アメリカ・シリコンバレーにあるグーグルオフィスビル(写真:Sundry Photography/iStock)

GAFAMと呼ばれる5社(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフト)に代表される世界的なアメリカの主要IT企業は、いったいどのようにトップに上り詰め、その地位を確保しつづけているのか。

「バズフィード・ニュース」のテクノロジー担当シニアレポーターであるアレックス・カントロウィッツ氏は、130回以上のインタビューを重ね、長年にわたってこれらの企業を研究し分析する中で、共通する成功法則が見えてきたという。

氏の近著『GAFAMのエンジニア思考』より、グーグルの事例をピックアップし、解説する。

最初は「検索の会社」だった

グーグルは明らかに現代世界を支配する企業である。しかしそのグーグルでも、たったひとつの製品の収益だけでは、現代の移り変わりの速いビジネス界についていけない。顧客の嗜好の変化に後れをとらないために、グーグルは自身はもとより、特に検索の変革を繰り返してきた。「検索の会社」グーグルは、数多くの進化をくぐり抜けてきたのだ。

グーグルは最初はウェブサイトとして始まったが、マイクロソフトがインターネット・エクスプローラー(IE)へのグーグルの組み込みを止めると、クロームでブラウザに変身した。そしてウェブの利用がパソコンからモバイルへと移ると、検索を中核としたモバイルOS「アンドロイド」を開発して再び自身を変革し直した。現在、音声でモバイル機器の操作をする世界になって、グーグルは音声アシスタントでの検索をいま一度変革している。

変革のたびに、グーグルは既存の製品群の要素を新製品に組み込む。それには緊密なコラボレーションが必要になる。たとえばグーグルアシスタントには、グーグル検索、マップス、ニュース、フォトズ、アンドロイド、ユーチューブ、そのほか多くの関連製品が使われている。

このような製品間の乗り入れを実現するため、グーグルではグループ間でシームレスに作業しなければならない。グーグル内のコミュニケーションツールには専用のものもあれば汎用のものもあるが、そうしたツールによってこのコラボレーションが可能になっている。

グーグルの従業員は、完全にグーグルドライブの中で作業する。たとえばドキュメントとスプレッドシート、スライズ(パワーポイントのグーグル版)を使って計画を作成し、会議の議事録をとり、財務情報をまとめ、プレゼンテーションをする。

グーグル社内では、グーグルドライブに置かれたファイルはほぼ誰でも開けるようになっていて、進行中のプロジェクトについてのあらゆる情報を知ることができる。また、グーグル社員は、一緒に働きたい同僚を見つけたら、グーグルのイントラネット「モマ」で相手のことを調べて連絡がとれる。これらのシステムを通じて、グーグルはその規模としてはこれまでになく風通しがよい企業になっている。

グーグルドライブをオープンなものにすることで、グーグルは文書そのものの共同作成すら可能にしている。このほかにも、スケプティックスなどのメーリングリストや「TGIF(Thank God It’s Friday:金曜日だ!)」という経営陣たちとの質疑応答セッション、グーグル社員が社内向けストーリーラインにミームを投稿するウェブサイト「ミームジェン」といったグーグルのコミュニケーションツール群は、同社の成功にとって不可欠だ。

変革の主導者、サンダー・ピチャイ

コミュニケーションツールは新しいプロジェクトのスピードを速め、アイデア創造の余地をつくるために必要な実務作業の削減につながる。アイデアを社内にあっという間に広めて、変革と改良のきっかけとなる。決まりきった事務作業を削減し、集合精神をもった同僚たちとともに働く大切さを強調することで、コラボレーションを可能にし、期待されるものを実現する。

これらのツールのおかげで、グーグルはこれまでの15年間に何度も検索を変革し直してきた。そしてどの進化においても、現在のGoogleの最高経営責任者であるサンダー・ピチャイが不可欠だった。

2015年、アルファベットという株式会社が設立され、グーグルはその子会社となった。この新しい組織では、Google社を共同設立したラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンがアルファベットのCEO兼社長となり、それまでユーチューブ以外の同社製品すべてを担当していたピチャイがグーグルを指揮することになった。

アルファベットを構成する企業には、カリコ(グーグルの老化研究プロジェクト)、ライフサイエンス(グーグルのヘルステック研究グループで現在の名称はベリリー)、そして新たに精鋭化されて生まれ変わったグーグルなどが含まれる。

アルファベット体制で、創設者たちは大きな科学的プロジェクトと資本主義の混合体になっていたグーグルを再び本来の目標に集中させ、科学的プロジェクトは、より大きなアルファベット傘下の企業に分割することにした。アルファベット体制への再構築の動機は明らかだった。モバイルウェブが急速に時代遅れになっていた当時、伝統的な検索は役に立たなくなってきていたのだ。

一方、最初はみんなの笑いものだったアマゾンのAIデバイスのエコーは進化しつつあった。質問に答えることはグーグルの得意分野だが、アマゾンがそこに侵略しはじめていたのだ。グーグルは再び変革する必要があった。創業者たちからグーグルを引き継ぐとすぐ、ピチャイは社員たちに「AI第一主義」の導入を指示し、製品にAIを組み込むチャンスを逃さないようにと告げた。

AIでサービスは進化したが…

グーグルのコラボレーションの文化は、ピチャイの指示が迅速に根づくために役立った。

たとえばグーグルの翻訳チームがAIモデルを使って、ある言語で書いた文が別の言語ではどうなるかの予測をすると、Gメールチームが、同じモデルを使って、電子メールを受け取ったとき、返答に使える短いAI生成文を提案するスマートリプライ機能を生み出した。

また、グーグルカレンダーと航空便の予約情報を共有するようになり、グーグルカレンダーはその情報を自動的に記録するようになった。グーグルフォトズは抱擁などのしぐさを判別できるようになり、しぐさをカギに写真を検索できるようになった。グーグル音声検索は、自然言語による質問に答えられるまでに進化した。

このようにしてグーグルは進歩を始めたが、この段階ではまだ一体になっているとはいえない状態だった。

アシスタントのプロジェクトは、スムーズに始まったとはいえなかった。当初の混とん状態を解消するため、ピチャイはグループや部門を超えたアイデアの流れを邪魔している障壁を取り除いた。さらにアシスタントチームをとりまとめ、時には25人以上にもなる会議で、何を構築しているのか、誰が何をつくるのか、何を優先させるのかについて、意見をまとめる力となった。

全員の意見が一致すると、ピチャイはグーグルでクロームを開発した際のやり方をもっと幅広く適用した。すなわち、まず明確な枠組みを設定したら、自分自身は支援に回り、社内で協力して開発するに任せたのだ。

そこからは事態が急速に進んだ。グーグル社内のコミュニケーションツールは、プロジェクトの各チームが新しい可能性に気づいたり、コラボレーションすべき相手を見つけたり、情報を共有したりすることに役立ち、アシスタントの開発を速めた。

「スピーカー搭載」が決まったが…

それぞれのサービスをうまく調和させるために作業する一方で、各チームはアシスタント自体についての新しい課題にも取り組んだ。顔があったほうがいいか、名前はグーグルアシスタントにするか、それともほかの名前にすべきか、ユーモアのある受け答えをさせるべきかなどを論じあった。

グーグルアシスタントの開発にはさらにもうひとつ、スマートスピーカーという新機軸がからんでいた。ユーザーがグーグルとつねに会話するには、電話を持っていないときでも、どこにいるときでも、話しかけることができなければならない。そのため、アシスタントを組み込んだスピーカーが計画に追加された。その名はグーグルホームだった。

だがグーグルホームは、アシスタントプロジェクトの地雷になりかねなかった。ハードウェアは一般に、トップダウン型の計画で製造される。ある程度の数の製品を年末商戦に間に合うように製造するため、一定数の部品を特定の日付までに発注しなければならない。それ以降は、そのハードウェアに対してたくさんのアイデアを入れる余地はほとんどない。だからハードウェア事業は通常、トップダウンになるわけだ。

しかし、ホームはほかのハードウェア製品とは違った。単にアシスタントを提供するための機器にすぎなかったのだ。スピーカーの品質は重要だが、実際の魅力はその内部の音声にある。音声こそが世界の情報を調べて、知りたいことを知りたいときに正確に伝えるものだ。そのためホームチームは厳密な計画を立てて、アシスタントチームのほかのメンバーにそれを守らせるようなトップダウンのやり方ができなかった。ホームチームもコラボレーションの一員となる必要があったのだ。

元モトローラ社長だった、グーグルのハードウェア担当上級副社長リック・オスターローにとって、グーグルでの仕事はまったく異なるものだ。ほかのグループのメンバーが指揮系統を無視して直接彼に電子メールを送ってくることはしょっちゅうだという。

「わざわざ時間をとって、製品がよくなるようなアイデアを考えてくれるのはありがたい。グーグルにはアイデアがたっぷりあって、社員たちが考え出した数多くの興味深い技術や概念から、できる限り最高の製品をつくりだそうとしている」

グーグルホームが示した方向性

2016年5月18日、ピチャイはグーグルホームを発表した。画面のない、手のひらサイズのスピーカーは一見どうということもない。しかしプロモーション映像では、グーグルホームが音楽を流し、フライト状況を更新し、外食の予約を変更し、テキストメッセージを送り、スペイン語を英語に翻訳し、荷物の配送状況を通知し、宇宙についての質問に答え、カレンダーの予定を読み上げ、空港への経路を検索し、「行ってきます」という声に反応して電灯を消す様子を映し出していた。


映像はいささか現実を先取りしすぎていたものの、グーグルホームは明確な方向性をもった実在の製品だった。それまでは主に画面への入力が必要だったこれらの行為が、虚空に向かって話しかけることで可能になる世界になるのだ。

仕事や日常生活のなかで音声コンピューターが人間に寄り添う世界を目指し、着実に進歩する人工知能を使って、グーグルは最初の一歩を踏み出した。音声コンピューターに話しかけることは、人間同士の会話と変わらず自然な行為になるだろう。それは検索の次のかたちであり、さらに多くの可能性を秘めている。

アシスタントプロジェクトは、紛れもなくグーグル的である。グーグルアシスタントは、数多くの製品グループ間のコラボレーションにより、人工知能によって支えられ、社内のコミュニケーションツールの支援のもとで開発された。それが結実して、グーグルが当分第一線にとどまっていられるような製品となったのだ。