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車いすラグビー、初戦から神試合!

25日から競技が始まった東京パラリンピック。早速日本選手団は競泳で2つのメダルを獲得しました。14歳、最年少でのメダルを獲得した山田美幸さんの銀。そしてアテネ・北京・ロンドンでメダルを獲得し、日本競泳陣を牽引してきた鈴木孝幸さんの復活の銅。まだ君が代が鳴り響く金は獲得できていませんが、開催国の代表が好スタートを切りました。




基本的にパラリンピックは全部の放映権をNHKが持っているということもあって、NHKでの放映が中心となります。まだまだチャンネル数などでは不満を感じる部分もありますが、それでも今大会は朝から晩まで注目競技を映してくれています。しかも、今大会は史上初めて民放でも競技が中継されることになっています。日本において、かつてない注目がパラリンピックに集まっています。

五輪ロスに悶える日本がパラリンピックと本格的に出会うことは、「あれもいいけど、これもいいね」という楽しみが増える、素晴らしいきっかけになると確信しています。この大会を通じて学んだ…いや、学ぶという大仰なことではなく「知った」ことが、未来にきっといい影響を与えるはずだと。

人間が、人間と、本気で競り合っているのは、何でも面白いのです。

トランプでもメンコでも一生懸命本気で競り合えば何だって面白いのです。上手い下手はあるかもしれませんが、そこはルールや条件を整えてイイ感じに競り合うようにしてやればいいだけのこと。男子バスケのパワーに見劣りするからといって女子バスケがつまらないなんてことはないように、パラスポーツがつまらないなんてことはないのです。

そのことを今大会もっとも雄弁に伝えてくれるだろう競技が、車いすラグビーです。このスポーツはまずルールが素晴らしい。とてもよくできています。試合に出場する4人は障がいの程度によってポイント化され、その合計値を一定に制限することで「障がいの軽い人には軽い人の役割があり」「障がいの重い人には重い人の役割がある」ということを上手くシステム化しています。

しかも女子選手も同時に参加することができ、その場合「女子がいるボーナスポイント」が与えられ、ほかの選手の起用の幅が広がります。もしも「障がいの重い女子選手」が1人ぶんの仕事をすることができたなら、ほかのメンバーに障がいの程度が軽い選手を増やすことができ、結果として2人分にも匹敵する価値を生むのです。自分が自分のできる範囲で頑張れば、それが猛烈にチームに貢献するなんて、やり甲斐がありまくりのルールじゃないですか。

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車いすラグビーは攻撃側が圧倒的に強いスポーツです。バスケサイズのコートにおいて、相手陣地の端までボールを運べば1点で、得点を取る仕組みはそれだけです。チームはハイポインターと呼ばれる障がいの程度が軽い選手と、ローポインターと呼ばれる障がいの程度が重い選手が混在する編成です。機敏に動けるハイポインターは攻守の中心となり、ローポインターは相手の邪魔になる位置に車いすを運んだり、逆に味方のコースを作ったりしてチームに貢献します。

ハイポインターをローポインターが止めるのは基本的に難しく、攻撃は「ほぼ」成功します。40秒制限で行なわれる攻撃を交互に繰り返しながら、常に点の取り合いが演じられ、8分×4ピリオドの試合で合計100点が入るようなゲームになることもしばしば。基本的に攻撃が成功するバランスなだけに、どこかでローポインターがハイポインターを止めて得点を阻止すれば、その1本でチームが大きく勝利に近づきます。一回のスーパープレーが勝利に大きく貢献するというバランスもまた絶妙です。

日本代表はリオ大会で銅メダルを獲り、2018年には世界選手権で金メダルを獲りました。現在の世界ランク1位で、このスポーツの最強国の一角であるオーストラリアを敵地で破っての勝利でした。となれば、今大会日本が目指すのはもちろん金メダルです。キャプテンの池透暢選手と、不動のエース池崎大輔選手の「イケイケコンビ」を中心に、世界の頂点を狙います!

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初戦の相手はフランス。パラスポーツということもあって、国際大会は長く実施することができず、お互いに久々の国際大会です。緊張感や勝負勘も含めてどう転ぶかわからない試合。日本は序盤は硬さも見え、ボールを失うミスが目立ちます。ただ、日本の硬さだけでなくフランスも強い。

まず、ローポインター3番のナンカンがやたらと厄介です。ナンカンは生まれたときから手足に障がいがあり、両手ともひじあたりから先がないという障がいの程度が重い選手です。当然車いすを機敏に動かせないだろうと思われるところですが、想像以上に機敏です。しかも身体が太く、当たったときの重さが相当です。ひとりやふたりのブロックなら押しのけて突破していく日本の池崎選手が、ナンカンひとりにブロックされてしまう場面も。この重戦車みたいなのがバスケで言うフロントコートからガンガン当たってきて常に邪魔です。「車いす相撲でもあれば横綱級だな…」と厄介さに唸ります。

そして、エースの21番イベルナがしたたかです。華麗な動きでトライを重ねるのはもちろん、やたらと小賢しい。ボールをこぼしてターンオーバー…と思いきやギリギリのタイミングでタイムアウトを取って危機を回避したり、端に追い詰めて今度こそターンオーバー…と思いきや「すまん、今、急に車いす壊れたわ。修理タイムな」と言い出して危機を回避したり、あとちょっとのところで取り逃がすことがつづきます。「ここで都合よく車いす壊れるかよー!嘘つけ!自分で壊したべ!」と睨んでいるタイミングでニヤリと笑って見せるさまなど、悪者参上といった佇まい。聖人君子を期待してパラリンピックを見ている人に、リアルな勝負師の姿を見せつけます。

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一進一退の攻防のなか、前半を終えて25-27で日本は2点ビハインド。15人制のラグビーならこの程度の差はあってないようなものですが、車いすラグビーでは2点差はそこそこ大きい点差です。野球の2点差くらいはあります。ちょっと苦しいか。気合を入れ直して後半に臨む日本は、「池崎を止めるナンカンを止める」という狙いを持って動いてきました。味方が積極的にハイポインターのサポートに入っています。

その甲斐もあって、何とか点差を詰めて「同点」と「1点ビハインド」を繰り返す状態には持ち込みますが、追いつく過程で「ピンチのときに選手の判断で難を逃れることができるタイムアウト」を使い切ってしまいました。その後も、キャプテン池選手が得意とする一発のロングパスでの得点(※遠くまで投げられること自体が大きな強み)なども繰り出して追いすがりますが、日本にはひとつのミスも許されないという緊張感ある接戦がつづきます。

その均衡をいかにコントロールして勝ち切るか。ピリオド終了間際には「自分たちが1点リードで時計が終わる」ように、時間消化の駆け引きも盛んです。わざとトライを決めず時間稼ぎで止まってみたり。それをとっととトライさせて攻撃権を取り返すためにあえて押してみたり。手練手管で勝利を手繰り寄せる方法がたくさんあって、アメリカンスポーツのような面白さがあります。バスケやアメフトのルールが好きな人にもとってもオススメです。

試合は進み、最終第4ピリオドへ。第4ピリオドを迎えた時点では41-41の同点、フランスボールからゲームは再開されます。つまり、互いに攻撃を全部成功させつづければ、1点差でフランスが勝つ流れです。日本は1点追いつかないといけないのですが、開始早々に厄介なナンカンに池崎選手がつかまり、ボールをスチールされてしまいました。フランス追加点で、実質2点差となります。

さらに日本は守備時に「ゴール前に4人が入る」反則を犯し(※4人で塞ぐのは不可)、ひとり罰退となります。この状態は「フランスが1点を取るか」「1分経過」まで解けず、結果的に「1分近く時間を消費してからフランスが追加点」という格好に。時計が無駄に進み、点差は詰められず、ますます厳しい流れです。

しかし、ここから日本も粘ります。上手く相手を挟み込んでボールを奪い、実質1点差に詰め寄ると、女子の倉橋選手を投入し、残り3人を「ハイポインター×2、ミドルポインター×1」という攻撃的布陣へシフトします。3選手が機敏に動き回れる状態で圧力を掛ける日本は、試合再開時にフランスがボールを入れるコースを全部塞いで、相手に「制限時間オーバー」の反則を犯させます。この機を活かし、日本は残り3分28秒で逆転のトライ!つづいて残り1分41秒では、さらに突き放すトライを決めて2点リードに!日本が育ててきた戦略的布陣が勝利を大きく引き寄せました。

そのままリードを保つ日本。最終盤には苦しい体勢から放った長いパスを、ゴール前で待つチームの副キャプテン羽賀選手が長いリーチを活かして上手く確保し、ギリギリのところで点差をキープするという場面もありました。最後の最後までヒヤヒヤする試合でしたが、最終スコア53-51で逃げ切りに成功。見事な逆転勝ちで、金メダルに向けて好発進です!

↓よっしゃ、勝ったでー!


↓NHKによるハイライト動画はコチラです!


「不自由なのに頑張ってて感動」とかそういうのじゃない試合でした!

「面白い試合を見て感動」という気持ちです!



ひとりひとりのエピソードを紐解けばいろいろあります。交通事故で車が炎上して全身大やけどを負い、同乗した友人3人を亡くしたとか。トランポリン中の事故で頸髄を損傷し、普段はペンも持てないとか。手足の筋力がじょじょに低下する難病とか。そうしたドキュメンタリー的な視点で見るのも価値あることです。大変な苦労をされた方の逸話には大いに学びがあるでしょう。ただ、それだけではない見方というのがあってもいいと僕は思います。

何の気遣いもなく、「行けー!」「当たれー!」「倒せー!」とドキュメンタリー度外視で試合だけを楽しみ、勝利の喜びに没頭するというパラリンピックの見方があってもいいだろうと。野球選手やサッカー選手の「苦労話」とか別に知らんでもいいことじゃないですか。知れば親しみは増しますが、別に知らなくてもいい。美味しいご飯は、素材の生産地を知らなくても美味しいように、面白い試合は、何も知らないで見ても面白いのです。

上手いルールの設定によって、車いすラグビーは強いエンターテインメント性があります。しかも日本の代表は金メダルを狙う強豪です。これから毎日試合を行ない、8月29日夕刻、パラリンピック期間最初の週末のクライマックスとして行なわれる決勝戦まで熱い戦いがつづきます。毎日コレを見られます。素晴らしい週末を予感させてくれています。

そこまで行ったとき、ひとつ日本の認識というのも変わると思うのです。「苦労話」を見てるんじゃなくて、「スポーツ」を見てるんだったな、という当たり前の事実に気づかされると思うのです。勝った負けたで一喜一憂し、飲んで、食べて、話して、盛り上がることができるものを、今日本でやっているんだったなと気づかされると思うのです。

素晴らしい試合のあと、まず聞きたいのは勝負を分けたポイントとかであって、「早速ですが、どんな苦労話がありますか…?」ではナイでしょう。すごい苦労話ではなく、すごいプレーやすごい勝負を見てこそ、スポーツの大会をやっている意味もあります。パラリンピックがそういう機会であると思えるような日本になったら、それはとても素晴らしいことだと思うのです。参加する人たちは「アスリート」としてのやり甲斐が増すでしょうし、コチラは五輪につづく盛り上がりでおかわりができる。ウィンウィンウィーーーンです。

アスリートの輝きは苦労話ではなくプレーで放たれる。

苦労話もあとで聞くけど、まず試合を楽しもう。

そんな気持ちで13日間を楽しんでいけたらいいなと思います。


苦労話はあとでジャンクスポーツとかGoing!とかでゆっくり聞きます!