駅アナウンスで被害に遭ったと訴え(写真はイメージ)

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車いす利用者などの障害者を電車の降車時などに介助するときの「駅アナウンス」について、障害者が痴漢などの被害に遭っているとして、障害者団体が改善を求める要望書を国土交通省に提出した。

加害者がアナウンスを元に近づき、下着の色を聞いてきたりするなどのケースがあったという。国交省では、要望を受けてやり方の再考を各鉄道事業者に求めており、JR東日本では、「お客様の意向に基づいてアナウンスしているが、案内方法は検討している」と説明した。

スーツ姿の男性が「ここだ!」と言って、下着の色を聞いてきた

「お客様ご案内中です。乗車完了」。鉄道事業者によっては、障害者を介助するときに、駅員らがマイクを使って、こんなアナウンスをしている。

障害者団体でつくるNPO法人「DPI日本会議」は2021年8月25日、駅アナウンスによって障害のある女性が痴漢・ストーカー被害に遭っていると、公式サイトへの投稿で訴えた。中には、乗降する号車名や降車駅をアナウンスするケースもあるという。

サイトでは、15件ほどの被害例を挙げており、例えば、ある車いす利用者の女性は、夜遅くに電車に乗り、周囲が男性ばかりだったため、「アナウンスをしないで下さい」と駅員に訴えた。

しかし、それはダメだと伝えられ、乗った号車名まで言われてしまった。すると、スーツ姿の男性が「ここだ!」と言って、ドア付近にいた女性の後ろにぴったりくっついてきた。男性は、下着の色を聞いたり、卑猥なことを繰り返し言ったりして、女性は、怖くて声も出なかったという。

そして、降りた駅で係員に「アナウンスのせいだ」と泣きながら訴えたが、「警察に行って下さい」と言われるだけだったとしている。それ以来、心療内科にかかるようになり、「もう電車は怖いから、アナウンスがなくならない限り電車は乗れない」と女性は訴えているそうだ。

このほかにも、体験談の一部を挙げると、次のようなケースがあったという。

障害者団体が、改善を求める要望書を国交省に提出

「『品川でしょ?送ろうか?』何度も言われて、ずっと声を掛けられていた。やめてくださいと言っているのに周囲の人は誰も助けてくれなかった」
「自宅に見知らぬ男がよくいるけど知っているか?と近所の人に聞かれて確認したら、電車内で時折見かける男性で、後を付けられていると知った」

DPI日本会議では、7月に改善を求める要望書を国交省に提出し、駅アナウンスを中止し、他の方法に切り替えることなどを求めた。その経緯について、佐藤聡事務局長は8月27日、J-CASTニュースの取材に対し、こう明かした。

「アナウンスは、主に関東地区の鉄道事業者で、20年ほど前から行われています。1つの事業者が始めて、それが同じ地区で広まったのでしょう。障害者は止めてほしいと現場の人に言っていましたが、変わりませんでした。今回、メンバーの女性が、車いすで被害を受けており、知り合いにも聞き取り調査をして、十数件のケースが分かりましたので、国交省に改善をお願いすることにしました」

そのほとんどが都内でのケースというが、話すとフラッシュバックを起こしてつらいため、いつのことかなど細かいことは聞き取れていないという。

「聞き取りをした十数人の障害者は、『もう二度と言いたくない』と話すほど深い傷を負っており、こうしたこともあって、これまで表に出てきませんでした。鉄道事業者も、被害そのものを知らなかったので、改善しなかったのでしょう。つまり、現場の人から障害者の声をくみ上げる仕組みがなかったということだと思います」

内線電話や列車無線など、工夫の仕方は様々

親切心から声をかけて障害者に誤解されたケースはないのかについては、佐藤事務局長はこう話す。

「その可能性もあるとは思いますが、普通の行いなら、そんな誤解はされないのではないかと思います。障害者は、やはり危険を感じたので逃げたりしたのだと思います」

鉄道事業者に被害の実態を直接伝える場を設けてほしいと国交省に要望したところ、8月18日に全国60以上の鉄道事業者とのオンライン会合が実現し、メンバーの女性が話した。事業者は、その話を聞いていたが、意見などは出なかったという。

事業者のうち、JR東日本は27日、駅アナウンスについて広報部が取材に次のように説明した。

「放送は、障害者の方のご意向を伺ってから、ご案内の失念防止のため、主に降りる駅で最低限の情報を車掌と共有するために行っています。配慮はしており、断られれば、マイクは使いません。今後もこうした放送は続けながらも、要望を踏まえまして、安心してご利用できるような案内方法を検討していきます」

国交省の鉄道サービス政策室は27日、要望を受けて、やり方について考えてほしいと全国の運輸局を通じて、各鉄道事業者に7月16日に事務連絡したと取材に認めた。

路線の多さやダイヤの間隔、ホームの形状など、状況によって違うが、内線電話や列車無線、口頭伝達、特殊なハンドサインなど、工夫の仕方は様々ではないかという。「マイクを通さなくても、安全性を犠牲にせずにできるのではないかと考えており、各事業者からの報告を求めているところです」と話している。

(J-CASTニュース編集部 野口博之)