筆者が購入した2008年式の初代カイエンS。車両価格は、値引き込みで105万円(筆者撮影)

ポルシェと言えば、言わずともしれたドイツの名門スポーツカーメーカーだ。「911シリーズ」を筆頭に「718シリーズ」など、スポーツカー好きなら憧れの存在であり、高嶺の花というイメージが強いだろう。


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そんなポルシェ中古車サイトで検索すると、執筆時に100万円以下で44台ヒットした。その内訳は、ボクスターが11台、残りの33台はカイエン。とくにカイエンは、もっとも安いもので50万円前後から売りに出されている。もちろん価格的に初代モデル限定になるが、ベースグレードだけではなく、V8エンジン搭載の「カイエンS」、V8ターボエンジン搭載の「カイエンターボ」も100万円以内で選べるほどだ。

しかし、「格安ポルシェなんて買って大丈夫?」と思う読者も多いだろう。そこで今回は、実際に車両価格100万円のカイエンSを購入してみたので、購入費用や維持費なども含めて、「中古ポルシェはお買い得なのか」という部分を掘り下げていきたい。

ポルシェの売れ筋プレミアムSUV「カイエン」とは


現行モデルの「カイエン」「カイエンS」「カイエンターボ」(写真:Porsche)

簡単にポルシェのプレミアムSUVであるカイエンについて紹介しよう。カイエンは、2002年にポルシェ初のSUVとしてデビューし、現行モデルは3代目になる。ポルシェが発表した2021年上半期(1〜6月)の世界新車販売台数によれば、総販売台数は15万3659台となっており、モデル別ではカイエンが4万4050台と最多の販売台数を記録。次いでひとまわり小さいSUVの「マカン」が4万3618台、「911シリーズ」が2万611台、「718シリーズ」が1万1922台、「パナメーラ」が1万3633台、EVスポーツの「タイカン」が1万9822台という内訳になっている。

スポーツカーメーカーとして確固たる地位を築いてきたポルシェだが、販売面で見ればカイエンとマカンというSUVで全体の57%を売り上げているのだ。ポルシェのイメージリーダーは紛れもなくスポーツカーの911だが、販売を支えているのはSUV。時代を遡れば、1990年代に経営不振に陥ったポルシェを救った車種がカイエンでもある。


初代カイエンSのリアビュー(筆者撮影)

カイエンは、同じグループのフォルクスワーゲンと共同開発したモデルだ。そのプラットフォームは、カイエンのほか、フォルクスワーゲン「トゥアレグ」やアウディ「Q7」と共通となる。この3台はバッジ違いのように思わがちだが、実際はカイエンがハイパワーなエンジンを搭載していたり、Q7は3列シートを採用していたり、キャラクターに違いがある。そんなカイエンの初代は2002年発売なので、初期モデルは販売から20年近く経過している。

ちなみに2010年のフルモデルチェンジで2代目、2017年に現行モデルにあたる3代目が登場している。中古車価格を見ると、初代は50万円から探すことができ、ボリュームゾーンは160万円前後となる。2代目は200万円からでボリュームゾーンは400万円前後、3代目は500万円からで年式的に新しいので800万円台が多くなっている。


現行型の3代目カイエン。価格は1096万円からとなる。もっとも高いカイエンターボGTは2725万円(写真:Porsche)

3代目の中古車になるとお値打ち感が少ないが、初代はもちろん、2代目でも200万円台で乗れるので、価格だけを考えれば国産車と大差はない。ちなみにラグジュアリーセダンの「パナメーラ」も年式や走行距離によっては200万円台から買えるので、ポルシェと言っても911を除けば意外と手頃に手に入るのだ。

ポルシェクルマは、そこまで値崩れしないイメージだが、カイエンに関して言えば人気車種で販売台数が多く、かつ新型へ乗り換えるユーザーも多いことから格安中古車が増えているのだろう。大排気量かつ車体も大きいため、持て余してしまうユーザーも多いのかもしれない。また初代は最終型でも10年以上が経過しており、100万円以下で出回っているのは自動車重量税が上がる13年以上経過した車両ばかりだ。

初代カイエンSを買った経緯


カイエンSを買うまで乗っていたミニ・クーパーS(筆者撮影)

ここからは、実際に100万円のカイエンを買った経緯や感想についてまとめたいと思う。まず、筆者の愛車遍歴を簡単に紹介しておくと、学生時代にホンダ「シビック(EG型)」をはじめて買い、その後にマツダ「RX-7(FD3S型)」、ホンダ「S2000(AP1型)」、ミニ「クーパーS(R53型)」と、2ドア&マニュアル車ばかり乗り継いできた。そして人生初のポルシェは、人生初の4ドア&オートマ車だ。そんな偏ったクルマ選びをしている筆者の感想として今回の記事も読んでいただきたい。

まず筆者は、トヨタの少し古い「クラウンワゴン」を狙っていた。霊柩車でたまに見かける130型のベンチシート&コラムシートが欲しくて半年ほど探していたのだが、昨今のネオクラシックブームでタマ数が少なく、程度のよい車体は軒並み100万円以上という中古車価格。そこで中古車価格が安く、かつラグジュアリー感もあり、所有欲を満たしてくれそうなカイエンに目をつけたわけだ。ポルシェに乗りたいというより、カメラ機材が積める荷室の広いクルマというのが第一条件だった。


筆者が購入したカイエンSのサイドスタイル(筆者撮影)

そして買ったのは2008年式、いわゆる「後期型」の初代カイエンS。エンジンは、V8・4.8Lで、走行距離は9万1500km、車両本体価格は108万円で3万値引きしてもらったので105万円だった。13年落ちということで、それなりに内外装も経年劣化はあるが、ワンオーナー車+ディーラー整備記録簿付きで比較的きれい、かつ下取車で相場より少し安い価格設定だったので購入した。2カ月経過した今のところトラブルもなく、快調に走ってくれている。

ちなみに購入したのは正規ディーラーではなく、輸入車をメインに扱っている比較的大手の中古車ディーラーだ。輸入中古車を買うなら正規ディーラーの認定中古車が安心だが、価格優先で選んでみた。

初代カイエンの見分け方やグレード構成

初代カイエンを簡単に説明しておくと、大きく前期型(955型)と後期型(957型)にわかれる。2006年のマイナーチェンジ前後で内外装やエンジンが異なるので、中古車を買うときには注意してほしい。主なラインナップは、V6エンジンの「カイエン」とV8エンジンの「カイエンS」、V8ターボエンジンの「カイエンターボ」の3つで、基本的には前期も後期も同様だ。そのほかにも「カイエンターボS」や「カイエンGTS」などもあるが、バリエーショングレードのようなものなので、まずは3つのグレードに注目してもらいたい。


購入したのは、初代の後期モデルにあたるカイエンS。エンジンはV8 4.8Lになる(筆者撮影)

エンジンは、マイナーチェンジの際にV6エンジンが3.2Lから3.6L、V8エンジンが4.5Lから4.8Lに排気量を拡大している。ちなみに筆者が購入した後期型のカイエンSは、4.8Lの自然吸気エンジンで385ps(前期型の4.5Lエンジン340ps)とパワーは十分だ。さらに後期モデルは、直噴化やバイオカム・プラスなども採用しているので、エンジントラブルも少ないように感じる。

そこで筆者も後期モデルに絞り、カイエン/カイエンS/カイエンターボの3台を試乗してみた。当初はトップグレードのカイエンターボを買うつもりだったが、乗り比べて街乗りで大差を感じなかったのでカイエンSを購入。個人的に大排気量NAのフィーリングが好みだったというのもある。ターボのような速さはないが、フラットなトルク感は街乗りでも非常に扱いやすい印象を受けた。あと、部品点数の少ないNAのほうが修理にお金もかからないだろうという理由もある。


カイエンSの内装。ベージュ&レザーシートで、年式は古いが高級感もある(筆者撮影)

最上級グレードのカイエンターボは、なんといっても500psを発揮するV8 4.8Lツインターボエンジンが魅力だ。ただ、ターボエンジンの場合、部品点数も増えるのでトラブルが出る可能性も高く、修理費用も高くなる。あと、カイエンターボは、全車標準でエアサスなので、サスペンショントラブルも気になる。


ラゲージルーム。ボディサイズに比べると少し狭いが実用性としては十分(筆者撮影)

とくに初代カイエンは最終モデルでも発売から10年以上、初期モデルなら20年近く経過している。中古車は何かしらトラブルが出るのが当たり前と思って買うべきだ。そう考えると、ベースグレードのカイエンか、V8モデルのカイエンSがよい気がする。あと、個人的には試乗したカイエンSがサンルーフなしだったのも購入した決め手になった。サンルーフ付きだと雨漏りがすることもあるので、極力シンプルなクルマを買うのが、こういった中古車を買うときの鉄則だと個人的には考えている。

また、今はエコの観点からダウンサイジングやハイブリッドカーが主流で、今後EVが増えていくだろう。その前に大排気量エンジンのクルマに乗っておきたかったとうのもある。

車体は大きいが、小回りも利いて使い勝手は良好


リアビュー。13年落ち、9万kmオーバーの車体だが、大きなキズもなく、比較的きれいな状態(筆者撮影)

実際に買ってみた感想は大満足というのが本音だ。全長4810mm×全幅1930mm×全高1700mmと大きなクルマだが、意外にも取り回しがよく、都内の狭い道でも不満なく走れるし、古いといっても新車価格1000万円のクルマなのでラグジュアリー感も満点。クルマに詳しくない人から見れば、型落ちでもポルシェなので注目度も高く、ちょっと武骨な初代カイエンのスタイルは個人的に好みだ。

じつは社外ホイールも購入済みで、少しリフトアップしてアウトドアテイストにカスタムしようかなとも考えている。なかなか新車や高価な中古車では、カスタムやチューニングしようという気にならないが、安価な中古車なら後先考えずにイジり倒してもいいかなと思えるものだ。こういったクルマ遊びが気軽にできるのも手頃な中古車の魅力だろう。


カイエンに限らず、樹脂製レンズのクルマはヘッドライトの変色が気になるが、透明度も比較的保っていた。ただ、内部に多少浸水している状態だった。これはカイエンでは定番のトラブル(筆者撮影)

ネガティブな要素としては、車幅が大きいので駐車場を選ぶことだろう。実際に筆者もミニ・クーパーSに乗っていたときに借りていた月極駐車場に問い合わせたところ、カイエンはNGと断られ、駐車場探しに苦労した。都内の場合、立体駐車場はもちろんだが、青空駐車場でも車幅制限を設けていることがあるので注意が必要だ。


メーターまわり。走行距離は9万1639km。ただ、納車後に100kmほど走行しているので、購入時は9万1500kmほどだった(筆者撮影)

あとは維持費の問題。排気量が4.8Lなので自動車税が年間7万5500円、車検ごとにかかる自動車重量税は2tオーバーかつ13年経過しているので4万5600円になる。さらに燃費もお世辞にもよいとは言えず、普段乗りだと5km/Lと、今どきのエコカーとは比較にならない。100Lという大容量のガソリンがみるみる減っていくので覚悟が必要だ。ハイオク指定で1回の給油が1万円を軽く超えるので、燃費には目をつむり、そのぶん走りを楽しむべきだ。


カーナビは、比較的新しいカロッツェリアのものに交換済みだった。そのほか後部座席用モニターも装着していた(筆者撮影)

そして気になるメンテナンスや修理費だが、まだ乗りはじめたばかりなので、また1年や2年が経過した時点でタイミングがあればお知らせしたいと思う。ただ、カイエンを扱っているショップによると、よく壊れる部分については、安いOEM部品も出回っているので、それほど修理費が高くなることもないという話だ。

実際に筆者が購入したカイエンSもリアゲートのダンパーが抜けていて、リアゲートを開いた状態で保持できなかったので、納車前に修理してもらったが部品代込み4万円で済んだ。ネット通販などでリアゲートダンパー単体が1万円程度で販売されているので、自分で交換すれば安く修理できるだろう。

リセールを気にしないなら中古の初代カイエンもあり


SUVらしく、ラゲージルームの両側に電源もついているのがありがたい(筆者撮影)

「最新のポルシェが最良のポルシェ」という言葉もあるが、50万円から買えるなら初代カイエンも狙い目じゃないだろうか? 初期費用&維持費を抑えるのであれば、前期モデルのV6 3.2Lエンジンを乗り捨てる気持ちで買うのも手だろう。また、少しでも安心に乗りたいのであれば、比較的年式も新しく、200万円台から見つかる2代目もおすすめだ。

ただし、50万円台となると走行距離10万kmオーバーが当たり前なので、しっかりと車両やメンテナンス履歴を確認してから購入してほしい。修理費用が車両価格より高くなってしまうこともあるので注意が必要だ。とはいえ、新車価格1000万円以上のカイエンが100万円で手に入るなら満足感も高い。この機会にカイエンに限らず、中古輸入車もチェックしてみてはどうだろうか?