深夜の「ちょい飲み」に定評のあった日高屋は、コロナの影響を色濃く受けた(写真:記者撮影)

「コロナ禍がここまで長引くとは思わなかった。他の外食企業と比べても(当社の)回復スピードは遅い」。

10月7日の決算説明会で、中華料理チェーン店「日高屋」などを展開するハイデイ日高の高橋均社長はそう言って肩を落とした。

実際、ハイデイ日高はコロナ禍の影響を色濃く受けている。2021年3〜8月期の売上高は113億円と前年同期比で19.2%落ち込み、営業赤字も26億円(前年同期は20億円の営業赤字)に拡大。最終損益も、3.4億円の赤字(前年同期は17億円の最終赤字)に沈んだ。

「ちょい飲み」需要が消失

大打撃の背景にあるのは、酒販売の休止と営業時間の短縮だ。これまで日高屋は、ビジネスパーソンが仕事終わりに食事と一緒にアルコールを楽しむ「ちょい飲み」需要を追い風に、業績を拡大してきた。


コロナが蔓延する前の2020年2月期は、日高屋の売上高のうち酒類の販売が占める割合は16.6%。また20時以降の深夜帯の売り上げが売上高の約4割を占めていた。

このちょい飲み需要が、東京都で酒類提供の停止要請が出た4月下旬以降激減し、感染状況が深刻化した8月にはほぼ消滅してしまった。8月の売上高に占める酒類の販売比率は、わずか0.2%だ。

その深刻度はほかの外食店に比べても高い。外食の業界団体である日本フードサービス協会によれば、2021年3〜8月期の外食業界全体の全店売上高は前年同期比で7.8%増えた。対して、同時期のハイデイ日高の全店売上高は同20.1%減と苦戦が続く。9月に入ってもなお、同28.8%減と厳しい戦いが続いている。

逆風が吹く中にもかかわらず、ハイデイ日高が力を入れているのが新規出店だ。前期は不採算店舗など24店舗を閉店したが、今期は一転して合計27店舗の新規出店を計画しており、コロナ前の出店水準に戻している。そのほとんどが、売上高の94%を占める日高屋だ。


郊外への出店を強化する日高屋。ハイデイ日高の高橋社長は「今後も全体の3割を目安に出店していく」と意気込む(記者撮影)

その狙いについて高橋社長は「安くお酒と食事を楽しみたい需要は決してなくならない。(コロナ影響が落ち着く)来期を見据えてプラス思考で投資を進める」と意気込む。日高屋が得意とする首都圏の駅前立地で居酒屋などの競合が姿を消すなか、残存者利益を狙えると踏んだというわけだ。

新規出店にかかる11億円の費用はすべて自己資金でまかなう見込みだ。ハイデイ日高の2021年8月末時点の現金及び預金は73億円であり、借入金はゼロ。自己資本比率は85.2%と高く、この安定した財務基盤を生かして反転攻勢を仕掛けていく。

手薄の郊外立地に商機

出店立地でも攻勢をかける。これまで集中的に出店してきた駅前立地に加え、手薄だった郊外のロードサイドへの出店も加速させる。コロナをきっかけに遠出を控える消費者が増える中、郊外の店舗で近隣の住宅地からの需要を取り込もうという魂胆だ。

経営企画を担当する島需一取締役常務執行役員は「(郊外店は)来客数が安定しており、コロナ禍でも着実に収益を確保できている。(物件の)賃料も駅前より郊外のほうが下がっているので、財務的な影響も少ない」と語る。

ロードサイド店は、2021年3月以降に出店した20店舗のうち2割を占めているが、「郊外ロードサイドに新規出店すると自社競合を避けられる。今後も全体の3割を目安に出店していく」(高橋社長)。

出店攻勢、出店立地の拡大に加え、メニューの拡充にも力を入れる。今年7月から日高屋の期間限定メニューとして新たに投入したのは、天津飯だ。高橋社長は「天津飯は競合である『餃子の王将』の看板メニュー。足元でも非常によく売れており、引き続き顧客を取っていきたい」と言葉に力を込める。

9月末をもって全都道府県で緊急事態宣言が解除され、外食店にはようやく客が戻りつつあるが、今後の感染状況がこのまま小康状態を保つとは限らない。コロナ後を見据えた日高屋の攻勢が吉と出るか、その答えがわかるのにはまだ時間がかかりそうだ。