ポップカルチャー通の間では毎年、その年の夏を象徴する「ソング・オブ・ザ・サマー(この夏の1曲)」は何かと話題になる。アップビートの踊れる曲で、ビルボードチャートの上位に入るような人気があると同時に、その年の本質を的確に捉えた曲でなければならない。より具体的に言えば、現実をしばし忘れてホッとひと息つけるような曲だ。

「誰もが楽しめる「ポケモンユナイト」は、いま最も求められている“盛り上がり”をもたらしてくれる :ゲームレヴュー」の写真・リンク付きの記事はこちら

ステイホームの号令と自主隔離の追い風を受けて史上最高の活況となったゲーム業界でも、ここにきて2021年を象徴する「ゲーム・オブ・ザ・サマー」がついに登場したのかもしれない。そのゲームはワクチン接種後の人々の心に響くような社会性と、長引く新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)の不安を和らげる明るさをもちあわせている。おまけに古き良き時代を振り返る人が多いなか、いくらかの懐かしさもあるのだ。

そう、7月21日にNintendo Switch向けにリリースされた「ポケモンユナイト(Pokémon UNITE)」こそ、まさに21年の夏を象徴するゲームではないだろうか。シンプルで一度始めたらやめられないチーム戦略バトルゲームが、最も必要とされている絶妙なタイミングでわたしたちの緊張をほぐすべく登場したのだ。

シンプルで楽しいMOBA

ポケモンユナイトのバトルは、5対5のチーム戦になっている。各プレイヤーはポケモントレーナーとなり、自分が選んだポケモンを1匹ずつ送り出す。チームが勝利を収めるには、敵のゴールエリアにできるだけ多くのゴールを決めて得点を稼がなくてはならない。得点を入れたり、マップ上に点在する野生のポケモンや相手プレイヤーのポケモンを倒したりすることで経験値がたまり、ポケモンがレヴェルアップしていくシステムだ。

レヴェルが上がるとより強力なわざが解放される。例えば、ヒトカゲはゲーム開始時には「ほのおのうず」と「はじけるほのお」しか覚えていない。しかし、リザードやリザードンに進化すると、遠距離攻撃わざの「かえんほうしゃ」や近距離攻撃わざの「ほのおのパンチ」などをカスタマイズできるようになっていく。

ポケモンユナイトは、「リーグ・オブ・レジェンド」や「Heroes of the Storm」に代表されるMOBA(マルチプレイヤー・オンライン・バトル・アリーナ)という大人気ジャンルを果てしなくシンプルに楽しくしたゲームだ。ポケモンユナイトのバトルでは毎回、小さな成果や大きな成果、大きな失敗が続き、最後に勝利か敗北のカタルシスを迎える。

ゲームのテンポも気持ちいいほどいい。バトルの幕が開けると、プレイヤーが放ったポケモンたちは野生の小さなポケモンを次々と攻撃しながら、敵のゾーンにゆっくりと近づいていく。敵のゲンガーが背中を向けた隙にゴールにダンクを決めればポイント獲得だ。エオスエナジーが満タンなら、敵のポケモンたちがうろうろしている危険なゾーンへと深く突き進んでゴールしよう。一気に50ポイントを獲得できるかもしれない。

ただし、調子に乗って相手の拠点に近づきすぎると、敵が一気に襲ってきて50ポイントを失ってしまうこともありうる。失敗しても負けるものかと気合が入るし、学べることも多いだろう。しかもほかのMOBAタイトルと違い、ポケモンユナイトの勝敗は試合終了の瞬間までわからないのだ。

試合時間は10分で仕組みも比較的シンプルなので、少なくとも最初のうちはゲームにイラつくことはあまりない。ただ、まだ使いこなせないにもかかわらず、子どものころのお気に入りだったフシギバナについ執着してしまうことはあった(とはいえ、どのポケモンを選んでも楽しく遊べる)。

ゲームの知識がなくとも楽しめる

ポケモンユナイトには基本操作をマスターするためのチュートリアルがしっかり用意されているし、たとえうまくプレイできなくても誰かに怒られることはない。テキストやヴォイスによるチャット機能はオフにできるからだ。

その代わり定型文が用意されていて、「上ルートに向かいます」といったメッセージを送れるようになっている。やがてほかのプレイヤーと協力してわざを出したり、わざを連携したりといった戦略が使えるようになると、ポケモンユナイトは子ども向けのサッカーゲームというより「FIFA」シリーズのような様相を呈してくる。

だからといって本質的に複雑なゲームだというわけではない。やりこもうと思えば好きなだけ打ち込めるし、おもしろ半分でプレイしているからといって責められることはない。MOBAやポケモン、それどころかヴィデオゲームに関する一般的な知識がない人でも、ポケモンユナイトをプレイする方法を覚えて楽しめるのだ。

頭を振り絞ってすべてのポケモンを分析し、損失を最小限にとどめるミニマックス戦略を立ててもいいだろう。ソング・オブ・ザ・サマーと同じで、ゲームもややこしければ満足度が高いというわけではないのだ。

ソング・オブ・ザ・サマーは心に響くだけでなく、気分を盛り上げる。バーベキューに集まった人はみんな踊り出し、ビーチでは誰もがビートに乗って頭を揺らす。ポケモンユナイトはいまのこの奇妙な時代に、他人とどのくらい交流してもいいのか、もっと広く言えば昔のようにのんきに暮らせる日が来るのかどうかわからず不安を抱えるわたしたちの気持ちを盛り上げてくれるゲームだ。

ミレニアル世代なら、90年代にブームを巻き起こしたポケモンをプレイするうちに甘酸っぱい懐かしさが蘇ってくるだろう。友人と一緒ならますますノスタルジーに浸れる。

ポケモンユナイトのあまりに盛り上がりぶりに、ゲームから離れていた人たちは刺激を受けて(もしかしたら「あつまれ どうぶつの森」を鼻で笑っていた人も)、Nintendo Switchのほこりを払い、音信不通になっていた友達を誘ってプレイしている。デルタ株が全米で猛威を振るっているいまはインドアで楽しめる点もいい。

ポケモンユナイトは(比べるのもおかしな話だが)ジャスティン・ビーバーのダンスナンバーほど心に訴えかけてはこない。「ポケモンGO」ほど、あらゆる人を夢中にさせる力もない。プレイできるプラットフォームがNintendo Switchだけだからだ(ただし、スマートフォン版が9月22日に配信される)。

しかし、ポケモンユナイトは発売のタイミングのみならず、プレイ形態も狙ったターゲット層もまさに時代にぴったり合っていた。その懐かしいキャラクターや友好的な雰囲気、肩に力の入らないバトルが室内にいる人たちを結びつける。何にも増して、わたしたちが切実に必要としている絶妙なタイミングで、ほかの人と一緒にちょっとした盛り上がりを楽しめる場を提供してくれるゲームなのだ。

※『WIRED』によるゲームのレヴュー記事はこちら。