仕事の合間にインタビューに答えてくださった、おかみさん。にこやかでやさしい雰囲気(写真:筆者撮影)

今年、新型コロナワクチンが登場すると、反ワクチンをビジネスにする人たち、そこへ取り込まれる人たちが続出した。しかしコロナが沈静化しつつある今、逆に反ワクチンをやめ、我が子にワクチンを接種した人の体験談などもインターネット上で語られるようになってきている。

2017年には、福島県に住む「おかみ」さんのツイートのまとめ『「ワクチン危険!じゃないんだ」と気付いて予防接種を受け直した経験』が話題になった。このまとめは、おかみさんが反ワクチンに少し傾倒したものの考え直し、保健センターで相談してお子さんへの接種を再開した経験を綴ったものだ。

今回は「人はどうして反ワクチンになってしまうのか」「本人や周囲はどう対応したらいいのか」などのヒントを探るべく、おかみさんに詳しいお話をうかがった。

育児の話をできる人がたまたま「反ワクチン」だった

――お子さんにワクチンを打たせることに疑問を感じたきっかけを教えてください。

もともと自分自身が子どもの頃にとても健康で体が強かったので、出産後に周囲の親子を見ていて「風邪をひいたり、少し肌荒れしたりしたからって、すぐ小児科に連れていく必要あるかな」と少し疑問を感じていました。なんでもお医者さんや薬に頼らなくてもいいんじゃないかと。

それでワクチンについても「どうなのかな」と思って、インターネットで調べてみたところ「ワクチンは必要ない」「ワクチンは危険」というような記事を見かけて、その後に自然派育児にはまっている人と出会ったのがきっかけとなりました。

当時、私は仕事と家事と子育てに追われていて、子育てのささいなことについて「どう思う?」と気軽に聞ける人がいなかったんですが、たまたまそういう話ができるようになった相手が自然派だったんです。

――子どもが小さいときは世話や家事に追われて忙しく、仕事をしているとますます保護者同士のコミュニティを作るのが難しいですよね。自然派育児にはまっていた方は、どんなふうだったのでしょうか?

「今の子どもは家の中で遊ぶことが多くてよくない。外遊びが大事」とか「なるべく病院には行かない」というような「自然派」なだけではなく、「大手企業の食品はすべて危険」「医師や病院、製薬会社は、利権のために不要な治療や薬を売っている」「ワクチンは不要」などと、かなり極端な意見を持っている方でした。

同じ考えを持つ人たちのコミュニティや勉強会にも積極的に参加していて、地域で有名な反ワクチン派の人たちともつながっている人で……。私はそこまで徹底できないと思いましたが、あまりはまりすぎず、いいとこどりしたいと思っていたんです。

――なるほど。その方の影響でワクチンもなるべく打ちたくないと思われたんでしょうか。

じつは改めて記録を見ると、ポリオ、BCG、麻疹のワクチンは接種していたんです。今、思い返すと、赤ちゃんに注射を打つことに対する心理的抵抗も大きかったと思います。「こんなに小さくてかわいい子に注射を打って痛い思いをさせ、大泣きさせるなんてかわいそう」って。

当時、ポリオは経口投与で、BCGはハンコ注射ですし、麻疹はリスクが高いと思って接種したんだろうと思います。それに加えて0〜1歳のワクチン接種のスケジュールはとても過密で仕事の合間に小児科へ通うのは大変だったこと、同時に子どもの体調が悪いときには打てなかったりしたこともあって「ワクチンはよくないという意見もあるのだから様子をみよう」「ワクチンは任意なんだからいいだろう」という結論に至ったんだと思います。

――日本では海外と比べて混合ワクチンが少ないから、針を刺す回数が増えがちですもんね。それに1回に何種類かを同時接種してもいいのですが、1本ずつしか打たないところもあるので、小児科へ通うのも大変です。ご夫君はどうおっしゃっていたんでしょう?

夫には、あまりワクチンの話はしませんでした。ただ、あまりワクチンを接種していないのは知っていて、後で聞いたら「ワクチンを打ってもいいのではと思っていたけれど、そのうちに打つだろうと思っていた」とのことでした。

また子どもがほとんど病気にならなかったので、小児科で母子手帳を出した時に「ワクチンを接種したほうがいいですよ」と言われることもなく、保健センターから連絡が来ることもありませんでした。また保育園や小学校への提出物のワクチン欄に空白があっても、特に指摘されることはなく、そのまま月日が過ぎていったんです。

なぜ「反ワクチン」をやめたのか?

――おかみさんは、お子さんが中学1年生(12歳)のときにワクチン接種を再開されたんですよね。どういった心境の変化があったのでしょうか。

本当はそれよりもずっと前の、子どもが小学2〜3年(8〜9歳)の頃に、やっぱりワクチンを打たせたいと思い始めていました。

きっかけは、2011年の東日本大震災です。じつは、もともと周囲の反ワクチンの人たちの話の内容に疑問に持つことはよくあったんです。例えば「ワクチンは危険」といっても成分のことを何も知らないし、論拠(データやエビデンス)はないし、常にゼロリスクを求めているし、荒唐無稽な説でも「あの人はいい人だから本当の話だ」と納得したりするし……。理屈じゃなくて感情論で話すことが多くて、おかしいなって。

さらに「自分たち以外の人は真実を知らない」と見下す感じもあって、かなりの違和感を持っていました。「やさしさが大事」だと言っていたのに、全然やさしくないですから。そこに震災が起きて、自然派で反ワクチンの人たちは「福島は放射能で危険だ」と、他の地方へ自主避難したり、移住したりしたんです。

――震災を機に物理的な距離ができたんですね。それまで、うっすら「おかしいな」と思われていた気持ちは、はっきりとした「おかしいな」に変わったんでしょうか。

そうです。反ワクチングループの人たちと距離ができると同時に、子どもが小学生になって少し余裕ができたこともあり、他の保護者の方たちと話すことが増えました。そうしたら、すごく閉鎖的なグループで、まったく根拠のない話ばかりをしていたことがわかってきて、おかしいと気づきました。

それなのにすぐにワクチンを接種しに行けなかったのは、すでに接種時期が過ぎていたからどうしたらいいかわからない、どこかに相談すると田舎だからウワサになるのでは、と思ったからです。よく考えたら、専門家がウワサを広めることはないと思うのですが。

「私の気持ちなんかより、子どもの将来や健康が大事」

――だけど、ある日、別の用事で訪れた保健センターで、急に相談することができたんですよね。

はい。まったく別の用事で保健センターに行き、用事を済ませたあと、気がついたら「12歳の子どもにワクチンをほとんど打たせていないので、打たせたいんです」と、するっと口から言葉が出ていました。

ひとつは子どもが中学生になったことで、もう猶予がないと考えていたからだと思います。また、もうこの時にはワクチンを打っていないと、旅行や留学などで行けない国や地域が出てきてしまったり、医師や看護師などの医療職や学校の先生などの教育職に就けなかったり、運悪く感染すると最悪の場合は死に至ってしまうことを知っていましたから。

親のせいで子どもがどこかに行けなかったり、就きたい職業に就けなかったり、命を失ったりしたら最悪です。私の気持ちなんかより、子どもの将来や健康が大事。どうして、そんな簡単なことに気づけなかったんだろうと反省しました。

――保健センターの方は、どんな反応だったのでしょうか?

ただ、すんなりと「そうですか。じゃあ、こちらにどうぞ」と椅子をすすめて、まずはコーヒーを出してくださいました。「なんでワクチンを受けさせなかったんですか」と叱られることよりも、私は「え? 信じられない」といったふうに驚かれるのが怖かったんです。


保健センターで作ってくれたワクチンリストを母子手帳に貼っている(写真:おかみさん提供)

でも、そんなことは全然なく、普通の受け答えをしてくださいました。そして急なことで母子手帳を持っていなかったのですが、記録から未接種のワクチンの種類を調べ、年齢に合う量などを問い合わせてリストにしてくださって。さらに近くの地域のかかりつけ医に連絡してくださって、とてもありがたかったです。

――とても親切ですね。確かに推奨期間を過ぎてしまうと、何から打ってもらえばいいのか、どんな量なのかわかりませんもんね。

そうなんです。それでホッとして、なぜ今まで受けさせなかったかという話をしたら、「いろんな考え方のお母さんがいますからね。そういうネットワークもあるみたいだし。それに熱が出たとかで受けられなくてそのまま、なんて人も相談に来たりするんですよ」って。

だけど、「子どもや周囲の弱い人のために、ワクチンは絶対に必要です」ということは、はっきりおっしゃっていました。帰る間際に「よく来てくださいました。私も勉強になりました」とも言っていただいて、恐縮したのを覚えています。

医師から責められることはない

――そしてすぐにワクチンの接種を始められましたよね。お子さんにはどのように話されたのでしょうか。

子どもには「今年はたくさんワクチンを打つことになるよ」と話しました。当然「なんで?」と聞かれたので、「あなたが小さい頃、お母さんはワクチンに不安を感じていて打てなかったけど、やっぱり親元にいる間に打ったほうがいいと思って」と答えたら納得してくれて、ありがたかったです。

たまたま重大な感染症にならずに元気に育ってくれましたが、それはラッキーだっただけだから、ワクチンの接種を始めてから振り返ってみて怖くなりました。子どもには申し訳ないことをしたと思っています。

――お子さんを大事に思っているからこそ接種に不安を感じられたわけですし、それは伝わるのではないかと思います。かかりつけ医の対応はどうでしたか。

それも少し心配だったんですが、まったく責められるようなことはなく、普通に対応していただけました。保健センターでもらった接種リストを持ってせっせと通い、中学3年生の途中までにほとんどすべてが終わりました。あとは20歳の頃に追加接種が1つあるだけです。

中学生だったからか無料で打てるものもありましたが、公費での接種期間が終わっているワクチンもあって、自費で5万円と少しくらいかかりました。

もちろん高くはないですし、当たり前の授業料だと思っていますが、いろいろな意味でもっと早く保健センターで相談しておけばよかった、というのが素直な感想です。それでも新型コロナウイルスが流行する前にワクチンを接種できてよかったとも思いました。何もしてなかったら、私がパニックに陥ったでしょうから。

――今、昔のおかみさんのようにワクチンに懐疑的な親御さんがいたら、何を伝えたいですか?

もしも気が向いたら、ぜひ保健センターや子育て支援センターなどで話をしてみてほしいなと思います。ワクチンの話でなくても、ただの子育ての話でもいいんです。現時点では我が子にワクチンを接種させたくないと思っていても、情報収集は大事ですよね。

それに子育て中に頼れる人は、たくさんいたほうがいい。だから専門家に子育てのちょっとしたことを話したり、できたらワクチンに関する疑問点や不安点について聞いてみることは、すごく意義あることではないでしょうか。

別世界の話のように思えるかもしれませんが、保健センターにいる人が、子どもたちのことを真剣に考えてくれていると知るだけでも視野が広がると思います。そしてワクチンの接種を強制されることはないはずです。

本当に欲しいのは「仲間」だったのかもしれない

――ご家族が反ワクチンにはまってしまった場合は、どうしたらいいのでしょうか?

それはとても難しくて……。「こうしたらワクチンを接種してくれる」なんてことは言えません。でも、まずは子育てについて不安を感じたり、悩んだりしているのかもしれませんから、ゆっくり話を聞いてあげてほしいと思います。

ワクチン的なグループの近くにいて思ったのが、意外とワクチンの成分などを調べたりしている人は少ないということ。自然派・反ワクチン的な要素に惹かれている部分はあるのかもしれませんが、むしろ仲間が目当てな場合もあります。心が向いているのは、反ワクチンではなく、いつでも受け入れてくれる仲間なのかもしれません。

だから「反ワクチンなんてとんでもない」と激しく批判したりするのではなくて、一緒に出かけたり、話を聞いたり、やさしく接してみてほしいです。