リオネル・メッシのバルセロナ退団には驚かされた。財政的な問題が不可避だとしても、最終的な落としどころはあると思っていた。ペップ・グアルディオラがブレシアへ移籍したとか、シャビがアルサッドへ移籍したとかいった過去のケースとは、明らかに意味合いが違う。決して手放してはいけない選手を、手放してはいけないタイミングと理由で、バルセロナは失ってしまったのだ。

 去就が気になる選手と言えば、久保建英である。

 どうやらマジョルカへの期限付き移籍に着地しそうだ。レアル・ソシエダも興味を示していると報道されているが、より多くの出場機会を得られる可能性を比較すると、セグンダからラ・リーガへ復帰してきたマジョルカになるのだろう。

 21―22シーズンのラ・リーガは、現地時間8月13日に開幕する。東京五輪に出場した久保は、プレシーズンのキャンプや練習試合に参加できないまま、新しいクラブで新しいシーズンを迎えることになる。

 ぶっつけ本番でのシーズンインだけに、馴染みのあるクラブのほうが適応しやすいのは間違いない。マジョルカには19―20シーズンに久保がプレーした当時のメンバーが──GKのマノーロ・レイナ、右SBジョアン・サストレ、CBアレクサンダル・セドラル、MFサルバ・セビージャ、イドリス・ババ、アレックス・フェバス、ダニ・ロドリゲス、FWラゴ・ジュニオール、アブドン・プラトスらが在籍している。コンビネーションの構築については、ある程度のベースがあると考えていいだろう。

 環境を知っていることも大きい。練習場やスタジアムといったサッカーにまつわるものだけでなく、日常生活をストレスなく過ごせるに違いない。チーム合流後すぐに、サッカーに集中できるはずだ。

 前回在籍時の19―20シーズン当時との違いは、監督が代わっていることだ。現監督のルイス・ガルシア・プラサは、レバンテやヘタフェで実績をあげたスペイン人で、UAEや中国、サウジアラビアのクラブを率いたこともある。スペイン国内での経歴を辿ると、中位から下位のクラブを1部に残留させることに力を発揮するタイプだ。

 システムは4−2−3−1を好む。久保が右ウイングに当てはめられるとしたら、ビクトル・モジェホとジョルディ・ムブラのふたりがライバルになる。どちらもアンダーカテゴリーのスペイン代表歴を持ち、ムブラは久保と同じ「ラ・マシア」の出身だ。

 既知のクラブとはいえ、後方からのスタートになる。ルイス・ガルシア監督の戦術を、実戦で身体に染み込ませていかなければならない。

 チームにフィットしていく過程で、一度ならずチャンスは訪れるだろう。そこで求められるのは、素早い解答だ。プレータイムが短かったとしても、パスが来ないなどの条件が悪かったとしても、インパクトを残さなければならない。そして、与えられたチャンスを生かせなければ、序列を変えることはできない。

 追いかける立場の難しさは、昨シーズンのビジャレアルとヘタフェで痛感したはずだ。さらに言えば、マジョルカのメディアとファンは、一昨シーズンの活躍を忘れていない。前回の在籍時よりも、評価の基準は上がっていると考えたほうがいい。

 古巣復帰ということもあり、プラス材料はもちろんある。ただ、周囲が想像しているほど、活躍できる条件が整った移籍ではない。 

 所属元のレアル・マドリーへ戻れるのかどうかは、今シーズンの成績で答えが出るだろう。レアル・マドリーが期待を寄せる20歳前後の選手は、久保だけではないのだ。真価が問われるシーズンのパフォーマンスが注目される。