MINIMIは30年かかっても調達が完了せず挫折(筆者撮影)

9月2日配信の「陸自の機関銃装備体制に穴がありすぎて不安な訳」では、陸上自衛隊普通科の個人装備の後進性を指摘したが、個人携行火器に関しても陸自普通科はお寒い限りだ。とても先進国の陸軍とは言えないレベルにある。

1999年から採用された9ミリ機関拳銃は運用構想が半世紀以上古い。陸自のコンセプトは空挺部隊の将校や対戦車火器の要員などの個人防御用で、100m程度の有効射程とのことだった。当初は1950年代にソ連が採用したスチェッキン・マシンピストルのようなフルオートの拳銃を想定していた。すでにその時代は歩兵のボディアーマーの装備が標準化されており、9ミリ拳銃弾を使用する短機関銃を上記の目的で使うのはナンセンスといえる。

ところが、わが国の拳銃メーカーであるミネベア(現・ミネベアミツミ)にそのようなフルオート射撃可能な拳銃開発能力はなく、イスラエルのウージー短機関銃をデッドコピーしたような短機関銃ができた。ところが銃床がないので、近距離以外はまともに当たらない。空挺部隊の幹部や火器要員の自衛用という目的には合致しない。

しかも評価用に調達した外国製サブマシンガンを排除して、いちばん低性能・高価格なこのミネベアの製品が9ミリ機関拳銃として採用され、1丁44万円という単価で調達された。この程度の短機関銃ならば、当時ならば5万円程度で、調達できただろう。

カービン型は採用できなかったのか

本来ならばアメリカ軍がM-16小銃の銃身を短くしたカービンであるM-4を採用したように、89式小銃のカービン型を採用すればよかったと思う。


評価に値しない機関拳銃(試作品)(写真:陸上自衛隊提供)

カービンにすれば開発費用も少なく、調達コストも下がったはずだ。通常の89式とほとんど同じだから訓練も弾薬も共通化できる。機関拳銃は機甲科の装甲車輌乗員用にも採用されるはずだったが、89式の折り畳み式銃床型が採用された。

現在使用されている「9ミリ拳銃」はSIG社のP220をライセンス生産したものだが、自衛隊の特殊部隊OBによると「9ミリ拳銃」は2500発も撃つとフレームにクラックが入ったという。他国なら完全に不良品扱いだが、自衛隊では要求仕様で耐久性を明示せず、耐久試験すらもしていなかった、ということになる。当事者能力の欠如ではないだろうか。


自衛隊の9ミリ拳銃(筆者撮影)

「9ミリ拳銃」の後継の新拳銃は昨年度、H&K社のSFP9の輸入調達に決定した。新型拳銃が輸入に切り替わったのは、調達単価がオリジナルの数倍もするということだけではなく、このようなメーカーの能力不足にも原因があったのだろう。

これによってミネベアミツミの自衛隊向け火器調達はなくなった。国産メーカーを優遇した結果がこれである。ミネベアの拳銃生産は、警察と海保向けだけとなるので事業規模が小さくなる。拳銃生産から撤退する可能性もあると筆者は予測している。


陸自が採用したH&K社の拳銃SFP9(筆者撮影)

小銃の先端に装着して発射する06式小銃擲弾も時代遅れと言わざるをえない。小銃擲弾は第2次世界大戦中に流行し、1950年代には廃れた代物だ。アメリカ軍含めて他国ではライフルの銃身の下に装着したり、単体でスタンドアローン型の40ミリ(ソ連系装備の国は30ミリ)のグレネードランチャーを使用したりするのが普通だ。

これらに比べて小銃擲弾は命中精度の低さや弾種が限られていること、連射ができないことなどの欠点は多い。21世紀になってもこのような骨董品をわざわざ開発、装備しているのは世界を見渡しても陸自ぐらいであろう。

自衛隊は国産兵器を開発する言い訳として「わが国独自の環境と運用」をうたい、他国に存在しないものを開発しようとする。が、40ミリランチャーにすると外国製と競合して価格、性能とも勝てない。実際に2020年に採用された20式小銃では、外国製の40ミリグレネードランチャーの採用も決まった。これは事実上、06式小銃擲弾は失敗だったという証左だろう。

諸外国が小銃をシステムとして調達しているのに比べ


豊和工業が開発した20式小銃。弾倉など一部コンポーネントは国産できず輸入品を採用(筆者撮影)

89式小銃の後継として採用された20式小銃にしても運用と調達構想が時代遅れだ。諸外国ではすでに小銃はグレネードランチャーや光学サイト、フラッシュライトなどのシステムとして調達している。だが陸自にはそれがなく、小銃単体での採用計画だけで、システムとして導入する運用構想や計画がないようだ。40ミリグレネードランチャーにしても具体的な調達計画は示されていない。

しかも20式小銃は現用の89式と同様に約30年かけて調達される予定だ。だが大抵諸外国では6〜8年である。毎年少ない調達数だと調達単価は高くなる。事実89式の調達単価は諸外国の数倍、最大8倍程度であった。


20式小銃公開時に同時展示されたベレッタ社の40ミリグレネードランチャー。調達の詳細は決まっていない(筆者撮影)

そして調達期間の終盤に初期に調達したものが廃棄されることも多く、本来予定した調達数がそろう期間が極めて短い。つまり調達計画が最初からから破綻していることになる。しかも89式と長期にわたって併用されるのでその間の訓練や兵站は2重になって効率も悪い。


20式小銃(左)と89式小銃(筆者撮影)

その89式も平和ボケの産物と言っていい。一般的にアサルトライフルの安全装置は左側か両方に装備されている。これは(右利きの)射手がグリップを握ったまま迅速に操作を可能とするためだ。昨今では左利きや市街戦などで、左手でグリップを握って射撃する際に有利なように両側に装備されている。だが89式はそれ以前の64式同様に右側に安全装置を装備した。このため右利きの射手はグリップを握ったまま操作ができない。左利きの射手にしても安全装置の位置が悪いので握ったままでは操作できない。

これはイラク派遣という「実戦」になって問題となった。このため派遣部隊用の89式には右側にも安全装置が装備された。ところがイラク派遣終了後この左側の安全装置は取り外された。普段の「訓練」だけが仕事になるからいらない、ということだろう。しかしその後に市街戦の重要性が認識されて再び装着されることとなった。

陸自はオーストラリアで毎年春に開催されている豪州陸軍主催の射撃競技会、AASAM(Australian Army Skill at Arms Meet)に2012年から参加している。

初回はビリから2番目だった。サバイバルゲーマー以下の知識で競技に臨んだからだ。競技会に備えて民間の訓練会社が訓練を申し出たのに、「われわれは軍事のプロだ。民間人ごときに教えを乞う必要はない!」と突っぱねた。ところが、他国は数倍のスコープを使って射撃する競技で等倍のドットサイトを使って参加した。

まさに井の中の蛙、大海を知らずだった。その後民間の教えを受け入れて上位に入るようになった。ただ、問題はそこでの知見が、装備調達にまったく生かされていないことだ。総じて見れば陸自普通科携行火器に関する知見が乏しく、諸外国の動向に無関心で、調達は天下り先の国内企業に仕事を作ることが目的化している。

先進国レベルとは言えない

とても先進国レベルとは言えず、人民解放軍はもちろん、中進国の韓国、シンガポール、南アフリカなどはもちろん、日本からODAを受けているトルコやヨルダンなどからも遅れている。しかも調達計画がずさんである。

最大の問題は陸自にその自覚が欠如していることだ。「どうせ戦争なんぞ起こらない」とタカをくくっているのだろうか。

組織的に当事者意識と能力、そして想像力が欠如している。プロとしては失格レベルだ。だからイラク派遣という「実戦」が決まったら、大慌てで装備の改修を行った。だがそれが終わればキレイに忘れてしまう。組織の文化に根ざしているだけに問題の根は深い。