■お金の無心をしたハリー王子と比べたら「偉い」

秋篠宮家の長女眞子さまと小室圭さんの結婚をめぐり、国内メディアの報道が過熱している。18日には米国から約3年ぶりに帰国した小室さんと再会。26日に婚姻届を提出し、2人で会見を行うという。

結婚前最後となる宮中祭祀(さいし)に参列するため、皇居に入られる秋篠宮家の長女眞子さま=2021年10月17日、皇居・半蔵門[代表撮影](写真=時事通信フォト)

筆者は2人の結婚を前に、「英国から見る眞子さま&小室さんの結婚」について改めて分析することにした。折しも、女系天皇を是としない岸田文雄首相は衆議院選挙で国民の選択を仰ぐこととなる。今後の行方はどうなるのだろうか。

まずは、2人の結婚について、よく比較対象にされる英王室エリザべス女王の孫、ハリー王子とメーガン妃夫妻を送り出した英国市民の反応を見てみることにしよう。

英国でも大手紙から大衆紙に至るまで、結婚に関する記事が掲載され、その中で「皇族が品位を保つのに必要な100万ポンド(約1億4000万円)を返上した」とある。ハリー王子は結婚する際、父のチャールズ皇太子にお金の無心をしたとされるが、「それに比べ、眞子さまは自分の道を歩むに当たって辞退したのだから偉い」といった意見が聞こえてくる。

■ハリー王子夫妻は警備も援助も打ち切られたが…

新婚生活を送るニューヨークでの警備についてはどうだろうか。

ハリー王子夫妻は新婚当初、米国ではなくカナダのバンクーバー島に住んでいたことがある。当初はロンドン警視庁の要請で王立カナダ騎馬警察が警備の責務を負っていた。ところが、夫妻が昨年3月末をもって王室の公務から退くや否や、カナダ側が警備を打ち切った。なお、王室は夫妻に対し、公務から退くまで資金援助を行っていたが、それも同時に打ち切られている。

英国留学時代の眞子さまを街中で見かけたことがあるという在英歴の長い日本人男性は「英国に留学に来る外国の王族や貴族の子息はこれまでもたくさんいた」と話し、「その当時は数ある王族子女の1人として見守られていたかもしれないが、ニューヨークと英国の街の治安レベルが同じだと勘違いしていると危ないのでは」と心配する。

いずれにしても眞子さまは“一般人”として米国に渡航するので、それなりの安全を守りたいなら何らかの個人資産でガードマンを雇い、セキュリティーの良いマンションなどに住むことになるのだろう。

ハリー王子夫妻はそのままカナダに住みつきたかったようだが、ハリー王子がカナダに住み続けられる適切なビザが下りる見込みが厳しいとみられたこともあり、その後メーガン妃が拠点とするロサンゼルスに移った経緯がある。

■今のビザでは眞子さまの就業は許されない

眞子さまの場合は、小室さんがこのままニューヨークの法律事務所で働き続けている間は、配偶者ビザで米国にとどまれるだろう。しかし、小室さんが持つとみられる現状のビザステータス(カテゴリー「F1」のOptional Practical Trainingとされる)では、配偶者の就業は許されていない。したがって、眞子さまが米国の一般企業などで働くことはできず、生活費の足しを求めてどこかへ勤めに出るのは違法となる。

一方、ロイヤルの名を借りたマネタイズという点でメーガン妃はしたたかだった。ハリー王子が得た称号「サセックス公爵」の名を使った新たなブランドを立ち上げようとしたり、昨年9月には王子とともにネットフリックスとの間で1億5000万ドル(160億円)の契約を結んだりと、資産家セレブに向かって一直線の道を歩もうとした。

■「“金のなる木”を作る準備をしているのだろうか」

しかし、公爵ブランドの使用は王室からストップがかかり、あえなく断念。ネットフリックスの契約から1年が経つが、今では「商業的な数字を残すために、厳しい条件をつきつけられている」(英王室ウオッチャーのダンカン・ラムコーム氏)とされ、大型契約をしたからといってバラ色の世界が広がっているわけでもなさそうだ。

写真=iStock.com/OlegAlbinsky
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/OlegAlbinsky

筆者の知人である現地報道記者は「エンタメ界で活動してきたメーガン妃がネットフリックスの契約で金脈を築こうとしたように、眞子さまたちも“金のなる木”を作る準備をしているのだろうか。そうでなければ、一時金をも蹴飛ばして、あんなに物価の高いニューヨークに住めないだろう」と、2人の生計のあり方を危惧する。「小室さんが、ただ同級生として知り合ったというだけで結婚するのはまるでおとぎ話だ」とも話していた。

■英国人の関心事は新郎でも一時金でもなく…

ここまで英国でのさまざまな反応を紹介したが、英国人が一番心配していることは小室さんをめぐるトラブルやお金の話ではない。

「世界で『エンペラー(emperor)』と呼ばれる人物はたった一人だけいます。それは日本の天皇です。天皇は男性だけしかなれない、皇室の女性は結婚することでその地位を追われるんですよね。実家のお金のことでもめている新郎のことより、プリンセスが家を出ることで天皇家がやせ細っていくことのほうが、私は気がかりです」

東京五輪を見て、日本の様子にがぜん興味を持ったという60代の英国人女性は筆者にそう話してくれた。天皇になる順番を定めた「皇位継承順位」の対象となっている皇族がわずか3人しかおらず、「皇室消滅の危機」が迫っているからだ。

いま世界で“エンペラー”を名乗れる国家元首は日本の天皇しか存在しない。前述の記者は「エリザベス女王は90歳を超え、世界中の人々に愛されていますが、欧州における君主の序列で言ったら、“キング”や“クイーン”は“エンペラー”より下で、匹敵するのはローマ法王だけなんです。天皇家やそれを仰ぐ日本の皆さんに尊敬の念を持つ英国人もいますね」と話す。

■「王位継承順位」は5000番目前後に、皇室は3人だけ

一方、そうした英国人は、日本の皇室家系図を眺めると皆驚くという。女系天皇が許されない、女子(内親王)は結婚と同時に皇室から外れる、という仕組みについて「時代遅れだ」「伝統を重視しすぎている」といった意見が支配的だ。ちなみに、英国の1701年に制定された王位継承法は基本的に女性の王位就任を容認している。

そうして定められた「王位継承順位」は現在、エリザベス女王と先に亡くなられたエディンバラ公爵フィリップ王配夫妻の直系家系だけみても24人が並ぶ。それだけでなく、英国の場合は、17世紀に存命だったハノーファー選帝侯妃のゾフィーを起点に順位が決められているため、ファミリーツリーが欧州の多くの国に広がっており、細かくみていくと5000位前後まで追える、とされる。

あくまで試算だが、昭和天皇と香淳皇后夫妻を起点とした家系図に降嫁した女性皇族のその後を追った上で、「男女同等とみなす」として継承順位を振っていくと、ギリギリ2桁に乗る規模だ。しかし現状では男系天皇に限るとする皇位継承順位は、わずか3位までで途切れてしまっている。

■男性しか継げないのは「何ともナンセンス」

皇室で最年少の男性皇族は、眞子さまの弟である悠仁親王だ。こうした事情を知る英国人たちからは「年端がいかない15歳の少年に、『将来の妻になる女性に何がなんでも男子を産め』と今から言っているようなもの」とその不条理さを指摘する意見も聞こえる。

そんな英国人の懸念をよそに、日本では「女系天皇反対」を明確に主張する岸田文雄氏が新たに首相の座に就いた。31日に投開票を迎える衆院選で自民党が勝てば、現行の皇室典範に手が入る可能性はより低くなるだろう。

英国紙デイリー・メールは眞子さまの結婚報道に際し、「女性は天皇として即位できない」と、皇室の現状にも言及する。天皇は男系継承を維持するべきと考える「伝統主義者」の主張も紹介し、「天皇になれる男子は、神武天皇の血を(男系の男性の中のみで継承されていく)Y染色体を継ぐ者と定義付けている」と説明。「万世一系」とも呼ばれる皇位継承の厳しい伝統について、日本の事情を知らない読者に詳しく解説している。

つまり、仮に愛子さまが即位し、天皇となってその後男子を生んでも、神武天皇から継承されたY染色体はここで途切れることになる。同紙から日本の伝統を知った英国人の中には「2021年にもなって男性のみしか継げないのか」「何ともナンセンスな考え」などと、どちらかと言えば「時代遅れな発想」という声が聞こえてくる。

■「旧宮家の皇籍復帰」という案もあるが…

日本で「男系継承にこだわる」という主張を続ける人々の中には、「皇籍離脱した旧宮家の皇籍復帰」という方法を掲げる向きもある。一部の旧宮家を復活させることにより、男系の皇位継承権者の範囲が広がるというわけだ。

皇籍離脱とは、終戦後の1947年に大正天皇の子息(つまり昭和天皇の男の兄弟)である秩父宮・高松宮・三笠宮の「直宮家」以外の11宮家が皇籍を抜けたことを指す。これはGHQが「皇族弱体化のための措置で行った」との見方もあり、当時皇室から抜けた人々の多くはいまや“一般人”として暮らしているという。

しかしこんな懸念がある。明治天皇の子女は複数の妻との間に全部で15人いるが、男子は夭折せず成人したのは大正天皇しかいない。女子が継承した宮家で生まれた男子がいても、すでに神武天皇のY染色体の系譜が途切れている可能性が高い。したがって、皇籍を抜けた宮家が未来において復活したとして、本来の「万世一系」が維持できるのだろうか。

写真=iStock.com/lkunl
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■もし英王室流に皇位継承順位をつけるとしたら?

ここで仮に、今の皇室に英国の王位継承順位の方法で「皇位継承順位」を振っていったらどんな格好になるだろうか。ただし、後述することは英国流なので「男女同権」、つまり「女系天皇を認める、内親王は結婚しても皇籍離脱しない」という前提で考えるとする。

この場合の「皇位継承1位」は天皇皇后両陛下の長子である愛子さまとなる。ついで、陛下の実弟の秋篠宮さまが2位だ。3位はそのお子となるので眞子さまが3位、現状で4位は佳子さま、5位は悠仁さま……となる。ただ、仮に眞子さまが出産するとその長子が4位に繰り上がり、以下順位が繰り下がる。

なお、英国流でも王室の血を引く女子と結婚した男子に対して王位継承順位がつくことはない(その子女には順位がつく)。したがって、例えば将来、英国流に近い形で女系天皇が認められたとしても、小室さんが眞子さまと結婚したからといって、天皇の座に収まることはあり得ない。

日本における現状の「皇室の後継問題」は、妥協で決めることではないとはいえど感情論のぶつかり合いのように見え、これでは生産的な論議が深まるようには見えない。

皇室存続のための複数の法案を、政府なりが国民に対して明確に示して議論を始めるのも一つの方法ではないだろうか。その選択肢として、英国流の方法などを参考にし、欠点と長所を挙げてみると、「これからの日本」に適合するかしないかがより具体的に浮かび上がってくるように感じる。

長年、解決に至っていないこの議論をこのタイミングで深める、というのも一考ではないだろうか。

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さかい もとみ(さかい・もとみ)
ジャーナリスト
1965年名古屋生まれ。日大国際関係学部卒。香港で15年余り暮らしたのち、2008年8月からロンドン在住、日本人の妻と2人暮らし。在英ジャーナリストとして、日本国内の媒体向けに記事を執筆。旅行業にも従事し、英国訪問の日本人らのアテンド役も担う。■Facebook ■Twitter
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(ジャーナリスト さかい もとみ)