緊急事態宣言が終わり、徐々に入園者数を戻していく計画。だが、以前のにぎわいを取り戻すには、時間がかかりそうだ(記者撮影)

昨年のような長期休園はない。それでも実力値からは程遠く、厳しい決算だった。

国内テーマパーク最大手のオリエンタルランド。2021年4〜9月期の売上高は前年同期比65%増の975億円、営業損益は193億円の赤字(前年同期は241億円の赤字)だった。片山雄一取締役は「予想外にコロナ影響が大きかった。各種の入園制限で赤字やむなしという結果になってしまった」と振り返る。

パーク入園者数は390万人。前年同期の269万人から増加したが、前期の4〜6月は臨時休園期間に当たる。営業していた7〜9月期で比較すると30%超の減少。緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が影響した結果だ。

通期予想も2期連続の赤字

ゲスト1人当たり売上高は1752円増の1万4877円。チケット収入は3月に高価格帯チケットを導入したことなどで増加した。また、キャラクター「ダッフィー」関連商品や東京ディズニーシー20周年関連商品が貢献し、グッズ販売収入も増加。新メニュー投入などで飲食販売収入も伸ばした。

今回は決算発表と同時に通期業績予想を発表した。売上高は前期比40%増の2390億円、営業損益は242億円の赤字(前期は459億円の赤字)とした。赤字は2期連続となる。

昨年の10〜12月期はGo Toトラベル効果もあり黒字となった。一方、今下期は「保守的な前提」(片山取締役)としつつ、慎重に入園制限を緩和するため、赤字計画とした。

下期計画の前提は以下のようなものだ。入園者数は前年同期比172万人増の660万人。11月までは各パークでの上限を1万人とし、12月から状況を見て引き上げる。業界団体のガイドラインはソーシャルディスタンスについて「1メートル以上確保することが望ましい」としており、これがネックだ。

アトラクションの待機列やショップはどうしても密になりやすいため、慎重な引き上げとなる。ファンにとっては厳しいチケット争奪戦が当面続くことになりそうだ。

イベントも徐々に平常化させる。名物である夜のパレードを11月から再開した。ディズニーホテルに泊まるゲスト向けに午前8時からシーに入園できる「アーリーエントリーチケット」も販売を再開する。

そのほか、コスト削減を継続しつつも、入園者数の増加に合わせて「ゲストの満足や売り上げ増加につながる費用は投下していく」(吉田謙次社長)考えだ。

今後も値上げは続く?

重点施策のデジタル戦略も一段と進む。現在、フードは各施設に並んで注文するが、スマホで注文できる「モバイルオーダー」を実験済みで、相応の効果が得られたため本格導入する。待ち時間の解消に加え、人員配置も効率化できるという。同時に全体的な業務システムの効率化も進める。

厳しい決算は予想されたとおりだが、サプライズもあった。電話説明会における吉田社長のコメントだ。

「持続的な成長を実現するために、入園者数と単価のバランスについて検討を進めている。(中略)入園者数に比重を置いた収益構造から転換する可能性も含め、議論をしている」。これは一段と高付加価値路線に舵を切る宣言とも受け取れる。

オリエンタルランドは幾度も1デーパスポートを値上げし、「強気の値上げ」と指摘されてきた。10月にも価格帯の幅を広げ、最大9400円と700円の値上げを実施したばかりだ。

値上げだけでなく、設備投資も進めてきた。22年4月には『トイ・ストーリー』がテーマの新ホテルを開業。シーでは23年開業を目指し、追加投資として過去最高額の2500億円を投じる新エリア「ファンタジースプリングス」が建設中だ。

国内で比較対象となるユニバーサル・スタジオ・ジャパンも毎年のように値上げを実施してきた。同施設も3月には任天堂と組んだ新エリアを開業。10月にはポケモンと戦略的アライアンスを結び、複数のプロジェクトが進行中であると発表している。このように、値上げの背景にはつねにキャパシティーと満足度を引き上げるための投資があった。

課題は日帰りリピーターとのバランス

ただし、値上げの余地はなお大きい。例えば米カリフォルニアのディズニーリゾートは1日最大159ドル(1パークの券、10歳以上)。日本円で1万8000円を超え、日本のディズニーの倍近い水準にある。

吉田社長は「パーク内だけでなく、ホテルも含めたリゾート全体で単価向上を考えることが大切」とも述べている。より長い期間の滞在を楽しむ客を中心とした、高付加価値型リゾートを目指すのかもしれない。

しかしながら、毎日のように訪れる熱心なリピーターが多く存在するのが日本のディズニーリゾートの強みでもある。バランスの取り方は重要な課題になる。

東京ディズニーランドが誕生して38年間。開発に投資し、入園者数を増やす。そのうえで料金を値上げし、さらに開発する、というサイクルは変わっていない。

今後は入園者数など規模を追わない経営にシフトするのだろうか。「さまざまな次の手を仕掛ける準備は整いつつある。守り一辺倒でなく、攻めの意識が浸透した」(吉田社長)。オリエンタルランドは今、重大な転換期を迎えているのかもしれない。