介護離職すると老後の家計が厳しくなる可能性が高くなります(写真:無印かげひと/PIXTA)

親の介護はある日突然、始まる。なかなか帰省できず、親の体調の変化にも気づきにくい今だからこそ、いざというときに困らないよう、介護にまつわるお金や体制づくりについて、知っておきたいもの。『図解とイラストでよくわかる 離れて暮らす親に介護が必要になったときに読む本』を監修した特定社会保険労務士の池田直子氏が、どうしたら仕事を辞めずに介護体制を整えられるのかを解説します。

介護の担い手は誰が多いのか

親が75歳以上など後期高齢者医療の対象になる年になると、介護がだんだんと視野に入ってくる。実際に親が要介護認定を受けた場合、たいていは体のどこかが不自由になり、判断力も低下しているため、日常生活をひとりで送ることは難しくなってくる。その際に親の介護を担うのはいったい誰なのか、見ていこう。

まず、介護の担い手の割合を見ると、同居の配偶者が行うことが最も一般的であることがわかる。また、同居の子ども夫婦が介護の担い手となるケースも多くみられる。


(出所:『離れて暮らす親に介護が必要になったときに読む本』)

しかしその一方で、別居の場合も含め、半分近くは子ども世代が担っていることにも注目したい。「別居しながらの介護は厳しい」と思い込んでいる人もいるかもしれないが、実際には別居家族が介護を担うケースも少なくないのだ。

同居の配偶者が介護を担当する場合は、いわゆる老老介護となり、体力的にも精神的にも困難を伴う。面倒を見ていた親まで倒れてしまっては元も子もないため、子どものサポートが不可欠だ。同居の場合はもちろん、たとえ親と離れて暮らしていたとしても、子ども側から積極的に介護への参加を心がけたいものだ。

その後、片方の親が亡くなり、もう片方の親が要介護になったときには、いよいよ子どもの出番となる。ただし、仕事と介護の両立が難しいからといって、仕事を辞めて介護に専念することはおすすめできない。介護のために仕事を辞めてしまうと、まず経済面で大きなダメージとなる。

また、仕事をやめると息抜きの機会がなくなり、肉体面・精神面でもかえって負担が増したという声も多い。そのため、焦って介護離職を選択するのではなく、外部サービスをうまく活用しながら「辞めない介護」を検討するとよいだろう。

介護離職をしてしまうと、自分の老後資金が危うくなることも少なくない。介護離職による経済的ダメージがどの程度なのか、シミュレーション例をもとに見ていこう。

学生の子どもが2人いる会社員が、55歳で介護に専念するために介護離職した場合の、収支と貯蓄残高をシミュレーションした。


(画像提供:あおぞらコンサルティング)

介護期間の収入は妻のパート年収130万円のみとなるため、不足分は貯蓄でまかなうしかない。その結果、介護を始める前に1200万円あった貯蓄残高はみるみる減り、61歳時点で200万円のマイナスとなる。介護が終わった後、63歳から再就職したとしてもマイナス分を取り戻すことはできず、85歳時点で1000万円超の負債を抱える悲惨な末路を迎える結果となる。

介護と仕事を両立した場合は85歳で1140万円残る

一方で、介護が始まっても働き方を変えずに介護と仕事を両立した場合のシミュレーションをすると、夫は60歳まで年収600万円で働き、親の介護費用として、介護サービス外の費用を年間155万円負担する。定年後も65歳になるまで、再雇用(年収400万円)で働き続けると想定。その結果、貯蓄残高はいちどもマイナスにならないどころか、85歳時点で1140万円を残すことができる。これならば、老後も安心と言えそうだ。

このように、介護離職するとしないでは、子ども自身の老後資金に大きな差が生じる。もちろん様々な事情から介護離職をするという選択肢もあるが、民間のサービスの活用や幅広い親族のサポートを受けるなどして、仕事をやめずに介護をする方法を模索することは、自分の老後資金を確保するうえでも非常に大切なこととなってくる。

前述した通り、親が要介護となった場合は、同居する配偶者が主たる介護者になるケースが一般的だ。とはいえ、介護への参加人数が増えると、その負担も分散され、ストレスの少ない安定した介護体制を築くことができる。そのため、その他の親族でどのように介護の役割分担ができるか、幅広く考えてみることも大切となる。

まずは、介護に参加できそうなメンバーを全員書き出してみよう。その際のポイントは、血のつながった子どもや兄弟姉妹はもちろん、おじ、おば、孫や姪・甥、隣人など可能性のある人すべてを書き出すことだ。

例えば、親しい隣人の場合、様子が心配なときに見に行ってもらったり、逆に心配な様子を目にしたときに連絡をもらったりといったサポートを受けることもできる。意外な人からの協力を得られるケースも少なくないため、可能な限りサポートをお願いしてみよう。一方でサポート役が増えると、その分、情報共有や意思疎通が大変になってくるためリーダー役が必要になってくることも覚えておこう。

介護に参加してくれる人が決まったら、次にそれぞれの人が自由になる時間帯を書き出そう。誰がいつ介護に参加できるのかを可視化しておくことは、後に介護の役割分担を決める際に非常に役に立つからだ。

ただし、「自由になる時間帯=介護に参加できる」とは限らない点には気を付けたい。例えば、専業主婦が自由になる時間帯が多いからといって、小さい子どもがいる場合、介護に長時間参加することは困難だ。こうした各人の現状を細かく把握しておくことも大切だ。また、各人の生活状況は刻々と変わるため、定期的に情報を更新するように心掛けよう。

介護に参加する人や介護体制があらかた決まったら、今度は、親の介護状態を把握するためのチェックリストを作成しよう。

一口に「要介護2」といっても、必要となる介護は百人百様。「歩行」「食事」「洗濯・そうじ」「内服」「入浴」「排泄」「寝起き」などの項目を作成し、それぞれのできる・できないをチェックしていくことで、そのときの介護状態をきちんと把握することができる。

ただし、家族だけではサポートがどの程度必要かわからないことも少なくない。その際に頼りたいのが、ケアマネージャーだ。ケアマネージャーに依頼すると、次のようなケアプランを作成してもらえる。


(画像提供:あおぞらコンサルティング)

介護をチーム制にして負担を軽減

今回は平日の朝と夜は母が主たる介護をし、週末は長男とその妻、長女が介護に参加するという体制を組むことになった。


ポイントは、介護をチーム制にすることで、年老いた母親への負担を軽減している点だ。そのためには家族の協力はもちろん、デイケアや訪問介護など公的な介護サービスやヘルパーや介護タクシーなどの民間の介護サービスも不可欠となる。

例えば、平日の日中は、母親以外の家族は仕事があるなどして、その時間帯に介護に参加することができない。だからといって、病院の付き添いなど平日の日中の介護まで母親に任せてしまうと、母親への負担が大きくなりすぎてしまう。

家族のだれか1人に負担が集中するケアプランは、遅かれ早かれ破綻を来すもの。そうならないためにも、必要な介護サービスは積極的にドンドン活用していくことも大切だ。

親の介護を終えても、自分の老後は続いていく。また、何年後に終わるということも想定できないため、1人で抱え込まずにできるだけ、外部サービスの活用や受けられる家族の手を借りるようにしよう。また、親の介護はいつ始まるかわからないため、親が元気なうちから介護が必要になったらどうして欲しいのか親の要望を聞いておくことで、そのときに備えることができるだろう。