心理学者も認める効果的な子育てスタイルとは?(写真:takeuchi masato/PIXTA)

誰もが愛してやまないメリー・ポピンズ。 彼女は、その率直で実用的なスタイルで、両極端の子育てをしている家庭に飛び込んでいく。民主的な父親は指示を出し、疑うことなく従うことを期待し、母親は家族をサポートするが、影響力はあまりない。それどころか、母親の優柔不断さは、彼女自身を消極的な(あるいは子どもを甘やかす)親、そして無関心な親にしてしまっている。

一方、メリー・ポピンズ自身は2人の子どもを育てることに成功している。その理由は、彼女が持つ「万能バッグ」に加えて、彼女が子どもに明確な境界線やガイドラインを、愛と喜びと興奮をもって与えたからだ。この行動により、子どもたちは要求されたことをするようになる。そして、専門家はこれを「Authoritative Parenting(民主的な子育て)」と呼んでいる。

子どもへの高い期待と、積極的なサポート     

英語の「Authoritative(権威的)」と聞くと、子どもを厳しく育てるイメージを持つが、実際にはバランスを重視した子育てのスタイルで、アメリカには50年前から存在しており、今再び注目されている子育てトレンドの1つだ。

民主的子育ての特徴は、高いレベルの温かい養育と、しっかりした規律を組み合わせていることで、親は子どもに高い期待を持つ一方で、子どもが成功するためのリソースや精神的サポートをしっかりと与える。問題があった場合は、親か子どもどちらかが主導するのではなく、ともに解決の道を探り、コミュニケーションも一方的ではなく、双方向的に行われる。

この概念は、心理学者のダイアナ・バウムリンドが提唱した「責任感と要求」の原型から生まれた。1960年代にカリフォルニア大学バークレー校の発達心理学者として活躍しましたバウムリンドのモデルは、1980年代にエレノア・E・マッコビーとジョン・A・マーティンによって改良された。

バウムリンドの理論は、特定の育児スタイルが特定の子どもの発達や、子どもの結果につながるというものだ。バウムリンドは、広範囲にわたる観察やインタビュー、分析を通じて、「独裁的」「民主的」「消極的」という3つの育児スタイルを見出した。マッコビーとマーティンは、「消極的」に甘やかしを含めたほか、「無関心」という新たな育児スタイルを加えた。

それでは実際、アメリカの親たちはどんな子育てをしているのだろうか。『A Song for the Road』などの著者であるレイン・ラッコさんは、「私の子育てスタイルには、民主的子育てに合致する部分が多くあるが、それだけではない」と話す。

結婚して10代の男子2人の母親となったラッコさんは、子どもを独立した理性的な存在として尊重しながらも、育てて反応するという民主的子育てのある側面が、自分の本能的な関わり方であることに気づいたという。

子育ての醍醐味の1つは、子どもたちにしっかりした感情的サポートを与え、十分に関わることだとラッコさんは強調する。「私は、子どもたちが親に期待し、頼ることのできる『岩』、つまり心の安全を確保する場所であるべきだと考えています。そうすることで、民主的な子育ての主な利点である、成熟と協力が自然に得られるのです」。

しつけと同意に必要なもの

子育ては「主に直感的な試行錯誤の旅」であるため、自らを採点するのは恥ずかしいというラッコさんだが、自らの子育てスタイルが民主的なアプローチとほぼ一致しているため、子どもたちへのメリットを実感していることは認めている。

例えば、「私の子どもたちは、他人との接し方に気を配っています」とラッコさんは話す。「私たちは、子どもたちが初めて言葉を使ったときから、お互いの話し方について明確なガイドラインを示し、許されないことについてはしっかりと制限しました」。

その結果、子どもたちは、どのような言葉が他人の感情を傷つけるのか、罵り合いや悪口は許されないこと、そして優しさや思いやりを持ってアイデアを表現することで、深い友情と理解が生まれることをわかっている、という。

遊び場で小さな子どもたちが親を怒鳴りつけたり、蔑んだり、親に向かって汚い言葉を使ったりするのを見てきた彼女は、自分の子どもたちが自分たち夫婦に向かってそのようなことをすることはないと強調する。

「罰を与えると脅したからではなく、そういう行動は厳禁だったのです」とラッコさんは話す。「積極的な働きかけと尊敬の念を共有した結果であることは間違いありません。私たちも子どもに悪態をついたり、軽蔑したりすることなど夢にも思っていませんでしたから」。

民主的な親は、共感力を持ち、柔軟に対応するが、子どもが成功するためには、しつけだけではなく、子どもが愛されていると感じられることが重要だ。親は子どもが自分の意見を言えるようにし、自分が認められていると感じるようにしなければならない。

罰や脅しは避け、積極的な働きかけや合理的な要求、そして公正なしつけをすることが求められる。そのためには、子どもの行動に制限と結果を与え、さらに賞賛やご褒美で前向きな行動を促すことが必要だ。

シアトルに住むマーケティング・ディレクターのロレイン・ウルフさんは、民主的な子育てのコンセプトのほとんどに同意するが、「合理的な要求」という考えには抵抗があるという。

「『合理的な要求』という言葉は、私のスタイルには合わない。 私は、要求が本当に尊重につながるものだとは思わないので、『合理的な依頼』をするようにしています」(ウルフさん)

3歳半の娘を持ち、夫とは別居中の母親である彼女は、娘にAかBのどちらかを選択する機会を与え、その選択の結果を経験させるようにしている。「例えば、娘が靴下を履かないことを選択したとして、しかもそれが雨が降っていて寒い日だとしたら、彼女は、次はもっといい選択をするでしょう」。

「ご褒美はその場しのぎの解決策」

ウルフさんは自分のことを、民主的な親ではなく、積極的な親だと表現する。アメリカのキッズフォーキッズ・ペアレンティグによると、「ポジティブ・ペアレンティング」とは、子どもたちが自制心を身につけるために、「何を」だけでなく、「なぜ」を教えることに重きを置いている。

ウルフさんは娘に、何かを始める前に、自分の行動がもたらす結果を伝える。例えば、遊び場にいる時間が30分しかない場合、帰るまでの短い時間しか遊べない、というようなことを。

もし、彼女が癇癪を起こしたら?「彼女が言うことを聞かないので、その場を離れたことがあります」(ウルフさん)。

「お腹が空いた」「疲れた」「喉が渇いた」と言った典型的なシグナルは認識しながらも、彼女は娘が年上の子どもや、子どもに制限を与えない親の影響を受けていると自覚している。こうした状況では、公正なしつけや積極的な働きかけはしない。ご褒美が裏目に出てしまうことがあるからだ。

「ご褒美はその場しのぎの解決策だと思います」と彼女は言う。「実際、子どもの要求はさらに高くなり、自分を落ち着かせるためのご褒美を期待するようになってしまうのです」。

ウルフさんにとって最も効果的だったのは、幼児に特定の行動を教える続けることではなく、「モデル化」だったという。

自分の行動をモデル化して境界線を設定するこのスタイルは、子育ての専門家であり、ポッドキャスト「Unruffled」の配信者でもあるジャネット・ランズベリーが推奨しているものだ。このスタイルでは、子どもを尊重し、子どもの感情や成長を受け入れ、必要に応じて親がしっかりと制限することを重視している。

世界的な動物園でプロの動物トレーナーをしているエマさんは、「子どもは境界線を求めており、寛大さはむしろ不親切」だと主張する。

「私の息子が庭で遊んでいたとき、棒を拾って私の車のそばまで持って行って遊んでいました。私はベランダから息子に『棒で車に触れないで。傷がつくかもしれないよ」と言いましたが、息子はその行動を続けました。 私は彼のそばに行き、ひざまずいて言いました。『棒を置くのが大変そうだから、取ってあげるよ』。一瞬抵抗がありましたが、5秒後くらいに『ママ、棒を片付けてくれてありがとう』と息子は言いました」

エマさんは、息子がしつけに「ありがとう」と言ったことに唖然とした。 エマさんは、自分が優しく主導権を握ることで、彼が不可能な決断をしなくて済むようにしたのだと気づいた。彼が「面目を保つ」ためには、母親が優しく主導権を握る必要があったのだ。

心理学者も太鼓判を押す子育てスタイル

が、つねに民主的な子育てスタイルで子どもに接することは難しい、とウルフさんは認める。「疲れていたり、お腹がすいていたりすると、独裁的な子育て(頭ごなしに子どもに接するスタイル)に戻ってしまう傾向があり、そんな自分が恥ずかしいと思ってしまうんです」。

それは、自分がそうやって育てられたからだとウルフさんは考えている。高い期待と明確なルールがあった一方で、「愛情や温かさはあまりなく、それが大人になってからの私には難しかった」と彼女は話す。

一方、ラッコさんの両親は、明確な期待や温かさがないにもかかわらず、悪い行いには厳しい罰を与えたという。そのせいで、ラッコさんと夫は、両親とは異なる子育ての道を選んだ。

25年以上も前から、民主的な子育ては多くの研究で最もポジティブな結果につながっていると指摘されている。子どもたちにはさまざまな育児方法が必要ですが、一貫した育児スタイルには明確な成果がある。高い期待値を持ちながら、温かく接することは心理学者が推奨する最良の育児スタイルの1つだ。

前述の通り、ラッコさんの場合、この強い子育ての成果はすでに現れている。

「私の子どもたちは素晴らしい人間です。それが『強い子育て』の結果であろうと、ただ単に彼らがそう育ったという奇跡であろうと、彼らが親切で、面白くて、賢くて、思いやりがあって、クリエイティブで、楽しくて、ユーモアがあって、愛すべき存在であることは間違いありません」