「不要」と感じる人が多いのは理解できるものの……(写真:Fast&Slow/PIXTA)

12月が間近に迫り、職場で忘年会の話が浮上する季節になりました。そんなタイムリーな時期に発表された日本生命のアンケート調査結果が波紋を呼んでいます。

このアンケートは、「職場での“飲みニケーション”が必要か不要か」を各年代の男女計7774名に尋ねたもので、今年の結果は「不要・どちらかといえば不要」が61.9%で、「必要・どちらかといえば必要」の38.2%を大きく上回りました。

ちなみに昨年は「不要・どちらかといえば不要」が45.7%、「必要・どちらかといえば必要」の54.3%、一昨年は「不要・どちらかといえば不要」が42.7%、「必要・どちらかといえば必要」の57.3%であり、今年は2017年の調査開始以来、初めて「不要・どちらかと言えば不要」が上回ったそうです。

しかも驚かされたのは全年代で、ほぼこの割合だったこと。決して「若い人たちだけがそう言っている」というわけではないようなのです。

これを受けてネット上にさまざまな声が飛び交っているほか、民放各局の情報番組もこぞってフィーチャー。24日に「めざまし8」(フジテレビ系)、「ひるおび!」(TBS系)、「大下容子ワイド!スクランブル」(テレビ朝日系)、25日に「スッキリ」(日本テレビ系)、「バイキングMORE」(フジテレビ系)などでピックアップされ、MCやコメンテーターが意見を交わしました。

現在も「必要派」「不要派」のそれぞれが声を挙げていますが、納得させられるものがある一方で、もしかしたらそこに本質はないのかもしれません。この「職場での“飲みニケーション”が必要か不要か」というアンケート自体に疑問を抱かざるをえないところがあるのです。

どこまでも明確な「不要」の理由

そもそも「飲みニケーション」とは、主に職場の同僚などとお酒を飲みながら親交を深めること。

日本生命のアンケートでは、今回6割を超えた「不要・どちらかといえば不要」の理由として、主に「気を遣うから」(36.5%)、「仕事の延長と感じるから」(29.5%)、「お酒が好きではないから」(22.2%)、「拘束時間が長いから」(20.8%)、「お金がもったいないから」(19.9%)、「職場でコミュニケーションが十分取れているから」(15.8%)の6項目が挙げられていました。

また、「スッキリ」の街頭インタビューでは、「上司とは仕事場での上司と部下という関係以上のものは必要ない」「お酒が弱いので『酔っちゃいけないぞ』と緊張する」「飲むのは好きだけど、気の合わない人と行くのがつらい」「やらないのが当たり前になっているので、やりたいという気持ちがない」などと、率直な不要の理由が続出。

コメンテーターを務めるSHOWROOM代表の前田裕二さんも、「不要。仕事と仕事外をつなげる手っ取り早い橋渡しが飲み会だったが、もうそういう時代じゃない。飲み会の代わりに『○○好きの集い』を開く」。食べチョク代表の秋元里奈さんも、「不要。お酒が苦手な人や夜の飲み会に出られない人も。飲み会の代わりに自由参加のランチ会やオンラインの飲み会を頻繁に開催している」。MCの加藤浩次さんも、「まったくいらない。ただ仲のいい人と飲みたい。仕事は仕事の場で終わらせればいい」と、ほぼ「不要」で一致していました。

そのほかにも、「仕事のグチを聞きたくない」「説教好きの上司が嫌」「酒好きの人に絡まれる」「お酌が苦手」「注文を取るのが大変」「先輩の自慢話にあいづちを打たなければいけない」「ハラスメントとか言われそうで面倒」などがあり、これほど多くの理由があるから6割超の人々が「不要・どちらかといえば不要」と答えたのでしょう。

あくまで「飲み会」はツールの1つ

一方、日本生命のアンケートで「必要・どちらかといえば必要」の理由として主に挙げられていたのは、主に「本音を聞ける・距離を縮められるから」(57.6%)、「情報収集を行えるから」(38.5%)、「ストレス発散になるから」(33.6%)、「悩み(仕事)を相談できるから」(29.2%)、「人脈を広げられるから」(29.2%)の5項目。

また、それ以外にも、「今まで知らなかった別の人柄が見られる」「共通点が見つかって仲よくなれる」「結果的に仕事がしやすくなる」「なかなか会えなかった人や新人と話せる」「むしろランチやオンラインのほうが気を遣う」などの理由もあります。これらはすべてポジティブなものであり、前述した「不要」の理由を感じている人も、それを上回るメリットがあるから「必要」と答えたのでしょう。

今回のアンケートで重要なのは、「職場でのコミュニケーション」の中で「飲み会」だけを切り取って考えないこと。もともと「飲み会」は、「職場でのコミュニケーション」ツールの1つにすぎないものです。

給料をもらって働いている以上、職場でのコミュニケーション自体を「不要」と拒否するのは、単なるわがまま。たとえば、「飲みニケーション」を拒否するなら、その分だけ別の機会でコミュニケーションを取って、仕事のパフォーマンスを上げていくべきでしょう。

その点、今回のアンケート回答で気になったのは、「飲みニケーション」の問題ではなく、「職場の人間関係がよくない」「距離が縮まらないと決めつけている」人の多さ。お酒や飲み会が苦手なのは仕方ないものの、「人間関係をよくしていきたい」「少しでも距離が縮まるといいな」という気持ちを持っている人が少なくなるほど、その部署、引いては会社全体の業績も上がりづらくなっていきます。

さらに少し見方を変えると、「必要・どちらかといえば必要」という人が減ったのは、「仕事へのモチベーションが高い人が減ったから」なのかもしれません。ネットが発達したとはいえ、まだまだビジネスシーンではリアルな出会いやコミュニケーションが重要であることも事実。「成長したい」「出世したい」「給料を上げたい」「コネを作りたい」「いつか独立したい」などのモチベーションを持つ人が少なくなっているとしたら気がかりです。

コロナ前から不要派は増えていた

情報番組を見ていた中で「核心をついている」と感じさせたのが、「ひるおび!」コメンテーターの朝日奈央さん。朝日さんは「今までの風潮的に『飲みニケーションが当たり前』みたいなのがあったと思うので、こういうコロナ禍になったからこそ『声に出す時がやっと来たか』みたいな感じなのかなと思います」とコメントしていました。

さかのぼること2年前の2019年12月、「#忘年会スルー」というハッシュタグがツイッター上に飛び交うなど、コロナ禍の前から、職場の飲み会に参加しない人が増えはじめていました。さらにその数カ月後にコロナ禍がはじまったことで、「職場の飲み会なんてやっている場合ではない」「もともと不要なものだった」などのネガティブな声が次々に飛び出しやすい状況になったのです。つまり、きざしが現れはじめていたところに、コロナ禍が訪れ、それが決定打になったのでしょう。

また、もう1つ見逃せないのが、アルハラ(アルコール・ハラスメント)の存在。コロナ禍の前から、パワハラ(パワー・ハラスメント)、セクハラ(セクシャル・ハラスメント)に続いてアルハラも、それなりに浸透していました。

しかし、実際のところアルハラの解釈は、「飲酒の強要」「酔ったうえでの迷惑行為」「お酒が苦手な人を揶揄する」など、飲み会での振る舞いに留まることが多かったのです。今回のアンケート結果は、「そもそも飲み会への参加が当たり前のようなムードもアルハラに当たるのではないか」という次のステップに進んだことを意味しているのかもしれません。

近年、ネットの発達と普及によって、「自分の好きなもの、人、場所を選んで生きていく」というオンデマンド志向の人が増えました。そのオンデマンド志向は、「同僚と、決まった料理を、決められた店で食べる」という飲みニケーションには合致しづらいため、「不要」と答える人が増えたのは当然と感じる人も多いのではないでしょうか。

「勤労感謝の日」アンケートだった

最後に、このアンケート自体に疑問を抱いた最大の理由を挙げましょう。

それはテレビやネットメディアの切り取り方が偏っていたこと。もともとこのアンケートは日本生命の「勤労感謝の日」に関するアンケート調査であり、決して「飲みニケーション」がメインのものではありません。

そのアンケートには、「時間外労働時間は増えましたか?減りましたか?」「仕事・会社で何に対してストレスを感じていますか?」「テレワークが導入されてよかったと思いますか?」「コロナ禍が終わってもテレワークを継続したいですか?」「副業をしていますか?」「勤労感謝の日にプレゼントを贈ったこと・もらったことがありますか?」など19の質問があり、飲みニケーションはごく一部にすぎないのです。

しかし、冒頭に挙げたように、多くのメディアが飲みニケーションだけをピックアップしました。その理由は、「注目を集めて議論が盛り上がりそう」「数字につながりそう」だからでしょう。世間に問いかけて議論につなげることは問題ありませんが、“飲みニケーション”という微妙なフレーズをわざわざ使ったところから、「『必要派』と『不要派』、『酒好き』と『酒嫌い』を分断する形のほうが盛り上がる」というニュアンスを感じてしまうのです。

現在はメディアの種類を問わず、ネット上の書き込みが増えそうなニュースや記事をきっかけに、「意見の合わない人を攻撃し合う」ようなケースが増えました。今回、飲みニケーションをピックアップしたメディアも、自社利益は上がったかもしれませんが、世間を分断するような結果になっていないか、あらためて検証してほしいところです。

知っておくべき企業アンケートの本質

私はかつてコピーライターの仕事をしていたとき、さまざまな企業・団体のアンケート項目を作成した経験があります。

当然ながら、本当にアンケートを取りたい項目をベースにしながらも、大切なのは「メディアにピックアップされそうな質問項目も入れておく」こと。そもそもアンケートの目的は、企業・団体や、その活動・商品などのPRであることが多く、「多くのメディアにピックアップしてもらい、より多くの人々に見てもらわなければならない」という前提があります。

あまりいいフレーズではないのですが、いわゆる“釣り質問”を入れてメディアに食いつかせるのが、企業・団体アンケートの常套手段常。その点、「飲みニケーション」は、現時点で使う人は少なく、どちらかというと「おじさん言葉」「昭和っぽいもの」として揶揄されがちなフレーズです。「職場の飲み会」ではなく、わざわざ「飲みニケーション」というフレーズを使ったところに“釣り質問”の狙いを感じてしまいました。

真偽はわかりませんが、もし「飲みニケーション」が釣り質問だったとしたら、まさに大漁。多くのメディアが釣れ、多くの人々にアンケートの存在や社名が広がったのですから、成功と言えるのかもしれません。ただ、釣られた側のメディアと、一部のみを受け取って議論している私たちは、少し考え直さなければいけないところがある気がするのです。