田んぼダムの排水調整ますを確かめる農家。通常は15センチほどの口径を4センチにして排水量を絞ることで水害の減少に役立てる(宇都宮市で)

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 東日本台風(台風19号)の上陸から12日で2年。堤防決壊などで家屋の浸水被害が相次いだ栃木県では、被災を教訓に田んぼダムの整備が進む。豪雨時、水田に雨水をためて河川増水を抑える。平時の水位管理も可能だ。自治体独自の補助で農家の理解も進み、6市町の約1200ヘクタールで完了した。

■手厚い独自補助 宇都宮市

 宇都宮市は、田川の氾濫で1026件の床上・床下浸水が起きた。市は20年度から田んぼダムを普及。8万立方メートルの目標貯留量の約2・7倍を確保した。

 普及の決め手は、市独自の補助だ。行政が全額補助で設置しても、田んぼダムの機能を維持するあぜなどの管理が農家任せだと負担が大きい。

 そこで市は、田んぼダムに取り組む農家への支援を強化。ダムの目安となる深さ30センチの確保に必要なあぜ塗り機の購入費や、用排水施設などの整備費の補助率を高めた。市農業企画課の高瀬基樹主任主事は「代替わりしても田んぼダムにメリットを感じられる制度として農家の理解を求めていく」と語る。

 田川上流域のうつのみや中央土地改良区の野澤秀昭理事長は「約20年前に整備したU字溝などが更新時期にある。田んぼダムの整備で、少ない農家負担で水田の寿命も延ばせる」と話す。

■スマート田んぼダムの実証調査 栃木市

 県内の田んぼダムは、宇都宮市192ヘクタールの他、小山市883ヘクタール、野木町38ヘクタール、大田原市36ヘクタール、栃木市20ヘクタール、上三川町10ヘクタールの計1179ヘクタールで整備が完了した。

 被災を機に新たな動きもみられる。栃木市は本年度、自動で水位調整できるスマート田んぼダムの実証に乗り出した。水田5ヘクタールの13カ所に水位計、1カ所に雨量計を設置。自動給排水栓による水管理の省力化と、遠隔で排水を調整する田んぼダム機能の両立を目指す。11月下旬まで調査する予定だ。

 県農地整備課は今後について「県域で田んぼダムを整備することでさらに防災につながる。効果を検証しながら地域の実情に応じた田んぼダムを普及させたい」としている。

〈ことば〉 東日本台風

 2019年10月12日、静岡県伊豆半島に上陸し、関東から福島県へ縦断した。全国各地で記録的大雨となり、7都県の47河川で氾濫、66カ所で堤防が決壊した。土砂流入や浸水などで農業関連被害額は2506億円に上った。栃木県の農業関連被害額は177億5900万円。