撮影:小嶋文子

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黒木華と柄本佑がW主演を務める、映画『先生、私の隣に座っていただけませんか?』が、9月10日より公開される。

【金子大地】映画『先生、私の隣に座っていただけませんか?』インタビュー写真

夫・俊夫(柄本)の浮気を確信した漫画家の妻・佐和子(黒木)が、不倫を題材にした漫画を執筆。その内容が現実とリンクしていることを知った俊夫は、佐和子を投影していると思われる主人公にも不倫相手がいることから、実際の佐和子も不倫しているのでは?と疑い始める。

金子大地が演じるのは佐和子の不倫相手で、自動車教習所で佐和子を指導する教官の新谷歩。まさに漫画から出てきたような好青年で、夫の不倫に悩む佐和子の心を掴んでいく。

ただ、新谷は漫画の登場人物でもあり、本当に佐和子と不倫をしているのか、それとも佐和子の妄想として描かれているのか、それは、俊夫にも、そして映画を観る側にもはっきりとわからないまま物語が進んでいく。

金子自身、現実なのか、妄想なのか、わからない世界で生きる新谷を演じることはとても難しかったという。黒木、柄本に、俊夫の不倫相手・千佳役の奈緒、佐和子の母・真由美役の風吹ジュンらと肩を並べて演じた本作で、感じたことは? また、今、金子が演じるということに対してどういう想いを抱いているかなど、たっぷりと語ってもらった。

これまで演じた役の中で一番、自分自身とは遠いキャラクター

――脚本を読んだときの感想を教えてください。

不倫を題材としているんですが、誰が観ても楽しめる作品だと思いました。佐和子を黒木さん、俊夫を佑さんが演じることを想像しながら読んだので、すごく面白いものになるだろうな、と。

僕が演じた新谷という役については、難しそうだな、と感じました。佐和子の妄想なのか、実際に起きている現実のことなのか、わからないように演じてほしい、と監督から言われましたし、これまで僕が演じた役の中でも一番、自分自身とは遠いキャラクターだったので。

スマートで、年下だけどリードもできて、爽やかに立ち振る舞う、みたいな人で、現実には絶対いないだろうな、と。かと言って、いわゆるキラキラした青年かというと、そうではないとも言われて。

すごく難しかったので、都度、監督に相談していました。監督が寄り添って、一緒に考えてくださったので、演じられたのかな、と思います。

――監督からは具体的にどんな指示がありましたか?

とにかく「優しく、柔らかい感じで」と言われていました。それをやりきることで、逆にミステリアスに見えるのかな、と。人間って普通に過ごしていたら多少雑なところが出ると思うのですが、新谷はそれが全くないんです。

あと新谷が佐和子の実家を訪れる場面も、観ている人によって、新谷の言っていることが本当なのか、嘘なのか、どっちにも見えるように、というのは意識していました。そこがこの作品の面白いところでもあるので。

何かを手本にしてしまうと、結局、それの真似事になってしまうので、自分の中にある邪念や悪いものを全部取っ払って、とにかく純粋に、真っ直ぐ寄り添えたらいいな、と思って演じました。

――この物語の中で、新谷は観客をキュンとさせるような、ポジションでもあると思うのですが、そこを意識することはありましたか?

果たしてあれで女性をキュンとさせられるのか心配です。何よりミステリアス過ぎて(笑)。

佐和子もミステリアスな存在なので「2人の関係は本当なのか?」「現実の教習所であんなことが行われているのかな?」ということも含めて疑ってしまうのが、この映画なのかな、とも思うので、良かったんだと思っています。

どういう人か丸見えの俊夫がいて、全く見えない新谷がいて、その対比も面白いので、観てくださる方にも伝わるといいな、と思います。

――自動車教習所の教官という役どころはどうでしたか?

まず、上手く運転ができる人に見えるかどうかが不安でした。たまに運転はしますが、先生と言われるほどの技術はないので(笑)。自分が教習所に通っていたときのことを思い出しながら演じました。

でも、新谷みたいな先生はいないですよね。あんなに丁寧に教えていたら、毎日、疲れてしまうと思います。ただ佐和子さんは一目見た瞬間から想う人でもあるので、佐和子さんへの接し方や、言葉遣いなどは考えながら演じていました。あと、僕とは全く異なる話し方をするので、そこも難しかったです。

教官と生徒の恋愛は「2人に同じ気持ちがあれば」

――ちなみに、現実にあんなシチュエーションがあったら、恋愛感情は芽生えると思いますか?

芽生えると思います。よく考えると結構距離も近いですし、2人だけの空間にずっと一緒にいるわけですし。2人に同じ気持ちがあれば、芽生えると思います。

――胸キュンのセリフもたくさんありましたね。

言わせていただきました(笑)。自分だったら絶対に言えないような言葉なので、ぎこちないところもあったかもしれません。だいぶ苦労しました。

――細かいところなのですが、新谷が佐和子の実家を訪れたときの私服姿が印象的で。教官のときと全然雰囲気が違っていて、かわいいな、と(笑)。

僕もプライベートは少年みたいだなと思いました(笑)。田舎の青年でもあるので、ファッションには疎いんだと思うのですが、衣装合わせのときから、新谷は何から何まで邪念がない人なんだな、と感じました。

――金子さん自身が印象に残っている場面はどこですか?

佐和子の実家で、全員(佐和子、俊夫、新谷、千佳、真由美)が揃うシーンは印象的でした。僕の隣に(佐和子の母・真由美役の)風吹(ジュン)さんがいて、目の前に佑さんがいて。お母さんはたぶん大体、今の状況を把握していて、それなのに新谷に優しくて。

あとは全体として佐和子と俊夫の夫婦の空気感が好きでした。ひたすら受けに回る俊夫が良いですよね。佐和子が描いている漫画を通していろんなことを知って、汗が止まらなくなってしまったり(笑)。あれは僕でも勘違するだろうな、とか。

俊夫に共感するのはどうだろう?とは思いますが、佑さんが男の心情みたいなものをリアルに演じているので、感情移入してしまいました。人間味があるんですよね。

――佐和子は新谷に一目ぼれしますが、新谷はいつから佐和子のことを意識していたと思っていましたか?

新谷もたぶん最初に出会ったときから、佐和子に対して何かを感じていたんじゃないかと思っていました。

――初回の教習から新谷は佐和子にとても優しい言葉をかけていますが、その時点からもう意識はしていたと?

気があってあの言葉をかけていたと思うと、わりと恋愛経験が豊富で、落としにかかっているようにも捉えられてしまうので、そう観てはほしくないな、と思いつつも、やっぱり最初からなのではないかと思います。だって、佐和子さんかわいいですよね(笑)。

監督とは特にその気持ちについて話すことはなかったんですが、僕は、あのときには多分恋に落ちていた、と思って演じていました。

――佐和子は結婚しているので、不倫ということになりますが、それもわかっていたんでしょうか。

これを言うとまた新谷の印象が悪くなってしまいそうですが(笑)、佐和子にちょっと隙があったんじゃないかと思うんです。さすがに隙が全然なかったら新谷もいかなかったんじゃないかな。今、こうやって話していて、だんだん新谷像が見えてきました(笑)。

――確かに、佐和子は夫の浮気を確信している状態だから、普通の状況ではないですものね。そんな佐和子を演じた黒木さんとの共演はどうでしたか?

とても素敵な方でした。2人きりでお芝居することが多くて、運転もしながらで、しかも自分にはない言葉遣いもしなくてはいけなくて緊張していたんですが、黒木さんが緊張させない雰囲気をつくってくださいました。

好きな漫画やアニメの話をしたり、気さくに、フラットに接していただいたので、すごく演じやすかったです。常に落ち着いて、平常心でいらっしゃったので、僕の方が“先生”と呼びたかったくらい(笑)。映画では新谷がリードしていきますが、実際は逆で、ガチガチの僕を、黒木さんがリードしてくださっていました。

――黒木さんを始め、柄本さん、風吹さん、奈緒さんたちとの現場の雰囲気はどうでしたか?

以前から画面越しに観ていた方たちなので、5人が揃うシーンはどんな感じになるのだろう?と、すごく楽しみにしていました。皆さん、フラットな方で、逆に黒木さんと2人きりのシーンよりも少し力を抜いて演じることができました。

スタッフさんも含めて、堀江監督もすごくやわらかい方だったので、そういう空気になったのかな、と思います。

あと、僕は黒木さんやスタッフさんからは“王子”と呼ばれて、いじられていました(笑)。佑さんは“殿”って呼ばれていたんですが、佑さんがお会いした一発目から「王子〜!」って来てくださったので、僕も「殿!」と呼んで仲良くなれました(笑)。

佑さんはいろんなことに対して偏見がない、真っ直ぐで純粋な方という印象で、それでいていろんな経験も積んでいるので、人間としても、役者としても深みがあって、大好きになりました。「こういう人になりたいな」と思える方です。

「金子くんはTikTok見る? 俺、最近ずっと見ちゃって、止まらなくて寝れないのよ」と話しかけてきてくださって。まさか俳優・柄本佑から“TikTok”という言葉が出てくるとは思わなかったですし(笑)、さっきも「K-POPにハマってて」と言っていて、そういうところが面白いですし、素敵です。

面白いな、と思える作品をやれたときは、出演シーンが一瞬だったとしても、すごく楽しい

――金子さん個人のお話しも少し聞きたいのですが、ことしの前半は舞台に2作連続(『ザ・空気 ver.3 そして彼は去った…』『パンドラの鐘』)で出演されて、新たにMCのお仕事(『ムビきゅん』TBS)も始めていますね。MCは苦手そうだな、と勝手に思っていたので、意外でした。

苦手ですが、一つひとつ苦手を克服していこうと思っています。まだまだなので、(放送は)いい感じに編集していただいています(笑)。

――そうなのですか(笑)。一緒にMCをしている内田真礼さんとのやり取りも面白くて、楽しく観ています。それから、舞台も拝見させていただいたのですが、すごく生き生きとしている印象がありました。

半年間、舞台しかやっていなくて、お芝居づけの日々だったので、生き生きとしていたのかもしれないです(笑)。楽しかったです。でも、すごく難しくもあって。頑張らなきゃ、という想いも強かったです。

――その経験を経て、演技に変化が出ることは?

それが未だにお芝居というものに慣れなくて、舞台、映像に限らず、一つひとつの作品が初めての感覚なんです。毎回、勝負だと思っているので、緊張もしますし、これからもそうでありたい、という想いもあります。

――特に舞台はすごく楽しく演技されているように見えたのですが、それだけはではない、と。

もちろん楽しい時期もありますが、今は逆に一つひとつが怖いというか、ちゃんとやらなければ、という想いが強くなっています。

そのときにしかできないお芝居があると思っていて。例えば、過去作のときの芝居を、今できるか?と言われたら、できなくて。ただ、それはレベルが落ちているからか、というと、そういうことでもないんです。

置かれている状況によって、それは仕事でもプライベートでも、たとえ小さなことでも、お芝居って変わってくる。本当に繊細な仕事だな、と思います。

それを一つひとつ忘れたくないんですが、人間って忘れていくものだと思いますし、それを維持することは難しい。そうすると、蓄積ほど怖いものはない、とも思うんです。お芝居は経験を積めば積むほどできるようになるものでもないので、そこは真っ白にしなくてはいけない。

やっぱり舞台を半年もやると、手垢のようなものはついてしまうので、そこは怖いな、と感じています。だからこの半年で得たものはすごく大きかったんですが、今は一旦映像にシフトしています。(映像での)繊細な感情表現だったり、セリフの言い方とかが、(舞台の経験で)少し図太くなってしまっているので(苦笑)。そこは改めて大切にしたいと思っています。

――演じていて、今、楽しいと感じるのはどんな瞬間ですか?

何だろう。難しいですね。何だろう……でも、自分が面白いな、と思える作品をやれたときは、自分の出演シーンが一瞬だったとしても、すごく楽しいと思えます。そこは、自分の作品に対するモチベーションを上げて、どこまで真摯に取り組めるか、にもよるので難しくもありますが。

――面白い、というのは、完成作を観て、感じることですか?

現場でお芝居している時点で、感覚的にわかるものでもあります。このチームでやっていたら、すごくいいものが出来ているんだろうな、って。逆もあります。現場では勢いでやっていて、「どうなるんだろう?」と思っていたものが、良かったということも。

映画『サマーフィルムにのって』(公開中)は、とても楽しい活気ある現場でありつつも、「どうなるんだろう?」と思ったこともあったんですが、結果的に、すごく面白いものになったし、周りからの反応も良くて嬉しいです。

ただ今のところ、現場でいいな、と思っていたものが、完成したらダメだった、という経験はないので、感覚的ではありますが、予想がハズれたことはまだないです。

――今おっしゃったことを踏まえて、今後、どんな作品をやってみたい、と思いますか?

そこが難しいんですが、そうやって、やって良かった、楽しかったと、僕も、関わった人みんなも感じた作品が、必ずしもヒットに繋がるとは限らないんですよね。この仕事をしている以上、いくら良い作品であったとしても、結果的にたくさんの方に観ていただきたいので、そういう意味で、パーフェクトな作品に出会えるって、どういう感覚なんだろう、と思います。

ものづくりをしていると、突き詰めて、深く掘り下げていくことで、場合によってはお客さんを置いていってしまうようなこともありますよね。なので、作り手側がやりたいことをやって、それが全部お客さんにも伝わるエンターテインメントは素晴らしいんだろうな、と思います。

――もうすぐお誕生日を迎えて(9月26日)、25歳、二十代も折り返しになりますね。

自分はまたまだだと思いますし、もっともっと頑張らなきゃと思います。映画、ドラマ、舞台といろいろ経験させていただけていることは、僕の基盤になっていると思うので、その基盤を固めながら、一つひとつ上がって行きたいです。


現実か、妄想か……新谷の本当にどちらとも言えない存在感のおかげで、最後の最後、エンドロールが流れる瞬間まで、そして映画が終わったあとも、楽しめる作品となっていました。

金子さん自身は「果たしてあれで女性をキュンとさせられたのか」と照れながら答えていましたが、キュンもしっかりと届けてくれながら、最後までドキドキする展開を演出してくれた金子さんの姿は、ぜひスクリーンでご確認ください。

作品紹介

映画『先生、私の隣に座っていただけませんか?』
2021年9月10日(金)全国ロードショー