防衛省が開発した先進個人装備。これは実用化されなかった(筆者撮影)

つい先日のことだ。陸上自衛隊 第1師団の公式ツイッターが投稿した写真を眺めていたら、他国では1970年代に廃れた革製の拳銃のホルスターをいまだに使っていた。筆者は驚愕した。

多くの国民は、自衛隊は最新装備を有した現代的な「軍隊」だと認識しているかもしれない。そうだとしたら誤解だ。私に言わせれば陸自の普通科個人装備は「最貧国の軍隊レベル」である。とても21世紀の先進国のレベルではない。アメリカ軍、そして近年ではイギリス・フランス陸軍などとも訓練をする機会が多くなったが、装備の遅れは明らかだ。

色落ちの激しい戦闘服

まず戦闘服。自衛隊はいまだにビニロンを使っている。この難燃性ビニロン混紡の戦闘服は色落ちが激しいことでよく知られている。2017年には公正取引委員会の調査で納入業者であるユニチカとクラレの談合が認められた。

防衛省の見解は以下の通りである。「平成28年度のユニチカ(株)及びクラレ(株)の独占禁止法違反行為を受け、平成29年度に部外委託により、戦闘服等に使用する繊維素材の代替可能性の検討を実施しました。その結果、現行素材である難燃ビニロンが、繊維技術の進展を踏まえても依然、難燃性、コスト、風合い等において総合的に優位であることを確認し、現在も当該素材を戦闘服等で使用しています」としている。

これが本当であればアメリカ軍はじめ、世界中の軍隊がビニロンを採用しているはずだ。件の報告書でもビニロン繊維を使用しているのは日本だけだと書いてある。実際に現場の隊員からは自衛隊の迷彩戦闘服は色落ちが激しいと苦情をよく聞く。筆者は職業柄世界中の戦闘服を見る機会があるが、他国の戦闘服でこれほど色落ちの激しい戦闘服はほとんどない。


帝人は戦闘服に使用できる難燃ビニロンよりも高い性能を持った耐火繊維をもっているが、防衛省が採用する様子はないようだ(筆者撮影)

実際は世の中にはビニロンより優れた繊維があるのに、ビニロン縛りにしているので競争原理が働いていないようだ。このためわが国の繊維大手で、外国の軍隊に繊維を供給している帝人などですらも参入できない。

ちなみにアメリカ軍はオランダの防弾素材大手のテンカーテ社の開発した難燃繊維、ディフェンダーMを採用しているが、帝人はディフェンダーM原料の1つであるアラミド繊維を供給している。また帝人は同様の耐火繊維、コーネックスを開発、販売している。一方、防衛省がこれらの耐火繊維を使用した戦闘服の開発を行ってきたようには思えない。

防弾ベストも設計が古い。現在の最新型の3型でも先進国レベルに達していない。2型だとポーチなどを装着するためのMOLLEシステムの規格も世界中で普及しているアメリカ軍の規格ではなく、陸自独自の規格を採用している。他国のものを採用できないようにするための「非関税障壁」なのだろう。

またボディアーマーに挿入される防弾プレートも日本独自の形状でありNATOなどが採用している規格ではない。これまた外国製を排除するための「非関税障壁」なのか。このため海外製品と比較されることもないので、ここでも競争原理が働かない。

体を守る装備の導入が不十分

そして諸外国では先進国のみならず、途上国ですら導入が進んでいる、体の重要な部分を防弾プレートで保護するプレート・キャリアに至ってはいまだに採用すらされていない。いままでのボディアーマーは砲弾の破片などから、身を守るソフトアーマーに加えて、小銃弾の直撃から身を守るプレートを組み合わせたシステムだ。だがこれだと重すぎ、機動的に動けないし、疲労も蓄積する。特に夏場は体温が籠もって熱中症になる危険性も高まる。


防弾ベスト2型を着用した普通科隊員(写真:陸上自衛隊)

このため諸外国の軍隊では、プレート・キャリアを採用している。プレート・キャリアは一般に側面には脱着式の追加プレートが装着できる。これは車輌に乗っているときなどの銃撃などに備えるためのものだ。陸自のボディアーマーにはこの種のサイドプレートが装備されていないので、側面から銃撃されるとほぼ無防備となる。

プレート・キャリアと組み合わせる通気性の高いコンバットシャツも導入されていない。これは腕や襟は迷彩のカモフラージュの難燃性繊維などで、胴体部分は吸湿速乾性繊維を使用している。これらは高温多湿のわが国に必要不可欠で本来他国に先駆けて採用が求められるはずだった。

難燃性の下着も支給されていない。隊員の中は、市販の高機能素材の下着を着ているケースがあるようだが、これらは熱で融解するので戦闘時にやけどを負ったときに、溶けて肌に張り付く恐れがあり、やけどによる被害をより大きくしかねない。対して軍用の難燃性下着は燃えると炭化してぼろぼろになるのでそのような被害が生じにくい。

膝や肘を保護するパットも一部を除いて導入されていない。しかもそれも質が高くない。陸自は戦闘時における隊員の安全に関しては関心が低いようだ。

自衛隊は装備導入に際して「わが国固有の環境に合致するものが必要」と称して国産品を開発するが、夏場は熱帯並みの湿度と35℃前後の気温になるにもかかわらず、プレート・キャリアを採用していない点は疑問だ。

熱中症対策関連では水分補給システムのハイドレーションも必要だが一部のエリート部隊だけ配備されている。パキスタン軍ですら普通に導入されているにもかかわらずだ。しかも「贅沢」なのはむしろ現用の水筒のほうだ。

ハイドレーションはチューブが付いたポリマー製の水筒だ。背負ったり、バックパックに装着して使用する。このため歩きながらこまめに水分が補給できる。こまめに水を飲むことで、効率良く身体に水分が吸収し、バテ防止や熱中症対策に有効だ。先進国の軍隊では標準装備となっている。

普通の水筒にもかかわらず防衛省の調達コストは1個7000円。ハイドレーションより高価だ。この手の水筒は一般の市場ではカバー付きで1000円程度だ。防衛省の調達コストがこれだけ高いのは国産、特定の業者にこだわり、「中抜き」があるのではないかと疑いたくなる。

防御力の劣るヘルメットへの不安

ヘルメットは1988年採用の88式鉄帽の改良型である88式鉄帽2型が2013年から採用されているが遅々として配備が進んでいない。88式鉄帽2型でも砲弾の破片に近似した弾速の拳銃弾が命中した際、10センチほど凹む。対して同時代にアメリカ軍のそれは、その拳銃弾よりも弾速が速いトカレフ拳銃弾で撃たれても凹みは2.5センチ以内である。


帝人の防弾繊維を使ったヘルメットのカッタウェイ。左がアラミド系繊維を用いたヘルメット、右がポリエチレン系のの繊維を用いたヘルメット(筆者撮影)


フランス軍の最新型ヘルメット。衝撃吸収パッドを採用している(筆者撮影)

無論ヘルメットが想定しているのは主として砲弾の破片などからの頭部の防御だが、防御力が劣っていることは間違いない。貫通しなくとも、10センチもヘルメットが凹めば頭蓋が潰れてしまう恐れがある。しかも最近のヘルメットも主流である4点式のハーネスにはなったが、現代の一線級の性能はないと言わざるをえない。アメリカ軍などのヘルメットと違い小銃弾を防げないだろう。


防弾繊維メーカーが展示するヘルメットとフェイスガード(筆者撮影)

他国ではクッションは小型の物をベルクロで張り付けるものを採用しているが、自衛隊にはこれもない。このタイプは爆風の侵入を防ぎ、被弾時の衝撃を大きく緩衝し、脳の受ける損傷を極小化できる。またクッションのサイズも貼る場所も選べるし、新型のクッションが出れば容易に貼り替えることもできる。88式鉄帽の後継ヘルメットは住友ベークライトが開発し、近く配備予定だが、関係者によるとこれはいまだにハンモック式を使用し、軽量化はされているが防御力は低く、小銃弾には耐えられないようだ。これは戦闘ヘルメットを想定していないJIS規格にこだわっているためだ。

目を保護するためのサングラス型のポリカーボネート製アイウェアも支給されていない。頭部は被弾が多い場所であり、特に目は傷つきやすく、負傷の回復が難しく、盲目になる可能性が高まってしまう。失明を避けるためにはゴーグルだけではなく、この手のグラスは不可欠だ。実際にアメリカ軍は使用しているのに、なぜそれが支給されているのかを考えているのだろうか。

個人衛生キットもかつては包帯、止血帯各1個だけだった(PKO用はポーチ込みで8アイテム)。この点について筆者は過去に東洋経済オンラインの記事で指摘したことがある。その後、野党が動いて見直されて、補正予算が組まれるなどして、大幅に改善された。

だが十分とは言えない。例えば止血帯は2個に増えたが止血帯用ポーチすらいまだに支給されていない。止血帯を衛生キットのポーチに入れていると、使うとき、特に手を負傷したときなどはパニックを起こして取り出すことが難しい。うまく取れずに出血多量で死んでしまう。アフガンあたりではこれが多かった。その点警察のほうが実戦を意識しているので採用が進んでいる。

諸外国ではいわゆる先進歩兵システムの導入が進んでいる。一方、防衛装備庁でこの点について研究はされたようだが、導入には至っていない。

筆者の個人的意見として先進歩兵システムの導入については、重量やネットワーク関連の複雑さから先進歩兵システムの導入には懐疑的だ。ただ、せめて個人用無線機は配備できないのかと思う。

ターゲットロケーターの配備も不十分

これに関連するものでターゲットロケーターも、例外は特殊部隊や水陸機動団の特科大隊以外は配備されていない。ターゲットロケーターは双眼鏡に暗視装置、ジャイロコンパス、ビデオ、レーザー測距儀などを組み込んだもので、先進歩兵システムには小隊長や分隊長に支給され、ネットワークに接続される。この程度の装備は必要だろう。


暗視装置などが組み込まれたターゲットロケーターを使用するイスラエル軍兵士(奥)と、PADでデータを送信する兵士(手前)。自衛隊にはまだ導入されていない(写真:エルビット社)

このように普通科の個人装備は時代遅れであり、生存性が低いと言わざるをえない。のみなず、疲労を招いて戦闘力さえも削いでいる。これを異常だと思わない陸幕や装備庁の認識に疑問を呈したい。戦車・火砲の数を絞っても、より優先順位の高い普通科装備の近代化を進めることが望ましい。今のままだと兵隊は使い捨てと思っていると批判されても仕方あるまい。