テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第190回は、10日に放送されたテレビ東京系経済ドキュメンタリー番組『ガイアの夜明け』(毎週金曜22:00〜)をピックアップする。

2002年4月のスタートから今年20年目の節目を迎え、さらに4月から金曜22時台に移動。『ワールドビジネスサテライト』の22時台移動により、他番組が23時台に移動する中、この番組だけは22時台に据え置きされ、火曜からの曜日移動に留まったことが示唆に富んでいる。

『ガイアの夜明け』案内人の松下奈緒


○■最新情報からの手堅いスタート

オープニングは、「無印良品のイメージ。シンプルで都会的……ですかね? しかしそれが今大きく変わろうとしているんです」というナレーションと「無印良品が変貌!?」というテロップからスタート。

続いて、「日本で初めての“MUJIバス”。走る、走る、でもどこへ?」というナレーションと、「5年後、10年後、30年後、100年後にこの地域が盛り上がっていく」という社員のコメント。さらに「一方、東日本大震災の被災地で道の駅に初進出。そこでは特産品の発掘まで担います」というナレーションと、「ちょっと泣きそうになります。ごめんなさい……」という社員のコメントが流れたあと、「なぜ変わろうとしているのか。あなたの町にも……無印がやってくる」と締めくくった。

このオープニングはコンパクトに放送内容をチラ見せしたものだが、スタート早々に「無印良品の新たな試みを情報として見せつつ、社員の奮闘を感動的に見せるヒューマンドキュメンタリー」と分かるのではないか。つまり、ネタバレを受け取った上で安心して、ほどよく学び、ほどよく感動したい人に向けた番組なのだろう。

まず映像は、関東最大級の有明店からスタート。同店の松橋衆店長に人気のコーナーを尋ね、「一般的なマンションの間取りをリアルに再現したフルリノベーションを提案するモデルルーム」「食にも力を入れていて、特に人気なのがミールキット」「レトルトカレーは43種類あり、目当ての来店客も多い」など語った。さらに、カレーの売れ筋トップ3を発表。3位は「素材を生かしたカレー プラウンマサラ」350円、2位は「素材を生かしたカレー グリーン」350円、1位は「素材を生かしたカレー バターチキン」350円で、視聴者への最新情報提供から入る手堅い構成だ。

ここで案内人の松下奈緒が登場し、1980年に西友のプライベートブランドとして40品目からスタートし、2000年8月に東証1部上場、生活雑貨や文房具などの定番商品が登場したことなどを紹介。今年9月にはファーストリテイリング出身の堂前宣夫さんが新社長に就任し、2030年に売上高3兆円、2500店舗(現在国内453・海外541店舗)を目指す新戦略を打ち出した。無印良品をこの番組でフィーチャーするには、今が最高のタイミングなのだろう。

○■現場社員インタビューに人間ドラマ

その新戦略とは、「地域への土着化」。同社の企画書に書かれた文字を見せる演出がいかにも経済系の番組らしい。

その見本と言える新潟県の直江津店をフィーチャーし、直江津店の古谷信人さん(41歳)にインタビュー。古谷さんはオープンの1年前に現地へ移住し、地域の問題点やニーズをとことん調べつつ、上越のものだけを扱った売場「なおえつ良品市場」を実現させた。

地産地消に貢献するだけでなく、車体に「MUJI to GO」と書かれたバスでの移動販売も実行。役所の地域共生課とも協力し合いながら、すでにこれまで月に3〜5回、計100か所以上を訪れているという。最後は古谷さんが「目先のメリットや利益より、未来に向かってこの地域が盛り上がっていく。すると来店客も増えて、東京に流れていく人を抑えられるかもしれませんし」と語るシーンで締めくくられた。

次にフィーチャーしたされたのは横浜・港南台バーズ店と村田佳代さん(30歳)。1970年代に建設された野庭団地は住民の半数が高齢者で、買い物に困っている人が多いという。リーダーを任された村田さんは横浜市と連携しながら、港南台バーズ店から3km離れた野庭団地での出張販売を進めていく。

番組はここで村田さんへのインタビューを挿入。「20歳で入社」「新店舗の立ち上げに初めて関わる」「原点は静岡のおばあちゃん。酒屋をやっていて半分飲み屋で集いの場所になっていて自分もそういう場所を作りたい」などの思いが語られた。この番組はドキュメンタリーだが、まるでドラマのような起承転結のある人間ドラマがきっちり組み込まれている。

その後、初めての出張販売から、住民と顔なじみになった様子、80歳の男性から収納の相談をされる姿などに密着。さらに村田さんの「お客様のお悩みに沿ってパーソナルな部分を一人一人個人で話できればなと思ってますね。“御用聞き”が一番目指すべきもので、ホントに三河屋さんのような感じだと思います」というコメントでまとめた。

○■『WBS』とのシームレスな印象

3つ目にフィーチャーされたのは、震災から10年が過ぎた福島県浪江町の道の駅なみえ店。無印良品の道の駅出店は初めてで、「『若い人が集まって復興に弾みがついてほしい』と地元で期待されている」という。

ここでの主役は「志願して赴任してきた」という佐々木陽子さん(39歳)。隣町の南相馬市出身であり、震災当時は埼玉の店で働いていたため、地元へ戻ってきたのは20年ぶり。さらに佐々木さんは同町産業振興課の一員となり、“浪江町地域おこし企業人”として町役場でも働くことになった。同町は「まだ7%の1500人しか戻ってきていないため、魅力ある町にして帰還者を増やしたい」という課題を抱えているが、無印良品の出店後、道の駅なみえの来客が2割増えたという。

また、佐々木さんは特産品の発掘にも力を入れていて、えごま農家の石井絹江さん(69歳)の作った、えごま油をネットストア「諸国良品」や銀座店でのイベント「にほんの良品」で販売。無印良品は浪江町に限らず、全国の生産者たちが抱える「販路」という悩みを解消するほか、本当の「良品」を販売するというブランディングも狙っているのだろう。

さらに番組は、佐々木さんが石井さんにえごま油が販売される様子を見せて喜ばせるシーンで終了。終盤にプロジェクトの仕掛け人である金井政明会長のコメントもあったが、それは補足に過ぎず、この番組の本質とも言えない。

同じテレ東の『カンブリア宮殿』は経営者をフィーチャーして経営戦略や成否の経緯などを掘り下げていくが、『ガイアの夜明け』は現場の声を優先。その大半は社員たちであり、今回の放送でもアラサーやアラフォーの女性が活躍する姿を追うなど年齢やジェンダーのバランスもよく、働く人々にとっての人生賛歌になっている。

タイトルにある「夜明け」という表現ほど、低迷から立ち直る企業や個人にスポットを当てた内容ではないが、職場で戦い続ける人々を追う番組であることは変わらない。放送時間が22時台に据え置きになったのはメインスポンサーの日経絡みなのかもしれないが、結果的に『ガイアの夜明け』から『ワールドビジネスサテライト』に続く並び順のほうが見やすい感がある。それは「見慣れているから」だけでなく、まるで1つの番組のようにシームレスな印象があるからかもしれない。

提供には、日本経済新聞社を筆頭に、Canon、Jeep、after Fit、REALIZE GROUP、CITIZEN、大塚製薬、Money Forward、Nitto、日立物流、NAGAWA、dip、クラレが名を連ね、この点から見ても手堅さが際立っている。実際、「この番組で取り上げられたい」と願う、あるいは「この番組で紹介された」と喜びの声を上げる企業関係者は多く、そのブランディングだけを取っても放送価値は高い。

○■次の“贔屓”は…コロナ禍のロケでどう笑わせるのか? 『笑神様は突然に…』

『笑神様は突然に…』に出演する千鳥 (C)NTV


今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、19日に放送される日本テレビ系バラエティ特番『笑神様は突然に…2021秋SP』(19:00〜)。

“笑いの神が降りてきた瞬間”を凝縮して見せるロケバラエティ。他局が特番を乱発する中、レギュラー番組でしっかり勝負する日テレが年3〜4本ペースで放送していることが、その価値を物語っている。

今回は「チーム竹内涼真」「IKKOの開運ルームツアー」「笑神恒例!ロケバトル」「チーム千鳥」の4本立て。コロナ禍でロケの難易度が高くなっている今、改めてその強みを考えていきたい。

木村隆志 きむらたかし コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月30本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。 この著者の記事一覧はこちら