トヨタのカローラクロスとマツダのCX-30。ともに日本の道路事情にマッチしたちょうどいいサイズ感が特長のSUVとなる(写真:トヨタ自動車/マツダ)

トヨタの新型「カローラクロス」は「ハリアー以下、ヤリスクロス以上」という、日本の道路事情にマッチしたサイズ感と広い室内などが注目されている。一方、マツダの「CX-30」も「ミドルサイズのCX-5とコンパクトなCX-3の中間」的車格という点では、カローラクロスと同じようなポジションに位置する。


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だが、両車の性格や特徴などには違いも多い。とくにカローラクロスは高い実用性、CX-30は高級感や運転する楽しさといった点に優れ、おのずと購入ユーザーにも違いが出てくる。

ここでは、そんな両車を比較することで、近年熾烈な競争が続くコンパクトSUVの注目モデル2車について、それぞれの魅力や商品性などについて検証してみる。

カローラクロスの基本スペックやグレード構成


アウトドアテイスト溢れるスタイリングが魅力のカローラクロス(写真:トヨタ自動車)

2021年9月14日に発売されたカローラクロスは、2021年で55周年を迎えるトヨタのロングセラー「カローラ」シリーズ初のSUVモデルだ。従来から同シリーズには、4ドアセダンの「カローラ」、ステーションワゴンの「カローラツーリング」、ハッチバックの「カローラスポーツ」などが販売されている。カローラクロスは、これらに続く4番目のボディタイプとして、世界的に好調なSUVスタイルを導入したモデルである。


セダン、ステーションワゴン、ハッチバック、SUVと充実したラインナップを誇るカローラシリーズ(写真:トヨタ自動車)

外観は、ワイド感あるボディラインやトヨタ独特のフェイスデザイン「キーンルック」などの採用で、SUVらしいダイナミックなフォルムを実現。近年人気が高いアウトドアを意識したワイルドさの中に、都会的な雰囲気も盛り込んだスタイルとなっている。

ラインナップには、1.8Lガソリン車と同エンジンにモーターを組み合わせたハイブリッド車を設定する。駆動方式は、ハイブリッド車が2WD(FF)と4WD、ガソリン車は2WDのみ。グレード体系には、ハイブリッド車が2WD・4WDともに3グレード(G、S、Z)、ガソリン車には、それらにエントリーグレード(G“X”)を含めた全4グレードを用意する。トランスミッションは、ハイブリッド車が電気式CVT、ガソリン車が一般的なCVTだ。


都会的で高級感溢れるスタイリングが印象的なマツダCX-30(写真:マツダ)

対するCX-30は、コンパクトハッチバック車「マツダ3」に続く、マツダの新世代ラインナップ第2弾として2019年10月に登場した。マツダ車の共通デザインテーマである「魂動デザイン」を具現化した外観は、スポーティで都会的な雰囲気に、SUVらしさを融合したスタイルが特徴だ。

ラインナップには、2.0Lガソリン車と1.8Lディーゼル車のほかに、マイルドハイブリッドシステムを採用した2.0Lの新世代ガソリンエンジン「e-SKYACTIV X(イー・スカイアクティブ エックス)」搭載車も用意。駆動方式は、全車に2WD(FF)と4WDを設定する。

グレード展開は、ディーゼル車が各3グレード(プロアクティブ、プロアクティブ・ツーリング・セレクション、Lパッケージ)、ガソリン車には4グレード(20S、プロアクティブ、プロアクティブ・ツーリング・セレクション、Lパッケージ)を設定。マイルドハイブリッド車は、2021年10月の一部改良により、安全・先進装備を充実させた新グレードのスマートエディションを追加。従来からある最上級Lパッケージを含む2グレード展開となった。また、全パワートレインに、CX-5でも好評の特別仕様車「ブラックトーン エディション」も投入する。

なお、CX-30は、近年のクルマでは珍しく、ディーゼル車を除くモデルに6速AT(オートマチック・トランスミッション)のほか、6速MT(マニュアル・トランスミッション)も用意する。

2台のボディサイズや実用性を比較する


カローラクロスのリヤビュー(写真:トヨタ自動車)

カローラクロスは、とくに室内や荷室の広さなど、実用性の点でCX-30に勝る。両車の車体サイズは、カローラクロスが全長4490mm×全幅1825m×全高1620mm。対するCX-30は、全長4395mm×全幅1795mm×全高1540mm。全体的にカローラクロスのほうが長くて幅広く、背が高い。

そのため、室内サイズもカローラクロスが長さ1800mm×幅1505mm×高さ1260mmなのに対し、CX-30は長さ1830mm×幅1490mm×高さ1210mm。長さではCX-30のほうがあるが、横幅や高さはカローラクロスのほうが余裕もあり、シートに座ったときの開放感が高く、リラックスしやすい。とくにゆとりのある頭上空間は、どの席に座っても、街乗りからロングドライブまでさまざまなシーンでの快適性を実現する。


CX-30のリヤビュー(写真:マツダ)

荷室の使い勝手や広さについても、アウトドアユースも考慮したカローラクロスに優位性がある。CX-30も5名乗車時で430Lもの荷室容量を持ち、リアゲート開口部下端の高さを地上から731mmに設定することで、大きな荷物や重たい荷物の積み降ろしも楽だ。だが、カローラクロスの荷室は、5名乗車時で487Lというさらに大容量を確保。リアゲート開口部下端の高さも720mmとさらに低く、荷物積み卸し時にかかる体の負担はより軽い。


カローラクロスの荷室空間(写真:トヨタ自動車)

後席は、両車ともに6:4分割式で、どちらか一方の背もたれを倒せば、後席に人を乗せたままでも長尺物の積載が可能。左右の背もたれをすべて倒せば、より広い荷室スペースを実現する。ただし、この状態でも、カローラクロスの荷室のほうが広く、ロードバイクの搭載すら可能だ。両車ともに、欠点は背もたれの厚み分が段差となるため、荷室を完全にフラットにはできないことだ。そのため、近年人気が高まっているアウトドアなどでの車中泊にはどちらも対応できない。


ラゲージアクティブボックスを装着時の荷室(写真:トヨタ自動車)

だが、カローラクロスは、その「弱点」を補うオプションを設定する。2021年12月に発売が予定されている「ラゲージアクティブボックス」がそれだ。背もたれを倒した際に荷室を完全にフラットにできるため、大人でもゆったりと横になれる空間を作ることができる。また、収納スペースをデッキボードで上段と下段に仕切ることが可能なため、例えば、外遊びで濡れた荷物とそれ以外を上下に分けて収納することも可能。税込み価格も2万8050円と比較的リーズナブルだ。後発モデルということもあり、より近年のニーズにマッチさせているという点でも、カローラクロスは一枚上手だ。

ハイブリッドの燃費性能はカローラクロスが優勢


カローラクロスのハイブリッドシステム・イメージ図(写真:トヨタ自動車)

カローラクロスは、トヨタの某販売店によれば、受注の約7割がハイブリッド車だ。人気が高い理由のひとつは、高い燃費性能だろう。WLTCモード総合で、2WDが26.2km/L、電気式4WD(E-Four)で24.2km/Lを発揮する。対するCX-30は、マイルドハイブリッドを採用するe-SKYACTIV X車が、2WDで‪17.4〜18.5km/L、4WDは16.6〜17.8‬km/Lだ。

カローラクロスのハイブリッド車は、シリーズ・パラレルという方式を採用する。発進時や低速走行時などはエンジンを停止し電気モーターのみで走行、車速が上がり通常走行する際は主にエンジンを使用する。また、急加速時などアクセルを強く踏み込んだときや高速道路などを走行する際は、モーターの動力が必要に応じてエンジンをアシストするシステムだ。

対して、CX-30のマイルドハイブリッドシステム「Mハイブリッド」は、発進時や加速時などにエンジンの駆動をモーターがアシストすることで、燃費向上を狙ったシステムだ。基本的には、常にエンジンの駆動で走行する。カローラクロスのハイブリッド車は、モーターのみで走るEV走行の領域があることもあり、全体的に燃費性能がいいのだ。


CX-30搭載の次世代ガソリンエンジン「SKYACTIV-X 2.0」(写真:マツダ)

ただし、ガソリン車では、2WDのみのカローラクロスがWLTCモード総合14.4km/Lで、‪15.4〜16.2km/Lを発揮する‬CX-30の2WDが勝る。とくに6速MT車は、発進時などに適度なアクセルワークさえ心掛ければ、燃費はかなりよくなる。ちなみに、CX-30のディーゼル車はさらによく、WLTCモード総合で18.7〜19.4km/L。カローラクロスのハイブリッド車ほどではないが、かなりの好燃費だ。ディーゼル用の軽油は、昔ほどの価格差ではないが、ガソリンと比べれば給油代は比較的安い。日頃、自動車での移動が多いユーザーであれば、燃料代の面では特にお財布に優しいといえるだろう。

ユーティリティ性能の違い

カローラクロスのハイブリッド車は、装備面でも優れた面が多い。まず、スマートキーを携帯していれば、リヤバンパーの下に足を出し入れするだけで、手を使わなくもテールゲートの開閉ができる「ハンズフリーパワーバックドア」を装備する。CX-30にも同様の装備「パワーリフトゲート」を採用するが、こちらはスマートキーなどのスイッチ操作が必要。荷物を両手に抱えているときでも、すぐにテールゲートを自動で開けられるという利便性でもカローラクロスは優れている。ただし、CX-30が20S(ガソリン車のエントリーグレード)を除く全車に標準装備するのに対し(ハイブリッド車のスマートエディションはオプション)、カローラクロスは最上級グレードのZには標準装備だが、中級グレードのSはオプションとなり、エントリーグレードのGやG“X”(ガソリン車)には設定がない。CX-30のほうが、より幅広いグレードに対応しているといえる。


ヤリスクロスの非常時給電システム付のアクセサリーコンセント(AC100V・1500W)(写真:トヨタ自動車)

また、カローラクロスには、「アクセサリーコンセント(AC100V・1500W)」と「非常時給電モード」をハイブリッド全車にオプション設定する。車両駐車時に「非常時給電モード」にすれば、車載バッテリーを電気ポットやドライヤーといった家電製品の電源として使えるシステムだ。停電などの非常時に使えるほか、キャンプなどのアウトドアでも役立つ。CX-30にはこういった装備はなく、大容量バッテリーを搭載するハイブリッド車ならではの強みだといえるだろう。


CX-30のインテリア(写真:マツダ)

以上のように、カローラクロスの実用性はかなり高い。だが、CX-30には別の魅力がある。それは、いわゆる「クルマ好き」や運転することを楽しみたいユーザーに向けたスペシャリティカー的要素だ。

例えば内装。CX-30は、ブラックやダークブラウンなどを基調とした室内カラーを採用するなどで、ひとクラス上のモデルと感じさせるほどの高級感を演出する。シート素材には、上級グレードにスムースレザー、それ以外のグレードには環境に優しい素材として注目されているクロスを使用する。また、スポーティでホールド感が高い形状の運転席のシートには、ドライビングポジションメモリー機能付きの「10ウェイ・パワーシート」を採用し、ドライバーの着座位置を体格や好みに合わせて細かく設定できる。さらに、ハイブリッド車のLパッケージには、ルーフにガラスを配した「電動スライドガラスサンルーフ」をオプション設定し、上質な室内空間に開放的な雰囲気も醸し出している。


カローラクロスのインテリア(写真:トヨタ自動車)

カローラクロスのシートは、上級グレードのZには本革+ファブリック、ほかのグレードはファブリックを採用する。とくに上級グレードでは、トップクラスの質感を誇るが、高級感がより高いという点では、CX-30の上級グレードであるLパッケージのほうが上だろう。マツダの某販売店によれば、ピュアホワイトのスムースレザーを採用したシートは、まるで高級スポーツカーのような雰囲気があり人気が高いという。

ただし、前席のシート形状では、カローラクロスもスポーティな形状のシートをG“X”グレードを除く全車に標準装備する。スリムな背面部と高いホールド性を両立したこのシートは、ロングドライブなどでの疲労度を軽減する。また、Zグレードには、「8ウェイ・パワーシート」も採用し、CX-30と同様、運転者の体格や好みに合わせた設定が可能だ。

ガラスルーフにも2台の個性が現れる


カローラクロスのパノラマルーフ(写真:トヨタ自動車)

さらにカローラクロスにも、Z・Sグレードに天井をガラス張りにした「パノラマルーフ」を設定する。運転席から後席まで伸びる大型のガラスを使うことで、前席の上方のみガラスにしたCX-30よりも開放感では上だ。ただし、CX-30はチルトアップ機構付きで開閉が可能だが、カローラクロスでは開閉はできない。CX-30は、頭上からも新鮮な空気を取り入れることで、よりオープンカー的な感覚を堪能できる。


CX-30は、オートマのほか、マニュアルシフトも設定される(写真:マツダ)

運転好きのユーザーにとって、CX-30が持つ大きな魅力のひとつは、6速MT車を設定していることだろう。前述のとおり、近年のクルマは、ATまたはCVT、つまりオートマチック車が主流だが、CX-30ではあえてマニュアル車も用意する。アクセル、ブレーキ、クラッチといった3ペダルに6速のギアを自在に駆使し、クルマを自らが操る感覚を味わいたいユーザーは、少数派であっても一定数は存在する。

エンジンのパワーでも、最高出力はCX-30のマイルドハイブリッド車で190ps、ガソリン車で156ps、ディーゼル車が130psだ。カローラクロスは、ハイブリッド車のシステム出力が122ps(エンジン最高出力98ps)、ガソリン車では最高出力140psだ。全体的にCX-30のほうがパワーに余裕があり、加速感などは上だろう。


クリーンディーゼル仕様の「SKYACTIV-D 1.8エンジン」(写真:マツダ)

とくにCX-30は、マイルドハイブリッドを採用した「e-SKYACTIV X」搭載車の走りが楽しい。e-SKYACTIV Xは、独自の燃焼制御技術「SPCCI(Spark Controlled Compression Ignition:火花点火制御圧縮着火)」を採用した、マツダの新世代ガソリンエンジンだ。ディーゼル車のような力強いトルクと、ガソリン車特有の高回転までスムーズにまわる爽快感を両立し、マツダが標榜する「ドライブする楽しさ」を追求している。ちなみに、CX-30では、6速AT車にもステアリング奧にパドルシフトを用意し、クラッチ操作こそないが、任意のシフトチェンジを可能にしている。AT仕様とMT仕様の両方で、あくまで人(ドライバー)の操作を主体にした設定になっていることも、多くの運転好きにとってこのモデルが持つ大きな魅力だといえるだろう。

また、マツダは、2021年10月28日にCX-30のハイブリッド車の一部改良モデルを発売。高回転まで爽快に加速する感覚を高めるために、加速時のエンジンサウンドを強調させるなどの変更を施し、よりドライバーの意のままに操る自在感と爽快感を向上させている。

気になる車両価格を比較

カローラクロスの価格(税込)は、ハイブリッド車が259万円〜319万9000円、ガソリン車が199万9000円〜264万円。対してCX-30は、マイルドハイブリッド車が288万7500円〜371万3600円、ガソリン車が239万2500円〜303万500円 、ディーゼル車は288万7500円〜330万5500円だ。

全体的にカローラクロスのほうが価格は安い。その高い実用性などを考えると、かなりリーズナブルなモデルだといえるだろう。ただし、CX-30は、前述のとおり、室内などの高級感やスポーティな外観、ドライビングが好きなユーザーをより楽しませる装備などではカローラクロスに勝る。


CX-30の走行イメージ(写真:マツダ)

CX-30の新車販売台数は、日本自動車販売協会連合会のデータによると、2021年度の上半期(1〜6月)で1万1661台(前年同期比73.2%)、全登録車中30位とやや生彩を欠く。要因は、マツダの某販売店によれば、SUVラインナップの代名詞ともいえるCX-5の人気が再燃してきたことだという。実際に2020年(1〜12月)の新車販売台数では、CX-5が2万4222台(前年同期比76.8%)で全登録車中30位だったのに対し、CX-30は2万7006台(前年同期比297.8%)で27位となり、同年のマツダSUV中で最も売れたモデルだった。ところが、前述の2021年度の上半期(1〜6月)における新車販売台数では、CX-5が1万2460台(前年同期比98.5%)で27位と、CX-30を上回り、マツダSUV中のトップに返り咲いた。


マツダの主力SUVとなっているCX-5(写真:マツダ)

ただし、CX-5とCX-30は、いずれも前年同期比でマイナスだ。とくにCX-30は2021年に入って販売台数の落ち込みが著しい。CX-30が属するコンパクトSUV市場は、例えばトヨタがヤリスクロスや今回紹介するカローラクロス、ホンダがヴェゼルを発売するなど、続々と他メーカーも新型を投入することで競争はより激化している。CX-5についても、ライバルのハリアーが2020年6月に新型となってから売上が好調。2021年上半期(1〜6月)の新車販売台数4万8271台でランキング5位に入るなど、かなり水をあけられた状態だ。マツダは、ラインナップの中核となるSUV、とくに主力モデルがいずれも苦戦しているのだ。

マツダが2020年以降の計画を発表、SUVで逆転を狙う

2021年10月、マツダは2022年以降のSUV商品群について拡充計画を発表した。主な内容は、グローバル市場へSUVの新規モデルを追加投入することで、さらなるラインナップの充実を図るというものだ。CX-30と同サイズの「CX-50」をはじめ、より大型の4モデル「CX-60」「CX-70」「CX-80」「CX-90」を北米や欧州などに投入。国内にも2列シートのCX-60や3列シートのCX-80を販売予定だという。

とくにクリーンディーゼルエンジンの人気が根強い日本市場では、直列6気筒の「SKYACTIV-D」に48Vマイルドハイブリッドを組み合わせた仕様や、プラグインハイブリッド車などを導入していくことで、電動化も進めるという。ちなみに、中核となるCX-5については継続的に販売を予定。商品改良によりデザイン進化やモデルラインナップの拡充を図る予定だ。

マツダのこうした新規施策が、激戦のSUV市場における覇権争いにどう関わってくるのかが注目される。また、カローラクロスの追加により、ランドクルーザーといった大型モデルからヤリスクロスやライズなどのコンパクトモデルまで、より充実度が増したトヨタのラインナップに対し、マツダSUVがどう挑んでいくのかも気になるところだ。