「銀行にお金を預けるのが損」だとわかる納得理由
なぜ「銀行にお金を預ける」と損をしてしまうのか?(写真:mits/PIXTA)
なぜお金持ちほど、銀行に預金しないのか? 「お金」のことをまるで知らない編集者の丑久保氏が、ファイナンシャル・プランナーの渡邊一慶氏に教えを授かる新刊『定期預金しか知りませんが、私、本当にお金持ちになれるんですか?』より一部抜粋・再構成してお届けする。
――いきなりなんですが、渡邊さん、本当に渡邊さんのお話をお聞きしただけで、お金持ちになる知識が得られるんですか? 言っておきますが、僕は高校も大学も受験せず、適当な推薦で入っちゃったので、本当に頭悪いですよ!
渡邊一慶(以下、渡邊):(のっけからなんて自己紹介だ……)ええ、大丈夫です。私も難しい言葉は使いませんし、可能な限り数字も使わないでおきます。丑久保さんは高校受験もされていないそうなので、では普通の中学生でもわかるあたりを目安にお話ししますね。
――おお! それなら僕にもわかりそうです。
そもそも「お金持ち」ってどんな人?
渡邊:では、早速ですが丑久保さん、もしもお金が無限にあったら、どんな生活を過ごしてみたいですか?
――うーん、それなら、大豪邸に住んで何台もの高級車に乗ってみたいです。世界中を旅行し続けて、高級料理も毎晩食べて……。
渡邊:いい生活ですね。毎日、そんな生活をしていては飽きてしまうかもしれませんが、一度は優雅な生活も経験してみたいですよね。では、丑久保さんは理想の生活を実現するために、何か努力や対策をしていますか?
――まさか(笑)。投資なんてしたことないですし、特別な勉強もしていません。そもそも、お金持ちになれるなんて思ってませんから、特別な努力も対策もしていません。
渡邊:そうですか。じつは、多くの人が丑久保さんと同じ状況です。特別な対策を取らないんです。その理由は極めて単純で、丑久保さんが今おっしゃったように「自分がお金持ちになれない」と思ってるからなんです。
――まあ、そうですね。想像はできても、実現させるのは無理でしょう。
渡邊:たしかに、なかなか現実は厳しいですよね。つまり、丑久保さんがお金持ちになるには、お金持ちの定義を変えるほうが得策です。たとえば、今の日本では、子どもの教育費や老後の年金で不安を抱えていたり、困っている人が多いですよね?
――はい、みんな困ってますよ。ただでさえ、子どもの教育や住宅ローンにお金がかかるのに、老後資金が2000万円も必要だとか。とてもじゃないが“無理ゲー”です。
渡邊:そうでしょう。でも、お金持ちだったら困りませんよね? 大豪邸や自家用機、何台もの高級車は持ってないかもしれませんが、どんな状況になっても絶対にお金に困らない人だったら、丑久保さんは「お金持ちだな」と思いませんか?
――(ちょっと考えて)はい、たしかにそうですよね。少なくとも、いわゆる「フツーの人」とは違うと思います。セレブというか、富裕層というか。
渡邊:そうですよね。私はスイスのプライベートバンクで働いていましたが、ヨーロッパではお金に困らない人のことを「富裕層」と言います。イメージと違いましたか?
――はい。てっきり、お金持ちのイメージって、プールつきの大豪邸で毎晩パーティーして、傍らに何台もの高級車を並べて……そんなイメージでした。
渡邊:それは、アメリカのお金持ちですね。日本では「欧米」とまとめて一緒に考える傾向がありますが、少なくともお金の世界では、両者はだいぶ違います。とくにアメリカと日本では、社会構造が何もかも違いすぎます。日本人がアメリカ型のお金持ちを目指すのは、じつは非常に危険なんです!
――危険! もうその言葉だけで、アメリカ型は断念します。そもそもアメリカ型のお金持ちにはなれそうにないですし……。
渡邊:真似するなら、むしろスイス型、ヨーロッパ型にしましょう。いいですか、ヨーロッパのお金持ちとは「お金に困らない人」なんです。これなら、自分もなれるかも、と思いませんか?
――まあ、アメリカ型よりは……。でも、僕のような一般人でもできる、将来お金に困らない方法なんて、本当にあるんでしょうか?
渡邊:ありますよ! スイスのプライベートバンクでは、世界中の富裕層の人たちが「資産を守る」ために投資をしています。そして、富裕層の人が、お金とどう向き合い、どのようにして資産形成をしているのかには共通点があるんです。まずは、そこからお話ししていきましょう。
1万円の原価はわずか25円
――でもそれって、もともとお金持ちだった人ではないですか? 僕のような一般人が真似しても無意味なような……。
渡邊:いえ、じつはそれも誤解です。たしかに、プライベートバンクのお客様は、起業家や経営者、お医者さんなどが多いです。しかし、彼らは事業の成功のみで財を築いたわけではありません。海外の富裕層というのは「事業の成功+資産運用」で成功者になった人です。富裕層がどのように資産運用をしているのかを学べば、丑久保さんも富裕層の仲間入りができるかもしれません。
――なるほど、事業と一言でいっても千差万別ですから、お金持ちになるには、資産運用のほうがカギになるわけですね。
渡邊:その通りです。では、なぜ資産運用がカギになるのか、簡単にお話ししましょう。まず、丑久保さんは、お金に価値はあると思いますか?
――それはもちろんです。お金がなければ生きていけないですし、欲しいものも買えないですからね。
渡邊:そうですよね。しかし、じつは、お金自体には何の価値もありません。
――ええっ! どういうことですか?
渡邊:日本には、紙幣と硬貨の2種類のお金がありますね。しかし、紙幣はただの紙切れで、硬貨はただの金属です。事実、1万円の原価はたったの25円です。子どもにお年玉として1万円をあげれば喜びますが、25円をあげたら悲しみますよね。
――たしかに。お年玉で25円なんて、あげるほうもあげるほうですね。
渡邊:では、どうして1万円だと喜び、25円だと悲しむのでしょうか?
――それは、1万円ならゲームソフトが2本くらい買えるけれど、25円ならお菓子もろくに買えないですからね。
渡邊:じつは、それがお金の正体です。お金はモノやサービスと交換して、初めて価値があるものになるんです。たとえば、大卒の初任給が20万円だとします。初めてもらった給料って嬉しくなかったですか?
――そうですね。初めてもらった給料は嬉しかったです。ふふふ、じつは未だに初任給は、そっくりそのまま銀行に預金してるんですよ!
渡邊:え! それはすごい……。で、では、同じ20万円の初任給をもらったとしても、ジュース1本が20万円だったとしたらどうでしょう?
――まさか! 1か月がんばって働いた給料で、ジュース1本ですか? それでしたら20万円の給料はまったく嬉しくないですね。でも、そんなに急激にモノの値段が上がることってあるんですか?
渡邊:たしかに、ジュース1本が20万円というのは現実的ではないかもしれません。しかし、モノの値段って、毎日同じでしょうか? たとえば、車に乗る人はガソリン価格、主婦の人はスーパーでの野菜の値段、旅行好きの人は海外旅行の値段を想像してみてください。レギュラーガソリン1リットルの値段が、100円から150円に値上がりすると50%の値上がりになります。キャベツ一玉の値段が100円から200円になれば、100%の値上がりです。このくらいの価格変動は、実際にあり得る話ですよね。
――そう言われてみれば、モノの値段は日々変動していますね。
渡邊:ガソリン価格は原油価格によって変わりますし、野菜の値段は天候や災害などに左右されます。海外旅行も為替の影響を受けますね。このように、私たちの身の回りにあるモノやサービスの価格は、つねに変化しているのです。
――あまり意識をしたことはなかったですが、たしかにモノやサービスの価格は毎日同じではないですね。
渡邊:もしも、お金自体に価値があるのなら、1万円で買えるモノやサービスは、つねに同じでなければおかしいですよね。お金の価値がつねに一定であれば、「今日は安い」とか「今日は高い」と感じることはないはずなんです。
「今のお金」と「過去のお金」の価値は違う
――少しお金の正体がわかってきたような気がします。お金の価値は、モノやサービスの値段によって変わるということですね。ん? あれ、ということは……?
渡邊:お、何か気づきました?
――僕が銀行に預けている初任給の価値も、当時とは変わっているということ?
渡邊:ええ、その通りです。もちろん、それは丑久保さんだけの話ではありません。銀行に預金をしておけば安全だと思っている人も多いと思いますが、そんなことはないんです。たしかに、銀行に100万円を預けておけば預金残高は減りませんが、モノやサービスの値段は変化していますからね。物価が上がれば銀行に預けているお金の価値は減ってしまいますし、反対に、物価が下がればお金の価値は増えます。
――じゃあ、物価って上がることのほうが多いから……。
渡邊:はい。残念ながら、お金の価値は減っています。丑久保さんが銀行に預けた初任給の価値は、当時と比べて下がっていると考えられますね。もちろん、最低限の生活費くらいは、預金に置いておいたほうがいいとは思います。しかし、預金残高だけに注目している人は、お金自体に価値があると思っている人なのです。
――あ、でも銀行預金には利子ってありますよね。たとえば、僕の20万円に年間1%の金利がついてれば、物価の上昇に対抗できませんか?
渡邊:そうですね。一概には言えませんが、丑久保さんが初任給20万円を、その条件で10年間預けていたとしましょう。税引きとかもありますが、だいたい21万6000円くらいにはなります。ただ問題は、今の銀行預金の金利が低いことなんです。1%も金利がある大手銀行なんてありません。
銀行に預けてもお金がまったく増えない理由
――たしかに。銀行にお金を預けていて、お金が増えたと感じたことはないです。銀行の金利って、昔からこんなに低かったんですか?
渡邊:いいえ、そんなことありません。私は実際に経験したことはないのですが、バブル期の銀行の金利はものすごく高かったんですよ。銀行の定期預金の金利が6%、郵便局の定期貯金の金利は8%もあったのです。
――そんなに高かったんですか! うらやましい時代ですね。今って……。
渡邊:今現在(2021年7月)、大手銀行の定期預金の金利は0.002%です。バブル期の8%と比較すると、4000分の1の金利しかつきません。
――そんな低い金利しかつかないなら、預金でお金が増えるはずないです!
渡邊:ええ、その通りです。私たちの親世代やバブルを経験した人たちは「預金をしときなさい」が口癖でしたが、正直なところ、今の金利で預金をしたとしても「今は預金でお金が増える時代ではない」というのが現実です。金利が高いか低いかで、実際どのくらい私たちの生活に差が出るのかを具体的な数字で比較してみましょう。少し前に、老後2000万円問題が話題になりましたよね?
――はい。安心した老後を送るには「年金プラス貯蓄残高が2000万円くらい必要」と話題になったニュースですね。
渡邊:そうです。もし今現在1000万円の資産があるとして、預金だけで2000万円を準備しようとした場合、8%の金利と0.002%の金利で、どのくらい差が出るのかわかりますか?
――えーっと……。どのくらいかはわかりませんが、けっこうな差が出ます!
渡邊:(い、潔い!)金利が8%の場合は9年で2000万円を準備できるのに対して、金利が0.002%の場合は3万6000年もかかってしまうのです。
――3万6000年!? それって、僕たちが生きている間には、絶対に実現不可能じゃないですか!
渡邊:そうです。預金と投資の違いを簡単に説明すると、今現在の金利水準が続いている間に資産が2倍になることはないのが預金、資産が2倍になる可能性があるのが投資なのです。