高齢化が進展してもマンション管理組合の機能を維持するにはどのような方法があるのでしょうか(写真:スイマー/PIXTA)

40年もの歳月を経て、分譲マンションに対する居住者意識が大きく変わった。国土交通省が5年ごとに行っている「マンション総合調査(平成30年度)」によると、マンション居住者の62.8%が「永住するつもり」と回答している。驚いたことに、昭和55年当時は57.0%の居住者が「いずれは住み替えるつもり」と答えていた。それが完全に逆転したのだ(図表参照)。

かつては一戸建て住宅へのステップと捉えられていた分譲マンションが、今では終の棲家(ついのすみか)として選好されるようになっている。“住宅すごろく”のゴール(=終の棲家)として、分譲マンションが市民権を得た証左と解される。


管理組合が正常に機能する必要がある

こうした永住意識を現実のものとするためには、分譲マンションに「持続可能性」がなければならない。ここでいう持続可能性とは、ハード・ソフトの両面において、竣工当時の性能が長期にわたって維持されることを意味する。分譲マンションでは永住に資するよう、終の棲家としての機能が備わっていなければならないのだ。

具体的には、将来にわたって安心・安全・快適なマンション暮らしが約束されるよう、その運営主体となる管理組合が正常に機能している必要がある。構成員である区分所有者が全員、付与された組合員としての権利・義務を、自らの意思で持続的に履行できる行動力や判断能力が求められる。

にもかかわらず、居住者の高齢化の進展が各人の行動力や判断能力を衰退させようとしている。前出の「マンション総合調査(平成30年度)」によると、分譲マンションの「世帯主年齢60歳以上」の割合が49.2%まで拡大した。過去を振り返ると、20年前(平成11年度)が25.7%、10年前(同20年度)が39.4%だった。

これが平成30年度、ついに2世帯に1世帯(49.2%)が高齢者世帯となった。筆者には、少子高齢化に苦しむわが国日本の「縮図」が投影されているように思えてならない。もしかしたら、高齢化の進展でマンションの管理組合運営が機能不全に陥るのではないか――。こうした懸念を抱かざるをえない現実が足元まで押し寄せて来ている。

2025年、高齢者の5人に1人が認知症になると推計

4年後の2025年、戦後のベビーブーム時に生まれた団塊の世代の人たちが、全員、後期高齢者(75歳以上)になる。「2025年問題」と呼ばれ、高度経済成長に大きく貢献した世代が負担から給付の側に回る。

加えて、内閣府の「平成28年版高齢社会白書」によると、2012年時点で約462万人だった65歳以上の認知症患者数が2025年には約700万人になると推計されている。実に、高齢者(65歳以上)の約5人に1人が認知症に罹患する計算だ。

分譲マンションを取り巻く環境にも「高齢化の弊害」が忍び寄っているのは周知のとおり。いまや国内のストック数は約675万戸(2020年末時点)に達し、国民の1割超が分譲マンションに居住している。こうした点を考慮すると、高齢の区分所有者が認知症を発症する可能性を想定しないわけにはいかない。マンション管理組合にも居住者の認知症に対するリスクマネージメントが求められる。

では、区分所有者が認知症になると、マンション管理にどのような悪影響を及ぼすのか。

改めて、認知症とはいったん発達した知的能力がさまざまな原因で持続的に低下した状態をいう。記憶障害や理解・判断力の障害、また、時間や方向の感覚がなくなる見当識障害などを発症する。さらに計画が立てられなくなったり、その場の状況が読めなくなったりする症状もあり、進行すると徘徊や奇声、暴言や暴力へと発展し、マンション住民に迷惑をかける可能性がある。

管理費や修繕積立金の滞納が常習化したり、毎年開催される総会への出席が困難になったりもする。区分所有者としての義務を果たせなくなれば、管理組合にとって扱いに困る存在になってしまう。

そこで、そうならないよう利用が期待されているのが「民事信託」だ。「家族信託」とも呼ばれ、元気なうちに信託契約を締結しておけば、意思表示が困難になった後も区分所有者は引き続き組合員としての権利・義務を履行できる。

財産の保護を目的とする「成年後見制度」では対応が難しかった財産の運用や承継が民事信託を活用することで可能になる。

子どもを分譲マンションの形式的な所有者に

モデルケースで見てみよう。管理組合の役員を務める父親が、加齢と認知症の恐れを理由に役員を退任したがっているとする。やがて死亡すれば相続の発生に伴い、子どもにマンションを引き継がせるつもりだ。ただ、それまで(生存している限り)はマンションに住み続け、その間、子どもに管理組合の役員を頼もうという契約内容だ。

具体的な手続きとしては、マンションの区分所有権を信託財産とし、本人(区分所有者=父)が「委託者」かつ「受益者」、その子どもが「受託者」となるスキームを組成する。すると、信託契約により信託財産の所有権は、その名義のみが子どもに変更され、実質的な権利は「受益権」という形で父親のものとなる。

つまり、子どもは分譲マンションの形式的な所有者となり、同時に管理組合の役員になる旨を信託契約に記載しておくことで、契約後、父親に代わって子どもが役員を引き受けられるようになる。

他方、本人(父親)は専有部分の利用権(信託受益権)を取得し、受益者となった父親は引き続き分譲マンションに住み続けられる。たとえ認知症の発症に伴い、父親が介護施設へ入所したとしても、父親自らの意思でマンションを賃貸することが可能だ。「名義」と「権利」の分離機能を有する民事信託ならではの“なせる業(わざ)”といえる。

今般、民事信託を活用した商品は金融機関にも広がりを見せており、ある銀行では家族信託付きリバースモーゲージの取り扱いを開始した。家族信託(民事信託)をセットにすることで、契約者が認知症になった場合、担保不動産(マイホーム)の売却や返済手続きの変更権限が家族に移る。判断能力の低下により資産が凍結されないよう、先手を打っておくのだ。認知症が発症してからでは手遅れなのだ。

4年後には高齢者の約5人に1人が認知症になるおそれがある中で、こうした流れ(認知症対策)は必然といえるだろう。近年、分譲マンションが終の棲家として選好される中、認知症リスクを回避する手段の1つとして、民事信託は管理組合の「持続可能性」を高める有効ツールとして機能するはずだ。