TikTokで日本人を中心に人気を集めるナミコ。コメント欄には「ナミコ最高」「11歳の娘とファンです」といったコメントが並ぶ(写真:ナミコさん提供)

TikTokは、つねに新たなセンセーションを生み出しているソーシャルプラットフォームだ。人よりいくらか創造性があり、マメで、外交的な人が、自らの「輝き」を短く爆発させるのに最適な、抗いがたいこのメディアで影響力を持つ。中には、言葉で言い表せない魅力や訴求力を持ったり、やや謎めいた天性の個性や声を持っていたり、常識にとらわれないというような人物が現れ、スターが誕生する。

現時点で「ナミコ」はそうした新星の1人であり、これからトップまで上り詰めたとしても私は驚かない。TikTokをやり始めてまだ3カ月で、動画もこの記事の執筆時点では62本しか上げていないが、すでに約48万人のフォロワーと700万の「いいね」を獲得している。これはセレブリティの数値だ。

自分にとって自然なことしかしていない

初めてナミコの動画を見る人は少し驚くかもしれない。彼女は時に、ベビーパウダーで顔を真っ白にして日常の話をしたり、コンビニに買い物に行ったり、アフリカ人である母親の真似をしたりする。


TikTokでナミコがたびたび見せる「白塗りメイク」(写真:ナミコさん提供)

いかにしてこれほど急速にTikTokの世界に旋風を巻き起こしたのかを知るために、私は20歳のナミコと話をする機会を得た。しかしすぐに、彼女は自分にとって自然なこと以外には何もしていないのだとわかった。

TikTokでの彼女のキャラクターの本質は、ユーモア、恐れ知らず、信憑性といったものだが、直接話をしたときに見せた性格も同じだった。これらは私がとても敬服する特質であり、彼女とはすぐに旧知の仲のように感じた。そして、なぜこれほど急激にファンが増えたのかが理解できたきがする。

彼女には嘘がない。ニューヨークの言い方では「she’s the real deal!(彼女は本物!)」、つまり、まぎれもない信憑性があるのだ。

姓は伏せておくことを希望しているが、「ナミコ」は彼女の本名で、それを通称に使っている。アフリカ系の両親のもと、北海道で生まれ育った。父親はコートジボワール出身、母親はトーゴ出身だ。彼らは約22年前に交換留学生として別々に来日し、日本で出会って結婚し、ナミコが生まれた。

ナミコはどちらの国にも行ったことがないが(近々アフリカを訪れる予定だ)、学生時代の数年間をカナダのモントリオールで過ごしている。日本語とフランス語が堪能で、英語も話すが、先に挙げた2カ国語ほどではない。

「子どもの頃から夢はスーパースターになることだったの!」とナミコは単刀直入に言った。「アーティストとか、テレビの有名人とか。友達の多くはすごく行動的で、いつもすごいことをしている。だから私もなにかすごいことをしたいと思った。そこで、TikTokの動画を作ったら、次の日にそれがバズって、今の私になったというわけ」。

「私にはやりたいことがたくさんある。なんでもやりたい」とナミコは言う。「タレントやお笑い芸人だけでなく、女優、歌手、プロのスケートボーダーとか。困っている人たちを助ける慈善事業の会社も起業したいと思っている」。

「オリジナルな人になりたい」

ナミコの動画は自分が高く評価してきたアーティストたちの特質を彷彿とさせるところがある。そしてその中に、成功目標となりうる人物がいる。エミー賞、グラミー賞、アカデミー賞、トニー賞をすべて獲得した16人のエンターテイナーのうちの1人、偉大なウーピー・ゴールドバーグだ。

私が最初にウーピーに出会ったのは、彼女がブロードウェーでワンマンショーをしていたとき。彼女が、白人の女の子のようなブロンドの髪と青い目を渇望する幼い黒人の少女を熱演したパフォーマンスの一部がこれだ

「私は多くの人から刺激を受けました」と実世界では会社員として働くナミコは言う。「でも、今の私がしていることは、その人たちの影響じゃありません。これまでに誰かがやったことをやりたいのでもないし。オリジナルなことをして、オリジナルな人になりたい!」。

前述の通り、動画のいくつかでナミコは、ベビーパウダーを小道具に使って顔にはたいたり、時には顔全体に厚く塗ったりしているのだが、それはまるで、頭からパウダーをかぶってそれが無造作に落ちてくるに任せたかのように見えるのだ。

当然のことながら、これも、ウーピーや、彼女が演じたキャラクターの白さに対する執着を連想させたのだが、ナミコがどこでこれを思いついたのか、そしてその意味するものは何であるのか、私は興味を抱いた。

「匂いが好きなだけ」とナミコは言い、私は思わず笑ってしまった。彼女は実に天然で面白い。

「マジで!そうなんです。匂いが好きなの。時々英語のコメントがあって、たぶんアメリカ人だと思うんだけど、彼らはそれを人種的なものだと考えてる。たぶん、私が白人の女の子になろうとしているとか。でも、日本人はただそれを面白がるだけなんですよ。ほかの国の人たちは何か違うように考えるようだけど」。

「でも、君にとってはただ匂いが好きなだけ……」

「その通り!」 彼女が笑うと、ついこちらもつられて笑ってしまう。「単なる匂いです!」

ナミコの「ホワイトフェイス」の意味は

時として日本人や白人コメディアンなどが、黒人を真似て顔を黒く塗る「ブラックフェイス」が問題になることがある。一方で、ナミコが顔を白く塗ることを白人の人たちはどう受け止めるのだろうか。

「彼女の演技をネガティブに捉える人はおそらくいないと思う。ブラックフェイスがもつ歴史的な重圧のようなものが"ホワイトフェイス"には単純にないのです。人間性を奪いブラックコミュニティを傷つけることがブラックフェイスの目的でしたから」と、日本人男性と結婚した白人女性の高木エモリーさんは話す。

「一方、ナミコは典型的な『色白が美しい』という基準をあざ笑い、社会が持つ美しい日本人の理想像に"合わせる"ことに反抗しているのはないでしょうか」

高木さんはこうも続ける。「私が泥パックをつけても、もちろん何の問題もないです。しかし、泥パックをつけるのが黒人(または黒人役)のふりをするためだったら……それは違う話です。同じことをしたオクラホマ大学の学生は即刻退学されられています」

ナミコの動画をめぐって、見る側はさまざまな臆測をしてしまいがちだが、当のナミコは動画のプランを練ることすらないのだという。

「全部、行き当たりばったりです!事前に計画を立てたら面白くならないと思う。アイデアをふと思いついて、それをやるの。生きるのも動画を作るのも、すべてその瞬間にやる。私の動画を観て、私はカメラの前でカメラに向かって話しながらとてもリラックスしているけど、たいていの人はそうならないのにと考える人もいます。

その人たちが妬んでるとかそんなふうには思わないけど、でも、みんな自分も正直に心をオープンにすることができたらいいのにと思っているんだと思う。動画の中で私はそうしているんだろうな、とその人たちは想像していて、そんなふうにできたらいいのにって」

「あなたは実際には心をオープンにしていないの?」と私は尋ねた。

「心をオープンにしていないとは言わないけど、でも、私はただ自分のしたいこと、自分が面白いと思うことをしているだけで、ほかの人がどう思うかは気にしていません。その瞬間に思いついたことを何でもやるだけ。そしてその瞬間が終わったら、次の瞬間に進む。すべてがその場の思い付きです。プランもないし、制限もない」

日本語を話すことを「理解」できない人も

ナミコのプライベートな生活はどのようなものなのか、私は興味を抱いた。何が好きなのか、そして日本で直面する困難にはどのようなものがあるのか。そして意外でもないが、そのどちらも彼女の外見に関することであった。

「日本では、自分が目立ちやすいところが気に入っています」と彼女は答えた。「まあ、気に入っているとは言えないけど、悪くもありません。私は違っているけど、違っていません。時にはそれが、自分をスペシャルな存在に感じさせてくれます。

でもその反面、時々、私が日本語を話しているということを、頭で処理できない人がいるんです。たぶんその人たちは、私が日本語を完璧には話せないと臆測するんだと思います。だから私が日本語を話すと、『英語が話せなくて、ごめんなさいね』と言ってくる人もいるんですよ!」。そして彼女は、あの魅力的な独特の笑い方で笑った。

ソーシャルメディアの外交的な人々の多くは、実際に会ってみると非常に異なる人物であることが多い。しかし、ナミコの場合はまったくそのようなことはない。彼女は、毎日24時間、ナミコなのだ。

「これが私!」とナミコは言った。「私のキャラはいつでも同じ。実際に会った人からはよく驚かれます。『実生活では静かな人なのだろうと思っていました』みたいに。そして私は、『いいえ、これが私!』と言うの」。