FC東京、清水エスパルス、サンフレッチェ広島、湘南ベルマーレ、セレッソ大阪、横浜F・マリノス、ガンバ大阪、鹿島アントラーズ、横浜FC。

 上記は今季、監督を途中交代させたJ1クラブだ。その数は9。全20チーム中の45%を占める。J3まで含めると実に25チームを数える。シーズン途中にこれほど頻繁に監督交代がある球技系の団体競技はあるだろうか。ちなみに今シーズンのプロ野球は0だった。

 監督交代がサッカー競技において、珍しい話ではないことがよく分かる事例だ。しかし世間全般に、そのサッカー界のスタンダードはどれほど浸透しているだろうか。特にメディアは、45%の監督が途中解任されるという前提で、Jリーグと向き合っているだろうか。地方の新聞やテレビなど、ローカルメディアは、監督解任問題に積極的に触れているだろうか。森保一監督、是か非かではないが、そうした視線を、地元クラブの監督に傾けているだろうか。Jリーグを中継するDAZNやNHKで解説を務める評論家や実況アナしかり。

 厳しい目線を傾けろとけしかけているのではない。何と言っても45%だ。日本代表監督の場合も、W杯に出場した過去6大会中3度、途中交代が起きている。その代表監督についても、是か非か論はネットでは盛んに展開されるものの、放映権を持つDAZNやテレビ朝日をはじめとする大手メディアは、ごく自然なこの事例に対し沈黙を守っている。その手をこまねく様子は不自然、もっと言えば嘘臭く見える。サッカーのコンセプトから日本の報道は大きく逸脱した状態にある。

 サッカー協会の反町技術委員長は、森保監督是か非かで盛り上がるネットニュースに対して、「外圧は好き勝手なことを言ってページビューを稼ごうとしている」と、憎まれ口をたたいているが、こちらの方がサッカー界のスタンダードから外れた考え方だと言うべきだろう。

 政治の世界で、野党は批判ばかりで建設的ではないと揶揄されがちだ。言い放しにするのではなく対案を出せとする声を聞く。代表監督を批判するなら後任には誰が相応しいのか、具体的な名前を出せと、読者に迫られたことがある筆者は、つまり野党的だと言われてしまったワケだ。しかし、実際の政治の世界がどうなのか定かではないが、一介のスポーツライターは監督問題において、野党以上に建設的な対案を述べにくい立場にあることも確かである。

 いま誰が空いているか。どの指導者が浪人中かについてはこちらでもある程度、調べることは出来る。日本代表の進むべき道を探りながら、海外サッカーに目を凝らしていれば、日本代表監督に相応しい候補者の名前は、おのずと何名か浮上する。しかし、出来ることはそれくらいだ。取材を通して、日本で監督をすることに興味があるとか、実際にやってみたい人というに遭遇することはある。かつてバルセロナで、ライカールト監督のもとで助監督をしていたヘンク・テンカーテもその1人。実際に神戸の監督に就任したフアン・マヌエル・リージョ(マンチェスター・シティの現コーチ)も、かつてこちらにそう述べている。

 だが、それはあくまでもその瞬間の言葉だ。有能な指導者ほど、引きは絶えない。1か月後、いや10日後にはどこかから声が掛かっている可能性がある。いま現在の状況を知るために必要なのはネットワークだ。世界中に存在する代理人などと常時、連絡を取り合える関係を構築するためには、それなりの資金がいる。本人からの売り込みもあるので、対応するためにはそれなりの組織、窓口が必要になる。代表監督の場合なら、協会がそれに相応しい場所というべきだろう。

 そこで、批判ばかりしていないで建設的な対案を出せと言われても、それは無理ですと返すしかない。極論すれば、こちらは批判することしかできないのだ。頑張らなくてはいけないのは協会なのである。