【江端浩人×音部大輔】一流マーケターに必要なのは「設計とサイエンスへの理解」だった?

日本コカ・コーラや日本マイクロソフトなどで要職を務めた江端浩人氏と、P&Gに17年在籍した後ユニリーバや資生堂のブランドマネジメント組織を主導した音部大輔氏による対談企画。対談では、世界をリードする企業のマーケターとしても活躍された2人が、これまでの経験に基づき、具体例を交えながらマーケティング論について語っています。
画像:江端浩人の「スタンフォード式」幸福度が高まるビジネス&キャリアの育て方/YouTube第2回目となる本記事では、第1回に引き続きパーセプションフロー®・モデルとカスタマージャーニー・マップの比較を紐解きつつ、消費者理解に重要なペルソナ設定において、近年重要とされる概念を明かしました。
(第1回はコチラから)
音部氏:パーセプションフロー®・モデルとカスタマージャーニー・マップの違う点について。カスタマージャーニーは行動の変化を追うので4Pでいうと、プレイスとプロモーションが中心です。どこで何のメディアに当たってますよとか、どこのチャネルで買ってますよとか。
対して、パーセプションフロー®・モデルはパーセプションを中心に据えているので、4P全部がメッセージです。
最近では知っている人も多いですが、車のドアが閉まる音って全然走行性能にも何も関係ないんですけど、メッセージですよね。重厚な音がすると、きっと安全性の高そうな車であるし。軽い音がすると、きっと俊敏に動くライトウェイトスポーツでしょう。
ドアの音なんていうのはメッセージ感があまりないですけれども、とても重要なメッセージで、多くの自動車会社にはドアの閉まる音のチューナーがいるほどです。
パーセプションフロー®・モデルなら、4P全域にわたる活動設計を可能にするという点が、まず一つ目の違いですね。

二つ目は、時制が違うこと。時間を制すること、です。過去形か現在形か、あるいは未来形か。
今起きていることを是として、今の消費者行動に合わせていくのがカスタマージャーニー的アプローチと言えるでしょう。漸近線に対して曲線が極限まで近づいていくように、今の消費者の行動に沿っていくのがカスタマージャーニーであるのに対し、パーセプションフロー®・モデルが描くその行動は、まだありません。
両者は似た感じですけど、カスタマージャーニーは現存する建物の見取り図で、その見取り図の中でどう立ち振る舞うかを考えます。対して、パーセプションフロー®・モデルは設計図面なんですよ。これから建てる建物を描きます。ここに描かれている消費者行動はまだない。だからプランニングなんです。
江端氏:設計士と図が描ける人の違いですね。
音部氏:そう。既存の建物の見取り図を描くか、これから建てる建物の絵を描くか。
江端氏:一流建築士とかじゃないとできないかもしれないですね。
音部氏:適当に描いてもその通り作れないじゃないですか。
そういう意味では、さっきのアートとサイエンスの話はとっても良いトスだったなと思います。サイエンスの範疇でやらなきゃいけないんですよ。屋根から建物作るのは多分まだ無理なんです。
理不尽なことは起きないし、超常現象は起きない。だけど、消費者の行動は変えられる。それは多くの一流のマーケターはみんな変えてきたんじゃないかと思います。これが二つ目です。

で、三つ目は差別化に関する側面です。カスタマージャーニーは、カテゴリーごとなんですよね。
江端氏:例えば、洗剤だったら洗剤とか。消費行動はそんなに変わらないですよね、カテゴリー内では。
音部氏:アタックとアリエールのカスタマージャーニーを描き分けてみろという課題は、これは相当難しいか、多分無理です。
でも、パーセプションフロー®・モデルはパーセプションの話なので、アリエールとアタックのパーセプションフロー®・モデルが一緒になってしまったら、かなり具合悪いですよね。ブランドもベネフィットもパーセプションだからです。同じにはならない。
ということで、差別化して市場創造してブランディングをするときには、パーセプションフロー®・モデルのほうが役に立つと思います。
ただカスタマージャーニーが役に立たないということでは全然なくて、カスタマージャーニーに向いている領域もあります。カテゴリーごとなので、洗剤の購買行動中、自分たちのブランドが競合ブランドよりも劣っているとか効率が悪い所はどこですか、といった改善箇所を見出すのには便利なこともあるかもしれません。
効率を改善していくんだよっていうときにはカスタマージャーニーは有効な部分が多いし、差別化して市場を創造するときにはパーセプションフロー®・モデルじゃないとやりにくいかもしんない。多分使い道がちょっと違うのでしょう。
江端氏:カスタマージャーニーって結構ペルソナをがっつり決めてやりますよね。パーセプションフロー®・モデルはどうなんですか?
音部氏:パーセプションフロー®・モデルも同様です。
最初はいろんな方向にいろんな人がいくじゃないですか。他の人がそのルートを見つけて、同じ道をみんなが辿り始めるんですよね。これがパーセプションフロー®・モデルです。
どういうことかというと、最短距離を描けばいいんですよ。そっから逸脱する答えが入るかもしれないけど、それはそれでいいです。
でも目指すべきところはこれから作る設計図だから、目指すべきところは現実的な最短距離を一本描ければ。
江端氏:本の見所と言うか、ここは読んどけよみたいなところはありますか。全部読んだ方がいいとは思いますけど。

音部氏:見所としては、消費者理解の仕方で。さっきのペルソナにも近いんですけど。
消費者理解をするときに、はじめの一歩としては40代男性なんていう切り方もあるかもしれないですが、今はあまり意味がないかもしれません。
昔は年齢と性別でライフスタイルが似ていたから、今よりも有意義だったかもしれません。世代ごとに均質性が高かったから年齢と性別でも機能したのですけど、今そんな均質性が高くないので、年齢と性別で区別した40代男性でも、同じ要素は多くありません。
だからこそ、ペルソナをライフスタイルで作ってみたり、収入や生活の人生の価値は何ですか、とか、いろんなやり口はあると思います。とっても重要なコンポーネントの一つが、自我です。
自我という切り口からの消費者理解が重要であるという音部氏。動画では、自我がマーケティングにどのように影響するのかについて解説していますので、ぜひチェックしてみてください。