緊急事態宣言発令などにより、店舗は打撃を受けた大阪王将。黒字決算を支える存在とは(記者撮影)

「引き続き食品事業の販売が好調で、外食のマイナスを補ったかたちだ」

中華料理チェーン「大阪王将」などを展開するイートアンドホールディングス(HD)は10月12日、2022年2月期の中間決算を発表した。その説明会で仲田浩康社長COO(最高執行責任者)は、自社の決算についてこう分析した。

繰り返し発令された緊急事態宣言により、外食企業にとっては2021年も苦しい経営環境が続いた。時間短縮営業に伴う協力金が入り、最終損益が黒字に転じた企業はあるものの、本業の稼ぎを示す営業損益から黒字を出せている企業はそう多くない。

実は冷凍食品で稼ぐ外食企業

こうした中でイートアンドHDは、中間決算(3〜8月期)において売上高147億円、営業利益3.7億円を計上。3月期決算から決算期変更のあった前2021年2月期の中間決算(4〜9月期)は売上高135億円、営業利益3900万円であったため、大きく回復した。コロナ禍以前の中間決算ではおおむね4億〜5億円の営業利益を計上していたため、大健闘といえる。

その要因は稼ぎ頭である「食品事業」の好調にほかならない。


実は30年近く前から冷凍ギョーザを販売していたイートアンドHD。コロナ禍でヒット商品も生まれた(記者撮影)

イートアンドHDは看板ブランドである大阪王将の知名度から、一般には外食企業としてのイメージが強いかもしれない。だが、「大阪王将 羽根つき餃子」や「大阪王将 ぷるもち水餃子」といった冷凍ギョーザなどを販売する、メーカーの側面も大きい企業だ。

祖業の外食以外でも自社のギョーザを提供できるのではないかという発想のもと、1993年に生協の「コープこうべ」で冷凍ギョーザの販売を開始した。外食企業としてはかなり早い段階で冷凍食品市場へ参入し、順調に販売エリアや販路を拡大してきた。

外食ブランド「大阪王将」の2次活用ができただけでなく、冷凍食品をきっかけに大阪王将の認知度があがるという相乗効果を生んだ。外食と食品の二毛作が、同社の成長の原動力となってきた。

コロナ禍ではこの戦略が見事に奏功した。

従来、外食事業と食品事業の売上高はほぼ同じぐらいだったが、コロナ禍で食品事業が全体の6割を占めるようになった。利益面でも食品事業は2021年3〜8月期で5.8億円の営業利益を計上し、0.5億円の赤字となった外食事業の苦戦を吸収した。

食品事業の躍進を支えているのが、果敢な投資戦略と新メニューのヒットだ。

イートアンドHDは、関西、関東第一、関東第二の計3カ所に冷凍食品の製造工場を持つ。いちばん新しい関東第二工場は2019年11月に竣工したが、2020年12月には4.6億円を投じて羽根つき餃子の製造ラインを増強した。

商品施策でも、ニンニクをふんだんに使用した「大阪王将 羽根つきスタミナ肉餃子」を2021年2月末に投入。月間販売数は50万パック超えで推移し、2021年9月にはテレビCMも打ったこともあり単月で約100万パックほどの売り上げがあったという。羽根つき餃子とぷるもち水餃子の二枚看板に次ぐ、第3の柱となりつつある。

シェアトップの味の素を猛追

「シェアだけを意識しているわけではないが、われわれはやはり1番手(味の素)を追う立場。とはいえ、追い越すなんて多分一生できるはずもないのだが……」


決算説明会で仲田社長は「冷凍食品はまだまだ伸びる」と今後の見通しを語った(記者撮影)

仲田社長は4月中旬に開かれた前期の決算説明会の場で、業界の「絶対王者」である味の素とのシェアの差を念頭にそう自嘲していた。だが、味の素の背中も徐々に見えてきている。

イートアンドHDの決算説明資料によれば、2020年4月〜2021年2月の冷凍ギョーザ(焼きギョーザ・水ギョーザ)市場で同社のシェアは32.5%と2位(数値は市場調査会社のインテージ)。味の素とみられるシェア1位の「A社」は46.3%で、13.8ポイントの差がついていた。

しかし直近の2021年6〜8月では、A社が44.1%、イートアンドHDが34.5%だった。両社の差は9.6ポイントに縮まっている。

供給体制をさらに盤石なものとするため、積極投資の姿勢は緩めない。2022年10月には、新たに関東第三工場が稼働を開始する予定だ。同工場の生産能力は毎月約595トン。種々の商品を製造しているため一概には言えないが、主力の「大阪王将 羽根つき餃子」(タレをのぞき1パック280g)で換算すると、およそ212万パックにも及ぶ。

既存の関西工場では、ほぼ無人の状態でギョーザを作ることができる製造ラインを今年度中に導入し、手応え次第で全工場への拡大も検討する。人手不足や異物混入リスクなどの課題解決にもつなげる方針だ。

苦戦が続く外食事業でも手は打っている。大阪王将では、コロナ後も人が戻らないと見た繁華街エリアの閉店を急いだ一方、住宅街などへの積極出店を継続した。

中国の家電量販大手「蘇寧易購」傘下のラオックスと手を組み、中国の再進出ももくろむ。同社と共同で現地に子会社を設立し、ラオックスには出店立地の確保などで力を借りる。2021年10月に上海で1号店をオープンしており、数店ほど中国で出店して様子を見た後、拡大も視野に入れる。

積極投資の裏にはらむリスク

矢継ぎ早に次の一手を打ち出すイートアンドHD。ただ、果敢な投資には当然リスクもはらむ。

前期には財務体質の強化などのため大阪オフィスを12億円で売却したが、それでも2021年8月末時点での現預金はわずか17億円。キャッシュなどが月商の何倍あるかを示す「手元流動性比率」で見ても、上場する外食企業では下から数えたほうが早い。

イートアンドHDは、「効率的な資金管理ができており、売掛金の未回収リスクも少ない。積極投資についても、工場稼働後の売り上げ貢献は十分可能であり投資効果に見合う」と強調する。しかし裏を返せば、想定した売り上げ成長ができなかった時は危うい。

関東第三工場の設立に投じる約24億円の資金は、当然ながら融資で補填する必要がある。こうした借り入れの返済以外にも、新工場の償却費は重しとなり財務体質を痛める可能性は十分ある。

活況な冷凍食品市場について「スーパーなども改装のたびに冷凍食品のブースを広げており、まだまだ伸びる」と仲田社長は見通すが、巣ごもり需要の恩恵が今後減っていくことも考えられる。それまでに外食事業を立て直せていなければ、強みである「二毛作戦略」にほころびも生じうる。

外食企業を見回せば、冷凍食品などの外販を強化する動きが活発化してきた。先駆者であるイートアンドHDの二毛作戦略はコロナ後も通用するのか。業界全体を占う試金石ともいえよう。