「寝違え」の原因は?

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 朝、目が覚めて体を起こしたとき、「首に違和感がある」「首が痛くて動かせない」といった、いわゆる、「寝違え」を経験したことがある人は少なくないでしょう。寝違えると首周辺の痛みを感じるだけでなく、首を思うように動かせない、痛みによって、歩いたり、立ち上がったりしづらくなるなど、日常生活に影響が出ることもあり、「ひどい寝違えを起こしたときは、じっとしているだけでも痛かった」「放置したらどうなる?」「病院に行くかどうか、いつも迷う」などさまざまな声があるようです。

 首が痛くて動かせなくなる、つらい「寝違え」はなぜ、起こるのでしょうか。お茶の水セルクリニックの寺尾友宏院長(整形外科)に聞きました。

正式な医学用語ではなく

Q.「寝違え」の正式名称はあるのですか。

寺尾さん「『寝違え』は症状に基づいた名前で、正式な医学用語ではありません。整形外科ではさまざまな原因で起こるものと考えているので、実際はいろいろな病名で呼ばれます。中でも整形外科で最も多く使う病名は『頸椎捻挫(けいついねんざ)』です。また、『急性疼痛性頸部拘縮(きゅうせいとうつうせいけいぶこうしゅく)』という名称もありますが、これは主に接骨院や整骨院で使われているようです」

Q.寝違えが起こる原因は何でしょうか。

寺尾さん「原因はさまざまですが『検査を行っても異常を見つけられない場合が多い』という点が共通しています。主な原因としては『筋肉の阻血(血流の低下)』『筋肉のけいれん』『関節の炎症(捻挫)』の病態が考えられます。いずれの状態でも、症状が強ければ、じっとしているだけでも痛くなり、症状が弱ければ、動かしたときだけ痛みが出ます。首の筋肉を押すと痛みが出る場合、筋肉による痛みの可能性が高いです」

Q.特に、寝違えを起こしやすいと考えられる状況や寝違えやすい人の特徴はありますか。

寺尾さん「睡眠中、寝返りの回数が少ないと寝違えを起こしやすくなる可能性があります。寝返りが少ないと腰痛の原因になる場合もあるので注意が必要です。同じ姿勢を続けていると、筋肉に由来する寝違えが起こりやすいため、日常的に長時間、デスクワークを続けている人は起こりやすいと思います。

また、体の柔軟性が低下している人は関節にも筋肉にも負担がかかりやすいため、症状が出やすいです。そのため、運動習慣の乏しい人は寝違えやすいと思います。スマートフォンを長時間、見続ける傾向のある人も頸部の姿勢が悪くなり、結果として、寝違えが起こりやすくなるでしょう。なお、なで肩の人も首への負担が大きくなりやすいため、寝違えを起こしやすい可能性があります」

Q.寝違えを起こしてしまった場合、どうすればよいですか。痛みを放置しても問題ないのでしょうか。

寺尾さん「3日程度は無理をしないで安静にしているのがよいですが、その後、痛みが引いてきたら、徐々に動かしていく方が早くよくなります。長期間、動かさないでいると筋肉も関節も硬くなってきて、痛みが長引きやすくなるからです。そのため、ある程度の期間が過ぎたら、少しずつ動かした方がよいでしょう。

とはいえ、痛みが強いままの状態で動かすのはつらいですし、難しいと思うので、医療機関で痛み止めを処方してもらったり、リハビリテーションを受けたりするのがよいと思います。もし、首の痛みに加えて、腕にしびれや放散痛(腕自体に原因がなく、神経が刺激されて起こる痛み)がある場合、すぐに整形外科を受診しましょう。椎間板ヘルニアなど、別の病気が隠れている可能性があります」

Q.寝違えで病院を受診した場合、どのような治療を行うのですか。

寺尾さん「一般的には痛み止めの飲み薬や湿布、塗り薬など、痛みをコントロールする治療が中心です。筋肉による痛みの際は筋弛緩(しかん)薬を使う場合もあります。痛みが強い場合、筋肉や関節への注射を行うこともあります。リハビリテーションとして、電気や温熱を使って、痛みのコントロールをする場合もありますし、頸椎をけん引することで痛みを緩和できることもあります。

また、『頸椎カラー』を巻いて、首を安静にすることでも痛みを緩和できますが、逆に長期間使用していると痛みが引きにくくなる可能性もあり、使い方には注意が必要です」

Q.寝違えを防ぐために日常生活上で意識・行動するとよいこととは。

寺尾さん「まず、睡眠中はうまく寝返りを打てることが大事です。一般的に、寝返り回数(一晩)の平均は20回程度といわれています。寝返りができないと筋肉への負担が増したり、関節をねじってしまったりする原因になるので、うまく寝返りをすることが大切です。

簡単な方法は抱き枕を活用することです。細長いタイプ以外にU字型の枕を使うのもよいでしょう。U字の枕は横を向いたときの首への負担を減らせるので、首をよい状態に保つのに有効です。また、高反発マットレスを使うことで、寝返りが打ちやすくなります。

日常生活上では同じ姿勢を長時間、続けないように気を付けましょう。20分以上、同じ姿勢を取り続けるのは筋肉や関節によくないので、小まめにストレッチをするのが大切です。また、スマホを長時間使う際は、のぞき込むような姿勢を続けると首への負担が大きくなるため、姿勢を工夫するなど注意しましょう。

首の筋肉と関節の柔軟性を維持するためには、ストレッチなどを継続していた方がよいです。短時間でもいいので、普段から、運動する習慣をつけることをおすすめします」