2030年の北海道新幹線延伸に伴い、並行する在来線について今後のあり方への協議が活発になってきました。函館本線の閑散線区である「山線」が対象になりますが、そのなかでも利用が多い余市〜小樽間は、様々な案が検討されています。

存廃議論よりまず「現状を変えたい」? 混み合う余市〜小樽の朝

 2030年度に予定されている北海道新幹線の札幌延伸に伴い、並行在来線となる函館本線の長万部〜小樽間、いわゆる「山線」区間の今後に向けた議論が活発化しています。なかでも焦点となっているのが、比較的旅客が多い余市〜小樽間。山線沿線の首長を中心とした「北海道新幹線並行在来線対策協議会」(以下、協議会)でも、この区間は鉄道としての維持が他と切り離して議論されるようになってきました。

「山線」の通称どおりニセコ連峰の山麓を140.2kmにわたって貫く長万部〜小樽間の輸送密度(1kmあたりの1日平均旅客)は2018年時点で623と、JR北海道単独で維持できる「輸送密度2000以上」という基準を大幅に下回り、全区間を鉄道として存続させた場合には年間20億円以上の赤字が見込まれています。

 しかし、そのなかでも余市郡の中心である余市町は、小樽まで鉄道で20分強、札幌市内まで60分少々という距離から、国勢調査でも「札幌都市圏」に分類されるほど。通勤・通学・観光などの需要がいずれも根強く、余市〜小樽間だけなら輸送密度は2144と、山線の他区間を圧倒する輸送実績をあげているのです。


余市駅、朝7時02分発の小樽・札幌方面行き乗車待ちの列。2021年7月(宮武和多哉撮影)。

 にもかかわらず、余市〜小樽間は平日で17往復と運転頻度が低く、非電化、かつ駅の近代化でも札幌圏に遅れをとっており、利用の多さに対して使い勝手が良いとはいえません。

 余市町は、鉄道ならば「富山ライトレールなどを参考にし、途中駅を増やした高頻度運転」、バスならば「東京オリンピックで使っていたような2連のバス(連節車両)やバス専用道の導入で、旅客が多い区間のバス転換のモデルケースに」など、協議の中でもさまざまなプランの検討をJR北海道や道庁などに要望しています。既存の鉄道存続にとどまらない一連の提案からは、「鉄道かバスか」の2択というより「とにかく現状を変えたい」という意向の強さが感じられます。

 なお人口1.8万人を擁する余市町から小樽・札幌方面には、おもに海岸部を走る国道5号線で都市間バス(高速バスに相当)4系統、路線バス3系統が運行され、海沿いの集落をこまめにカバーしています。余市〜小樽間の所要時間は40〜45分と鉄道と比較してかかりますが、1日約60往復という運行頻度の高さが魅力です。2018年における余市〜小樽間の移動実態は、鉄道の利用が1日1812人に対し、バスは余市〜小樽間だけの利用者数を算出していないので一概には言えないものの、この区間に乗り入れる路線の合計で3700人前後なので、どちらかといえばバスのほうがよく利用されているのではないでしょうか。

余市町内+小樽で眺めた鉄道とバスの現状

 実際に現状の鉄道やバスのあり方を変えた場合、どのような事態が予想され、どのような部分がネックとなってくるのでしょうか。山側を走る鉄道(函館本線)、海側を走るバス、それぞれの現状を見てみます。

 平日朝の余市駅近辺では、やはり統計値に違わぬ小樽・札幌方面への通勤・通学客の多さが際立ちます。倶知安始発で7時02分に余市駅を出発する札幌方面・苫小牧行き(気動車3両編成)は、余市に到着した時点で立ち客がちらほらと見える状態。そこに200人弱の学生や通勤客が一挙に乗り込み、発車に手間取る様子が伺えました。

 朝の余市駅は、このほかに6時10分の小樽行き、7時40分の快速札幌行きもあり、それぞれの列車が発車する前には子供を送迎するクルマが次々と駅ロータリーに集中します。しかし、これだけの乗車があるにもかかわらず、8時台以前の上り(小樽方面)列車はこの3本だけ。増便などの要望が上がるのも頷けるところです。


余市駅付近を走る北海道中央バス(宮武和多哉撮影)。

 バスはどうでしょう。路線の系統が集中する余市駅前十字街バス停(余市駅の北約100m)からの乗車は意外に少なく、駅から遠い余市町梅川地区、古平町などから来る余市線・積丹線のバス(いずれも北海道中央バスが運行)は、到着した時点でおおむね20人以上の乗車がありました。また鉄道とかなり多くの区間で並行する小樽駅・札幌への都市間バス「高速いわない号」もあり、こちらは余市町内での下車も目立ちました。小樽方面へのバスは朝7時台には1時間あたり7〜8本は運行されており、鉄道とバスが並行する仁木〜余市間も含めて、十分に補完を果たしていると言えそうです。

 余市〜小樽間の途中駅(塩谷、蘭島)は、居住人口の少ない山側に立地し、1日の乗降客はいずれも100人以下。一方、同じ余市〜小樽間にあってバスの乗降がそこそこ多い余市町大川地区や、バスの車庫があり高頻度運転が行われる小樽市長橋地区では、地区内を線路が通っているにもかかわらず駅がないなど、惜しい一面も見られます。

必要なのは「これまでにこだわらない改造」?

 ただ塩谷駅、蘭島駅近辺の線路はカーブも多くトンネルも狭隘で、LRT化やバス専用道化にはあまり適さないように感じます。「余市〜小樽20分強」という切り札は、現在の鉄道車両による高速運転があってこそ成立するものではないでしょうか。

 一方で、海岸線に近い国道を走るバスも、切り立った崖の下を走る区間が長いため災害時の不安定さと、小樽市内における「稲穂5丁目の右左折」「小樽駅バスターミナルへの進入」といった箇所での渋滞リスクなどがあります。前者は2018年、国道5号線に忍路トンネル、フコツペトンネルが開通したことで、ある程度はリスクが軽減されました。また後者に関しては、一部区間のみのバス専用道化は有効に働くかもしれません。


観光名所にもなっているニッカウヰスキー余市工場(宮武和多哉撮影)。

 余市町は2014(平成26)年のNHKドラマ「マッサン」効果で来訪客が激増しましたが、それに際して駅のICカード対応やエレベーターの設置、列車の増便といった余市町からJR北海道への要望は、ほとんど実現しませんでした。コロナ禍の前には国内トップクラスの地価上昇を示すほど“インバウンド需要”に沸いていた倶知安駅ですら、スーツケースを抱えて階段と長い跨線橋を通過しない状態は今も変わっていません。鉄道を残す場合、「現在の設備のままでいいのか」という問題もあります。

 沿線の協議会は、現状で3年後(2024年)頃までに今後の方針を決定する予定です。しかし、都市計画の関係で結論を急ぐ倶知安町や、鉄道が存続した場合の負担に難色を示す長万部町の姿勢などもあり、長万部〜余市間の結論は少し早めに出るかもしれません。

 一方の余市町にとって、バス転換による所要時間の増加は、住宅団地の誘致や定住促進などに生かしてきた「札幌・小樽に近い」という好要素を失いかねないのではないでしょうか。100万都市札幌の“近郊”であるにもかかわらず、油断すると涙腺が緩みそうなくらい美しい夕陽や透明な海を眺められる余市町が、都会からの近さを生かし続けることができるか。その鍵を握る交通手段は、鉄道やバスの現状にこだわらない再構築が必要だと感じます。