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演技で「想い」を伝える!

8月21日から22日にかけて放送された日本テレビ「24時間テレビ 愛は地球を救う」。今年は五輪イヤーということでメダリストを含む多数のアスリートも参加していましたが、何と言っても注目は今年で8年連続8回目の参加となる羽生結弦氏でした。今年も羽生氏は1コーナーを託され、想いを込めたアイスショーを披露するとのこと。もはや欽ちゃんとサライに迫る「24時間テレビの顔」としての存在感すら覚えます。

過去の事例では初日の夜に登場することが多かった羽生氏ですが、今年は2日目の午後に登場するという時間割。「公式サイトでは当日企画扱いなのか…」「もしや生もあるのか…?」「去年の開会宣言のような登場の仕方もあるのか…?」というワクワクと緊張感を胸に見守る時間は例年にも増して充実したものとなりました。アイスショーの放送まではずっとワクワクと緊張を保っていたので、朝のラミちゃん特集でもワイプを注視していたくらいです。よく考えれば、さすがにそこは絶対ナイとわかりそうなものですが!

↓羽生氏着用品と同じピンク色のチャリティーTシャツを着て見守ります!


うむ、ちょっと大きい気もするけれど、イイ感じ!

「あえてゆったりめで着る」ってヤツですね!



2日目の14時台に放映された羽生氏参加の「震災から10年…羽生結弦 想いを込めたSPアイスショー」。あらかじめ予告されていた時間通りの始まりですが、開始へ向けてワクワクと緊張感はさらに高まる一方です。冒頭、昨年度以前の取り組みを振り返る場面では、見たことのない新衣装での演技場面がチラリと映り、「ふぁっ!?」となるタイムライン。どうやらショー自体は事前収録によるもののようですが、何が起きるのか、何を滑るのか、お披露目まで想像力が駆け巡りつづけます。

VTRのなかで羽生氏は「(コロナ禍は)僕にとってはあの頃(震災)の想いと似ている」と語り、スケートをすることさえためらうような気持ちを今このコロナ禍に重ねていました。そうであるからこそ、今このコロナ禍にあっても、羽生氏は強い意志で迷いなく滑るのだろうとも思わされます。震災後、「スケートをしていてもいいのか」という葛藤を抱えながら、それでも滑りつづけたことで、たくさんの人が前を向くきっかけを得ていったことを、羽生氏自身が誰にも増して知っているのですから。

ごく最近のものであろう映像では、かねてより交流のある福島県楢葉町のみなさんからのビデオメッセージに頭を下げる姿や、以前「24時間テレビ」のアイスショーで共演した少年からの近況報告に「すごい!」「偉い」「嬉しいですね」と笑みを見せる姿が映し出されます。こうした出会いや積み重ねが、何をするにもためらいを持たざるを得ない世界となった今も、羽生氏を揺るぎなく支えているのだろうなと思います。自分の演技を心に何かが灯るきっかけにしてもらいたいと願いつづけ、そういうことはきっと起きるのだと信じつづける「強さ」となって支えているのだろうなと。

最低限の人数で、照明等の演出もなく行なわれたというSPアイスショー。あの日、この場所で被災したアイスリンク仙台の氷に立った羽生氏は藤色の和テイストの新衣装です。背中には藤の花のような飾りが据えられ、ほかにも桜のような形の花が多数散りばめられています。「天と地と」の衣装にも似た雰囲気がありますが、少し趣は異なるようです。

まず演じるのは「ホワイト・レジェンド」。震災後、初めて人前で滑ったという特別なプログラムからショーの幕は上がります。印象的な長いシットツイズルからパンケーキツイズルへとつづく見せ場など演技全体の骨子は変わらないものの、4回転トゥループの追加やその後のスパイラルでの表現、トリプルループからの3連続コンボ、キャメルスピンでは背中で腕を組み、終幕のスピンでは長い時間をかけて翼を広げるようにして再び飛び立つさまを演じ上げるなど、「進化系」と言えるような滑りです。

つづく2演目めは「花になれ」。放送では連続した演技のように見えましたが、ハイドロブレーディングを含んでいた「ホワイト・レジェンド」からは手袋を外し、ヘアセットも整え直している模様。場内の時計を見ると30分ほど間が空いているようでした。今回の新衣装もコチラの演目に合わせたセレクトだったでしょうか。生命力の強さを讃えられる「藤」の花の飾りは、この曲のメッセージと重ねるかのようです。「天と地と」に似ていると言うよりは、「花になれ」に「天と地と」が似ている、のほうが近いかもしれません。

「歌詞に自身の想いを重ねる」という言葉通りに羽生氏自身も歌を口ずさみながら演じます。照明という演出こそないものの、歌のなかで「ほら太陽が」と希望を歌う場面に重なるように、リンクの窓から差し込む光が羽生氏の顔を照らした瞬間などは、奇跡のような現実だったなと思います。どのタイミングかは不明瞭でしたが演技中に右手指先を切ったようで、演技途中には指から血がしたたっている様子が見えました。まさに、傷つきながらも前に進んでいく、その「想い」が演技となって現れたかのようでした。

↓番組側の解説では「今回のために特別に衣装を作った」とのこと!

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改めて震災から10年という時間を経てみると、同じ名前の演目であってもまったく違ったものになるのだなと思います。技術が向上し、想いが深まり、滑りは進化するのだなと思います。震災後初の演技披露・ソチ五輪でのエキシビションと無力感から立ち上がる節目の「スタート地点」で演じられてきた「ホワイト・レジェンド」は、今またそれを演じるタイミングが来たのだなと思わされるセレクトでした。新たに生じた「コロナ禍」という困難から、どう立ち上がり、どう進んでいくのか、新たな旅立ちとなるような。

そのとき、今2021年に演じられた「進化系」は希望だなと思います。同じ名前の演目で、往時の面影は確かに残っているけれど、2021年に演じられたそれは、大きくなり、新しくなり、より美しくなりました。当時のスタート地点から、遥か遠くまで来たことを感じさせられる演技でした。それは「復興」や「収束」といった未来への希望を同時に感じさせるものでした。10年の歩みがこの演目を進化させてきたように、立ち上がり、前に進むことで新たな未来はきっと切り拓けるのだという。

そして、「花になれ」の歌詞に重ねることで伝わる想い、それは真っ直ぐな「生きてゆけ」「諦めないで」でしょう。苦境のなかで迷い苦しんで、生きることにさえ疲れるような日々ではあるけれど、「花は生きることを迷いはしない」と歌は言います。落ち込んで生きるも、前を向いて生きるも、同じ一日。生きてゆくことで未来は生まれる。歌と滑りと両方のチカラが一体となって、「生きよ」というメッセージが届いてくるような気持ちになりました。指先から流れる血さえも、想いを後押しする舞台装置のようにして。

昨今はいろいろな人が言葉を求められ、言葉で伝えようとする機会が多くなりました。誰もがひとりの人としての責任を求められ、無言を貫くことはヨシとされなくなってきました。アスリートも例外ではありません。そんな今だからこそ「演技で想いを伝える」ことの尊さや清々しさを感じるショーでした。やはり、アスリートであればプレーや演技こそが人生を捧げて追求してきたものであり、そこにこそ人生は現れます。「諦めないで」と言葉で語る以上に「諦めない」姿を見せられるチカラが、プレーや演技にはあります。ある人にとってそれは「映画」かもしれないし、「料理」かもしれないし、「音楽」かもしれないし、「プレー」かもしれない。一番生き様が現れるものが、一番強いメッセージになる、そんなことを思います。

羽生氏であれば言葉で語っても多くの人に想いを届けることはできるでしょうが、演技を通じて伝える想いは、言葉以上に深くまで届くような気がします。この10年、前を向いて進んで来なければ羽生結弦はこうなってはいません。だからこそ、その姿そのものが何よりも希望を感じさせるものです。あの日、立ち上がったから、ここにいる。あの日から、歩みを止めなかったことで、ここまで来た。それは言葉で語られるよりも生き様から受け取るほうが、伝わる想いのような気がします。そうした姿を通じて「心に何かが灯る」ことはきっとあるだろうと。

引きつづき困難な時間はつづきますが、立ち上がった先の10年後20年後には、素晴らしい時間が待っているのだと確信して、一日一日を過ごしていきたいものだなと思います。復興も収束も道半ばではあるけれど、10年前に崩れたリンクに「五輪連覇」を成し遂げたアスリートが帰ってくることだってあるのです。前を向いて進む未来には、素晴らしい時間がきっとある。その頃、「18年連続18回目!」「今年こそサライ熱唱やろ!」「募金手渡しするために1万円を10円玉に崩してきたぞ!」などと僕がはしゃいでいるかはわかりませんが、そういう自分でいられるように過ごしていきたいなと思います。元気に、楽しく、前向きに。もしかしたらその頃には、制作側の熱意にほだされてついにチャリティーパーソナリティーで24時間ずっと登場なんて展開もあるかもしれませんしね!

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10年後はもう、24時間ずっとワイプを見ているのは無理かもですが!