空庭温泉につかる2人の女性

 ワクチン2回接種済みの証明書を見せれば、平日通常2640円の入館料が60歳未満は1500円に、60歳以上なら1000円になる。

 そんな優待を7月から始めたのが、大阪市の「空庭温泉」。2019年にオープンし、若い女性客に人気の温泉型テーマパークだ。

 運営会社である大阪ベイタワー合同会社の清水隆太さんは、大胆な優待を始めた意図をこう話す。

「当施設は、従来型のスーパー銭湯と違い、圧倒的に客層が若いんです。このサービスを機に、60歳以上の方にアピールするとともに、若い世代にワクチン接種を促したい狙いもありました」

 特に宣伝はしなかったが、優待は口コミで広がり、期限は9月末まで延長となった。

■黒毛和牛のステーキが1680円→980円に

「空庭温泉」のように、ワクチン接種済みの人を対象にした割引サービスや、さまざまな優待を受けられるキャンペーンが急増している。

 特に熱心なのが自治体だ。東京都文京区は、120店舗以上が参加するキャンペーンを実施中だ。護国寺のイタリアン「スペランツァ」では、通常1680円する「黒毛和牛のステーキ」や「うにのトマトクリームパスタ」が、なんと980円で食べられる。

「多くの店がキャンペーンに参加しているので、思い切った価格を提示しないと埋もれてしまうと、勝負に出ました」(店主の松田悠生さん)

 現在は65歳以上が対象だが、文京区によると、好評につき対象年齢の拡大を検討中だという。

 地域振興に詳しい、法政大学大学院政策創造研究科の増淵敏之教授が注目するのは、中国・四国地方を中心に坂本冬美や純烈といった人気歌手のコンサートなどを手がけるグッドラック・プロモーションの優待だ。いったいどんな内容なのか。

「コロナ禍で、エンタメ業界には大きな逆風が吹きました。同社の優待は、一公演につき500円が観客に料金還元されるというもので、まるで “大入り袋” を先に配り、お客さんに来てもらおうとする逆転の発想です。契機づけとして有効で、ユニークな優待だと思います」(増淵教授)

 同社の担当者が、優待の効果を語る。

「キャンペーンを始めた5月頭は、医療従事者の方がポツポツ来てくださる程度でしたが、7月には一般の年配の方にも利用いただくようになりました。

 それでも、まだ会場には空席が目立っていたのですが、8月29日に倉敷市で開催したサンドウィッチマンさんらが出演するお笑いフェスでは、この優待を利用して300人が来場し、当日、会場で計15万円を配りました。ワクチンが、確実に若い層にも届いていることを実感します」

 和食レストラン「庄屋」など、九州で100店舗以上を展開するフードプラス・ホールディングスは、接種済み証明書の提示で、本人とその同伴者の会計が10%割引になるサービスを6月から始めた。同社の萩原洋一郎常務が語る。

「『庄屋』では当初、ワクチン接種済みで、60歳以上のメンバーズカード会員の方を対象に10%引きになるサービスを始めたのですが、飲食業にとってワクチンこそがコロナ禍での光明だと気づき、多くの人に接種が進むようにと、すぐに接種者すべてをサービスの対象としました」

 今は、1日約3万人(休日)の来客のうち、8%が割引サービスを利用しているという。

■ボリューム満点のカレーが実質無料

 大手居酒屋チェーンでは、ワクチン接種者を対象に、ワタミは生ビールなどドリンク1杯を無料で、モンテローザは1円で提供するサービスを打ち出している。だが緊急事態宣言下では、飲食店による酒類提供は御法度だ。居酒屋ライターの塩見なゆさんが語る。

「緊急事態宣言下の地域の居酒屋が、酒類の提供自粛や臨時休業を強いられている一方、地方のホテルや旅館が飲食部門により力を入れ、お得感を打ち出しているように見えます。

 11月以降は、緊急事態宣言下でも、ワクチン接種者は県をまたぐ移動が認められるようになりそうです。観光地を巡るのではなく、飲食を目的に、宿に滞在する人も増えるでしょうね。

 個人的には、ラグナスイート新横浜でシウマイ弁当がもらえる優待に惹かれます(笑)」

 冒頭では自治体の取り組みを紹介したが、いわばひとつの “街” でもある大学も、独自の優待を出している。学内でのワクチン接種の際、学生に周辺の商店街で使える500円ぶんのクーポン券を配ったのが関西大学だ。

 学生街のカフェレストラン「ケープコッド」は、リモート授業でキャンパスから足が遠のいていた学生に向け、ボリューム満点の「おかえりなさいカレー」を新発売。クーポン券で食べられる500円で提供している。

「新学期が始まっても、9月中はオンライン授業が継続されることが決まり、学生さんはまだ戻ってきません。せめて、ワクチン接種に来られた学生さんにお得なメニューを用意し、迎え入れたいですね」

 外科医で早稲田大学理工学術院の宮田俊男教授は、この取り組みに感心する。

「関西大学のような学生向けの優待が、多くの大学に広まってほしいですね。大学にはさまざまな分野の人材がいるのですから、国や自治体まかせではなく、店に独自のお墨付きを出し、利用を促進することもできるはずです。

 これまで大学は周囲の商店街に支えられてきたわけですから、ワクチン接種が進んだ今こそ、恩返しをするべきときだと思います」

 ワクチン接種では、発熱などの症状が多数報告されている。だが、こんなオトクな “副反応” が得られるなら、大歓迎だ。

取材/文・鈴木隆祐

(週刊FLASH 2021年9月28日・10月5日号)