仕事のデキる人はほとんど買わないが、デキない人ほどよく買っているものがある。銀座の高級クラブ「クラブ由美」のオーナー・伊藤由美さんは「それは使い捨ての傘です。モノを大切にできない人は、人も大切に扱うことができないのでしょう」という――。(第2回)

※本稿は、伊藤由美『「運と不運」には理由があります 銀座のママは見た、成功を遠ざける残念な習慣33』(ワニブックスPLUS新書)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/kazuma seki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuma seki

■仕事がデキる人は“モノ”を大切に扱う

「僕はバットを投げることも、地面に叩きつけることもしません。プロとして道具を大事に扱うのは当然のことです」

アメリカのメジャーリーグで活躍したイチロー選手の言葉です。彼は「野球がうまくなるには道具を大事にすること」とも言っています。イチロー選手が「道具を大切に、ていねいに扱う」のは有名な話。彼は打席で絶対にバットを投げませんでした。

ホームランを打ったときでも、空高くカッコよくバットを投げる選手が多いなか、彼はそっとバットを置いて走り出しました。もちろん三振や凡打に倒れても、エラーをしても、怒りや悔しさに任せてバットやグローブを投げつけるようなことは一切しませんでした。

一流の人の振る舞いとは、こうしたことを言うのだと、私は思います。仕事がデキる人は道具を大切にします。いい仕事をするためには、常に安心して快適に使える道具が必要なことを知っているからです。

仕事がデキる人は、仕事で使う道具はもちろん、日常生活のなかで使用するすべての“モノ”を大事に扱います。適当に選ばずに厳選して気に入ったものを購入し、きちんと手入れをしながら長く、大切に使おうとするでしょう。

包丁の手入れを怠る人はプロの料理人ではありません。カンナやのこぎりを乱暴に使う人はプロの大工ではありません。楽器をていねいに扱えない人はプロの音楽家ではないんですね。

■銀座のママが注意してみている仕事道具

私の仕事道具のひとつが着物です。私にとっての着物は、銀座の華やかさを演出するための衣装であると同時に、心を引き締めてお客さまをおもてなしするための“戦闘服”でもあるのです。ですからその手入れは欠かせません。

季節ごとの衣替(ころもが)えどきに、クリーニングに出すのはもちろん、常に湿気や汚れ、ほころびなどに気をつけてメンテナンスし、いつでも万全の状態で着られるように心がけています。また、草履も毎日きれいに拭き手入れし、着物柄や色に合わせて選んでいます。

ビジネスマンの仕事道具にもいろいろありますが、私が注意して見ているのは「靴」です。これまで銀座で多くの企業経営者や地位のあるお客さまとお会いしてきましたが、仕事がデキる方やビジネスで成功されている方は、総じて靴を大事にされています。

写真=iStock.com/dimamorgan12
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みなさんやはり高価な靴を履かれていますが、そのお値段以上に、こだわりを持たれているのですね。履いた靴は毎回自分で磨く、休日にはまとめて靴の手入れをする、傷んでしまったらリペアに出してちゃんと直す――そうした「大切に使おう」という意識を持っている方も多いのです。

いつも手入れが行き届いている靴からは、「モノを大事にする人」「見えないところにまでしっかりと気を配れる人」という印象が伝わってきます。逆に手入れをしていない汚れた靴は「道具に気を使わない人」「汚れても放っておく人」というネガティブな印象につながってしまうことも。こういうことは一事が万事なのです。

■デキない人はビニール傘を使い捨てしている

必要以上に高価な靴である必要はありません。それよりも、自分が履きやすく仕事しやすい“お気に入り”を探そうとする気持ち。そして、お気に入りを見つけたら、手間暇をかけて手入れして、末永く履こうとする気持ちが大事なのです。

よく、雨が降るたびにビニール傘を買って、使ったら使いっ放しという人がいます。急な雨の場合は仕方ありませんが、最初から「傘はビニールを使い捨てにすればいい」というのはいかがなものでしょうか。

確かに今はさまざまなモノが安価で手に入る時代です。一度使ったらそれっきりの使い捨てグッズがあふれ、「汚れたら洗うより」「壊れたら修理するより」「なくしたら探すより」新しく買い直せばいい――こうしたライフスタイルが当たり前のようになってきました。

それが悪いわけではありません。使い捨てのほうが便利で、効率的というケースもあるでしょう。私もときには使い捨てで済ませることもあります。でも、捨てられた商品はゴミとなって、環境への負荷になります。

強風そして豪雨の後、道端に投げ捨てられたビニール傘を目にするたびに、悲しい気持ちになるのは私だけではないと思います。何でもかんでも「すぐ買い替え」という発想は考えものです。モノや道具を大事にすることは、持続可能な社会をつくっていくためにも必要とされていることだと思うのです。

■「また買えばいい」という気持ちが人間関係にもつながる

状況に合わせて賢く使い分けることも必要でしょうが、自分の持つモノにこだわりを持つこと、愛着を持つことを決して忘れてはいけないと思うのです。

おもしろいもので、自分の道具や自分の持ち物の扱い方やこだわりは、人との向き合い方にも表れてくるもの。モノを大切にできる人は、人も大切にできる人。人への関わり方もていねいで、気遣いや気配りができる人です。

さらに、環境問題に配慮ができる人でもあります。逆にモノを大切にできない人は、人も大切にできません。モノに対して最初から「壊れても替えが利く」と考えて雑に扱う人は、人への接し方も対応もどこかしら雑になってしまいがちです。

写真=iStock.com/Daronk Hordumrong
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Daronk Hordumrong

道具やモノを大事にしているか、モノをどう扱うか、その態度や姿勢は常に周囲から見られていると心得ましょう。仕事道具や持ち物を大事に使っていますか? 何かあったら「また買えばいい」と雑に扱っていませんか?

愛着を持ってモノを大事に使い続ける、そんな「物持ちのよさ」もまた、その人の人柄や評価につながっていくのですね。

■哀川翔が決めた「家族の恐怖のルール」

いつだったか、お店の女の子に、俳優の哀川翔さんがテレビで話していた「家族の恐怖のルール」がおもしろかったという話を聞きました。

そのルールとは、「トイレットペーパーを最後まで使って補充しなかったら半殺し」「落ちているゴミを跨またいだら半殺し」というもの。哀川さんらしいとはいえ“半殺し”とは穏やかではありませんが、ルールそのものについては「なるほど」と思わされたものです。

その話を聞いて、「立つ鳥跡を濁さず」ということわざが心に浮かびました。その場の水を濁らせず、澄んだままにして飛び立つ水鳥のように、人も「その場を立ち去るときは、見苦しくないようにきれいに始末をしなさい」という教えです。

この言葉は、転職や退職の際には身ぎれいに円満に辞めるべきという「引き際の美しさ」の例えに使われることが多いのですが、意味するところはそれだけではない、と私は思っています。

「立つ鳥跡を濁さず」とは、今いる場所(とくに公共の場)から立ち去るときは、「後から来る人」や「次に使う人」のことを考え、その人の気持ちを慮(おもんぱか)って行動しなさい、という教えでもあると思うのです。

でも残念ながら世の中にはそのことに考えが及ばず、「跡を濁しっ放し」で平気な人が少なくありません。オフィスでも、コピー機で拡大コピーを取ったら、標準設定に戻さずそのままにしっ放し。

コピー用紙がなくなっても補充せず、そのままにしっ放し。シュレッダーのゴミがいっぱいになっても、そのままにしっ放し。会議室を使ってイスやデスクを動かしても、元に戻さずそのままにしっ放し。

何でもかんでも「そのままにしっ放し」で、その後に使う人のことを考えない。こういう配慮や気遣いの意識に欠けている人は、十中八九、いい仕事ができません。

■さっきまでいた場所には、自分の人間性が残されている

当然のことながら、仕事は人と人との関係の上に成り立っています。いわばチームプレーです。ですから、「自分だけがよければいい。あとは知ったことじゃない」という自己中な考え方をしている人の仕事が首尾よく進むはずがありません。

伊藤由美『「運と不運」には理由があります 銀座のママは見た、成功を遠ざける残念な習慣33』(ワニブックスPLUS新書)

自分だけでなく、周囲の人の仕事もスムーズに進むように、いっしょに働く仲間もストレスなく仕事ができるように。そのために「自分は何をすべきか」を考えて行動することが必要です。

そうした行動を心がけることは、回りまわって自分の仕事をスムーズに、首尾よく進めることにもなるでしょう。次にそこに来た人たちが、次にそこを使う人たちが、先に立ち去った人に対してどんな印象を持つか。

「あ、きちんと片づけてある。助かった」
「やっぱりあの人、ちゃんとしてるね」
「自分が使ったんだから、補充くらいしろっての」
「あの人、またやりっ放しだよ」

社会人としての評価とは、こうしたところに表れるのではないでしょうか。

次に使う家族のために、トイレットペーパーがなくなったら補充すること――哀川家のルールは、社会生活の基本ルールなのです。社会人たるもの、去り際は美しく。あなたがさっきまでいた場所には、あなたの人間性が残されている。そう心得たいものですね。

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伊藤 由美(いとう・ゆみ)
銀座「クラブ由美」オーナー
東京生まれの名古屋育ち。18歳で単身上京。1983年4月、23歳でオーナーママとして「クラブ由美」を開店。以来、“銀座の超一流クラブ”として政治家や財界人など名だたるVIPたちからの絶大な支持を得て現在に至る。本業の傍ら、「公益社団法人動物環境・福祉協会Eva」の理事として動物愛護活動を続ける。
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(銀座「クラブ由美」オーナー 伊藤 由美)