家に価値を足すから「カチタス」と名付けた。全国に113店舗あるが、空白の地域は提携するニトリの店舗網を活用、立て看板作戦を採っている(写真は高崎店。提供:カチタス)

中古住宅の買い取り・再生販売事業でトップを走る「カチタス」社。2021年度の年間販売件数は前年度比403件増の6558件を見込み、4月には1998年からの累計販売は6万戸を突破した。買い取る物件の約8割が空き家で、その仕入れ物件は全国に分散、3大都市圏以外の割合が7割に達する。このため大災害が起こっても減損リスクが少ないという側面も持つ。

祖業は群馬県桐生市の石材業の「やすらぎ」だ。1998年から競売物件を軸に中古住宅再生事業を開始したが、競売市場の急収縮に伴って業績も急悪化。2012年にアドバンテッジパートナーズがTOBを実施、いったんは上場廃止となった。その後、新井健資社長の下、競売物件から中古住宅の買い取りに軸足を移して、業績も急回復。2017年12月には再上場を果たす。再上場後は連続で2桁の営業増益を続けている。

2012年に就任した新井社長に、今後の戦略と課題について直撃した。

(週刊東洋経済10月16日号〈10月11日発売〉では「実家のしまい方」を特集。空き家が発生するメカニズムや、街再生ビジネス、マンション建て替えなどを幅広く取り上げている)

買いたがる若い世代、売りたがる高齢世代

――住宅販売はコロナ禍でどのような影響がありましたか。

新型コロナウイルスの感染が拡大し始めた当初は、経済活動が停滞するので、お金に困って家を売る人がどんどん増えてくると見ていた。一方、みんな家を買うどころではなくなるのではないかと思い、仕入れを絞り込んでいた。


しかし、実際は2020年のGW明け以降、家を買いたいという人たちが大勢出てきた。ターゲットとしている1次取得者層は、子どもが成長したなど、コロナ禍とは関係なく生活ステージが変わる。購入者層は若い世代が多く、1回目の緊急事態宣言が過ぎ、いっせいに動いたというイメージだ。われわれの物件は月々の支払額が賃貸住宅と同等か、やや低い価格設定にしているので、コロナ禍でローンが組めなくなる人が少なかったこともある。

テレワークの進展によって郊外に住もうと思う人が増えているのも追い風だ。特に千葉、埼玉、神奈川県は確実に伸び、1次取得層以外のお客さんも増えている。もう少し離れた茨城県でも沸騰していて、長野、新潟県も物件が動いている。

一方、売る人は感染リスクが高いと言われていた、高齢世代が中心。(買い手が)「売る家を見たい」と伝えると、(売り手は)感染リスクを恐れて断られる。買い取りは接触ができないのでなかなか進まなかった。ただ、接触ができないだけで、人口動態的にも空き家は増えており、一時的に市場に出回らなかっただけだとみている。

――潜在的な売り物が溜まっているだけ、ということですか。

ワクチン接種が進めば、売り物が出てくる。その傾向は足元ですでに出ている。実際、仕入れは2020年10〜12月期が前年同期比3%増、2021年1〜3月期同15%増、2021年4〜6月期同30%増と、順調に回復している。

――中古住宅には“お化け”が出るという言葉がありますね(笑)。外見は良くても、内部をよく見たらひどい状態だった、ということがあると聞きます。


新井健資(あらい・かつとし)/ 1968年東京都生まれ。東京大学法学部卒業後、三和銀行(現三菱UFJ銀行)入行。3年間在籍後に退職し、28歳で都議会議員選挙に出馬したが落選。ベイン・アンド・カンパニーでコンサルティング業務に従事後、コロンビア大学ビジネススクールにてMBA取得。2004年よりリクルートにて住宅関連事業を担い、営業部長等を歴任。2012年やすらぎ(現カチタス)入社、代表取締役社長に就任(撮影:梅谷秀司)

空き家の買い取りを始めた当初は、すごく失敗が多かった。前身のやすらぎ時代に仕入れていた競売物件は、落札するまで中が見られないという制約はあるものの、裁判所がある程度、調査を済ませていた。そこで競売物件と同じ感覚で、どんどん仕入れていた。ところが、開けてびっくり。壁をはがしたらシロアリだらけで、リフォームそのものができない。雨漏りで柱が腐りかけ、屋根をふき替える必要が出てきて、100万〜200万円程度の追加修理では追い付かない、などなど……。

このまま調子に乗って仕入れを増やしていたら、それこそ再び会社が立ちいかなくなる、という一歩手前まで行きかけた。いったん仕入れのスピードを落としてでも調査力を上げないと、赤字物件の山に埋もれると、強烈な危機意識に苛まれた。

ただ、早期にこうした大失敗を経験したことで、逆に強固な買い取りができるようになった。購入手続きに進む前に、シロアリ駆除業者や工務店などと共同して徹底した実査(インスペクション)を行うように改めたのだ。当初はここまで面倒くさいことをしなくても、という不満が現場から噴出。格段に手間はかかるようになったが、品質面が大幅に改善し、現在につながっている。

「新築志向」の意識は変わってきた

まったく新しいことを始めたわけではなく、やすらぎ時代から古い家を再生してきたので、リフォームの勘どころはあった。なかったのは仕入れる際に、こういう調査をやればいいとか、こういう箇所は必ずチェックする必要があるなど、“お化け”の出る場所をあぶり出すノウハウだ。それも場数を踏むにつれ、リスクをコントロールするノウハウが蓄積してきた。

この10年近くの経験が積み重なったことが、同業他社にはない強みとなっている。戸建てはマンション以上に見えないリスク、しかも致命的になりやすいリスクが多い。単に古い家を買って売るだけと思われがちだが、リスクを最小化し、見極める技術が肝になる。外から見ると、簡単に儲けているように見えるが、実際に中古再販をやってみるとなかなかに難しいことがわかるだろう。

――日本は「新築至上主義」がいまだ根強いように感じます。中古市場の現状をどのように見ていますか。

使われるべき空き家が溜まる一方で、新築がどんどん作られていく。大きな矛盾と課題があると感じている。背景には長期的な人口減少の中での、新築の作りすぎがある。アメリカと比べると人口は3分の1なのに、新築は同じくらい建っている。日本は住宅流通に占める新築の割合が多すぎる。

それでも、新築志向という意識は、この10年ほどで変わってきたと感じている。国土交通省が「土地問題に関する国民の意識調査」の中で、新築と中古のどちらを所有したいかの定点観測をしているが、2007年には「新築」と回答した人の割合が7割を超えていたのに対し、直近2020年の調査では初めて5割を切った。流通している中古住宅が全体の2割しかないのに、この意識の変化は驚きだ。

ただし、供給サイドが消費者の意識の変化に追いついていない。

確かに、都心のマンションは2年ほど前から、新築よりも中古が増えてきている。一方、戸建ては、リフォーム済みで供給される中古が多くはない。良い物件さえ供給できれば、新築から中古へという意識の流れに追いつくのではないかと思う。

――新築の価格が上がりすぎたのも要因ではないですか。価格が下がれば再び新築優位に戻るのでは。

その要因は確かにある。年収がそれなりにあって、月々あと1万〜2万円を払えば新築が買えるとなれば、当然、新築に戻るだろう。特に都心部は景気変動など、さまざまな理由で地価が変動し、ボラティリティ(流動性)が高い。だから都心は価格差で中古が売れたりする。価格が下がれば、都心では新築回帰もありうる。

一方、われわれが主戦場とする地方では、過去40年間、バブル期も含め地価にほとんど変化はなく、新築回帰は起きにくいとみている。さらに価格設定には非常に気を遣っている。今の賃貸家賃と同じくらいの支払いで、中古の良い物件が買えるという価格設定は、非常に重要だ。

――3大都市圏以外で7割を仕入れていますね。なぜ地方にそれだけ強いのですか。

もともと前身のやすらぎは1998年の民事執行法改正に伴い、競売物件を落札し、リフォーム後に販売する事業に乗り出した。ネットも整備されていない当時は裁判所の近くに店舗を構えることでいち早く競売物件の情報を入手し、良い物件を仕入れることができた。そして全国津々浦々、地方裁判所の近くに出店していった、という経緯がある。

その後、競売物件から買い取りに転身、失敗などを重ねながら、ノウハウを積み上げると同時に、全国の工務店とのネットワークを構築してきた。

戸建ての買い取り再販は、土地と建物のうち、建物をリフォームして付加価値を付ける。つまり、土地の価格が占める割合が小さいほうが、付加価値を付けやすい。とはいえ、競合他社が地方物件に参入できるかといえば、いまから全国隅ずみまで店舗網を構えるのはコストに見合わない。人の採用も困難だろう。

クレーム発生をいかにコントロールするか

――中古の買い取り再販事業を続けていく中で、いちばん力を入れている施策は何ですか。

継続していることは、クレームの発生をいかにコントロールしていくか、高い品質のものを顧客に届けるかだ。住宅業界は新築でさえ、”クレーム産業”といわれるほど、クレームが多い。ましてや古い家をリフォームすると、かなりの確率でクレームが発生する。そこをいかにきちんと調査し、可能なかぎり不具合が起きないようにするか、そこに注意を払っている。

そのため、仕入れから販売まで、一貫して1人が責任を持つことも徹底している。新築と違い、中古戸建ては、100戸あったら100様のリスクを抱えている。万が一、クレームが発生した場合は、担当者が1次受けをする。すべて自分が責任を持つので、仕入れ前の調査も徹底し、仕入れ後のリフォームもていねいに行うようになる。

――しかし、一貫体制だと、1人が担当できる量にも限りが出てきます。持続的な成長が厳しくなってきませんか。

そこは今後の課題。今後成長を持続するためには、改善していかなければならない部分だ。分業したほうが目先の生産性は飛躍的に上がるだろう。

ただし、分業体制にして、クレームが発生したら担当部署に回すようになると、どこかで緩みが出てしまう。どんな仕組みを作ろうが、自分は仕入れだけだと思ったら、多少の瑕疵には目をつぶり、目標に向かって仕入れを行うだろう。そのような瑕疵物件は、仕入れたときにすぐに問題は出ないが、半年先や下手をすると1年後、とんでもない事態に陥る。多少効率は落ちたとしても、一貫体制は維持しなければならないものと考えている。

――いまは着実に人員も増え、利益の2桁成長も維持していますね。

いまは空き家もいっぱいあって、需要も旺盛だから、20〜30%の成長も可能でしょう、との声もよく聞かれる。確かに売り物はいくらでもあるので、ちょっと目をつむって、この程度の仕上がりでいいという売り方をすれば、2年くらいは相当な高成長ができる。

しかし、そんな家を買ってくださったお客さまは、ハッピーになれるのか? お客さまがハッピーでなければ、それはクレームとして表れる。そうなると、お客さまだけでなく、従業員も不幸になる。

つまり、今の体制で高品質を維持するためには、10%台の成長に抑えることが重要なのだ。住宅市場は非常に大きく、われわれのシェアは10%にも満たない。伸ばすことはそれほど難しくない。むしろ伸びすぎないよう、変なクオリティのものが出ないように、抑制することが重要だと思う。

だが、どこかでそれをブレークスルーして、10%以上に至る道を探っていかなければならないとは思っている。

――その次のステージはいつごろになりそうですか。

今2022年3月期が現在の中期経営計画の最終年度だが、次期の中計が終わるまでは今の体制でやれると思っている。その次を考えると、いまから手を打たなければならない。すでに社内的にはさまざまなプロジェクトを立ち上げ、品質を落とさずにどのように成長を維持できるのか、現場を巻き込んで、一所懸命検討をしているところだ。

もっとも、大上段に構えた、大それたことをやっているわけではなく、ちょっとした改善を繰り返しているだけだ。毎日、働いている人間には感じないほどの改善を、日々続けている。日々の小さな積み重ねが、大きな変化につながっているのだ。

再度選挙には出ない。ビジネスで解決する

――若い頃は政治家を目指していたそうですね。政界への再挑戦は考えていますか?

再度、選挙に出ることはない。政治もビジネスも、究極的に目指しているのは、世の中の課題を解決することだと思う。政治は法律の改正によるアプローチなので、さまざまな利害が絡んできて、実現へのハードルはかなり高い。たとえば、日本は新築を作りすぎだからと言って、新築に重税を課し、中古を流通させようとしたら大問題になる。

一方、ビジネスであれば、カチタスで中古の良い住宅を供給し続け、それが世の中に認知されて広まっていけば、気が付いたときには新築を買うより、中古のリフォーム済み住宅を買うのが普通、という世界観を作ることもできる。

いろんな調整をしながら進む政治の世界より、こういうターゲット層にこの価値を届けたいと課題に取り組み、いつの間にかスタンダードになっていくアプローチのほうが望ましいと思っている。

週刊東洋経済10月16日号(10月11日発売)の特集は「実家のしまい方」です