就活生が魅力を感じる採用ホームページにはどんな特徴があるのだろうか(写真:メディナス/PIXTA)

コロナ禍によって新卒採用に大きな変化が生じている。2020年卒採用まで企業は学生と会うことを目的とし、学生も企業と接触したいと願った。ところが、2021年卒採用でオンライン化が始まり、そして2022年卒でインターンシップ、会社説明会、面接に至るまで常態化した。そして、採用ホームページの重要性が高まった。

そこで今回は、学生が好感する採用ホームページを取り上げ、どのような工夫が学生の興味を惹起しているのかを調べてみたい。

採用の命運握るホームページ

今回紹介する調査は、HR総研が「楽天みん就」と共同で実施した「2022年卒学生の就職活動動向調査(2021年3月、6月)」。6月調査の「閲覧した採用ホームページの社数」を見ると、文系全体では「10社」以上を閲覧した割合は81%を占める。大学クラスが高いほど閲覧社数が多い傾向が見られ、早慶クラスで「10社」以上を閲覧した学生は90%にも達している。


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理系は文系よりも閲覧社数は少なく、「10社」以上を閲覧した割合は65%となっている。ただ大学クラスが高いほど閲覧社数が多くなるのは文系と同じ。旧帝大クラスと早慶クラスでは「10社」以上がともに76%である。

上位校の学生へのアプローチには、魅力ある採用ホームページが必要である。その魅力を学生コメントから検証してみたい。

この数年に新卒人気が突出してきた企業の1つに楽天グループがある。以前から「楽天」というブランドの知名度は高かったが、就職先としての人気は今ひとつだった。しかし、この数年に楽天の就職人気度は急上昇してきた。たぶん携帯電話事業への参入が影響している。「楽天モバイル」事業は2017年12月に発表され、2020年4月にスタートしている。学生は携帯電話のヘビーユーザーであり、料金プランに敏感である。

今回の調査で楽天グループの票数は文系81、理系14、合計計95票。2位のカゴメ(71票)、3位のソニーミュージックグループ(52票)に大きな差をつけている。とくに文系の支持が多く、旧帝大クラスと早慶クラスが目立つ。今回の調査は、1人1社にしか投票できず、その学生にとっての「最も印象がよい採用ホームページ」であり、1票の持つ意味は大きい。

1位の楽天グループの採用ホームページの特徴は、ユーザーインターフェイス(UI)がすぐれていること。無駄がなくてわかりやすくスピーディー。こういうホームページは頭がよさそうに見える。

「内容がスッキリしてわかりやすかった。IR情報のリンクがあり、必要な情報を集めやすかった」(文系・旧帝大クラス)

「純粋にかっこいいと思えるということと、UIが今っぽいということ」(文系・早慶大クラス)

採用ホームページに説得力を与えるのは社員の言葉だ。社員が明るく自信を持っていれば、学生もそんな職場に憧れる。

「従業員の紹介ページが多く、キャリアのイメージがしやすかった」(文系・上位私立大)

カゴメは社員メッセージに好感

高い好感度の採用ホームページに共通するのは社員メッセージだ。今回の学生コメントでとくに社員メッセージへの言及が多かったのが、2位のカゴメだ。社員の人柄、思い、やりがい、そして会社の雰囲気に共感する学生がとても多い。

「多くの社員の方のコメントを載せることで、働いている方一人ひとりの思いや、やりがいが伝わってきた」(理系・中堅私立大)

「明るいページ作り。インタビューが見やすく、内容も素敵だった」(文系・早慶大クラス)

学生は「見やすい」「素敵」と素直な感想を述べているが、そういうホームページを作るために人事は工夫を凝らしたはずだ。なぜならたくさんの社員が登場すると、言葉が似通ってきて退屈、ウソっぽくなりがちだからだ。カゴメの担当者はマンネリにならない言葉を練るために苦労したはずだ。


3位のソニーミュージックグループに対する評価は、「すごくポップで、エンタメ企業らしいなと思った」(理系・中堅私立大)に尽きる。「いろいろなページがあり、にぎやかで楽しかった」(理系・中堅私立大)、「アニメーション付きでわかりやすく、働きたいと思った」(文系・その他国公立大)。にぎやか、楽しさ、若々しさが学生の共感を呼んでいる。

イラストを使った楽しいデザインだけではない。学生に強い印象を残しているのは、「職種診断」だ。かなり多くのコメントがある。たぶんゲーム感覚で参加でき、診断結果から就活の気付きが得られることが評価されている。

「自分に合った職種を診断してくれる機能があった」(文系・その他国公立大)

「先輩インタビューや職種診断など、多角的視点で企業のことを知れるようなトピックがたくさんあった」(文系・その他国公立大)

信頼度が高い味の素

学生の企業評価軸の1つに「ブラック」がある。この5〜6年でのメディア報道が多く、ほとんどの学生が気にしている。反対語は「ホワイト」だ。今回のコメントで2人の学生が、4位の味の素への評価で使っている。

「休日や給与、月残業時間がとてもホワイトで、地元に工場もあるため」(文系・その他私立大)

「ホワイトそう」(理系・中堅私立大)

いまは調味料として味の素を食卓で使うことは少なくなったが、その代わりわり同社の冷凍食品を常備している家庭は多いだろう。「味の素」は国民ブランドであり、好感度が高いのだと思う。ホームページのわかりやすさも評価されている。

「学生に求めているポイントが明確」(文系・その他私立大)

「見やすい、デザインが素敵」(理系・早慶大クラス)

クイズ形式を使うページは好感度が高く、味の素でも使われている。

「クイズ形式で社員の言葉を開いていくページがあった」(文系・上位私立大)

Appleの創業者スティーブ・ジョブズはiPhoneという革命的な製品を生み出した伝説の人物だ。伝説と書く理由は、10年前の2011年にすでに亡くなっているので、いまの大学生には同時代感覚がないと思うからだ。そのジョブズが評価していた日本企業が、5位のソニーである。

学生も大いにソニーを評価している。評価の理由は2つある。1つは「シンプルでわかりやすかった」(理系・上位国公立大)。「非常に明確でわかりやすかったし、洗練されていた」(文系・上位私立大)とスマートさを評価する声もある。

シンプルという評価がある一方で、情報は多く詳しい。2つめは、学生の欲する情報を網羅しているホームページなのだ。それでいて、シンプル。デザイン力とはそういうものなのだろう。

「インターン、職種、各種制度、労働条件に関するすべての情報が明記されていた」(理系・旧帝大クラス)

「たくさんの子会社や部門があるが、それを1つのサイトで一括管理していてわかりやすかった」(理系・上位国公立大)

学生が評価するポイントは「デザイン力」。わかりやすい、見やすいという言葉はデザイン力を指している。もう1つの評価ポイントは「信頼と共感」。6位のNTTデータは両者を過不足なく備えている。

「インターフェースが同業他社のものより見やすかった」(文系・その他私立大)

「情報がきちんと公開されていて、かつまとまっていたのでわかりやすかった」(文系・早慶大クラス)

印刷物では社員の撮影に注意を払い時間をかけたものだが、Webの時代になって、カメラの性能が上がり、スマホでもかなりの画質の写真が撮影できるようになった。そこで経費を削減するためにプロのカメラマンを使わず、自分たちで撮影することが増えている。ただ「社員の顔が生き生きとしていた」(文系・中堅私立大)という学生の感想を読むと、ホームページでも表情は重要であることがわかる。

また、環境や持続的成長に関わる課題を論じていることに共感する学生もいる。

「業界のシェアとSDGsへの貢献が高かった」(文系・上位私立大)

バンダイは時間帯に合わせたメッセージ

採用ホームページのイメージは、われわれが抱いている企業イメージに近しいことが多く、7位のバンダイでは「楽しそう」「夢」「ワクワク」という言葉が目立つ。学生がすでに持っているイメージから企業情報を伝えると理解が深まるのだろう。

「社員の楽しそうな雰囲気が伝わってきた」(文系・中堅私立大)

「夢やワクワクがどこよりも詰まっていた」(理系・その他私立大)

興味深いのは学生の状態によってレスポンスを変えていることだ。

「マイページを開くたびに、『遅い時間までお疲れ様です』など、その時間帯に合わせたメッセージが出てくる。また、社員の方々の楽しそうな写真も印象的」(文系・上位私立大)

こういうちょっとした言葉の気遣いが就活に疲れた学生を励ますのかもしれない。

8位の講談社への評価では、「デザイン」という言葉が目立ち、「ポップ」「かわいい」「わかりやすい」という表現もある。日本を代表する出版社なので、デザイン性に優れているのは当たり前と言えば当たり前。興味深いのはその内容だ。企業への不満や改善してほしいことを学生に質問すると、最も多いのは選考過程の開示だ。

選考過程をブラックボックスにしている企業は多い。実質的な選考過程はサマーインターンシップに始まり、説明会、エントリーとES提出、面接と進んでいく。しかし、このプロセスが説明されず、面接に進んでも結果が連絡されない「サイレントお祈り」が横行している。ところが、講談社ではすべてを明示している。この点を評価するコメントが非常に多い。

「昨年実績など選考データが詳しく掲載されていた」(文系・旧帝大クラス)

「選考方法が詳しく書かれていた」(文系・上位私立大)

「経験談など、実際の話や、大まかなスケジュールがわかりやすかった」(文系・中堅私立大)

選考過程の開示に関して講談社はホワイトな企業といえるだろう。 

9位のアクセンチュアは外資系コンサルの代表格だ。コメントにも「メッセージが明確」という言葉があるが、日本企業の言葉がともすれば説明過多になりがちなのに対し、アクセンチュアは日本的な曖昧な規範にとらわれることが少なく、切れ味が鋭いと学生は感じるのだろう。切れ味だけではない。取り組みに説得力がある。

「倫理観を重視していることが明確に伝わってきた」(文系・その他国公立大)

「先進的なイメージを強く持てた。例えば、女性の社会進出やデジタルをいかに活用していくかという説明、どのようなシチュエーション下においてクライアントからアクセンチュアが必要とされるかについてわかりやすく書いてあった」(文系・早慶大クラス)

入社後の待遇や勤務地、福利厚生などの情報も必要だが、企業としての社会的倫理、女性の社会進出、デジタル化と未来のような大きなテーマにどのように取り組んでいるかの説明も学生は欲しているようだ。

社員情報の開示が好感度獲得のポイントと書いてきたが、9位の富士通の採用ホームページにも多くの社員が登場し、職種ごとや新入社員などの多様な切り口で説明している。

「職種ごとの社員インタビューが詳細だった」(理系・中堅私立大)

「新卒の多様な個性を汲み取ろうとする姿勢を感じた」(文系・旧帝大クラス)

使い勝手にも工夫がある。「情報開示が多く、欲しい情報が多く手に入った」(理系・その他国公立大)、「リンクがまとまっており見やすかった」(理系・上位私立大)と書かれている。そして、ホームページが綺麗、分かりやすい、ワクワクする」(文系・上位私立大)が採用ホームページの理想である。

評価が高い企業の共通点

学生が好印象を持った採用ホームページを紹介してきたが、各社に共通しているのは、信頼・共感できる社員メッセージ、コンテンツがわかりやすいデザイン性とシンプルな操作性の2つだ。


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社員メッセージは職種ごとやキャリアごとに説明し、学生が将来像をイメージしやすいものがよい。女性の活躍を描くコンテンツは評判がよい。多様な社員像から学生は将来を透視する

コンテンツには各社の工夫がある。ゲーム感覚の適性職種診断やアクセスする時間によって変わるメッセージを学生は歓迎している。

講談社は選考過程を全面開示しているが、これは就活中の学生が最も望む情報かもしれない。バラ色の未来を描くだけではなく、学生の就活を支援する採用ホームページが増えることを望みたい。