Photo:モーター性能向上には希土類が欠かせない ©sawahajime
 

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●需要があれば価値が生まれる

 車とは全く関係無いエピソードから始めよう。北欧ではニシンの酢漬けが名物だ。

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 昔、彼の地に赴任した日本人駐在員が、彼の国の人達はニシンだけを食べて、腹の卵は捨てていたので、勿体ないからと貰い受けて、日本国内で食べる様な「数の子」料理として楽しみ、知り合いの日本人にも分けて喜ばれていた。

 ところが、最初は捨てていた漁師は、ニシンの卵に価値があると判ると、金を要求する様になった。つまり、需要が無ければ無料だったり、有料でも安価だった品は、需要が発生し、それが次第に大きくなれば、価格は高騰する。

●希土類(レアアース)

 レアアースは蓄電池や発光ダイオード、磁石などのエレクトロニクス製品の性能向上に必要不可欠な材料である。

 ウィキペディア(Wikipedia)によれば、 『希土類元素(きどるいげんそ、英: rare-earth element・REE)又はレアアースは、31鉱種あるレアメタルの中の1鉱種で、スカンジウム 21Sc、イットリウム 39Yの2元素と、ランタン 57La からルテチウム 71Lu までの15元素(ランタノイド)の計17元素の総称である。周期表の位置では、第3族のうちアクチノイドを除く第4周期から第6周期までの元素を包含する。なお、希土類・希土と略しており、かつて稀土類・稀土とも書き、それらは英語名の直訳であり、比較的希な鉱物から得られた酸化物から分離されたことに由来している』とある。

●希土類が重要になった

 1970年代の電気自動車(EV車)は「鉛蓄電池」を使用していた。

 その次の世代のバッテリーは「ニッケル水素電池」だ。このバッテリーを、最初に使用したのは「アメリカ海軍の航法衛星(NTS-2)」であった。

 ニッケル水素電池の代表格は、「ウオークマン」等で使用していたスティック状のあれだ。そして、この次の世代が「リチウムイオン電池」である。

 1990年代、車載電池に、より高性能な「リチウムイオン電池」を採用したのは日産のみであった。

 以上の歴史を見れば判る通り、希土類に対する需要は、昔は無かった。

 今や、車載電池は「リチウムイオン電池」となり、その性能向上や、「モーターの性能向上」には希土類が欠かせない。

 EV車には「車載電池」と「駆動モーター」が必要で、バッテリーには勿論、モーターの性能向上にも希土類が欠かせない。

 希土類の多くは、中国のシェアが大きい。それは、希土類の生産に際しての環境破壊の問題や、生産に従事する労働者の労働環境や人権に関する問題が、先進国では考えられないレベルだからで、その分安価に生産することが可能だからだ。

 中国が世界基準の労働環境であり、人権や自然破壊に配慮していたら、中国に優位性は無い。

●不足した際に技術でカバーできる日本

 尖閣での「中国漁船体当たり事件」の直後に、中国側から希土類の輸出を規制され、日本が苦労する場面があった。

 しかし、日本は代替素材を研究したり、使用量を削減しても所期の性能が確保できる技術の開発に邁進した。

 結果として、中国側の思惑に反して希土類の使用量が減少し、蛇口を絞って困らせようとしたものが、需要減少によって逆に彼等が不利益を被る結果となった。

●対抗できる技術が無ければ

 本来、厳密に管理されるべき戦略物資であるフッ化水素を、極めて杜撰な管理をし、使用した仕向け先、消費量や使途内容を正しく報告をしなかった結果、日本は管理を強化し、韓国はホワイト国から外された。

 このフッ化水素の「輸出厳格化」では、高純度のフッ化水素を生産する能力の無い韓国は、正しく申告さえすれば従来通りに日本から輸入可能であるにも拘わらず、過去の不正を隠蔽したいが為に、何かと言いがかりをつけてきた。

 その結果は、管理の厳格化で入手不可能となって、即刻製品生産に支障が出た。

 表面上は「大きな支障は無い」様なコメントを出しているが、本来適応不能な低純度のものを使用すれば、生産設備に悪影響もある上、当然歩留まりに影響するし、勿論最初から対応不能となるケースも少なく無い。

 結局、日本の高純度フッ化水素無しでは、かっての様な生産効率で生産継続をすることは不可能となった。

●技術立国

 日本の希土類の場合は、一時的には苦境に立たされたが、技術力でこの難局に対応し、希土類の使用量を削減したり、代替品研究した結果、多少のコストアップはあったが何とか切り抜けることが出来た。

 大事なのは、技術力なのだ。

●技術は敵対的供給制限に対抗できる

 価格は需要と供給で決まる。

 従来、100の分量を使用して製作したものを、使用量を半分、1/3、1割といった具合に減らすことや、性能を落とさずに他の素材に置き換えたりすることにより、尖閣事件後の希土類の様に対応するには、技術以外に頼れる術は無い。

 日本の技術力があったからこそ、需要量を削減し、供給量を削減されても影響を最小限度に抑え込むことが出来た。

●技術の流出防止に努めるべき

 資源の少ない日本は、技術力を磨くことが最重要課題である。

 同時に、技術の無い他国の一部は、日本人技術者をヘッドハンティングして、用が済めばお払い箱にする他、不法な手段を用いてでも手に入れようとするから、これ等の国からのハッキングや盗窃に対する備えも怠ってはならない。