やす子 撮影/武田敏将

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「はい! 世の中に〜馴染みたい〜愛されたい!」。芸歴わずか2年、今年元旦の『おもしろ荘』出演で一夜にして世に認知されたピン芸人・やす子。その異色の経歴、そして「SMA芸人」の絆……彼女が裸一貫で飛び込んだ「お笑い界」に感じた魅力を尋ねてみた。(前後編の前編)

【写真】これがプロのほふく前進、自衛隊芸人としてブレイク中のやす子

ーーやす子さんは「元自衛隊芸人」としてブレイクされましたが、当時はどんな仕事をなさっていたんですか?



やす子 ブルドーザーに乗って、演習場の道路を作ったりする、交通小隊という部隊にいました。災害派遣に行った場合はガレキ除去をしたり、物資を運んだりする部隊で。

ーー自分で希望してですか?



やす子 入隊時に適性検査やテストがあって、それで振り分けられる感じです、はい〜。

ーー普段はどんな業務を?



やす子 自衛隊員は月に1度くらい、1週間かける訓練がありまして、普段はその訓練に向けての準備が主になるんです。朝は6時にラッパ点呼というのがあって、みんなで廊下に並びます。それから清掃後に7時までに朝ごはんを食べて、いろいろ雑務をして、自衛隊体操があって、その後は10キロ走って……そういうのが日課で、日中はブルドーザーの整備をしたり、いろいろと。

ーーすごくハードですね! 芸人を志したのは、そういう毎日が嫌になったとか?



やす子 いえ、訓練はしんどいですけど、むしろ部隊にも慣れて、活躍できる役割もいただいたりできて、逆に順調だったと思います。それに自分は、今でも「即応予備自衛官」といって、大きな災害などがあれば召集されて自衛隊員としての業務をする立場でもありますし。

ーーだとするとなおさら、芸人になった理由が気になります。



やす子 自衛隊の仕事は2年が任期で、自分としては少なくても4年くらい自衛隊にいようと思っていたんですけど、1度目の任期が終わる半年前くらいにフッと降りてきたといいますか。

ーー急にビビッときた、と。



やす子 そうなんです。自衛隊は演習場や駐屯地の中に教習所があって運転免許が取れるところがあるんですけど、その帰りに、たまたま上官が前を歩いているのを見つけて、そこで「あ、辞めよう」って伝えに行こうと思った感じです。

ーー引き留められたりは?



やす子 全員から引き留められましたね。「辞めるなら家と就職先を決めて、これからの生活費の計算もしなさい」ということでそれを提出しました。

ーーそれで心機一転、上京して働き始めたそうですね。



やす子 自衛隊を経験して、「集団生活はもういいかな」と思ったので、1人でコツコツやる仕事をしようと思って、トイレ清掃の仕事をしていました。それで、上京前からSNSを通じて友達になった、関東に住んでいる女の子と遊んだりするようになったんですが、その子から「芸人になろうよ」と誘われまして。

ーーそれがきっかけなんですね。



やす子 ただ、自分はあんまりテレビを見ないで、本ばっかり読んできた人間で。当時は芸人さんといってもダウンタウンさんと爆笑問題さんくらいしか知らない、というレベルでした。

ーーそれは浮世ばなれすぎるというか……(笑)。



やす子 だから冗談として受け止めていたというか。本気ではなかったし、なれるわけないって思ってました。もちろん仕事を続けたまま、「ネタが書けない」って言われたんで自分がネタを書いて……。しばらくして、お笑いの事務所に応募してみよう、ということになりまして。いくつか応募したところ、私が今いるソニー・ミュージックアーティスツだけその日に返信があったんです。で、「3日後に面接します」と。

ーー「SMA芸人」の方たちはよく自虐的に「来るもの拒まず」とか「芸人の墓場」とか自虐的に言われていますけど、その通りの反応ですね。



やす子 でもその友達と急に連絡が取れなくなって、面接にも来なかったんです(笑)。なので1人で面接に行ったらその日に所属になって、もう逃げられませんでした、はい〜(笑)。

ーー話が早すぎる!



やす子 他の事務所じゃあり得ない仕組みです。どこか傷を負った芸人ばかりが最後に流れ着く、というのは本当で。入ってみたら自分がダントツで若いんですよ。

ーー何で元々芸人になりたかったわけじゃないのに、すぐ辞めなかったんですか?



やす子 面接を受けた週末に、ライブに出ることになりまして。そこで2位を獲ったんです。それがうれしかったのが大きいですね。でも実際は、芸人になってすぐにコロナ禍になって、お笑いの面白さに気付いて頑張っていこうとは思っていたものの、そんなにすぐ仕事もないので、2年ぐらいやったら辞めようかな、と思っていました。そうしたら、今年の元旦の『新春おもしろ荘』(日本テレビ)のオーディションに受かることができたんです。(後編につづく)

【後編はこちら】自衛隊芸人・やす子が語る“おもしろ”への野望「いつかは迷彩服に頼らないようになりたい」