自分の能力、説明できる?NYの美術館学芸員に学ぶ「専門性」の言語化

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一般的な企業に勤めていると、「〇〇家」や「〇〇師」など専門的な仕事に憧れることはないでしょうか。

肩書きから専門家と分かる職業はさておいても、実は日本のビジネスパーソンには「自分の専門性が客観的に分からない」という人が多いです。

筆者は人材関連のビジネスをしていることから、これまで多くの人の職務経歴書(以下「職歴書」)を見てきました。大半の人は「〇年〜〇年 △△企業の××課」という経歴は記入できても、この××課という経歴からどのようなスキルを身に付けたかは筆が止まってしまうようです。

日本は欧米に比べて転職率が低いため職歴書の書き方に慣れていないという理由もありますが、「自分はこれができます!」と客観的に把握できないのは、日本独自の職能資格制度にも要因があります。

ちょうどそんなとき、小室眞子さんのニューヨークでの就職先としてメトロポリタン美術館が候補とのニュースを見て、「美術館の学芸員は専門性が求められそうだけど、はたして何をしているのだろう」と疑問に思いました。

そこで、ニューヨークのホイットニー美術館でのヘレナ・ルービンスタイン・フェローを経て、青山学院大学客員教授をされている岩淵潤子氏の記事を読み、発見がありましたのでご紹介します。

高い見識が求められるニューヨークの学芸員

画像:elbud/Shutterstock

まず驚いたのが、本場ニューヨークの学芸員はいわゆる日本の学芸員とは比べ物にならないほどの専門性が求められるという点です。呼ばれ方も「学芸員」ではなく「キュレーター」です。

アメリカの美術館にいるキュレーターは、限られた分野での専門家としての高い見識を求められる学者という位置づけです。その美術館が主力としているコレクションへの深い知見のみならず、美術に関連する複数言語を操るそうです。日本の学芸員ももちろん美術への知見は必要でしょうが、キュレーターはさらにプロフェッショナリティが求められるのです。

前述した日本独自の「職能資格制度」に話を戻しましょう。アメリカを始め欧米企業の等級制度は「職務」が基本で、いわばイスに値段がついているようなものです。イスにはジョブディスクリプションという職務規定が定まっており、誰であってもイスに座った人が担う職務は同じです。つまり、仕事内容が極めて明確になっているのが欧米企業です。

対する日本企業の等級制度は「職能資格」が大半です。イスに値段がつく職務等級ではなく、日本ではイスに座る人の能力によって報酬や仕事内容が変化します。日本では新卒採用があるため、ビジネスマナーもおぼつかないレベルから始まり、少しずつ出来る仕事の幅を増やし、その習熟に応じて定期昇給していきます。つまり、仕事内容よりも本人の能力に力点が置かれている環境といえます。

それゆえ、日本のビジネスパーソンは「自分がどんな仕事を担えるか」を客観的に示すことが苦手になっているのです。

どのように専門性を言語化するか

画像:smolaw/Shutterstock

この手の話をすると、専門性を示すために公的資格取得に走る人も多いですが、岩淵氏の記事にはこの考え方を改めるような示唆が含まれています。

アメリカのキュレーターに学ぶべきは、日本の学芸員のように公的資格がない点です。それにもかかわらず、自ら「私はこの分野でこんな内容が語れます。こんな研究をしています」と宣言することで、日本の学芸員以上の専門性を発揮しているのです。

重要なのは公的な資格取得ではなく、自分の経験の棚卸しと言語化です。「営業職〇年」という単なる履歴ではなく、「どのような販売難易度の商材を」「どのようなクライアントに」「どの程度営業プロセスを工夫して」など、粒度を細かくして表現していくのです。具体的になれば、欧米のジョブディスクリプションに近づき、第三者に客観的に伝わる情報に磨き上がります。

経験の棚卸しは習慣にするのもポイントです。日常的に自分の仕事を客観視する訓練ができていないと、例えば転職を検討した時に初めて職歴書を記入しようとして、頭が真っ白になってしまうのです。

あなたに何ができるかを示す職歴書をまずは作ってみましょう。そして、定期的に見直し・更新作業をする習慣をつけてはいかがでしょうか。そうすれば、小室眞子さんのように見知らぬ風土・文化の環境にいつでも飛び込める準備が整うかもしれません。