすくなる。

もともと緊縮財政的なバイアスが感じられる岸田氏であり、さらに彼が安倍晋三元首相の経済政策を変えたがっていることは、「新しい資本主義」という、上滑りした中身のないキャッチフレーズに色濃く表れている。

また、インフレが日本の消費者物価にまで波及する可能性は十分あり、この場合、いわゆるアベノミクスの中核にあった金融緩和政策を岸田政権が変更しようとするに際して、理由を与える可能性が否定できない。

つまり、数年にわたったデフレ脱却への努力が無駄になる可能性がある。
さらに2023年3月には、日本銀行の正副総裁3人の任期が期限を迎える。2022年の年末頃には日銀人事の下馬評とともに、金融政策の転換が話題になる可能性がある。

日銀の人事は、それ自体が数年先の政策にまで影響する、強力な「フォワードガイダンス」であり、政策的メッセージだ。こうした重要な意思決定が岸田政権下で行われるとすると、これは株式市場にとって相当に大きな心配の種である。

資本市場だけでなく、実体経済に対して先々大きく影響する点で、筆者はこの岸田リスクが最も心配だ。生活全体に影を落としかねない、憂鬱なリスク要因なのだ。

なお、4つのリスクのいずれが実現した場合にあっても、株価は時々の情報と市場参加者の予想を織り込むだろうから、投資家は自分にとって適切な大きさのリスク資産を抱えて、じっとしていることが正解になりやすいはずだ。

われわれが乗っている飛行機は、2022年は乱気流のゾーンに入るかもしれないのだが、乗客にできることはシートベルトを締めて乱気流をやり過ごす程度のことにすぎない(本編はここで終了です。次ページは
競馬好きの筆者が週末のレースを予想するコーナーです。あらかじめご了承ください。

この週末は、有馬記念(G1、26日中山競馬場第11レース)が行われる。例年、馬券の売り上げが最も大きい「暮れの名物レース」だ。今年は、目下グランプリレース(有馬記念と宝塚記念)3連勝中のクロノジェネシスの引退レースであることも注目される。

有馬記念は、きついコーナーを6回周り、直線に急坂があり、年によっては馬場が荒れた状態になる、かなりクセの強いコースで行われるレースだ。クロノジェネシスには適した条件であり、しかも近年、一流牝馬の引退レースは好結果が出やすい。

山崎元氏は「最強馬」エフフォーリアが本命

しかし、今年は天気がよく、例年よりもスピードの出る馬場状態が予想される。この馬場状態と、現3歳世代のレベルが高いことを考えると、本命にはエフフォーリアを採りたい。

ダービーこそ早仕掛けで敗れたものの、同じ中山競馬場で行われた皐月賞を圧勝しているし、レースの質は違うが、秋の天皇賞では3冠馬のコントレイルを破っている。おそらく、現状の日本最強馬だろう。

相手は、順当ならクロノジェネシスだ。強い馬がレースを使う数が減っている今日(こんにち)、牝馬の5歳後半は使い減りもなく、実は生涯最強の時期かもしれない。もっとも、同馬の場合、タフな馬場だった10月の凱旋門賞の疲労が影響する心配はある。

対抗とほぼ同格の3番手に、エフフォーリアと皐月賞、ダービーを戦ってともに3着だったステラヴェローチェを選ぶ。末脚のしぶとさは有馬記念向きだし、鞍上のミルコ・デムーロ騎手の調子が上向いているように感じる。

以下、距離への適性から、ディープボンドとアリストテレスを押さえる。
馬券が当たれば、年内に「自分で作る所得制限なしの現金給付」を受け取ることができる。

小幡准教授の本命もエフフォーリア、吉崎氏は?

【小幡績・慶應義塾大学准教授の予想】

私の有馬記念の思い出は、グリーングラスとメジロファントムの1979年。そして「ルドルフ、シービー、カツラギの3強激突」となった1984年。連覇がかかるシンボリルドルフをひと目見ようと、河合塾の模試を午前中で抜け出して行った中山競馬場の、身動きできないスタンド前の1985年。

さらに1986年。師匠に「牝馬は弱い」と説教された、3冠牝馬メジロラモーヌが惨敗。その翌年の1987年は、メリーナイスがゲートを出ていきなり落馬。しかも「菊の季節に桜が満開」と杉本清アナウンサーが実況した菊花賞で奇跡の復活を果たしていたサクラスターオーも予後不良となった年。

まだまだある。「あっと驚くダイユウサク」(1991年)に、メジロパーマーの大逃走で勝利した山田泰誠の素っ頓狂なインタビュー(1992年)。奇跡の大復活トウカイテイオーと、競馬界から消えた鞍上の「競馬界の玉三郎」こと田原成貴騎手が印象に残る1993年。

このように、私のデータは古すぎて、今年のレースの参考にならないが、本命はエフフォーリア。断然強いが、鞍上の横山武史騎手には、19日の朝日フューチュリティステークス(2歳G1)に勝った武豊騎手を見習って、ガッツポーズはスタンド前に帰ってきてからにしてほしい。

クロノジェネシスは調子がいまひとつ。穴はディープボンド。

【吉崎達彦・双日総研チーフエコノミストの予想】

40歳を迎える前の不肖かんべえは、「年に1度、有馬記念のときだけ馬券を買う」競馬ファンであった。たまたま2001年の有馬記念でマンハッタンカフェが当たってから、ほぼ週末ごとに競馬場に通うファンになってしまった。あの年の有馬は「敬宮愛子内親王殿下ご誕生慶祝」という冠がついていた。

その愛子さまが今年、成人を迎えられた。いやもう、月日が経つのは早いものである。

昨年の有馬では、「牝馬の引退レースは買い」と言ってラッキーライラックに賭けた。あいにく4着に終わった。そのときの彼女と同じ4枠7番に、今年はクロノジェネシスが入った。有馬記念の枠順抽選会を見ていて、何か運命的なものを感じてしまった。

確かにエフフォーリアは強い。が、別にここで買わなくてもいい。クロノジェネシスの馬券を買えるのは今回が最後。それに彼女には、夏の宝塚記念でもお世話になったじゃないか!

ということでクロノジェネシスが本命。「グランプリレース4連覇」という偉業を見てみたい。必然的にエフフォーリアが対抗。大外に回ったタイトルホルダーが穴馬。それからゴールドシップの仔であるウインキートスを少しだけ買っておきたい。

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)